2015/07/14 のログ
『室長補佐代理』 > 「観客が罵声を飛ばして役者をこき下ろし、舞台になだれ込み滅茶苦茶にし、時には共演者に殺される事だってありうる舞台を謳うお前がそれを詰ることが既に矛盾しているのだが……まぁそれはいいか。
それは差し置いてやろう。
だが、それを差し置いても……見えないのか? なら、盲目の役でも貰っているのか? 『フェニーチェ』」

男は、嗤う。男は、嘯く。
そして……じわりと、目を細める

「俺達公共機関が焼き払った『お前達』に匹敵する価値のある『誰』か……?
そんなの、最初から、アンタの目の前にいるじゃないか」
 
左手を仰ぎ、芝居がかった大仰なジェスチャーで……人差し指で、自らを指差す。
そして、また、嗤う。
 
「学園の秩序? 名も無き誰かの安寧? 俺達の『救う』誰かは、一体誰なのか?
答えは簡単だ。最初から……『俺は俺を救うため』に『正義の味方』をやっている。
それ以上でも、それ以下でもない。
何を勘違いしているのかしらないが、『正義の味方』は徹頭徹尾利己主義者だ。
だからこそ、『正義の味方』ができる。
なぜか? わかるか?」

『墓掘り』 > 「おいおい、だから折角の『共演者』を詰って煽ってるんじゃないか。
台詞がマズいってのはともかく、台詞を言う事自体に文句をつけられても困るな」

ふぅ、と一息。
威圧感はますます強くなっている。息が苦しくなってきた。
深呼吸して回れ右して帰りたい。

「そいつはどういう事だい『公安委員』。お前たちは常世の公安を守るって、学園の入学案内にだって書いてあるだろう?」

確か書いてあったはずだ。
見たのはもう10年以上前だからよく覚えていないが。
あった、と思う。

「それを自身で否定するのかい?
パンフレットにはそう書いてあるが、『正義の味方』は己しか守りません、って」

こちらも大仰に腕を拡げる。あ、やばい、緊張で攣りそう。

「……それとも、お前自身が公共の安寧、すなわち公安である、とでも嘯くかい?」

ご案内:「ミラノスカラ劇場」に『脚本家』さんが現れました。
『室長補佐代理』 > その台詞に満足するかのように、男も腕を振り上げる。
右手をポケットにつっこんだまま、左手を仰ぎ、嗤う。
その度に、微かな照明の光を反射して……銀の指輪が輝く。
そして、男は台詞を紡ぐ。

「その通りだよ、『フェニーチェ』」

墓穴の底を覗くように、瞳を細めて。

「だが、それは否定の肯定ではない。
俺自身が、俺だけが公安ではないが……まさに守るべき公共の一部ではある。俺だって一般生徒なんだからな?
俺は俺の身を守る為に最適の選択をしているだけだ。
恐らく、他の『正義の味方』だって、いくら言い訳つけようが最後はそこに戻ってくるだろう。
なぜなら、『正義の味方』を定義せねばならない『正義』は……社会に依存するからだ。
そして、その社会に生きる上で……最も、最終的に自分に利益が返ってくる選択は何か分かるか?」

『脚本家』 > 其れは偶然に。
若しくは何の因果か──其れとも決まっていた脚本をなぞるかのように彼女はゴトリとブーツの踵を鳴らした。

「いやはや、三文芝居を見せてしまってすまないね。公安のお客人。
 生憎彼が担当するのは『舞台監督』───演じるのがそう上手い訳ではないんだ」

だからご容赦願いますよお客人、と大仰に一礼する。
ぼうと灯った照明が輝かせる指輪を暫しジイと見つめて、そのまま彼の細められた瞳を切れ長の瞳が覗き込む。

「生憎演者は出払っていてね、此処に居るのは僕らみたいな裏方だけなんだ。
 其の裏方の演劇を見ても何も面白くはないだろう?
 演者が演じるモノを見てこそ此のフェニーチェの神髄は伝えられるだろう」

此処で大きく両の手を広げる。
芝居がかった所作で、まるで芝居を演じるかの如く流暢に。

「さて、ご用事があるなら僕にもひとつ教えて貰えないかい?
 『脚本家』はアドリブに対応できるほど演技が上手い訳でもない。
 なに、仲間に入れてほしいだけさ。教えて呉れよ、公安のお客人」

にこり、と。
公演前の舞台挨拶のように彼女は自信満々に語り掛けた。

『墓掘り』 > 「三文芝居で悪かったな」

がりがりと頭をかく。
自分では分かっていても、面と向かって言われると傷つくのだ。

「社会に従い、社会と折り合って生きていく、とでも?」

ふんっと鼻で嗤う。
――それができれば苦労はしない。

そして一条は脚本家ではあるが、あの『団長』の気風を一番色濃く継ぐ。
男よりかは、このような舞台に余程適任だろう。

あぁ、不愉快だ。
後でピザを取ろう。あのクソ不味いやつ。

『室長補佐代理』 > 鈍く響くブーツの靴音に、男がわざとらしく振り向く。
答えを返した『墓掘り』を一瞥し、にたりと微笑んでから……振り向く。
どこの誰に気遣ったのか、それとも男に都合がいいからか、ゆっくりと
……こちらもコツコツと、高く靴音を響かせて位置取りをし直し。
『墓掘り』、『脚本家』、両名を視界に納める位置に……対面にたってから、また、左手を仰ぐ。
 
「なら、いいだろう。
ここはミラノスカラ劇場だ。
お行儀の良さなんてどこにもない、観客が罵声を飛ばして役者をこき下ろし、舞台になだれ込み滅茶苦茶にし、時には共演者に殺される事だってありうる舞台だ。
お前たちはそういった。そして俺は乗った。
ならば、役者の介入を詰る事はできない。
喜んで応じよう。『脚本家』、そして、答えよう」
 
銀の指輪が、妖しく輝く。
 
「『舞台監督』殿のいうとおりだ。
だが、それにもう一歩踏み込んで考えてほしい。
社会に従い、社会と折り合って生きるだけでは、己の身を守ることは叶わない。
その時に現れた脅威に対応することができない。
一人では、対処できない問題はこの社会には山積している。
だからこそ、一人で出来ないなら、二人で、二人で出来ないなら、三人で。
その為に必要なものは……何か?
人からその助力を引き出すために必要なものは……何か?」
 

『脚本家』 > 「さァ、なんでしょうなァ」

ゴトリと底をもう一度大きく鳴らしながら、『室長補佐代理』に変わらず仮面のような笑顔を向け続ける。
彼が何かと問えば、彼女はそうやる気なく返す。
暫し瞑目しながら顎に手を当てて、わざとらしく言葉を紡ぐ。

「生憎ながら僕には其の答えを導き出せない。
 対処出来ない脅威は僕らにとっては"アドリブ"に他ならない。
 生きた最高の演出──最高のスパイスになるだけさ。

 故に僕は脅威に対応することはない。脅威に"適応"して脚本を随時書き換える。
 其れがミラノスカラでの演劇の中での僕の役目だ。
 此の劇場はアドリブを否定することは基本ないものでねェ──……」

すう、と一呼吸置く。
"あくまで、悪魔で僕の持論だが───"と前置きして照明の真下に来るように位置を変える。

「だから教えて頂けませんかね、公安のお客人。
 僕は知らないことを知るのは大好きなんだ──だから、その問いの『正答』を教えては貰えないかい」

右手を大きく広げる。
演劇の一幕のように、役者をこき下ろしに来た観客に向かって。
彼女は大仰にそう言葉を並べた。

『墓掘り』 > 「『舞台監督』から言わせて貰えば――
人を動かすコツは二つだ。『利益』と『恐怖』。
これが一番手っ取りばやい」

利益は人の正常な思考を誘導する。
恐怖は人から正常な思考を奪う。
どちらも人から何かを引き出す時には一番古典的で有効な方法だ。

「古典的なマキャベリズムの講義をしに来たんじゃないだろう、『公安委員』。
お前は……」

と、そこで。
電話が鳴る。
――幸か不幸か。スポンサーの一人からの呼び出しだ。

「悪いな『脚本家』、後は任せる。
この『公安委員』の答え、聞いといてくれ」

彼はそのまま踵を返した。
バトンタッチできた事に心から安心しながら。

ご案内:「ミラノスカラ劇場」から『墓掘り』さんが去りました。
『室長補佐代理』 > 「何、既に答えは『脚本家』殿が出したさ」
 
そういって、男は嗤う。
役者に笑う。役者を笑う。役者が笑う。
同じ舞台に立っている以上、そうでしかない。

「アドリブでいいんだよ。ただ、『他人』のアドリブを引き出すために必要なものは何か。
そう、信頼だ。信用だ。お互いにステップを踏んでも足を踏まないだけの信頼。
それを世間では『思いやり』だのなんだのいう。
己一人で対処できない舞台に挑むための人脈を得るためには信頼が必要だ。
そこで、利益と恐怖は用いるのは正解だ。
だが、その利益を与えるための胴元が必要だ。
その恐怖を正当化するための理屈が必要だ。
故に、それらにそれらしい説得力を付随させるための……力が必要となる。
人々が最も信頼する力はなにか?」 

じわりと、男は嗤う。
 
「己を外敵から守ってくれる暴力だよ。それが……『正義の味方』の正体だ。
『正義の味方』は、最初から社会という巨大な装置の持つ機能の一部に過ぎない。
社会が数多もつ権能の一つでしかない。
そして、その権能を引き出す手段は……社会的信用っていう、何も面白くない、ごくごく当たり前の話さ。
だからこそ、真の利己主義者は……『正義の味方』は己のために、社会に貢献するのさ。俺のようにな」

『脚本家』 > クツクツと、満足げに彼女は笑いを洩らした。
照明の真下で、『室長補佐代理』が笑うのを楽しげに眺める。
自分が想定していたどのパターンよりもよっぽど刺激的な"アドリブ"を目の前にして、彼女も同じく、ただ嗤う。

「其れで『正義の味方』役の貴方が此処に来られたと。
 ───嗚呼、随分と最高な配役じゃあないか。実に面白い。

 全く以て何と呪われた因果か。               ア ン タ
 外れてしまった世の中の関節をなおすために生まれついた『正義の味方』が此処に居る」

どんな脚本よりも、ずっとずっと面白い。
今迄自分の書いてきた脚本の中でも最高傑作になるのは間違いない。
其れで居て一歩間違えば此れが自分の遺作になるのも間違いない。
『脚本家』は崩さなかった表情を恍惚に染めて、彼に熱を孕んだ口調で語り掛ける。

        ボウリョク
「で、其の『正義の味方』が当劇団に何のご用事ですかな。
 開場前に幕を降ろすなんてそんな無粋なことは仰らないでしょう」

にたり。
口元を大きく吊り上げて、彼女はまたひとつ問う。

『室長補佐代理』 > 「いいや、その無粋を言い来たんだよ」
 
そういって、パチンと指を鳴らせば、あたり一面がライトで照らされ、無数の人影が男と『脚本家』を一瞬で包囲する。
現れたのは……公安委員。その実働部隊の一部。
漆黒のボディアーマーで身を包み、不気味な仮面を思わせるフルフェイスヘルムを被った屈強な男たち。
手に持っているのは、武骨な重機関銃。
本来は人に向けて撃つものではない、死の腕だ。
 
「ここはミラノスカラ劇場だ。
お行儀の良さなんてどこにもない、観客が罵声を飛ばして役者をこき下ろし、舞台になだれ込み滅茶苦茶にし、時には共演者に殺される事だってありうる舞台だ。
お前たちはそういった。そして俺は乗った。
なら、『こう』なることは想像してしかるべきじゃないのか?
なぁ、『脚本家』」

にやりと、男は嗤う。
不敵に、不気味に。
さも当然といったように。
 
「別に逃げても構わないぞ。どっちにしろこの劇場は接収させてもらう。
『犯罪者』と『正義の味方』が出会えば、こうなることは当然だろう?」

『脚本家』 > 「ック………」

気味の悪い笑みを、ひとつ溢す。
嗚呼、何てアドリブの効いた舞台だ。ブザーが鳴った瞬間に舞台を終わらせようと?
───そんな技法を取るのは自分くらいのものだと思っていた。

デウス・エクス・マキナ。
演出技法の一つであり、意味合いは「機械仕掛けから出てくる神」。
劇の内容が錯綜してもつれた糸のように解決困難な局面に陥った時、絶対的な力を持つ存在が現れ、混乱した状況に一石を投じて解決に導き、物語を収束させるという手法。
お行儀の良さなんてどこにもない。
観客が罵声を飛ばして役者をこき下ろし、舞台になだれ込み滅茶苦茶にし、時には共演者に殺される此の劇場で。
今まさに再現されようとしているのだ。
────未だ舞台は始まっても居ないのに!


「ッハハハハハハハハハ!!!!!
 やって呉れるじゃあないか『正義の味方』ッッッッ!!!!
 風情も何もないッ!!
 
 ────嗚呼、其れでこそ『正義の味方』だッッ!!
 己を外敵から守ってくれる暴力?
 厭、そンなモノではないだろう!唯のエゴだ!芸術を理解しないお前のッッッ!!!
 屹度そうだなァ、其れ故に堪らなく愛おしいンだろうさッッ!!
 
 『正義の味方』、最高に効かせたアドリブだよ────………」


箍が外れたかのように、彼女は面白おかしく笑い始める。
嘗て団長が辿った道をそのまま自分も辿るか?答えはノウ。
こんな開幕してから何をするでなく終わるつまらない物語を自身の遺作にするか?答えはノウ。
此処で舞台を明け渡して自分の文字を綴る右手だけは無事であろうとするか?答えはノウに限りなく近いイエス。
圧倒的な屈辱を味わうことになるのは間違いない。
されど彼女の揚げた旗に、鳴らした開幕のブザーに集まった仲間を蔑ろに出来るか?答えはノウ。
劇団フェニーチェの宝は此の劇場だけではない。
万事に長けた仲間。劇団員こそがフェニーチェの誇る宝。
彼らさえ居ればどこでだって演劇は出来る。其れならば────


「オウケイ、『正義の味方』。
 取引をしようじゃあないか──……ッッッ!」


静かに怒りを滲ませながらも、彼女は不敵に笑った。

『室長補佐代理』 > ニヤリと……会心の笑みを男は返して、左手をあげる。
それだけで、周囲の男たちは一歩さがるが……銃口は『脚本家』に向けたままだ。
公安委員会に逮捕権の第一権限はない。
その上で踏み込んだのなら――その先は言うまでもない。
彼らは危険な集団を『解散』させる権利を持っている。
故に、その銃口が下がることはないだろう。
だが、脚は下がった。それは即ち。
 
「芸術なんてエゴだろう。この俺なりの芸術を理解しないお前にも全く同じ台詞が返せるってことはわかってるのか『脚本家』?
まぁ、しかし、及第点だ。ここで『その台詞』を出すのは素晴らしい。
聞こうか、『脚本家』、その『取引』……どんな内容だ?」
 
公安委員会は元から司法取引には肝要だ。
それを、事実上の『首謀者』から引き出せる。
その意味が分からないものはどこにもいない。
だからこそのその怒りの表情だ。
 
「話し合いは俺も嫌いじゃない。その演目……いいや、アドリブ、聞こうじゃないか」

『脚本家』 > 男が笑ったのを見遣れば、彼女は自分を哂う。
嗚呼、出張るタイミングも履き違えて更にこんな窮地に自分から飛び込んだときた。
果たしてマゾヒズムの気はなかった筈だが──と、幾らかの逡巡を重ねる。

「良かったさ。
    アンタ     ボク
 『正義の味方』に『悪役』が及第点を貰えるだなんて光栄極まりない。
 テアトロ演劇賞を全くの素人が手にするのと同じか──其れ以上に難しかったとみた。

 フェニーチェの衣装屋ほど僕は手先が器用じゃあなくてね。
 針に糸を通すようなことは生憎得意じゃあない。不得手と云った方がいいかもしれない」

向けられる銃口も、冷静になってみれば劇団で使っている小道具と何ら変わりはない。
当たれば死ぬのは演劇でだって、今此処でも変わりはなにひとつない。
臆する必要はない。演じろ、『脚本家』を演じろ。
────彼女は、開演の挨拶をするように、両の手を大きく広げて彼らに一礼した。


「劇団フェニーチェを後援している組織と個人の名前。
 其れから違法に手に入れたものの出所と此の劇場を僕からは提示しよう」


一瞬の瞑目。スポンサーを裏切るなど──と脳裏を走った言葉は直ぐに掻き消される。
劇団員を裏切る方がよっぽど厭だね、と。
不敵な笑みを崩さないまま、また言葉を続けた。


「反対に求めるのは僕、『脚本家』───厭、一条ヒビヤの身柄。
 此処で殺すも後から殺すも大して"脚本上"の違いはないだろうよ。
 唯の空想癖の夢想家の女の身柄のひとつくらい、『正義の味方』は何時だって捕えられる」


言い切れば、そのまま広げた手を頭の上に。
抵抗の意志はない。話し合いでの決着をつけようじゃあないか、と。
暗に示唆する。

「如何だい、『正義の味方』」

またひとつ、嗤った。

『室長補佐代理』 > 男は、笑う。満足気に。嗤う。
 
「悪くない条件だ。いいだろう、受け入れよう。
この場での身柄は保障する。では、後援者の組織と個人名簿のリストを頂いたら、あとは見逃して差し上げよう。
悪くない演目だ」
 
そういって、また手をあげる。
そうすると、公安委員が数人『脚本家』にまで歩み寄り、リストについて質疑応答を始める。
どれもこれも非常に硬質で、誤解のしようもないほど明瞭な詰問だ。
質疑応答の最中も、銃口は常に下がることがない。
 
「話し合いは俺も好きだ。さぁ、存分に話し合おう。
そして、用が済んだら出ていくといい。この『劇場』からな?
用が済んだ役者は、舞台には必要ないだろう」
 
そう、皮肉気に笑みを浮かべた。

『脚本家』 > 向けられる銃口と視線の中、『脚本家』は手際よく情報を捌いていく。
質疑応答の最中も相も変わらず芝居がかった大振りな身振りで公安委員と言葉を交わす。
堂々とした態度を崩すことなく、劇団の代表者として振舞う。
暫しの問答の後、彼女の周囲から公安委員が姿を消し銃口と視線だけが向けば。

「アタマのいい対応をして貰えて助かるよ。
 サポーターズクラブレゼルブに関しては落第街を舞台に『賭け』をしているらしい───

 摘発して悪い印象を取っ払うのにも最適じゃあないのかい、なんてね
 ───嗚呼、本当に最悪だよ」

彼女はそのまま男に視線を向けることなく出口へと向かう。
男の云う通り。出番の終わった役者は物云わず去るものだと決まっている。
故に彼女は口を閉ざしたまま其の大きな扉に手を掛けた。
現実と物語を区切る境界線のような其れを少し押した矢先に、『脚本家』はふたつ言葉を溢す。


「The worst is not, So long as we can say, ‘This is the worst.’」
(「これが最悪だ」などと言えるうちは、まだ最悪ではない)

「────Sweet are the uses of adversity,
 Which, like the toad, ugly and venomous, Wears yet a precious jewel in his head.」
(逆境が人に与えるものこそ美しい。
 其れはガマガエルに似て醜く、毒を含んでいるが、その頭の中には宝石を孕んでいる)


ゴトリとブーツの踵を鳴らす音だけを残して、彼女は『ミラノスカラ劇場』に背を向けた。

ご案内:「ミラノスカラ劇場」から『脚本家』さんが去りました。
『室長補佐代理』 > 去っていく『脚本家』の背中。
彼女が完全に目をそむけたと同時に、躊躇いなく即座にトリガーが引かれ、無数の銃口が火を噴く。
硝煙を吐き出しながら重低音を響かせる重機関銃の群れ。
空薬莢が地面を跳ねるたび、弾丸が周囲の建造物を喰らい尽くし、瓦礫を根こそぎ薙ぎ払い、『脚本家」の姿を捉える。
しかし……煙の彼方から、悲鳴は聞こえない。
 
「もういい、弾の無駄だ」
 
そういって、十分に周囲に爪痕を残したことを確認してから……男が鷹揚に手をあげれば、公安委員達は銃口を下げ、トリガーから手を離す。
そして、即座に施設の接収と物品の回収の為に『劇場内』を漁り始める。
 
「適当にすませたら引き上げるぞ」
 
ここはどちらにしろもう、『つかえ』ない。
なら、今回の結果はもうそれで十二分だろう。
取引としては、悪くない。
深く、男は微笑みを残して、作業を見守る。
これで、『ミラノスカラ劇場』は接収できた。
それにより、麻薬の拡散を一部防ぐことは確実となり、さらに言えば一般に対する示しにもつながる。
ならこれは、そういうことなのだ。
 
「取引は、フェアであるべきだからな」
 
わざとらしくそう嘯いて、またベンチに腰掛ける。
沈みゆく日を眺め、黄昏時の紅の光を浴びながら……男は、嗤った。

ご案内:「ミラノスカラ劇場」から『室長補佐代理』さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『殺陣師』さんが現れました。
『殺陣師』 >  
 ミラノスカラ劇場前。未だに公安委員の実働部隊が警戒を緩めぬその間にて。
 そこから少し外れた地点で、少女の人形が、呻くように零す。

「――なんという事だ。
 まさか開演直後から遠慮のないデウス・エクス・マキナが乗り込んで来るとは。
 嗚呼、こともあろうに――何故あの場に私は居なかったッ」

 髑髏が苛立たしげに、歯ぎしりを見せる。

「いやはや、流石第二特別教室か。流石手が早い。
 ――今後は色々と警戒せねばなりませんな。何度もこうあっては堪らない。
 とは言えよく、この程度で済ませたものだ。――ああ、流石はお嬢。その魂は黄金だ。」

『殺陣師』 >  
「少し、<仕込>んでおきますか。
 いやはや、何とも難しい話ですが。」

 悟られぬ様に影歩きを一つ。そして、少女の皮をかぶり直す。
 ……舞端で警護にあたる公安委員の実働部隊一人へと、接触する。

「すみません、少々お話を――」

『殺陣師』 >  
 
 ――この少女人形の事が、報告に上がる事は、なかったそうな。
 
 

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『殺陣師』さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『殺陣師』さんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『殺陣師』さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『殺陣師』さんが現れました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『殺陣師』さんが去りました。
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」に”マネキン”さんが現れました。
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」に『死立屋』さんが現れました。
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」から『死立屋』さんが去りました。
”マネキン” > 【公安の実働部隊が踏み込んだあと。
フードを被った怪しげな男がその劇場跡を調べているようだ。】

…九九九。公安の実働部隊か。出動記録を探れば誰がどう動かしたかわかるかね。
あれ、は持って行ってしまったか。

うん、うん。そうなれば話は違うぞ。

【『墓堀り』に引き渡した物品も接収されていったはずなのに、彼はどこか楽しそうだ。
手元に遠隔制御用のスイッチとおぼしきものを弄びながら。】

(実験データから魔術による風での防御や爆破衝撃を制御するような異能に対策するため、
『墓堀り』に渡した改良型の散布装置には周辺の障害物を破壊し、煙が拡散する速度を上げる改良を施してある…。
安全装置にも一日二日で簡単に解体されないような仕掛けもな。別にどう解析されたって構わんが。
さて、どこに持っていったのか…公安委員会棟だったりすると面白いぞ。意図せずあちらにあちらさん自身で持っていってくれることになるからな…。)

…九九九。

(こっちのはオリジナルだが、本来起動するように『墓堀り』にも同じものを渡しておいたはず…。
あとはものの在り処を調べるだけ、か?作動距離まで近づければどちらにしろ同じなのだから。)

【相変わらずの奇妙な笑い方をしながら、懐から取り出した端末を操作する。
何処かへ…先日の取引相手、『墓堀り』へ親切に連絡しているようだった。】

ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」から”マネキン”さんが去りました。
ご案内:「違反部活群/違反組織群」に『演出家』さんが現れました。
『演出家』 > 「そう、取引は公正に……フェアであるべきです」
誰もいない舞台にスポットがあたる。
灯りの先には誰もいないが―――そこに向かって歩いてくる影がひとつ。

「ただし……当事者以外にとっては、その取引がどうでもいいというのもまた、事実なわけです」
スポットの範囲に入れば、誰もいない観客席に向かって大仰な一礼。

ご案内:「違反部活群/違反組織群」から『演出家』さんが去りました。
ご案内:「ミラノスカラ劇場跡」に『演出家』さんが現れました。
『演出家』 > 「まぁ、迂遠な表現をやめて誰にでもわかりやすい表現を言わせていただきますと……。
 捕られたものは、強奪(と)り返せばすむ というだけの話ではあるのですがね」
張り付いたままの笑みを浮かべて、オーバーアクションで肩を竦める。

「事件は、そこらで起きている。
 接収したからといって、役を貰っている誰かが常駐できるわけでもない。
 かといってモブをいくら配置したとして―――ああ、いえ彼らの舞台にとっては紛れもなく彼らは主役なのですが―――今宵の演目に関しては、紛れもなくモブなのです」
悲しそうに、実に悲しそうな素振りで舞台の端を指差せば、そちらにスポットが増える。
その先には、接収した劇場で警邏していたであろうモブだったものが倒れ付している。
その表情はあるいは苦悶に満ち満ちており、あるいは恐怖に歪んでいた。