2016/02/02 のログ
ご案内:「路地裏」に六無 黒さんが現れました。
ご案内:「路地裏」から六無 黒さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に六無 黒さんが現れました。
■六無 黒 > ――立ち寄るべきではない場所こそ、自分のようなモノの存在意義を果たす場所である。
ロクム・クロはそう教えられて、そしてそのように育った。
■六無 黒 > 小競り合いのように見えた。
幾つかの黒い影が、ひっきりなしに場所を変えながら立ちまわっている。目の良い者ならなら見えたろう。それは、一対五の乱戦であった。
抗争、はたまた私刑の最中か――それは定かではなかったが。
■六無 黒 > (――四手先)
一、の側に見える、法衣の青年は、その蒼い目を刃のように絞る。
大上段から振り下ろされるのは鋭い鎌の切っ先。潜りこむように前進、右肘を繰り出す裡門頂肘。仰け反り吹っ飛ぶ相手の影より更に二つの影。左右より牙のごとく来る鎌を蜘蛛のように這い、くぐり抜ける。
(残二手。回避後は後ろから来る)
■六無 黒 > 戦術的展開予測。果たして、攻撃は背後から来た。前に転がり込むように避けるついでに、左右から攻撃を放った敵の足を払って素早く復位する。
(残一手)
青年は、唇を舐めた。太腿に指を滑らせ、対魔礼装をスタンバイする。転げた二体が幽鬼のように復位し、攻撃を外した後ろの二体が距離を詰めてくる。そして――
(やっぱり、そっちだよな)
先ほど肘を叩き込んでやった個体が、ワンパターンな大振りを背中から繰り出してくる。
前進しても、横に逃げても、囲んでくる布陣。
哀れ袋のネズミに見えた青年の唇は、しかして楽しげに笑っていた。
■六無 黒 > Boost……On.
■六無 黒 > どん、と音が響いた。
それはいわゆる、「音の壁」が上げた悲鳴であった。
青年――いや、もう持って回った言い回しはやめにしよう――六無・黒は対魔戦闘用に生み出された一種のサイボーグ――魔術と科学の合の子、「工学魔獣」にカテゴライズされる存在である。
彼は対魔礼装「音越」を起動し、振り下ろされた鎌をすり抜けた。鎌が捉えたのはカソックの裾の、そのまた残像程度のものだ。
ご案内:「路地裏」から六無 黒さんが去りました。
ご案内:「路地裏」に六無 黒さんが現れました。
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■六無 黒 > 硝子が砕けるような音を立てて、ニつの人影が砕け散った。
音速を超える物体を視認できる者がいたとするなら、青年が超音速で前進し、上げた両の拳で一発ずつ、敵の顎先を叩き抜いたことが見て取れただろう。
背後の鎌を置き去りに、二打で二体を一分の無駄もなく仕留めたのだ。
――人影が硝子のように砕ける、という異状を、全くおかしいとも思わないかのように、青年は虚空を握る。
■六無 黒 > 「何発か殴られなきゃ異端認定ができねえんだからさ、不便なもんだな、今度の仕事は」
いつもなら、見敵必殺問答無用、異端は殺してから異端に仕立てればいいという理屈がまかり通るが、今回の担当官はどうやらお優しい。俺以外に。
「懺悔は要らねえ。地獄に帰れ」
引きぬくような動作。
パキパキと音を立てて虚空から引きぬかれたのは、二丁のストレイヤー・ヴォイト「インフィニティ」.45ACP。
鎌を振りかざすのか、逃げるのか、三体の「人影」が逡巡した時には、全ては終わっていた。
■六無 黒 > 鋭角的な方向転換と、音速を超える高速移動。
壁を蹴り、宙を渡り、ピンボールのように暴れ回る。
全方位から連射される鉛の嵐は、絶命必至の断罪結界。
マズル・フラッシュが、青年の残影をビル壁に焼き付ける。
二十四発の嵐が過ぎる頃、その場に立っているのは青年だけだった。薬莢が、重力を思い出したように地面に降り注ぐ。
■六無 黒 > 「担当官、どうぞ。二一二二、状況終了。損傷はなし」
インカムに向けて告げると、気のない担当官の声が帰ってきた。
化物と話をするのはどうもお好きでないらしい。
取って食いやしないってのに。
手品のように二丁の銃を消すと、ゆったりとした歩調で歩き出す。
「……周りを適当に哨戒して拠点に帰投する。多分あれで全部だと思うけどね」
言葉を継いでから、軽く咳き込む。じわりと血が掌に滲んでいた。
「――なんでもない。交信終了」
■六無 黒 > ポケットティッシュで雑に血を拭い、血の味のする口の中にげんなりとした顔をする。
「こんな体に誰がしたって、恨み言の一つも言いたくなるよな」
内蔵に少々ガタが来ている。帰宅後、アジャストが必要だろう。
青年は半分が作りもので、もう半分が生体部品のサイボーグだ。
『音越』による加速を行うと、このように生体部品が悲鳴を上げる。死ぬほど苦しいが、一応生体部品の機能が全停止しても、自分はしばらくは死なないらしい。死ぬほど苦しいが。
因業だ、と独りごちて耳からインカムを毟り取る。
■六無 黒 > 彼は、悪魔と戦っている。
人に害を成すたぐいの、特定の悪魔を狩るための魔術人形。それが六無黒という名の「工学魔獣」。
最先端の技術と魔術のハイブリッドにして、奇跡の執行者である。
超音速機動の影響で捩れた安タバコを咥え、これまた安ライターで火を点けた。カソックに煙草、そしてそれが似合うとは言えない、まだ少年と言ってもいい顔の造り。――なにからなにまでアンバランスである。
■六無 黒 > 「ァー。……煙草、買わねーと」
次はソフトケースじゃなく、ボックスケースにしよう。
加速する度思うんだ。
圧し曲がった煙草の亀裂に指を当てて、旨くもない紫煙を吸い込む。夜闇に光点、光に乏しい路地裏ではよく目立つ。
■六無 黒 > こんな生活をいつまで続けるのか――あるいは、いつまで生きていくことが出来るのか。
時折考えることもあるが、もとより、そうしてしか生きていけない存在だ。
メンテナンスする者がいなければ、彼は死ぬ。生殺与奪は使う側の都合。
「備品の辛さってやつ、なかなか同意しちゃ貰えないんだよな」
思考する備品は、路地裏の終わりを目指す。
すなわち明かり差す方を。
■六無 黒 > 夜はまだ終わらない。
少なくとも、その煙草の火の消えぬうちは。
ご案内:「路地裏」から六無 黒さんが去りました。