2015/09/20 のログ
ご案内:「純喫茶ら・てぇむ」に流布堂 乱子さんが現れました。
流布堂 乱子 > 久しぶりに訪れるその店は、相変わらず机と椅子を路上にアンカーで鎖で繋いでまで、
オープンテラスの席を維持していて。

そのともかく重い席についたところで、
挨拶もなければお冷も出ない、
メニューも回ってこないし寄越されるのは冷たい視線ばかり、
と店員の態度も実に一貫している。

以前は三十分ほどで汲み立ての泥水が出た。
少し冷え込んできたこの季節に下水まで降りていくのも辛いだろうから、
今度は一体どんなこのまちならではの名品が飛び出してくるのか。

そんなことを考えながら、また乱子はここで時間を潰している。

流布堂 乱子 > 先日は、この辺りで仮面の男…つまり洲崎が発見され、逃亡した。
落第街の外では(一人?はこの落第街でも)七英霊とかいう存在が暴れている、と同居人にも聞いたし風紀の報告も見た。
未だにこの島では指名手配の元教員がもう一人…内乱罪で手配されている男が逃げまわっているはずだし、
流れ星を負う集団、確かエグリゴリといっただろうか。あちらは、生活に必要で警備の手薄な施設を狙う凶悪さが有る。
……以前自分で対処した一件。呪詛にまみれた黄金の鉾の異形も、呪詛を作り上げた当人がわかったわけでもないし、
かつての違反組織ロストサインとも関わりが指摘されている。
そもそもあの鉾が弱点に見えたけれど、触れたら普通の人間だと死ぬ量の呪詛が返されるというのはどうも作成者の悪意を感じざるを得ない。

どれか一つの事件でも零してしまえば理不尽なほどの被害が出るだろうし
間に合わないかと思うときには民間の協力者が勝手に解決してしまったりする。
現行犯を捕まえるだけであれば風紀委員会なんて要らないとは巷の言。
特に反論もない。

そうこうするうちに、油でギトついたガラスコップの中に、
灰色の汚水が表面張力でさえ支えられない程度に盛り上がって注がれた物がテーブルにお出しされた。
跳ねた水滴を左手で掴む。
……微かに、皮膚が溶けるような音がした。

流布堂 乱子 > テーブルに垂れた汚水は緩やかにその縁へ向かって筋を伸ばしていき、
路面に垂れたところで再びジュ、っという音とともに異臭を発生させた。

興味深い飲み物だと思う。これを無料でお出し出来る店では争いは怒らないとも思う。
どう見たって客が無人の店内を伺った後で、
乱子は視線を眼前の路地を超えて向こう、斜向かいの元売春窟に向けた。

街には事件が溢れかえっているのに、
新人を半謹慎状態のまま3日ほど留め置いた理由といえば、こうして落第街を歩いていても『我慢できずに独断で単独捜査に出ていた』言い訳がつくからだろう。
そしてそれを理由に謹慎期間が伸びる。……名物風紀委員とでも呼ばれて市民に親しまれるだろうか。
この勤務体制が公式化すると、乱子としては主にお給金の面でとても困るのだけれど。

その給料の文句をいう相手が、こうして乱子をここまで連れて来ているのだから、進退は窮まりきってどうしようもなかった。


ダブルワーク先の反財団組織ハントマンズギルドが交渉の窓口としているのは、
風紀委員会の中でも違反生徒に対して再起を促す派閥、端的に言えば融和派と呼ばれる集団である。
風紀委員会への捜査資金の提供とギルド内の人材の斡旋の見返りに、
ギルドは先述した『事件』の中には決して挙げられ無い。

そして、斡旋されたというか派遣されたというか。
乱子の『風紀委員会としての直属の上司、先輩』とは別に、『派遣先の上司』として、
融和派に属する経理の三年が乱子の端末の連絡帳に既に登録されている。
今日はその経理の先輩の付き添いとして落第街を訪れ、
その『ちょっとした会合』が終わるのを、こうして待っているというわけだ。

流布堂 乱子 > 『落第街を潰せば、ここに居る人間は次は荒野にでも消えてくと思ってるのかな』
経理の先輩には経理の先輩なりの信条が有り、それは風紀委員会の職務ときっと本人の中では矛盾していない話なのだろうと思う。
決して私的横領など考えるような人ではないし、
一人でこの街を歩いていれば遅かれ早かれ墓碑に名前を加えるだけだろう、とも感じている。
何の力もない人間として、出来ることをしているのだ、とかなんとか。
『第三学生棟の保健室のボヤ騒ぎの時の人でしょ。……目、大変だったね』
初めて顔を合わせた時にはそんなことを言われたはずだ。

ただ、結果として。
経理の先輩は、学生通りでクスリが売られないようにするために、
校内で暴力沙汰が起こらないようにするために、
存在しない街を存在しないままにするために、

落第街を警らするルートを違反部活に与え、
二級学生の登校に便宜を図り、
些細な理由をつけて委員会の費用から抜き取った資金を手渡している。

きっと今も、報告したルート上にない場所で起こった"風紀委員の横暴"について謝罪している頃だろうか。
場所が場所だから、もしかすると今回の『会合』は長引くのかもしれない。

流布堂 乱子 > 「……災難でしょうね、マルトクには主計隊が居ますもの」
これまでの、経理上の権限で何とかするやり方は通じないだろう。
だが、当人がなんとも出来ないとなれば。
次にお鉢が回ってくるのは――

足に鎖が触れて音が立って、
店内からの視線を強く感じた。

どう有っても居心地の悪い席で肩を竦めて、
ただただ無為にこうして時間を潰している。

流布堂 乱子 > 路上を行き交う…というのも語弊がある。
たまに睨みつけて行く人がいる、時たま此方の様子を伺いながら足早に通り過ぎる人がいる。
そういった人たちをぼんやりと眺めながら。

流布堂乱子とて、経理の先輩とそう変わらない。異議を申し立てることが出来るとは思わない。
前任者は、自分の背信行為と風紀委員としての存在のズレを合わせ続ける事ができずに辞めた。
乱子が『事件を追うために風紀委員会を利用する』目標は、とっくのとうにずれ始めている。

「……でも、一般的な理由のような気もしますけれどね。
『したいことがあるから辞める』『イメージと違ったから辞める』なんて、ことは」
結局、風紀委員がしたくてこの島に来るなんて本末転倒がない限りは。
どこかで折り合いをつけるか、それとも折り合いをつけられずに辞めていくか。
それはどんな部活でも委員会でも同じことでしか無いはずで。

ドブ以下の臭いのテーブルで、売春窟から惨めな姿で現れる先輩を、
さも普通の学生のように『注文は何にしますか?』なんて迎えられたなら、
あるいはこの関係も長続きするのだろうか。

「似た者同士でつるんでいるのも、何処の組織でも同じでしょうね」
兄弟みたいな外見の店員が、再びテラス席へとやってくるのを、乱子は口角を上げて出迎えようとしていた。

ご案内:「純喫茶ら・てぇむ」から流布堂 乱子さんが去りました。