2018/03/30 のログ
神代理央 > 「役所仕事というものは時間がかかるものだ。例え学園都市であろうとも、その本質は変わらんだろう。まあ、気長に待つことだな」

申請が通れば、と言う彼女に愉快そうに言葉を返す。
しかし、次いで彼女が投げかけた言葉には意外そうな、それでいて興味深いといった面持ちを浮かべた後―

「…流石は軍人と言ったところか。良い着眼点を持っている。確かに、私は風紀委員会の中で最大の火力を持っている訳ではない。かといって、暴徒や小規模な違反部活に起用するには火力が過剰過ぎる。貴様の言うように、余程の暴動でも起こらない限りは私の異能は帯に短し襷に長しと言ったところだろう。
…だからこそ、私が重用されているのだがな。半端な戦力では殲滅されるが、ある程度の戦力か強大な個人をぶつければ勝ちうる相手。そうしたターゲットとして、私は非常に有用だろう?」

要するに、憎まれ役なのだ。砲弾の雨霰を戦場に撒き散らし、砲兵隊さながらの火力を持って敵を殲滅する己の異能。
さりとて、接近戦は全くの不得手であり、魔術についても未だ勉強中。
纏まった数か実力ある個人を差し向ければ勝てるかもしれない風紀委員。落第街の住民や違反部活からの耳目を集めやすい存在となる様に行動していた。
それが実を結んだかどうかはさておき、そうした自分の立ち位置を小さく肩を竦めて彼女に告げるだろう。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「役所というのは柔軟さより規則、規則よりも手続き、手続きよりも形式ですからね。

 私は確かに軍人ですが、戦って勝利する為に行動は起こさない。
 本当に強い組織は戦わずして勝つものです。
 管理する立場に必要なのは戦うという選択すらさせない絶対的な力です。
 起きた問題に一つ一つ対処するやり方は管理とは言わない。
 臨機応変な対応は非常時の選択であり、通常は管理できている状態であるべきです」

貴方の能力が有用なのはむしろ非常の時です。
そうそういう運用ができていない時点で管理者として風紀委員は敗北している。

戦いを望まないという主張を持つにしては、かなり原理的で過激な思想を持つ。
それはきっと己が獣人という、より野性的な面を持ち合わせる種族だからなのだろう。
もし風紀委員が絶対的な力を持って犯罪を屈服させていれば、
彼はこんな場所で異能を遣わずに済んだのだ。
そう言う意味で、彼は国の命で戦わせられる兵士と同じ。
ある意味では、ある状況では彼もまた被害者になりえるだろうと>

神代理央 > 「随分と過激な意見だな。絶対的な力で、反抗という選択肢すら与えないとはね。とはいえ、それが間違っているとは言わん。過激ではあるが、それも一つの統治の手段だろう。
だが、その管理によって生み出される社会は健全では無い。どんな強大な力も、所詮は管理する者によってその立ち位置は大きく変わる。
極論から言えば、強力なハードウェアに頼る支配等有り得ぬのだ。その力を振るう者が気に食わないと思う者がいれば、例え素手であろうとそのものは反抗するのだからな。
…貴様とて、絶対的な力を持った者に今日から犬として生きろ、と言われれば、死が免れないとしても刃向かうだろう?」

どんな強大な力でも、確固たる自我と意識を持つ者達が組織を構成する限り争いは無くならない。
全ての生命体が機械化しAIの指示通りに動いている、ともなれば話は別だが。
中世の様な、神が絶対の存在としてその存在が信じられていた時代でさえ、神に刃向かう者達は存在したのだから。

「つまるところ、絶対的な力では無く闘争心の削除こそが統治に必要だと思うがね。貴様の能力は、正しくそういった類のものであろう。尤も、闘争や競争の無い世界など俺は御免こうむるがね」

そんな言葉で締めくくりつつ、以前体験した彼女の能力の感覚を思い出して僅かに顔をしかめる。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「別に絶対的な支配者が一人とは言ってませんよ。
 不健全な存在に力を使うすきを生む社会がいけないといっているんです。
 社会という組織が、犯罪という悪に対して絶対的であるべきだといっているんです。
 悪に対して真っ先に向き合う風紀委員が
 『社会が運営する風紀委員はこんなに絶対的なんだ』
 って見せしめをしないといけないんです。

 犯罪者が真っ先に見るのはあなたたち、風紀委員なんですから。
 貴方たちを見た悪が、行動しようと思い立った段階で風紀委員が、
 そして社会が敗北しているんです。

 そして健全な人間が悪に転じた段階で教育が、そして社会が敗北しているんです」

別に絶対的な力に皆が服従することを望んでいるわけではないと、
そんな注釈を入れる。
あくまで風紀委員は社会を体現する代表であると、そう言う意味で。
だから目の前にいる彼には中途半端な力の行使をしてほしくないのだ。
彼は人間、我々のように力の"行使"で物事が運ぶ種族ではないのだから>

神代理央 > 「…つまり、妥協せず躊躇せず、悪に対して最大の力をぶつけろという事か。言わんとする事は理解出来るし共感も出来るが…」

そうなっては困る者もいる。社会から悪が無くなる事を望まぬ者もいる。
そもそも、力を振るうべき《悪》を決めるのは統治機構であり、彼等のさじ加減一つで悪の定義も変わる。昨日まで市民を守る存在であった軍が、突然その銃口を市民に向けた事など、教科書を開かずとも現在進行系で起こっている。

だが、そんな薄汚い論理は彼女の主張を汚すだけなのだろう。
彼女の意見は過激ではあるが純粋でもある。彼女の過去や内面を窺い知る訳では無いのだが、少なくとも平和を望む心に偽りは無いのだろうと、内心評価を改めた。

「……とはいえ、私自身は貴様のいう様な存在には成り得ぬよ。風紀委員会は貴様の言うような組織に成り得るかもしれない。だが、私は闘争と、それに勝利して相手を屈服させる事に喜びを感じる残念な人間でね。歯向かって来る連中がいなくなってはつまらぬからな」

少し穏やかな表情で、些か自虐じみた笑みと共に再度肩を竦める。
彼女の理念に共感する者はいるだろうし、そういった方向に組織が進む可能性も十二分に有り得る。
だが、自分はそうならないだろうと、小さく首を振ってみせた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「もし統治組織が健全な人間を悪とするならば、本当の悪は統治組織でしょう。
 大事なのは何を以て悪とするかではなく、何を以て善とするかです。
 悪を排するのではなくて、善をを守るためにあなた達がいるんです。
 そして善を守るためにあなたが異能を使えば、あなたが誰かの悪になりえる。
 だから、戦いを起こすという選択肢を与えてはいけないと、私は思うんです」

善の定義も、悪の定義も変わりゆくものだ。
だからこそ社会全体が強くなければならないと思う。
悪に対しても、自己に対しても。

「あなたがそれで快感を得るとしても、私はあなたが悪に転じてほしくはない」

貴方は綺麗なままでいて欲しい。
屈服させるのであれば、もっと強く、
あの異形を動かすのもあほらしくなる程に強くなってほしい。

そんな風に請う様子は、以前のように獣じみたものではなく、どこか寂しげである。
貴方は人間なのだから。と>

神代理央 > 「何を以て善とするか。貴様の言うように、善の定義すら人によって多種多様だ。結局の所、絶対的な力では無く人々の精神構造を安定させるものが必要なのだろう。其処に至るまで、何百年かかるかは知らんがね」

嘗ての世界では、宗教がその役割を果たしていたのだろうか。尤も、古来より宗教が原因の戦争等数えるのもバカバカしい程発生しているのだが。

「……人間に幻想を抱きすぎだ。私から見れば、寧ろ純粋な貴様たちの方が我々人間よりも遥かに綺麗なものだと思うがな。私など、とっくの昔に薄汚れてしまって、今更戻れはせぬよ」

彼女の言葉に少し驚いた様な表情を浮かべた後、緩い笑みを浮かべながら再度首を振る。
自分より一回り小さな体躯の彼女に視線を向ければ、穏やかな口調で、否定の言葉を告げた。

ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「あら、てっきり人間は善を定義するために、
 何千年と時間をかけてきたものだと思っていますけど。
 私はその姿勢そのものが善であると思いますけどね。
 常に何が良くて、何が悪いのか。
 その思考を続け、守ることが普遍的な善だと思いますよ」

善の定義が時代と共に変わり、人によって異なることなど当たり前だ。
しかしそれを追い求めることをやめた時、
果たして人間は人間として成り立つだろうか。きっと獣以下に成り下がるだろう。

「善の定義が変わるなら、悪の定義だってまた同じです。
 時々によって定義が変わるから仕方ないというなら、
 あなたがここでその不格好な下僕を動かす理由が根本からなくなりますよ。
 それこそ、獣のように欲求に従っていればいい」

そうもいかないのが人間でしょう?

人間と獣は間違いなく違う存在だ。
彼もまた人間、悪を悪で制すなど、それこそコストのかかる無駄な作業だ。
純粋な獣など、目も当てられないほどに醜い。
純粋な不純物は、所詮不純物なのだ。
人間に飼われていた身として、せめて自分の飼い主だけでも高貴でいて欲しいと>

神代理央 > 「善を追い求める姿勢そのものが善である、か。成る程、中々面白い事を言うじゃないか。世の政治家達は、貴様の爪の垢でも煎じて飲むべきだろうな」

ほう、と感心した様に瞳を瞬かせた後、愉快そうに笑みを零す。
無論、互いが信じる善―俗っぽい言い方をすれば正義とでも言い換えられるのだろうか―がぶつかり合う事もあるだろう。
しかし、それでも人間は善くあるべきと説く彼女の姿は、自分よりも遥かに高潔に見えた。

「獣にも成り得るのが人間ということだ。ヒトの欲望には果がない。それが善を追い求める事に使われる事もあれば、己の欲求を満たす為に使われる事もある。私は貴様の考えを良いものだと思うし、寧ろ尊敬の念すら浮かぶが……貴様の言うような高潔な存在にはなれないよ」

彼女の理想は、志を同じくする人間によって叶えられるかも知れない。また、彼女の考えを否定しようとも思わない。
それでも、きっと自分は彼女の求める様な高潔な人間にはなれないのだろう。地位と権力を追い求め、覇道を目指す己では。

「…その理想、その考えを何時迄も大事に持っていて欲しいものだ。そうすれば、世に溢れる私のような捻くれ者でもきっと理解してくれる時が来る。少なくとも、私は好きだよ。貴様……いや、ラウラの考え方」

彼女の方は、自分の様な欲深い人間に肯定されても嬉しくはないかも知れないが。
そんな事を思いながら、小さく笑みを浮かべて言葉を返した後、ゆっくりと背を向ける。

「今夜はもう遅い。貴様ならば心配することも無いだろうが、スラムからの帰り道には十分注意する事だ」

そろそろ、討伐した魔物の事後処理の部隊が訪れる頃。彼女を面倒に巻き込まない為にも、部隊の連中とは引き合わせない方が良いだろう。
別に彼女に其処まで気を遣う事も無いかも知れないが、偶にはそんな気まぐれがあっても良いだろう。
そうして少年は、言いたいことだけ彼女に告げた後、振り向きもせずに元の場所へと戻っていく。
また再会する事があれば、喧嘩腰で話しかけるのは止めてやるか、等と他愛のない事を考えながら―

ご案内:「路地裏」から神代理央さんが去りました。
ラウラ・ニューリッキ・ユーティライネン > 「自分の飼い主が不甲斐ないようでは自身の尊厳にかかわりますから。
 ただでさえ醜い獣が、飼い主まで一緒に醜くなるようでは救いようがないです」

悪は際限なくわいてくる。
せめて悪が表に出ないようにらみを利かせるくらいの力は必要だ。
それに、その時々の最善を探すことなく、いつまでも滞っていたのでは、
きっと相手を受け入れることもできなくなるのだろう。
受け入れることが出来ないままだったら、
分かり合えないままの存在が今以上にいたはずだ。

「中途半端な仕事をするくせに、そう言う気遣いはきめが細かいんですね。
 そういう気遣いを私じゃなくて仕事に割いてくださいよ。
 私は心配されてもされなくてもちゃんと家に帰ります。
 同じ結果なら、心配はするだけ無駄ですよ?」

まぁ、心配されて悪い気分にはならないですけど。

先ほどの彼の発言をおちょくる様に言えば、いたずらな笑みを浮かべる。
『必要ないけどあった方が良いものって、結構あるとおもうんです』
仕事に戻る彼に向かってそんなふうに言えば、こちらも家路につく>

ご案内:「路地裏」からラウラ・ニューリッキ・ユーティライネンさんが去りました。