2015/06/28 のログ
ご案内:「スラム」に九耀茉莉さんが現れました。
■九耀茉莉 > 落第街のスラムを、かつり、かつりとブーツの音を立て、一人の少女…といってもいい顔立ちの娘が歩く。
何人かの、組になったゴロツキ達が、怪訝なモノを見る目で少女を見る。
その目つきが、少しづつ下卑たものへと変わっていく。
すると、娘もその視線に気が付いたのか、微笑みながら会釈をする。
■九耀茉莉 > 『へっへっへ…お嬢ちゃん、此処は初めてかい?』
『良くねぇな、良くねぇぜぇ? 此処には悪い大人たちがいっぱいだ。』
にやにやと笑いながら、男達は娘を取り囲みだす。
それに対して、娘は微笑みながら返答する。
「――それは、ご丁寧にありがとうございます。
ですが、私には探さなくてはいけない人がいますので…。」
そっと目を伏せ、娘は黒いジャケットの裏ポケットから、少し古びた写真を取り出し、男達に見せる。
「…この写真の方に、見覚えはありませんか? 行方不明になった、私の兄なのですが。」
■九耀茉莉 > 男達は、まるで自分の状況を把握していない娘に呆気に取られ、直後に大笑いを始める。
その反応に、娘は小首をかしげた。
「私…なにかおかしな真似をしましたでしょうか?」
『あーいやいや、偶然ってのはおっかねぇもんなんだってな。なあお前ら!』
リーダー格と思しい男の言葉に、男たちは示し合せたように頷く。
『その兄さんなら、確かに見たぜ。間違いない。』
「――本当ですか!?」
娘の顔が明るくなるのを見て、男は下卑た笑みを浮かべた。
『ま、話すと長くなる。向こうに行こうぜ?』
嬉し気な表情の娘の手を取り、男達は廃墟の中へと消えて行った。
■九耀茉莉 > ―――
―――
―――
廃墟の中から悲鳴が響く。男の声だ。
恐慌をきたしたような声がいくつも上がり、不協和音を奏でる。
そして、何かが潰れるような鈍い音と共に、悲鳴が一つずつ消えていく。
ぐしゃり。一つ消える。
ぐしゃり。また一つ消える。
ぐしゃり、ぐしゃり、ぐしゃり。消える、消える、消える。
全ての叫びが消えた後、娘は悠然と廃墟から現れた。
着衣には、一切の乱れが無い。
「嘘をつくなんて、いけないヒト達。折角の時間が、無駄になってしまったわ…。」
呟きながら、写真を取り出し、胸に抱く。
「あぁ…お兄様、お兄様。この世界には、いるのかしら。一体何処で、何をしているの? お兄様、お兄様…。」
恍惚の表情で、何事かを呟きながら、黒い服の少女はスラムを去っていく。
その瞳を、輝かせながら。
■九耀茉莉 > 後日、この廃墟を捜索した風紀委員は多数の死体と一人の男を確保する。
死体の全ては、まるでプレス機か何かで挟みつぶされたような、無惨なモノだった。
たった一人、生き残っていた男も、まるで生気を貫かれたような有様であった。
後日、生き残った男への検査によって、男は何らかの能力で「人格を根本から破壊されていた」事が明らかとなった。
この出来事とほぼ同時に、学園都市にて一つの噂が立つ事となる。
「兄を探す黒ずくめの女の子に会ったら、「知らない」と答えないと大変な事になる。
「知ってる」と答えて嘘だとばれると、精神を破壊されてしまう。
「自分が兄だ」と出鱈目を言ったら、言うのもおぞましい死に方をする。」
誰が呼んだか、《兄を探す妹》と名付けられた都市伝説の、誕生の瞬間であった。
ご案内:「スラム」から九耀茉莉さんが去りました。