2016/05/15 のログ
ご案内:「路地裏」に寄月 秋輝さんが現れました。
■寄月 秋輝 >
数日ぶりの落第街、その路地裏を歩く。
この場所を歩くに迷いも恐れも無い。
一般的な私服姿で少々似つかわしくないが、帯刀していることに加え、その佇まいからか、誰も襲おうとはしない。
小さな足音を立てながら、ゆっくりと歩いて抜けていく。
どんなに暗くとも、わずかな光があれば秋輝にとっては昼間のように明るく見える。
だから彼が探し人をすれば、隠れようがない。はずだ。
■寄月 秋輝 >
(……やはり思い過ごしだろうか)
過去の全てに清算をつけたいとは思った。
夏樹のことにしろ、戦いのことにしろ。
だがどうしても、最後の戦いに関しては忘れるわけにはいかない。
なにせあの戦いに敗北した直後の記憶が飛び、いつの間にかこちらに来ていたのだ。
妙なことに、全ての傷が癒された状態で。
(もしヤツがこちらに来ていたら……)
考えたくもない。
ここがまた、地獄になる。戦場になる。
もしどこかに潜んでいるなら、暗躍しているなら。
今度こそ、命を懸けてでも殺さねばならない。
■寄月 秋輝 >
先日の同級生の現場に居合わせたのも、偶然のようなものだった。
ヤツを探して、一日おき程度にはこの落第街に足を運んでいる。
その上で学園の生徒に危害が及んでいた場合にのみ、ひっそりと手を出すのだが。
(……ヤツのやりそうなこと……)
麻薬か、無意味に力を与えることか。
あの女がそうしたように、世界をひっくり返すことか。
はたまた、こちらの『異能』という概念を、あちらに持って帰るか。
何が起きようとも地獄だ。
向こうで勝利していれば、再び地獄が。
向こうが敗北していれば、さらなる地獄が。
本当に考えたくもない事態が起きてしまうだろう。
■寄月 秋輝 >
正面を見て歩きながら、左右の光も確認する。
薬の売買が行われているが、今の自分には関係が無い。
一般生徒らしき若い子が酒をあおっているが、どうでもいい。
自分が探しているのは、金髪の少女だけだ。
異能も探知魔術もフル回転させ、あの色を、あの魔力を探す。
とはいえ、一年ほどここで調査を続けている。
その上で反応が無いならば、そろそろ打ち切ってもいいのかもしれない。
ヤツに対する不安感さえ拭えれば、きっと普通の生活に戻っても自分を許せるはずだ。
■寄月 秋輝 >
もうおそらく、何度も通ったであろう道。
この路地裏ですら、自分の家の庭のように歩き慣れてしまった。
調査を終えていいならば、もうここを歩く必要もなくなるだろう。
そうなれば、また彼女のような犠牲者が出たところで、回収しに行くことすら出来なくなるが。
(とりあえずこれで、しばらくは人を斬る必要はないか)
そう考えた。
自分を鍛えたバケモノの方針でもあった、『剣士はまず人を斬れ』というもの。
人を斬ってから理念や悩みを持て、と言われ。実際にそうすることになってしまった。
初めて人を斬ってから悩み、苦しみ、のたうち回った。
だが今ならわかる。それでよかったのだ。
(そうじゃなきゃヤツを殺そうなんて思えないし……
同級生を襲うクズを殺そうとも思えないしな)
その精神性はもはや人のそれではないことも理解している。
それでも、自分が狂えば他の誰かが同じ役割をすることもないのだ。
あの子たちが血にまみれることも無く、平穏無事に未来へと歩めるならば、自分の手が血で汚れる程度安いものだ。
■寄月 秋輝 >
いずれ自分も正義に裁かれる日が来るだろう。
もしくは、自分に恨み持つ誰かに殺される日が来るだろう。
その日までは、静かに生きていればいい。
自分の目についた気に入らない敵を斬ればいい。
ヤツさえ、現れなければ。
(……頼むから、出てくれるなよ……『イヴ』……!)
腰に差した刀の柄頭を強く握りしめ、心の中で叫ぶ。
この日をもって、寄月 秋輝の……
否、『八雲 亜秋』の、最後の任務は終えられた。
過去の名も戦いも一度忘れ、静かに暮らしていこうと、そう誓った。
ご案内:「路地裏」から寄月 秋輝さんが去りました。