2016/06/24 のログ
ご案内:「路地裏」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > (参ったな……)

雨上がりの空気の濡れた路地裏で、七生は小さく息を吐く。
何やらきな臭い噂が耳に入って、居候先の家主や友人たちが巻き込まれちゃいないかと軽く見まわる心算だった。

(人にさんざ危ない目に遭うから止めろって忠告してこのザマはなぁ……)

足を止めている七生に、複数の足音が近づいてくる。
普段はそれなりの格好をして、散歩がてらぶらぶらする事もあるのだが、
今日に限ってはどういうつもりか制服姿だった。
というか、下校途中のちょっとした寄り道、程度のつもりだからそれも当然と言えば当然で。

東雲七生 > 身内が危ない事をしていないか、心配ばかりが先に立ってしまったのか随分と注意を欠いていたんだなと、
近付いてくる足音に耳を傾けながら一人反省する。

(ひぃふぅみぃ……反対側からも二人か三人か、おおよそそれくらいか。)

一体何が彼らの癇に障ったのか知らないが、どうやらチンピラ集団の目に留まってしまったらしい。
普段ならこんなこと無いのに、と七生は忌々しげに舌打ちをする。
接近してくる輩どもにではなく、自分の不甲斐無さに、だ。

(暫く誰にもえらそーなこと言えねーよなあ、これ……)

これをミイラ取りが何とやら、というんだっけか。
そんな事を頭の隅で思いながら、今はただ、近づいてくる足音をどうやり過ごすかだけを考えて。

東雲七生 > 逃げるか。
路地の幅はおおよそ3m、人間二人が余裕ですれ違えるほど。
七生の脚力をすれば、壁を交互に跳んで行けばすぐに登り切れるだろう。そうでなくとも、雨樋が御誂え向きに走っている。

ただ、顔を見られているはずだ。隠していないから。
だとすれば、燃えるような赤色の髪もあっちの印象には強く残っている事だろう。
だとしたら、逃げるのは得策じゃない。

(俺は逃げ切れるとして、同じような背丈とか髪とか、居るには居るだろうし……居るか?)

まあ仮に居たとしたら。
落第街から出て来た連中が、人違いに気付かないまま暴挙に出るかもしれない。
そうなったら、責任は無くとも原因の一端は七生である。

(……それは避けたいよな……。)

あはは、と自分の不甲斐無さに笑いまで出て来る始末だ。

ご案内:「路地裏」に結良華蓮さんが現れました。
東雲七生 > ──さて、それならどうするか。

選択肢なんてあるようでない状況の中、酷く落ち着いた様子で自分のこれからを考える。
もしここが未開拓地区で、相手が獣なら?
特に群れで行動する辺り、犬や狼の類なら?と考えていく。

「……一発脅しをかけて、か。」

野生の獣相手であれば、それで大体片が付くのだが。
はたして人間相手にも通用する手だろうか、と考えを重ねていく。
それでもまあ、相手に恐怖を植え付けさえすれば、その後は逃げてもどうにでも──

「……ま、やるだけやってみるか。」

対人戦闘の経験値にしよう。
そんな事を密かに考えつつ、七生は覚悟を決める。

結良華蓮 > 「うーん」

困った、と言う顔。
ゆらゆらとポニーテールが歩く度に揺れる。
繁華街を興味深げに歩いて歩き続ければ気づけばこの場所。
人気は無いし明らかに常人が立ち入る場所ではなかった。

「弱ったなー」

元々編入して来たばかりで土地勘は無かったとはいえこの辺りは入り組みすぎていて。
頬をかくが状況は好転しない。
そこへばたばたと、明らかに素行の悪そうな者が此方を囲んできた。
そして此処の制服では無いセーラー服はとてつもなく、よく目立って。

「うーん……」

それは最初の唸りとはまた別の唸り。
違う意味で困ったな、と言わんばかりに。

そして彼への注意が少しばかり、外れる事となる。

東雲七生 > 「よし。」

まず先陣切ってこちらに来た男の鼻っ面を思いっ切り。
それから怯んだ連中に畳み掛ける様に連撃。死なない程度にやれば、死なないだろ。

そんな風に動きを考えてから、ゆっくりと身構える。
近い足音は、もうすぐ傍の角まできていて、あとは鉢合わせるだけだ。

『くそっ、あの野郎どこに……あ、居やがっ……がぁっ!?』

眉を剃り、髭を生やした強面の顔面に、七生のスニーカーがめり込む。
あ、やば、ちょっと加減間違ったかも、と七生が思ったのと同時、初撃がクリーンヒットしたチンピラが後方へと吹っ飛び、続いて来ていた仲間たちを巻き込んでいく。

「……え、えっと。」

思わぬ展開に少しだけ面食らってから、しかしすぐに別側から追手が来ることを思い出して振り返れば。

「………こ、来ない。」

あれー?と首を傾げる。

── 一方その頃 ──

『おうおう、こっちにガンくれといて逃げるなんざ良い度胸してるじゃねえか。』

手に空きビンやバットなど、様々な得物を持った男たちがポニーテールの少女を囲んでいた。
明らかに、彼らは対象を勘違いしている。しかし、それに気付いている様子は無い。

結良華蓮 > 彼がもう片方を吹っ飛ばした一方その頃

「えっ……」

面食らった顔。
そもそも初めてここへ来ただけだったのだが。
そこで少しば思考を巡らせる。
さて、つまり誰かがガンをつけて彼らは怒っていると言う訳なのだから―――。
それは恐らく不幸な「ガンをつけたことになってしまった」誰かがいると言う事で。
けれども。
まあ、相手がどうとかはこの際どうでもいいのだろう。
勘違いだろうが何だろうが、大よそ、溜まった鬱憤を晴らせれば誰でもいいのだろう、と大よそ大雑把な思考を巡らせて。

つまり誰かが困っていると言う事だ。


「いや……そんなつもりじゃ……ちょっと見ただけで」

テンプレートのような回答。
指までバンテージの巻かれた両手をあげて「違います」というジェスチャー。
そして困った顔。
勿論ただ彼らのヘイトを煽るだけの行動であろうが。

それが狙いではある。

東雲七生 > 「……ちょっと待ってみ……ない。」

耳を澄ませば、近くの男たちのうめき声に混じって怒声のような物も聞こえてくる。
それらがする方向は、もう片方の追手が来るはずの路地の奥からで、それはつまり。

「……やっべ、誰か巻き込まれた!?」

こうしちゃ居られない、と慌ててそちらへと駆け出しかけて──
くるっと踵を返し、足早にもんどりうって転がる男たちの方へと近付くと、

「……えっと、ごめん。」

ガンガンガン、と立て続けに男たちの脳天に踵を落していった。
これで暫く、こちらは再起不能だろう。

── 一方その頃 ──

「ああん?なんだァオイ、ただ見ただけだあ?
 それじゃあ俺らも見せて貰わなきゃあ不公平ってもんだよなあ~?」

少女を数人で取り囲んでいるという状況の有利さからか、
リーダー格の男が下卑た笑みを浮かべて少女の肢体を舐める様に見ていく。
男の言葉の意味を理解したのか、周囲を囲む男達も好色な視線を少女へと向けていた。

結良華蓮 > 立て続けに踵落としが入り、再起不能になった一方その頃

「えぇ……そういうのはちょっと……」

恥ずかしがるように身体を腕で少し抱く。
好色の視線に流石にぶる、と身体が震えて。

この状況を脱するには結局暴力しかないのだが。

「(しょうがない、か)」

決意を決めて。
はあ、と息を吐く。
―――男達からすれば、観念したように見えた、かも知れない。

恥ずかしがるようにスカートの裾を片手で摘んで。
少しずつ上へとたくし上げて行き。

視線が集中した、所で。

「ごめんね」

一応謝って。
トン、とステップを踏む様に身体ごとリーダー格の男へ距離を詰める。
開いた片手を握る。
ぎりぎり、とバンテージが軋む音がして。
鳩尾へ、拳を打ちこんだ。

威力の手加減はする。
悶絶する位の威力、になるように。

東雲七生 > 「よし、行こう。
 多分取り返しのつかない事になる前には間に合うはず……!」

男たちが完全に伸びているのを確認して、出来れば自分に関する情報を都合よく忘れてくれないかな、と祈りつつ。
ダメ押しにもう一撃ずつ足を振るってから路地を駆け出した。



『ぐひひ……ぐ、……ふっ』

男の鳩尾に少女の拳がめり込み、肺から押し出された空気が男の口から苦悶の呻きと共に零れる。
一瞬何が起きたかと動揺する仲間たちも、
すぐに状況を把握して各々の得物を手に穏やかでない眼差しで少女を睨んだ。

『ちっ、どうする、こいつ意外とやれるみたいだぞ』
『ばっか、今のは油断してたからだ、数だってこっちが多いだろ!』
『けどよぉ、どうすんだよ。一斉にかかればイケんのか……?』

男たちは言葉と、そして視線で意思の疎通を図る。
そこには不安が確かに在り、故に男たちの油断はない。色仕掛けも通用しない事だろう。

結良華蓮 > 即断と言うのは何に於いてもいい事だ。
そう決めている。
いや、決めれない事もあるんだけれど。

そのままもう一撃、リーダー格の男に顎を狙い昏倒させれば。

一番近くに居る男へと距離を詰める。
その速度も常人では無い速度、つまるところ「異能」によるものだとわかる程度には、速い。
加速のまま、脚を振り抜く。
これもまた鳩尾、というかこの威力ならどこに当たってももはやいいのだが。
それでも鳩尾を狙う。
一撃で相手を止める可能性が高いから、という理由で。

ただ、そのもう一人は倒せるかもしれないが、他二人の反撃は、避けれまい。

東雲七生 > 『っ、やろ……ッ!』

距離を詰められた男が驚愕の表情を浮かべるのとほぼ同時に少女の蹴りが男の鳩尾を捉える。
衝撃が男の体を貫き、悶絶した男はそのまま崩れる様に膝を折った。
が、それを黙って見ている他の男たちでは無い。
二人同時に、攻撃を終えたばかりの少女が体勢を立て直す前に。

『オラァッ!!』
『チョーシ乗ってんじゃ──!!』

各々の得物を振り被り、そのまま少女へと振り下ろ───


──せなかった。

「はぁ、はぁ……ふぅー、間一髪。」

男たちの背後、路地の角で七生は安堵の息を吐く。
その手は男たちと少女へ向けて伸ばされており、人差し指からは赤い紐の様なものが延びて、男たちの得物に巻き付いている。

「ごめん!話は後で、そいつらも寝かしちゃって!!」

もう片方の手に持っていたガラスの破片を投げすつつ、七生は少女へと声を掛ける。

結良華蓮 > 一撃二撃は覚悟の上だった。
痛いけど。

振り下ろされる瞬間に軽く目を瞑る。
何時まで立っても痛みは慣れないもので―――。

「……?」

僅か数秒、やってこない痛みに目を開ければ何か男達の得物に紅いモノが巻き付いていて。
そして動きが止まっていた。
その男達の後ろから聞こえてくる声。

どうやら、助けられたようで。
ふう、と息を吐いて男に向き直る。

「ごめんね、恨むならこっち、恨んでね」

それだけを伝え、一人ずつ、丁寧に昏倒させるように。
―――そして出来る限り後遺症などは残らないように。
殴り、そして蹴り飛ばしていく。

東雲七生 > 「いやー、すっげーな。」

先程自分も男を蹴り飛ばした事などすっかり忘れた様に、少女の動きを見て嘆息する。
武器の使用を封じられた男たちは、面白いくらい無防備に彼女の攻撃を受け、その場に倒れ伏した。
武器を封じていた赤い紐のような物は、男たちの手から武器が離れると同時にその姿がぷるりと震えて、雨の様に地面へと落ちて飛び散った。

「ごめんごめん、大丈夫だった?
 怪我とかないか、変な事されなかった?」

男たちが気を失ってるのを確認しながら、申し訳なさそうに身を竦めながらひょこひょこと少女へ近づいていく。
一応、先輩に該当するのだが、その姿はどう見ても中学生、下手すれば小学生くらいに見えるだろう。

結良華蓮 > 「……はあ」

がく、と力を抜く。
どうやら終わったようで。
拳を見れば、今回は大丈夫そうだ。
その事にも安堵して。

倒れ伏した男達の間を縫ってこちらにやってくるのは。
どうみても己より低学年の生徒のように見えて。
少しだけ怪訝な顔をしたがすぐに元に戻る。
実感は無いけれどここはそう言う学園なんだから、不思議な力を持つ者はそれこそ一杯居るんだから。

「えっと私は大丈夫。幸い殴られもしなかったし」

まあ下着は見えそうだったかもしれないけれど多分。
とりあえずそう答えて。
迷い込んだ自身も悪いし助けてもらったのもあるが一言言わねばなるまいと。

「助けてくれてありがと、でもこんなトコきちゃだめだよ。危ないし」

それは弟を軽く叱るような口調で。
心配の方が強い声であった。

東雲七生 > 「えっと、あの……はい。」

困った様に頭を掻きながら、素直に少女の忠告に肯く。
今回は完全に自分が蒔いた種なので、強気に出る訳にもいかない。
たとえ少女がその事に勘付いていないとしても、七生の性根がそれを許さない。

「えっと、今度から気を付ける……から。
 ところで、見掛けない制服だけど、常世学園の子?」

こてん、と話を逸らしながら首を傾げる。
一々挙動が幼い印象を与えるが、こればかりは本人の意図するところでは無いから仕方がない。

結良華蓮 > 「よろしい」

うん、と彼の反省を見ればそれだけ飲みこむ。
そもそも己もそうなのだし。
そして次の瞬間にはにこりと屈託なく笑う。

「本当助かったよありがとっ。殴られるのってさやっぱり痛いからねー」

あはは、ところっと表情を変えて苦笑して。

「え、あ、うん」

その仕草にきゅん、とする。
近所にこんなかわいい子いたなーなどと思い出して。
見てくれはそれこそ格闘技でもしてるのかという見てくれだが中身は普通の女子であった。

「つい先日かな、こっちに編入してきたの。制服は前の学校のだから。そそ。常世学園の一年生」

うん、と彼の言葉に同意してそう続けて行く。

東雲七生 > 「いやまあ、う、うん。良かった、怪我無くて。」

ほっ、と胸をなで下ろすと、釣られる様ににっこりと満面の笑みを浮かべる。
もし何かあったら自分が許せなくなるところだった、とは口にはせず。
今はただ、目の前の少女に何事もなかった事だけを素直に喜ぶ。

「そっか、編入生か。
 だったら納得、まだ制服が届いてないわけか。」

こくこく、と頷いてから。不意に呻き声を上げる男たちに気付いて。
そろそろ目を覚ますのかもしれない、と少しだけ表情が険しくなる。

「俺は東雲七生。一応、二年だから先輩って事になるのかな。
 まあ、こんな所で立ち話も……普通に危ないから、早いとこここを離れよう。」

こっちかな、と路地に見当を付けて。
行こう、と少女へと片手を差し出した。

結良華蓮 > 「怪我は慣れてるけど慣れたくないかな」

再度苦笑を一つ。

「まあそういうトコかな。ちょっとばたばたしたから」

編入であるのもその理由だし、と。
続けた所でこちらもその声を聞いた。
更に彼の素性を聞いてえ、と言う口になって。

「あ、そうだね。離れよっか。……ってえ、あ、先輩?」

思わず口にしてしまったが気にしているかもしれないと少しだけ反省しつつ。

七生の差し出された手を少し迷った末、バンテージの手で軽く握り返した。

東雲七生 > 「その気持ち、すっげー分かる。」

あはは、と苦笑して先刻異能の発動の為にガラスで切った指に目を向ける。
血も止まって傷もほとんど目立たなくなっているが、自分を傷つける事には何時まで経っても慣れない。

「そ、一応先輩。
 編入してきて日も浅いなら、右も左も分かんないでしょ?
 良かったら今度案内するよ。」

それも先輩の務めだから、と手を引きながら笑顔で振り返り。
幾つか角を曲がって、路地を抜けて、また別の路地に入ってと何度か繰り返して、すっかり別の路地裏へとやって来たようだ。
この辺で良いかな、と足を止めて手を離す。

結良華蓮 > 「だよね!ホントやだよ……あいや、やですよね」

先輩と思いだし、ちょっとだけ口調を正して同意に同意を重ねて。

手を引かれ、別の路地へと辿りつく。
ここまでくれば問題は無いだろうし、追ってきたとしても問題は無いだろう。
走ってきたのもあって軽く息を吐いて。
改めてこの小さな先輩へと向き直る。

「あ、それ助かります。何せ広すぎてどこ行けばいいのかわかんなくて。何とか授業する教室は覚えたんですけど」

パンフとかもあったはずなのだがいまいち頭に入らなかったのだ。

「っと、私、結良華蓮って言います。すいません、名乗るの遅れて。ええと東雲先輩」

慌てて名乗られたのを思い出してそう、己の名前を告げる。

東雲七生 > 「ははっ、別に無理して敬語使わなくても良いよ。」

ひらひらっと手を振って、息を整える少女へと軽く声を掛ける。
走り慣れてるのか、足を止めても息一つ乱さずに微笑みを浮かべて

「んじゃあ、連絡先の交換、しとく?
 こっちから掛けることはあんまり無いと思うけどさ?」

制服の上着のポケットから、通信端末を取り出して。
どうする、と小首を傾げながら。

「ああうん、結良ね。よろしく!」

にぱっ、とやっぱり先輩には見えないあどけない笑みを浮かべる。

結良華蓮 > 「え、あー……」

少し恥ずかしそうに頭を掻く。
視線を右左に少し動かした後。

「じゃ、普通に話すね。敬語はやっぱり苦手」

こちらが息を整えている中、息一つ上がっていない七生を見て、凄いな、と感心して。
恐らく、鍛えているのだろうな、とぼんやりと考えながら。

「あ、じゃあお願いしようかなー。こっちにまだ知り合い誰も居なくて」

編入してきた事もあって物珍しさなどはあったものの、グループなどには上手く馴染めていなかったので残念ながらこちらで連絡先を交換した人は誰も居なかった。
同じく通信端末を取り出して。

「よろしくお願いします東雲先輩」

改めて軽く頭を下げる。
ゆら、っとその度にポニーテールが揺れて。

そして屈託ない笑顔をみて、その小さく可愛い先輩に似合うな、などと思いながら思わず頭を撫でたい衝動に駆られるがそれは自制して。

東雲七生 > 「話しやすい方が、俺も気を使わなくて良いから楽だし。」

楽しそうに笑いながら、一つ、頷いて。
七生自身は先輩や教師と言った目上の人間にはどうしても敬語になってしまう癖があるのだが。

「んじゃあ、えーと……はい、これ俺のアドレス。
 あと電話番号も……はい、うん。これでおっけー。」

慣れた手つきで連絡先を交換し、頭を下げる結良を見て。
少しだけ困った様に眉根を寄せ、それから声のトーンを少し落として

「うん、よろしくー……やっぱなんていうか、くすぐったいね。
 まっとうに先輩扱いされると。」

照れてるのか、はにかむ様に笑って。
それでもある程度の警戒は継続してるのか、先程の悪漢たちがまた来ないかと周囲に視線を巡らせた。

結良華蓮 > 「じゃあ遠慮なく」

にへ、と釣られて笑う。
手慣れた手つきで登録はあっさりと済んで、端末をいじってアドレスを確認して漢字はこう書くんだ、などと確認しながら。

「でも私も助けられたし、まぁ、(確かに小さくて可愛いですけど)その。先輩ですよ?」

全くよく分からないフォローをしながら。
照れてる姿も可愛いなあなどと呑気な事を考えて。
こちらは逆に七生に気を取られて警戒などはしていないようであるった。

そういえば、とふと思い出したように。

「東雲先輩はそういえばなんでこんな所に?」

ぱっと見では、ここに余り来そうにないな、などと考えながらそう彼へと問いかけた。

東雲七生 > 「うん?
 いや、何だか最近この辺りが輪を掛けて物騒だって聞いたからさ。
 ダチとか、後輩とか、面倒に巻き込まれてなきゃいいけどって思って。」

見回り、と手短に答える。
その結果ならず者たちを引き寄せる結果になってしまったので、今回はひたすら反省しかない。
あんまり迂闊な事はするもんじゃないな、と自分に言い聞かせつつ。

「結良も、迷子にでもなったのか知らねえけどさ。
 あんまりこの辺には近寄るなよ?
 ……まあ、腕は立つみたいだから危なくなったら一発入れてすぐ逃げろよな。」

段々と自分への不甲斐無さより後輩への面倒見の方が大きくなってきて。
少しだけ威厳を出そうと両腰に手を当てて、きっ、と真面目な顔になる。

結良華蓮 > 「なるほど。そう言う事だったんだ」

その事を聞いて少しだけ納得して頷いた。
実際異能があるからある程度は大丈夫なのだろう。
どんな異能かまではわからなかったが。

「うん。そうする。特に近づく気は無かったんだけどなー」

ご明察通り迷っちゃって、と続ける。

「んー腕は立つって言うより、結局この力、だけかなあ」

拳を握ったり開いたりして。
悩み所、みたいな顔をした。

「力、だけなんだよね。結局。うん、次は一撃当てて逃げるようにする」

同じことを二度続けた後、素直に七生の言う事に同意した。
茶化せる雰囲気でも無いし、それに実際に危なかったのは事実だ。
もし殴られていて気を失っていればどうなったかもわからない。

東雲七生 > 「家も結構近いからさ、何かあったらすぐ分かるだろうけど。
 ……まあ、分かんない事も多々あるから。事前に摘める芽は摘んどかないと。」

少しだけ困った様な笑みを浮かべて、頭を掻く。
友人達の悪いニュースを聞くのは絶対に嫌だから、と添えて。

「うんうん、まあ近づかないのが一番だよね。
 編入して来たばかりなら、まず島の地図を頭に入れとくのが第一だな。
 授業はそのうち慣れるし、遅刻しても命の危険には晒されないから。」

それからこの力、と聞いて。
何やら気にしている風な仕草を、じっと見つめ。

「力って……ううん、それが結良の異能なの?」

てっきり武道の心得でもあるのかと思ったんだけど、と。
あれが力任せの動きであれば、なかなかの才能だよなあ、なんて思いつつ。
小さく首を傾げる。

結良華蓮 > 「なるほど、東雲先輩はいい人だね」

素直な気持ちを言の葉に乗せる。
それは混じりけなく彼女が思った事だ。

「全くその通りで耳が痛いや。たはは」

遅刻しても単位は落すかもしれないが命は落ちない。
その通りだし、ここではそれが起きうる。
その事は深く、心に留めておくとしよう。

「あー。ええと」

さてどこから説明しようかな、と思ったけどそもそも彼女は難しい事は苦手なクチであって。

「所謂私の異能はええと怪力のカテゴリに入るんだけど」

うーん、と結局悩んだ末。

「ええとスーパーマンっているよね」

岩をも砕くパワーを持ってて、走ればそれこそ車より速く走って、と説明して。

「私が持ってるのはそのパワーだけ」

自分の露出していない腕と脚を見ながら。

「スーパーマンは岩を砕いても、傷一つないけど私の場合、うーんよくても拳は砕けるし、最悪骨折・脱臼、後骨が見えたりもあったっけ」

思い出す様に事実を淡々と。
とはいえ悲観してと言う訳でも無く彼女にとっては「そう言う事があった」と言うのをただ思い出して説明しているだけなのだが。

「走る時もそれぐらいは走れるけど、その後、あいやこれ以上言わなくてもいいかな」

痛い話みたいなものだから途中で言うのを止める。
この可愛い先輩も苦手かも知れないし、と少しばかり考えて。

「先生に聞いたけど不完全な怪力、ってヤツになるらしくて。力は強いけどそれを扱う強靭さは備わらなかったみたい。だから力だけが私の異能。幸い再生力だけはちょっとくれてるみたいだけど」

目の前にあるドラム缶をぽんぽんと叩く。

「壊そうと思えば壊せるけど壊すと自分も壊れちゃう。そういう力って感じかなー。動体視力とかも一時的に引き上げたりは出来るけど長時間は使えないし、使ったとしたらその後しばらく目が痛くて開けれなくなったり、と」

はっと我に返る。

「あー、えーと。つまりそういうコト」

あはは、と取り繕う様に笑った。

東雲七生 > 「ほー……む。ふむふむ。」

彼女が語る、自分の異能の話。
つまり自分の限界以上の力を発揮できてしまう、という事なのだろう。
七生自身、人並み外れた身体能力を持ってはいるが、それはあくまでも七生自身の限界を超えたものでは無い。
しかし彼女の異能は彼女の限界を超えて、そのオーバーした分は他でもない彼女に返って来る、という事なのだろう。

「なるほど、なー。」

気の利いた感想も思い浮かばず、少しだけ困った様に笑いながら彼女の手を取ろうとする。
バンテージが巻かれたその腕は、説明を聞いた今となっては外側からよりも内側からの衝撃に耐える為に巻かれたように見えて。

「ええと、正直何て言えば良いのか分かんないけど……
 ……大変、だね。
 
 うん、ごめん。どれだけ大変かは俺には想像しか出来ないから上辺だけの言葉になるけど。」

結良華蓮 > 「あーいやそんなつもりであー」

わたわたと慌てて手をバタバタと振る。
説明が下手なので出来る限り分かりやすく、と思い説明したが確かに思い返せば酷く、何というか同情を誘う様な説明をした気になってくる。

手を取る彼へ特に抵抗も無く手を預けて。
ちょっと照れながら。

「いやいや、東雲先輩、そんな気にしなくていいんで!」

ハッと再度我に返れば未だに弁解しようとあれだこれだと捲し立てる。

「それに感謝はしてるから。『ない』より『ある』方が出来る事、増えるから。それは」

うん、と飲みこむように。

「力があれば助けれた人を皆助けれるかもしれないから」

それは彼女の決意の声で、酷く重い言葉。

東雲七生 > 「うん、まあ……何て言えば良いかな。」

そっと取った彼女の手、その手の甲を静かに撫でながら。

「それでも、制御は出来るんだね。
 じゃなきゃ、さっきみたいに手を引いて走る事も出来なかったろうし。」

理不尽にその異能によって彼女自身が壊される訳でない事を、安堵する様に呟いて。
そして続く言葉に、僅かに瞳の奥が翳る。
そんなことは無い、と言いかけて静かに口を閉ざし、一度強く目を瞑ってから、目を開けるとまっすぐに結良を見上げて。

「これは俺の勝手な、我儘な思いかもしれないけど。
 ……きっと、誰かを助けられてるとしても、その結果自分が傷付いたらいけないと思う。
 それが自分の力であるなら、尚更ダメだと、俺は思う。」

いつかは自分の異能の事も話さないといけないかもしれない。
そう思いながら、結良の手をぎゅっと握る。

「もし、君が、本当に君の力に感謝するときは、君の力で君が壊れなくなった時だと思う。
 それまでは、……忌むべきだと思うよ、こんな……そんな異能は。」

初対面の相手にいう事じゃないのは重々承知してる。
それでも、やっぱり、間違っている、と七生は思うのだ。だから、捨て置けない。

結良華蓮 > 撫でられるままの手の甲を少し見て。
バンテージ越しでもくすぐったく少しだけ身動ぎを起こした。

「あーうん、制御はどうにか、覚えないと死ぬかな、って思ったし」

事実発現してしばらくは制御も効かず、と言った所であった。
どうにか「抜く」事を覚えた頃には。
すっかりとこっちへの転入が決まっていたと言う訳で。

「……」

七生の言葉をただ静かに聞く。
其処に意志のぶれは感じられず。
ただその言葉を一つ一つしっかりと咀嚼しているようで。
触れる手が握られて。
言葉が途切れた後、少し目を閉じる。

「……弱ったな。先輩の言う事は分かります」

それはつまり緩やかな拒絶。
理解もするし言う事も分かって。
それでもそれを飲み込む事が出来ない。
苦笑を貼り付けた顔で。

「私は。私が壊れても助けれた、救えたものは救いたい。掬いきれなかったものを掬い上げたい」

握られていない方の拳を握ればギシ、とバンテージが軋む音。
彼女の力は制御を離れれば己の肉をあっさりと裂く。
爪が掌にめり込めばじわ、と少しだけ紅く染まり始めて。
無為な自傷、と思い直せばだらりと力を抜く。

「間違っているのかも知れないけれど、そうありたい」

何がわかると頭ごなしに否定してもよかったが。
あってすぐの彼に彼女の過去や事情などわかるはずもない。
当たり前だ。
だからこそ心底心配してくれているのがわかるけれど。

・・・・・・・・・
わかってはいけない。

「忠告、受け取ります」

それを実行も何も約束が出来ないから、真っ直ぐに受け止めだけはすると。
そう伝えるしかなかった。

東雲七生 > 「うん、だから……
 これはあくまで、俺の一個人の勝手な思いだよ。」

忠告でも何でもないんだ、と泣きそうに笑いながら。
もうこれ以上触れてる資格は、自分に無いとばかりにそっと手を離した。

「君には君の想いがあるだろうから、それを止めろとも言えないし。」

でも、と俯きかけた目を再び上げて。
やっぱりどこか泣きそうな、それでも満面の笑みを浮かべ。

「でも、だからも一つ我儘を言わせてくれ。
 
 せめて、その力を完全に扱えるようになってくれよ。
 どれだけの力を発揮して、どれだけの人を救っても、
 結良が傷一つ負わないで居られるように。強く、なってくれ。」

傷が無ければ流れない血液とは違う。
自分じゃ異能を使わない事でしか成せない事を、彼女なら成せるはずだから、とは。
少しだけ傲慢な理想の押し付けである自覚はあるから、口にはしない。

「ごめんな、突然変な話してさ。
 まあ、先輩が何か偉そうに言ってると思って適当に聞き流して。」

あはは、と肩を竦めてから静かに路地を歩き出す。

「もうすぐ歓楽街だから、そこの駅前通りまで案内するよ。
 そしたら変なとこ入らなきゃ、すぐに駅に着く筈だから。」

結良華蓮 > 「……ごめん」

ただやはり謝る事しか出来ず。
一言そう呟いた。

彼の泣きそうな笑顔を見て、申し訳ない気持ちなる。
彼が、彼女に関係する理由は無かった。
あそこでただ何気ない話をして、別れればよかった。
思わず零してしまって、そしてこの小さなそれでも確かに先輩である彼は、いい人なのだ。
こうなってしまった。
上を向く。
そんなつもりは無かったのだけど、とはもう言うまいが。
彼の物語に己はきっと余分だった、そんな事を少しだけ、考えて。

「……」

軽々しく口には出来ない。
そもそも制御は出来ても傷つかないように出来るものなのか、それすらわからない。
少し、ほんの少しだけ考えて。
やがて頷いて。

「うん、そうなれるよう、頑張るよ」

気休めでもそう伝える。
それしか出来ない苦笑も出てしまうけれど。

「あ、いや。ありがと。東雲先輩」

再度感謝を伝えて。
歩き出す七生についていく。

「あー……お願いします。まだ土地勘掴めてないんで」

そういえば迷ったせいだったな、と改めて思い出せば少しばかり恥ずかしい。

東雲七生 > 「………うん。」

それをしなきゃならないのは、自分なんだと。
改めて心に刻みながら笑みを浮かべる。
言葉を交わした今でも結良の考えは間違ってると思う。
それでも、間違っていても進まなきゃならない道がある事も、また事実だ。
あとはもう、彼女が必要以上に傷つくことが無いよう信じるしかない。

「きっと、結良なら大丈夫だよ。
 優しいし、きっとね。」

振り返らずに路地を進みながら、自分に言い聞かせるように告げる。
そして少し歩けば、落第街とは打って変わってそれなりに清掃もされた、繁華街の様相へと周囲の雰囲気も変わるだろう。

そのまま先に言った通り、駅前通りまで案内すれば。
にこやかに別れを告げて、結良に背を向けて人混みの中に消えていくだろう。

結良華蓮 > 繁華街の駅前通りまで来て。
別れを告げる先輩へ。

一言、伝えるべきかと。
気にしないでと。

でも。
それでも多分、そしても変わらない。
だから、何も言わず。
ただ送ってもらった事への感謝の言葉をその背に告げて。

彼女も駅へと進んで行った。

ご案内:「路地裏」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「路地裏」から結良華蓮さんが去りました。