2016/12/27 のログ
グリゴリー > どのような場所でも,どのような時代でも,時間は平等に経過していく。
そして時間の経過とともに,落第街の復興は徐々にだが進み始めていた。
ある者は友人のために,ある者は社会のために,ある者は金のために,ある者は正義のために。
様々な理由によって終結した力が,一つになろうとしている。

「…パンならまだ倉庫にあっただろう?今は出し惜しみをするべき時ではない。」

路地裏の一角では,ボランティアによる炊き出しも行われていた。
この街の住人であるかどうかを問わず,人々にスープとパンを配っている。
寒さの厳しいこの時期に,温かいスープは何より喜ばれ,炊き出しは賑わいを見せていた。

グリゴリー > その中心となって指示を出しているのは,スーツの上にダウンジャケットを羽織った男。
お世辞にも慈愛に満ち溢れたボランティアという風貌ではないが,常に状況をよく見て,的確に指示を出す。
貰い損ねる者が出ないよう,そして同時に,この場所が浮浪者の溜まり場とならないよう。

「食事の済んだ者には速やかに移動するか作業を手伝うかするように伝えろ。
 この場所は食料を行き渡らせるための場所であって,安息を提供する場所ではない。」

部下と犬がその命令を的確に実行し,座り込む輩は瞬時に一掃される。
そうして,彼らは最大の効率でこの不幸な街に生きる糧を提供していた。

グリゴリー > 事件後の混乱は沈静化したとはいえ,火種はいくらでも燻っている。
彼らがここで炊き出しを始めてからも,事件や事故は後を絶たなかった。
火事場泥棒,住人同士の喧嘩,作業中の事故,精神を病んだ住人の暴走。
落第街において珍しいことでもない。殆どは捜査もされず放置されただろう。

やがて人の波が途切れれば,男はすぐに炊き出しを終了し片づけるよう指示を出した。
スタッフたちはすぐにその指示に従って,近くに居る者にスープを配り,残りは廃棄する。
彼らの全員がこの場所に似合わぬほど衛生的な服装で,手袋とマスクを装着している。
彼らの行動は一つ一つが完璧だった。異様なほどに。

「……衣服と器具の消毒を怠るな。」

やがてスタッフたちは全てを片づけて車に乗せ,何処かへと去っていった。
残されたのは指示を出していた男性と,寄り添うように座る大型犬。

グリゴリー > 今日もまた,事故が起きた。作業中に発作を起こした作業員が暴れたのだという。
彼は異能も持たず,魔術にも長けていなかったために即座に取り押さえられ,病院へ運ばれた。
話によると,搬送中に心停止を起こし,死亡したらしい。

不憫だ。
まったく惨たらしい。

「不幸なことだ,発症の第一号が純血の人間とはな。」

男がわずかに笑みを零せば,傍らの犬が頬を摺り寄せた。

「……撒いた種は芽を出した。事故は増加するだろう。
 やがて,異能者や魔術師,異邦人共が同様の事故を引き起こす。
 そうなれば,被害は何倍にも膨れ上がる。」

グリゴリー > 検死が行なわれれば,作業員の血液や尿からは高濃度の化学物質が検出されるだろう。
覚醒剤と良く似た構造をもつその化学物質を見れば,誰もがその作業員をドラッグの常習者だと思うだろう。
だが,事実はそうではない。

「彼らは世界をあるべき姿に戻すための,尊い犠牲だ。」

事故・事件を起こす薬物中毒者に共通することは,ただ一つ。
彼らが落第街で生活し,または作業し,炊き出しのスープを飲んでいたという事実。
そしてそれを裏付けるのは,
炊き出しのスタッフが,誰一人としてそのスープに手を付けないという事実。

だがそれを知り,声高に語る者がどこにいるだろうか。

グリゴリー > 男は静かに路地裏を歩く。
冷徹な視線を周囲に向け,忠実な犬を伴って。

「…ソーン,もう帰ろう。ここは空気が悪い。溝川のようだ。」

世界を奪い返すための【レコンキスタ】が始まる。
落第街の闇に紛れ,全てを焼き尽くした炎を隠れ蓑にして。

ご案内:「路地裏」からグリゴリーさんが去りました。