2016/11/20 のログ
ご案内:「路地裏」に竹村浩二さんが現れました。
ご案内:「路地裏」にシング・ダングルベールさんが現れました。
■竹村浩二 >
路地裏を歩く。
特別対策部の仕事の帰りだ。
未解決事件の調査を行った結果、解決の芽があり、その報告のために野郎二人で歩いている。
「……ま、風紀がどうこうじゃなくて犯罪の悪質化が原因かもな」
「悪党が巧妙に隠れる時代ってワケだ」
適当に駄弁りながら月の夜を歩く。
■シング・ダングルベール > 「しっぽを見せれば一網打尽!
……ってわけにいくんだったら、風紀が今頃何とかしてるかあ。
それにしても竹村さん、妙に生き生きしてますね。
飼育小屋のアヒルを洗ってるときより輝いてますよ。」
普段から校内で親交のあった二人。
しかし部活動を共にするとはまったくの予想外で、初めて話を聞いたとき、思わずうっそだあ!と驚いたのはいうまでもない。
今でも実感が湧いているわけではないのだが、その真摯な姿勢は認めざるをえなかった。
■竹村浩二 > 「根深い問題だ、風呂場のカビと一緒だな」
「いやいや、それはアヒルを洗ってる時に目が死んでるだけだろ……」
「用務員って言ったってあんなことやらされるとは思わなかったぞ」
竹村は、特別対策部の仕事に対し真面目だった。
そして真面目に取り組んでいるからこそ、シングの機転の利く柔軟な思考に舌を巻いた。
自分は何ができるだろう。
何をしていける?
そんなことを考えている時、竹村たちは狭い路でコートを着た男とすれ違った。
厚手のコート、目深に被った帽子、饐えた臭い。
特に鼻を突く臭気が気になった。
そして竹村たちの後方で、すれ違った男が音もなく懐から取り出したナイフを胸の前で握った。
■シング・ダングルベール > 「……アンタ、凄い臭いをしているね。
風呂は入ったほうがいい。幾ら冬場だって限度がある。
特に今から街に出るってのなら猶更だ。」
■竹村浩二 >
臭いを指摘された男が笑った。
『そうかい……それは悪かったねぇ…』
『でもこれからもっと汚れるんだよぉ…』
『お前らの血でなぁ』
男は振り返りながらナイフをシングに向けて構え、突進してきた。
「おい、なんだあれ、やべぇぞッ!」
咄嗟のこと。緊張に竹村の足が強張る。
■シング・ダングルベール > 「ああそうかよ、勘弁願うさ!
……《疾風》(ゲイル)ッ!」
空圧の壁が路地裏に荒び、放逐されたゴミごと暴漢を遮る。
真人間の身体能力なら10mは軽く吹き飛ばされる圧力だ。
効果の程は果たして。
■竹村浩二 >
不可視の壁が男に直撃し、大きく吹き飛ばされるも地面を拳で撃ちぬき、杭にすることで耐えた。
ナイフが地面を乾いた音を立てて転がっていく。
汚く朽ちているとはいえ、石畳を穿ち手首まで拳を入れた男はもう片方の手で帽子を脱いだ。
『大した術だねぇ……だが、それだけだぁ…』
男の体躯が膨らみ始め、全長2メートルほどに達する。
肌は変化し、青白くぬめる鮫肌に。
背中には鰭が刃のように剣呑に伸び、男の顔はサメ怪人としか形容しようのないものとなる。
醜くも整った、凶悪な歯列の間から声を紡ぐ。
『悪いけど仕事なんだぁ……死んでよぉ』
瞬間。壁を何度も蹴って上空から迫り、シングに豪腕を振るう。
竹村はポケットディメンション、異世界からモノを取り出す異能で護身用の警棒を取り出す。
だがこんなものが何の役に立つだろう。
だって、あいつは。
『犯罪組織ブラックデザイアの作り出した怪人……!!』
■シング・ダングルベール > 「ブラック……デザイア……?」
竹村の方に視線を飛ばすも、瞬時にその身体はコンクリートの外壁へと叩き込まれる!
「ぐっ!?」
はらはらと崩れる粉塵の最中。
「竹村さん、あなたは早く引いてくれッ!
ここは俺が……食い止めるッ!!」
靄を劈くように現れたのは、硬質的な外骨格に包まれた巨人。
竹村に狙いを定めた怪人を横合いから、掲げた長剣にて斬り伏せる。
『あめえ、あめえなあ……兄ちゃんさぁ。』
はずだった。
「ちいッ!」
幾合の打ち合いの末、両者距離を置く。
刹那。シングの描いた赤の魔法陣が光源となり、その異形を二人の前に曝した。
「《焔》(フレイム)ッ!」
続く端的な詠唱により、光芒は熱となって怪人を襲う。
転がったナイフを飲み込み水浸しの新聞紙を飲み込んで、異形の徒を飲み込んだ。
■竹村浩二 >
「引けって……! 言われたってよ…」
見捨てていくのか?
確かにシングは強い。特別対策部の中でも指折りの戦闘能力だ。
だが、ブラックデザイアの怪人を単体で倒せるものだろうか。
竹村は学生時代、幾度となく変身してあの手の怪人と戦ってきた。
だが、今は変身できない。
せっかくできた居場所、仲間、その前で……
異能犯罪者を私刑にかける咎人、イレイスの姿に変身するなんて。できない。
凄まじい熱の奔流を浴びて、体の節々を焦がしながらも鮫人間は怯まず襲い掛かってくる。
時に豪腕で環境ごと抉りに、時に牙を使った必殺の噛みつき攻撃を仕掛けながら。
巨人に変身したシングを仕留めにかかる。
「ふざ……けんな!!」
ポケットディメンションで拳銃を取り出し、鮫怪人を撃つ。
『なんだぁ……その豆鉄砲はぁ…』
盾鱗で容易く防いだ怪人は、歪んだ笑い声と共に右腕を振り回す。
それを大げさな回避行動で回避した竹村は、覚悟を決めた表情を月光に浮かび上がらせる。
「俺はな……ふざけんなって言ったぞ…」
拳銃を後方に放り捨て、異能で取り出した奇妙なベルトを腰に巻く。
自動的に装着されるそれは、体の一部のようにしっかりと竹村の体に固定された。
「変身!!」
ベルトから機械音声で《Joint on!》と流れる。
輝きが集束し、竹村の全身を緑の装甲が覆う。
赤いエネルギーがラインとして流れ始めると、全身に力が滾った。
「一切の矛盾なく理不尽を砕くッ!! それが俺の正義だ!!」
アーマードヒーローになった竹村による怪人への強烈な右拳殴打。
怪人が衝撃に上体を後方に弾かれた。
■シング・ダングルベール > 狂爪に抉られた肩を庇いながら、怪人は冗談のように宙を舞う。
長剣を杖にして、その光景をただ見つめていた。
「竹村さん……その姿は……。」
メタリックグリーンの外部装甲。棚引く深紅のマフラー。
その纏う気配は、普段からは想像もできないような、練達の戦士が生ずるそれだった。
■竹村浩二 >
「ま、いいだろ。変身する用務員がいたってな。今はあいつを仕留める! 協力してくれるな?」
胸の前で両拳を打ち据えると、全身を通うエネルギーラインが月下に赤い光を放つ。
『お前はなんだぁ。こ、こんなイタいものがぁ、俺に通用する痛みがぁ!』
鮫怪人は前方に跳躍、高速回転しながら突っ込んでくる。
盾鱗と鰭による斬撃と質量打撃。確かに強力な攻撃だ。
「……頼んだぜ、シング」
真正面から受け止めて、全身から火花を散らしながら強引に回転を止めようと。
■シング・ダングルベール > 竹村は身を挺して怪人の動きを止めている。
明確な機。されど自身の刃は通らず、魔術も効果は見られない。
できるのか、自分に。鳴動する心臓が答えを急かす。
「万敵滅ぼす天神の御心よ。」
普段使いの単言詠唱から、文節を伴った詠唱へと切り替える。
速攻性の投げ捨てて、得られる魔力はその比ではない。
無色の魔法陣が幾重にも連なり、シングの掲げた長剣へと収束していった。
ショートした回路のように膨大な魔力は赤火を散らし、赤熱化した刃は夜を、暗闇を白に塗り替える。
「我が請いに応え、刃に宿り敵を討て……ッ!」
駆ける。秒数にして一秒にも満たぬ瞬時の間、刃の一撃が両者に割り入った。
振るう刃は怪人の横腹だけを的確に捉え、天空目掛け降り抜かれる。
「その身で喰らえッ! 《神鳴》(ゴッドハンド)ッ!!!」
轟く雷音。瞬く閃光。
立ち昇った迅雷が、大空を穿ち闇夜を払拭す。
■竹村浩二 >
それは、必殺の攻撃。
それは、独走する一撃。
それは――――――神の雷。
『ああああ……俺は痛みを克服したのにぃ…こんな、こんなはずじゃ…』
「安心しろよ……もうお前は痛みなんか感じなくていい…」
アーマードヒーロー・イレイスは完全に動きを止めた相手の腹に足を突っかける。
「永遠にな」
そのまま軽く蹴り飛ばすと、鮫男は踏鞴を踏んで後退。
地面に背中から倒れると、火柱を上げて爆発した。
「やはりブラックデザイアの怪人か! 機密保持のために負けたら自爆する!」
炎を巻き上げ続ける怪人の亡骸を前に変身を解除。
ベルトを片手にシングを前に観念した表情を見せた。
「俺は……アーマードヒーロー・イレイスを名乗って異能犯罪者を裁いてきた」
「それは風紀に言えばお咎めなしとはならねぇ……」
目を瞑る。
「……どうする? 上に報告しても、風紀に通報しても…俺は何も言えねぇ」
■シング・ダングルベール > 爆風が吹き抜けた後にはシングも、本来の人としての姿を以て立っていた。
言えば竹村がやってきたことは私刑だ。それこそ、罪にならないと言えば嘘になる。
「俺には竹村さんがどんな気持ちでそれを行ってきたのか……そんなことはわからない。
どうしてほしいのか、どうしたいのかもだ。
でも、そんな顔をするのはナシでしょう! 今あなたの力で救われた命は必ずあった!
胸を張れよ、『ヒーロー』を名乗るならッ!
その力はそういう使い方をしてきたんだろう……ッ!?」
ベルトごと竹村の腕に掴み掛り、彼の胸へと押し付けた。
焦げ付いた感情の出処は何処からか。力を持ち合わせながら項垂れる竹村か。
それともそれに及ばぬ己の未熟か。
「……話、しましょう。部長とも、みんなとも。
俺たちは言葉を交わすことができるんだ。
俺はあなたのことを……もっと知りたい。」
ご案内:「路地裏」からシング・ダングルベールさんが去りました。
■竹村浩二 > シングが胸を張れと言ったこと。
そして、話をしようと言ったこと。
言葉を交わすことの意味を。
言葉を持つことの重みを。
竹村はその日、知ることになった。
ご案内:「路地裏」から竹村浩二さんが去りました。