2017/10/04 のログ
ご案内:「娼館通り」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 > 桃色のネオンや電飾が煌めく娼館が立ち並び、欲望を纏った人々を客引きが誘う。
普段はそんな原始的な欲望の熱気に満ちた通りだが、今夜は幾分静まり返っていた。
お布施を怠った風俗店の一つに、風紀委員による査察と手入れが入る事になり、触らぬ神に祟り無しとばかりにどの店も早々と店仕舞いを始めた為だ。
ちらほらと通りを巡回する風紀委員達は、時折路地裏から手招きする娼婦たちに鼻を伸ばし、中にはそのまま吸い込まれるように暗がりに消えていく者すらいる。
今回の手入れ自体が「お布施」を行っている店には事前に通達されていた事もあり、査察に訪れた委員達はたまの息抜きとばかりに気を緩めていた。
「……だからといって、後方支援の私を護衛役にするのは嫌がらせではないだろうか」
汚職と癒着の権化の様な任務に選ばれたのはある意味で先輩方に気に入られている証拠でもある。
要するに、自分にもそれなりに羽根を伸ばしても良いということなのだろう。
金属の異形を護衛代わりに従え、娼館から何事かと覗き込む客引き達を軽く睨みつけながら小さく溜息を吐き出した。
天空に突き出す無数の砲塔も、人体を容易に踏み潰す巨体を支える異形の醜い足も、今夜は出番は無いだろう。
こんなことなら家で自習でもしておくべきだった、と楽しげに周囲を物色する先輩方を見ながら再度溜息を一つ。
■神代理央 > 尤も、別段この様な有様や任務を否定するつもりもない。
清廉潔白な人間だけで造られた組織など、それこそ悪夢でしかない。
此の島に落第街がある様に、どの様な組織や集団にも、それなりに薄暗い事はあるということだ。
だから、別に娼婦に現を抜かす委員達を見下す事も無ければ、組織に絶望することもない。
余り羽目を外し過ぎなければ良いが、と若干心配する程度である。
「此処で一騒ぎ起きれば、それなりに見ものなんだがな…」
異形の巨体を恐れずに近寄ってきた娼婦を適当にあしらいつつ、もしゴロツキ共でも襲いかかってくればどうなるかと夢想する。
慌てふためいて路地裏から這い出る者達の姿に思い至れば、不謹慎と分かってはいても含み笑いを漏らしてしまうだろう。
■神代理央 > とはいえ、こういう商売をする連中は須らく生き残る為の知恵が高い。
無用な争いをせず、権威ある者に敵対せず、阿り、諂い、利益を得る。
そうした手腕は寧ろ尊敬すべき所であり、落第街やスラムと違って秩序すら保たれている様は賞賛に値するだろう。
現に、警戒心の欠片も無い風紀委員に不意打ちをかけるゴロツキもいなければ、召喚物である鋼鉄の異形にすら若干の敬意を見せている。
これでは、諍いも何も起こり得る筈が無い。
道理を知らぬ愚か者が現れれば兎も角、そういった者が現れるのはもっと違う場所だろう。
「…やはり、護衛任務等引き受けるべきでは無かったな」
手入れを受けている店に視線を向けつつ、ぼんやりと夜空を見上げる。
視界にあるべき星空は、ネオンの煌めきに掻き消えてしまっていた。