2015/08/27 のログ
ご案内:「路地裏」にナナミさんが現れました。
ナナミ > ──夜の落第街 その路地裏

大きなゴミ箱の裏でナナミは息を潜めていた。
近くの通りからは何やら怒鳴り散らすような男の声。

(──しくったなぁ。)

昨日異邦人街の洋服店で購入した、新しいパーカー。
それは有角人の頭もすっぽり覆えるフードがついており、ナナミの目当てはそれだった。

いわゆる邪視や魔眼と呼ばれる能力を持つ者たちのためにと布越しでもある程度視界が確保出来るという優れもの。
これさえ着ていれば、フードを深く被ってもこちらの視界は狭まること無く、相手からは顔を見られることは無い。
例えば此処、落第街でも顔を隠したまま思う儘に行動出来る──筈だった。

ナナミ > 新しいパーカーに袖を通し、ウキウキ気分でやって来た落第街。
異邦人用に造られたその性能はナナミの予想以上であり、調子に乗って人々の頭上を跳び回っていたのだが。

──注意力が散漫になり、足を滑らせて露店の上に落下。

結果、商品を台無しにした事で店主の怒りを買い、落第街中を追い回されるという羽目に陥っていた。

(いやぁ、反省反省。

 ……っと、そろそろ撒けたかな?)

ゴミ箱の陰からそっと通りの様子を窺う。
さっきまで聞こえていた店主の怒鳴り声は、喧騒に消されそうなほど小さくなっていた。

「……よし、撒けた撒けた。
 ダメにしちゃった商品分のお金、後でこっそり置いてこようっと。」

ゴミ箱に背を預けてほっと一息つく。
そもそも自分が台無しにした商品が何であったかも判らないのだが。

ナナミ > ゴミ箱から離れると路地の奥へと歩き出す。
この路地は確か袋小路になっていたはずだ。袋小路に行き当たったら壁を伝って屋根の上に行こう。
そんな算段を立てながらなるべく静かに路地を進んでいく。

狭さは大体大人二人並んで通れるか否かといったくらいだ。
両脇にそびえる建物は、廃墟であったり、誰かの気配が潜んでいたりしている。
こちらを窺っている様な気配では無いので、襲って来ようとしている訳ではない様だ。

「元々何の建物なんかねえ……。
 普通の住宅ってとこかなあ。」

異邦人街の住宅街の路地裏も似たような雰囲気だった気がする。
ただ、清潔さで言えば天と地ほどの差があるが。

ご案内:「路地裏」に夕霧さんが現れました。
夕霧 > ゆっくりと、路地裏を進む。
何のことは無い、今日も例の如く、露店商めぐりをしていた。
結局目当ての露店商が見当たらず。

歩けば喧騒。
「……?」
そちらを見れば凄い剣幕をしたどこぞの店主が肩を怒らせてぶつぶつと何かを言いながらすれ違う。
耳を軽く澄ませば。
「あのやろう」
「品物をダメに」

などなど。
戻った場所を見れば幾つかの品物に傷みが見える。
大方何かそういう事があったのだろう。

それ以上は感心を失い、ゆっくりと路地を進んでいく。
伺う視線は気にせずコツコツと。

少し歩けば目の前にはフードの小さな……少年だろうか?
フードで顔も隠れているため特定は難しい。
路地裏ということも余り人気も無いので思わず少しだけ、注目してしまう。

ナナミ > ──思ってたよりも長い。

俯瞰で見るのと実際歩いてみるのとでは体感として距離も違うのか。
そんな事をぼんやり考えながら、一見無防備に、それでいてさりげなく周囲に気を配って歩く。
多少勝手が解ってきたとはいえ、ここは落第街だ。何処から何が襲ってくるか分かったものでは無い。

用心はどれだけしてもし過ぎる事は無いだろう。

「とはいえ、逃げ道の確保が最優先だよな……。
 んー、足場になりそうなのはゴミ箱くらいか。」

ぽつり、そんな事を呟いた矢先だった。

──視線を感じ取る。

とくん、と跳ねた心臓を落ち着かせるように一つ息を吸って、吐いて。
少しだけ首を動かし、一方通行な視線を、気配の主へと向ける。

(──あ。 あれは確か……。)

以前、落第街で激しい戦闘を繰り広げていた二人の。その片割れである事は、すぐに思い出した。

夕霧 > つい、と目を細める。
向こうもこちらに気づいたようである。
フード越しであるので明確な視線は判らないが。
こちらを向いているようなので恐らく、そうであろうと考えた。

周りからの雑多な視線もある中、こちらの視線に気づきこちらを見返す。
非常に強い危機管理能力があるようである。

ゆっくり、自然な足取りで近づいて行く。
近づけば近づく程少しだけ、全体の面影に覚えがあるような感覚。

ナナミ > (──さてと。)

こちらへ近づいてくる姿を見、顔は動かさずに視線だけを周囲の壁に向ける。
万一の場合の確実な逃走経路は、今のところ女が来るのとは反対側、路地の先へ進むのみ。
あるいは壁を蹴って上れば、とも考える。

(──まあ、そりゃ万が一の場合で、と。)

こほん、と咳払いを一つ。
以前使った声色を思い出しながら、接近に備えた。

夕霧 > コツ、と踏み込まないし踏み込めない距離。
そこで止まる。
仕掛けられず仕掛けられない距離。

「こんばんわあ」
特徴的なイントネーションで。
特に気負いも何も無く、あくまで自然なゆったりとした声で。

「すいません、ちょっとぶしつけに見てしまって」
そういって少し笑う。

その距離まで近づいて。
以前、見た覚えを頭から引っ張り出そうとする。
そこまで出掛かっているが、まだ、確信には至らなかった。

ナナミ > 女が足を止めたのを見て、ふぅん、と小さく感嘆する。
この距離がこの人にとってのギリギリか、と。
こちらが素手だと思っての距離なのか、そこまで察する事は出来なかったが。
ともあれ、この女性に戦意は無い、それだけ分かれば余計な警戒も不要だろう。

──ん、ん、とフードの奥、小さく喉を鳴らして。

「どォも、こんばんは。
 こンなとこまで一人で何しに来たんだィ?」

確か以前使ったのはこんな感じ。
あくまでうろ覚えだが、そもそも東雲七生として会った事は無いから多少違っても構わない。

「別にじろじろ見られるのはこの街じゃァ常だかンねえ。
 気にしてたらキリが無ェさ。」

ケヒヒ、とそれらしい笑みを後に添えてみたりする。

夕霧 > 口調を聞いて得心した。

「あぁ、以前の」
思い出した。
あの夜。
あの時。
ずっと隣で見ていた―――。
とはいえ、だからなんだと言う訳ではない。

「以前はお世話様でした」
そう一言だけ。
彼へと告げる。

「何を、と言えば露店巡りですよ」
既に露店は途切れているし、目当ての露店は無かった。
故に今は散歩であり、し始めた途端彼に会った、と言う訳である。
「まぁ、見つからなかったので今はただの夜歩きです」
そう、続け。

「それもそうですね」
ころころと笑う。
現状でも視線はどこからか二人を中心に集まっている。
彼の言うとおり、こんなものをいちいち気にしていては此処で歩くことなど出来ない。

ナナミ > 「別にィ、俺も面白いモン見させて貰ったからお相子カナ。」

フードの下、辛うじて覗かせている口元が弧を描く。
あの夜見たものは本当に心躍る野蛮な戦闘だった。
暫く瞼の裏に焼き付いていたほどだ。

「露点ねェ……。
 それもそれこそそこら中でやってるけどな。
 まァ、そうそう場所替えなんかしねェだろうし、見当たらなかったってンなら、今日はやってねェンだろ。」

さてどうしたものか。
集まる視線に軽く背筋が寒くなるのを覚える。
注目を集めているだけで、敵意は感じられないが。何ともまあ、やり難い。

「夜歩きったってェ、こんなところをかい?
 ま、多少は腕に覚えがあるとはいえ、感心しねェなぁ。」

俺が言えた義理じゃねーけど、と、また特徴的な笑い声と共に。

夕霧 > 「ああ。あれはほんとう、楽しかったです」
ふふ、と目を細め、口元を隠して笑う。
一手しくじれば、この世と別れを告げるほどの愉悦。
久しぶりすぎたのもあってしばらく彼女も忘れられなかった口だ。

「そうなんですけどね―――。うちが探しているのは石というか金属を売っている露店で」
なんとも説明にならないのだがそうとしか言いようが無いのでそう説明した。
「近頃、見ませんのでもしかすると……まあもしかしたのかも知れません」
しょうがないですね、と言うニュアンス。

「まぁ、そうですね。余りうちとしても感心は出来ないモノですけど」
うーん、と少し考え。
そもそも余り一つの場に留まるのは良しと言えない。
集まる視線。
そしてゆっくりとまた自然と一歩踏み出した。
「よろしければどうです?何かの縁ですし」
―――少し歩きませんか?と。

特徴的な笑いをする少年を誘った。