2017/09/29 のログ
鈴ヶ森 綾 > (あぁ、確か…)

姿を現した鉄塊にはどこか見覚えがある
以前、時計塔で遭遇した記憶があった
軍事用のロボットという話だったが、なるほど確かに、物騒な装備を有しているらしい
こちらに向けられた回転する銃身をうんざりしたように見つめる

「…まったく、煩わしい事」

掴んでいた男の首から手を放し、ゆっくりと立ち上がる
動きはあくまで緩慢、手もぶらりと下げられたままだ

「この男が急に倒れたから、どうしたものかと思っていたところよ。今触ってみたけど、脈はあるみたいよ?」

肝心の男は、どうやら気を失ったらしい。
勿論、それも女の仕業である。首に触れていたところから精気を吸われたためだ

「貴方、救命の心得があるなら助けてあげたら?私はもう支払いは済んでるし、用はないから行きたいのだけど」

売春を思わせるような口ぶりで女は嘯き、立ちはだかる鉄塊に横にどいてくれるように身振りをして

HMT-15 > ふとロボットは倒れている男を見る。
気は失っているものの生命反応は確認できる、
それに女の言葉からも生きているという事だけは間違いはない。
しかし死の危険に瀕しているのも事実である。

「警告、オマエは深刻な違反行為を行っている。
直ちに風紀本部へと同行せよ。
逃走を図る場合は即座に攻撃する。」

男の弱り具合と状況の不自然さから売春とは判定しなかったようだ。
まるで緊急時のスピーカーから発せられるような
無個性なセリフを淡々と告げる。
無論、女のどいてくれという仕草を完全無視するかの如く立ち塞がる。

鈴ヶ森 綾 > 「逃走を図る場合、ね…それなら、こういうのはどうかしらね」

まぁ、それで安々と誤魔化されるようなら世話はない
剣呑な空気を漂わせるロボットに対しふぅ、と小さく嘆息した

そうして、女が腕を振り上げた瞬間、突如倒れていた男の顔が持ち上がったかと思えば
それがロボットの方へと勢い良く飛んでゆく
首に触れた時、既にそこには糸が貼り付けられていた
その糸を使って男の身体を投げつけ、ガトリングの射線を遮ろうというのだ

「罪のない一般人ごと撃ち抜いてみなさいな」

一般人とは言ったが、実際は男の素性など何も知りはしないのだが
落第街で捕まえた男なので一般人だとして碌でもない類のものなのは確実だろう

とはいえ、それで相手の攻撃が鈍るのであれば良し
今度は首を繋いだ手とは逆の手から糸の奔流を走らせる
狙いはガトリングの銃口と足回り
投げつけた男の身体ごと壁や地面に縫い付けてしまうつもりで

HMT-15 > 「臨時任務、制圧モードへ移行。」

まず女が飛ばしてきたのは何と先程地面に転がっていた男、
それは丁度射線上に重なる。
いくら戦車といえど一般人ごと撃ちぬくわけにはいかない、
射線を確保するために飛んできた男をサイドステップで回避するが
それが後手に回る原因となってしまった。

「未知の繊維が付着。」

気づけば足や砲身にあの女が出現させた糸が絡まっていた。
ただの糸ならば困ることはなく無理矢理引きちぎれるが

「・・・!?」

機械音を響かせながら油圧機構からパワーを抽出するも
なかなか糸が千切れない、
必死にシャーシを揺すりながら抵抗する。

「少なくともオマエは人間ではないと判断した。
何者だ?」

糸に絡まりながら女の目ををまっすぐ見上げ
捉えながら質問する。
このロボットの記録上ではこの女は
かつて時計台で出会った少女と同一人物。
ここでやっと化け物だと気づく。

鈴ヶ森 綾 > 「…ふぅ、貴方が良心的なロボットで良かったわ」

ロボットに良心も何も無いだろうが、それは重々承知でこの発言
つまるところ、他者に決められたようにしか行動できぬ機械への皮肉だ

「何者かと言われても、私は私としか答えようがないわね。…うーん、少し不思議な力に目覚めた人間、という事でどうかしらね」

茶化すように笑い、女が手を一振りすると両手に繋がった糸がプツリと切れて地面に落ちる

雁字搦めに陥らせて動きは封じた、飛び道具も封じた。となれば後は…
相手が人間ならいざ知らず、ロボットを甚振って遊ぶ趣味はない
今度は左手を天に向けたかと思えば、そこから細い一筋の糸が伸びてビルの壁面に付着する

「ご機嫌よう、ロボットさん。あぁ、その男の後始末はお任せします」

言い終えると同時に、その体が細い糸によって空へ巻き上げられる
宙に舞った女は空中でくるりと回転してビルの屋上の縁に着地すると
最後に眼下の光景を一瞥してからその場を後にした

イチゴウに絡みついた糸については
本体から切り離されたため小一時間もすれば霧散し、彼は自由を取り戻す事だろう

HMT-15 > 「ありがとう。」

相手の良心的という皮肉めいた言葉に対して
この返し。ロボット自身も命令に逆らえない事には
気づいている。ただ気付いているからといってどうという事はない。

そして次にロボットが取った行動は
ガトリング砲の作動。勿論糸によって砲身はほとんど回らず
動かしたのは給弾機構の方。本来発射される予定だった弾頭付き薬莢が
溢れ出るようにして外部に出てロボットの周りへ。

「着火。」

そう言えば足元に貯まる弾薬が炸裂し
辺りに高温のテルミットをばら撒く。
それらはロボットにも付着し燃え上がるが
張り付いた糸はほぼ完璧に取り去ることが出来た。

「対象との距離を測定。」

ロボットが動きを取り戻せば女は既に
糸によって空高く巻き上げられていた。
すぐに追いかけるようにテルミットの海の中から
ガトリング砲による切り裂くような
強烈な対空砲火を行うが既に女は視界から消えていた。

女を倒すどころが捕らえることさえ出来ず
残した結果は夜空に描いた焼夷榴弾の明るい線だった。

ご案内:「路地裏」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。
HMT-15 > 「任務終了、通常モードへシフト。」

空を見上げつつ敵性物体がいなくなったのを確認すると
背部に背負う大きなガトリング砲を
発光させると共に消滅させる。

「被害者を救護しなければ。」

思い出したかのようにクルッと振り返り
少々手荒ながらも男を背中へと乗せれば
そのまま汚い路地を去っていくだろう。

こうしてこのロボットの任務という日常がまた終わりを告げた。

ご案内:「路地裏」からHMT-15さんが去りました。