2016/12/17 のログ
八百万 頼 >  
まぁまぁ兄さん、危ないもんしまいましょ。

(その爪のように伸びた指を横合いから摘まみあげる男。
 ニコニコと猫のような人懐こい笑顔で、飄々と男へと語りかける。
 いつの間にやってきたのか、そしていつからここにいたのか分からないのが不自然なほど、ごく自然に彼らのそばに立っている。)

あきまへんて兄さん、こんな危ないもん人に向けたら。
指差したらあかんなんてもんやあらしまへんよ。

(その指をそっと動かして彼女の喉元から先端をどかすように。)

リネンス > (・・・あれ、いつ間にいたんでしょう、この人)

爪を掴まれた男がぎょっとしている傍ら、リネンスもその存在に初めて気づいた。
そして、今しがた殺されそうだったとは思えないほど、呑気にそんなことを考える。

爪を掴まれた男はと言うと、なんだお前、とか言いながら、後ろに下がって間をあける。
残り2人と共に驚きながらも、邪魔するな、などと叫んで臨戦態勢ではあるが、現状的にはリネンスは面前の危機を脱した。


「ええと・・・ありがとうございます?」

リネンスのお礼が若干疑問符なのは、突然のことでちょっと思考が追い付いていないからである。

八百万 頼 >  
落第街イチの情報屋さんの八百万頼クンを知らんなんて、君らモグリやなぁ。

(驚いた男達に満足したように笑い、ポケットに手を突っ込む。
 にやにやと笑いながら、彼女を守るように男達との間に立ってみせる。)

なんの、このぐらいお安い御用です。
女の子守るためやったらたとえ火の中水の中、ですわ。

(首だけくるりと彼女の方へ振り返る。
 目の前の男達には一切の注意を払っておらず、完全に隙だらけである。)

リネンス > (情報屋の八百万頼・・・)

聞いた事はあった。
嘘つきだとか女好きだとか、評判の良くない噂も多くあったが。
それでも尚、情報屋としてここで名を馳せるぐらいには、腕利きであることには間違いないだろう。

・・・しかし

(あ、勘違いされてる)

流石に初対面では、“その情報”がないのは仕方のない事なのだろう。

リネンス自身、慣れてはいる。
歓楽街辺りでは、この奇抜な白衣の格好でも、ナンパとかその手の男性も少なくない。
華奢な体躯に童顔のこの容姿なので、仕方がないとは思う。
しかし、ちゃんと言っておかなければ、お互い不幸になる。

「あの、お助けいただいて恐縮ですが、私はおと・・・あっ」


そこまで口を開いたその瞬間、八百万の背後に爪の男が走り寄っているのが見え、声を上げる。
男は右手を突き出し、死ね、と短く叫んでその背中を串刺しにしようとした。

八百万 頼 >  
んー?
おと――

(首だけ向けてにっこりと笑っている。
 そのまま器用に首をかしげていたのだが、その背中から先ほど自身が摘まんでいた爪がぞぶりと突き出てきた。
 首を戻し視線を下げれば、自身の胸の中心に突き刺さっている男の爪。
 そのまま口から血を吐き出し、ずるりと路地裏の地面に倒れこみ、)

あかんなー兄さん。
人殺しはあかんで。

(がしりとその男の肩へ手を回す。
 いつの間にか倒れていた自身の身体は消えていて、男の爪にも血は残っていない。)

――なんや自分女の子やなかったんか。
でも安心してな。
女の子やないからって見捨てたりせーへんから。

(そのままもう片方の腕でひらひらと彼女――彼へ手を振ってみせる。)

リネンス > 刺して倒れたはずの男から肩に手を回され、混乱する男。
え、え、と短く声を漏らしながら自身の爪と、八百万を交互に見ている。


(今、間違いなく刺さったのに・・・異能、ですかね)

余裕そうな素振りからそのまま刺されたのには流石に面食らったが、
一瞬で血も倒れた姿も消え、大丈夫そうに立っている八百万にリネンスはそう納得する。

・・・彼にとって、原理の分からない未知の異能というものは、とても興味深い。
とはいえ、異能確認の為に“試しに再度刺してみる”と言うのは、ちょっと無粋だろう。
それは、リネンスが人を刺すことに抵抗があるということでは、決してなく。

(・・・まぁ、見捨てない、とおっしゃってくれてますしねぇ・・・)

一応、危機に駆けつけてくれた恩義を人並みに感じて、のことだった。


(柄ではないですが・・・ここは彼の顔を立て、穏便に済ませますか)

そして、爪の男の肩に手を回している八百万の、死角に立っているであろう残りの2人。
現状に戸惑い、戦うか引くか迷っているのは明らかだが・・・そのうち、小太り男の持っている鉄パイプが

「できれば・・・“こんな風”にならないうちに、退散して頂けませんかねぇ・・・?」

リネンスの声と共に、見えない何かに切られたように、中ほどからスパッと切れてカランと地面に転がった。


それから、男たちがその場から尻尾を巻いて逃げ出すのに、数十秒も掛からなかった。

八百万 頼 >  
もうこんなことしたらあかんよー。

(逃げていく男達を手を振って見送る。
 そうして彼らが居なくなれば、改めて彼と向き合って。)

おつかれさん。
なんや助けんでも大丈夫やったっぽいな。

(へらりと笑いながらそう声を掛けた。
 人懐こそうな猫を思わせる笑顔を向けながら彼の方へ。)

見たとこ生徒って感じやないな。
研究しとる人か、せんせかな。
あきまへんで、こんなとこフラフラ歩いとったら。

(ニコニコと。)

リネンス > 「いいえ、きっと私一人では大丈夫ではなかったですよ。ありがとうございます。」

同じくにこにこと笑顔を浮かべて、今度こそちゃんとお礼を告げる。
・・・一体何が『大丈夫ではなかった』かは、右ポケットの中で握り込んでいたメスを手放しながら、あえて言わなかった。


「一応、教師、になるんですかね。非常勤保険医のリネンス ネロファルです。
 まぁ本業は医師なもので、学園にもあまりいませんから、知らない生徒さんも多いのでしょうけど。」

仕方のない、と言った具合の身振りと苦笑を漏らすリネンス。
年に数えるほどの勤務形態では流石に生徒の印象にも残り辛い。

「どうしても近道なもので、通ってしまうんですよねぇ。
 あ、この先の大通りの方で診療所をしているんです。必要の際には、どうぞご贔屓に?」

言い訳ついでに本業の宣伝を・・・とそこまで考えて、
あれ、でもこの人のさっきの異能の感じだと、必要ないのだろうか・・・と思い返し、小さく首を傾げた。

八百万 頼 >  
いややわー、そのポケットの中のモンでどうとでも出来たやないですかー。

(くねくねと身体をくねらせながら。
 そのポケットに何が入っているかまでは知らない。
 だがそのポケットの中で何かを握っていた手の形が、それを離した形になった事は目ざとく見ていた。
 携帯電話の類ではあんな形にはならないし、そもそもあの状態で握るモノなどそう多くはない。
 白衣で保健医という言葉、パイプの切断面からメスか何かの類だろうという事まで推測して。)

大通り、診療所……ってーと、くろねこしんりょうじょかな?
ああ、兄さん代理で講義してドン引きさせた言うせんせですか。

(合点がいった、と言うように、右手で拳を作って左手をポンと打つ。
 自身はその講義は受けなかったが、割と有名な話だ。)

んで、そのせんせがわざわざ治安の悪い落第街のもっと治安の悪い裏路地でなにしてはったんですか?

リネンス > 目ざといな・・・と感心しつつ、ふふ、っと小さく笑っただけであえてポケットの中身については何も言及しなかった。
それよりも、僅かなキーワードで自身の情報を言い当てられたことに改めて感心する。

「流石情報屋さん、どちらもお察しの通りです。
 ・・・まぁ、講義の方は所謂黒歴史というやつですがねぇ」

くすくすと黒歴史とやらを恥じている風には見えない感じに、どこか楽し気に喉の奥で幽かな笑い声を上げる。

「いやぁ、“今日は”本当に近道のつもりだったんですよ。同居人が待っているもので・・・。
 ・・・そうでした、ここで油を売っている場合ではありませんでした。」

自分で話をしながら、はたと人を待たせていることに思いだす。
元々、お腹を空かせているであろう同居人の為に、早く帰って料理をするつもりだったのだ。
空腹で待たせるのは、流石に忍びない。

「碌にお礼もしていませんが、ちょっと急ぎなもので・・・失礼させて頂きますね。
 ・・・機会があれば、是非診療所に立ち寄ってください。おもてなしぐらいは、出来るでしょうから」

にっこりと微笑みながらそういうと、小さくお辞儀をして足早に裏路地の出口に向かう。
未知の異能に情報屋、か・・・と、彼はそんな事を考え、
今しがた微笑みとは打って変わり、くすくすと、喉奥で聞こえないほど幽かな笑い声を上げながら。

ご案内:「路地裏」からリネンスさんが去りました。
八百万 頼 >  
――今日は、な。
腹の探り合いするつもりあるんかないんか。

(彼を見送り、呟く。
 こちらを情報屋と知って敢えてそう口にしたのであれば、相当したたかであると言える。
 が、そうでないのなら。
 自身も良く使う、牽制の常套手段だ。)

医者言うとったな。
ほなら目当ては――

(今日は、と言ったことから、以前うろついていたのは最近の事だろう。
 噂が実体化する現象とか自警団染みた連中の事とか、最近裏で話題に上がることは沢山あるが、彼の気を引きそうな事件と言えば。)

進化の秘薬、あたりやろか。
ホンマに、副イインチョも面倒な土産置いてったもんやな。
――ああ、もう元やったか。

(楽しそうにくっくっと笑いながら、文字通り姿を消す。
 最後に見せた狐の笑みは誰に見られることも無く――)

ご案内:「路地裏」から八百万 頼さんが去りました。