2015/09/01 のログ
ご案内:「スラム」にナナミさんが現れました。
ナナミ > ──黄昏時の落第街のスラム。

ゆっくりと沈む陽に呼応するかのように人の気配が増え始める集合住宅の屋上に、ナナミは居た。
“居候先”にある程度の荷物を運び終え、家主が帰ってくるまで軽い散歩と思ってやって来たのだが。

「──ここは相変わらず、かな。」

恐喝恫喝当たり前、暴力沙汰や刃傷沙汰がBGMのこの街の様子も、大分見慣れてきた。
ふぅ、と溜息を一つ零し、錆びた鉄格子の上に腰を下ろして足をぶらつかせる。

ナナミ > 学校内でも、学園周辺でも、異邦人街でも。
人が居れば雑談のの一つや二つはあるもので、
この街もその例に漏れず大っぴらではないものの噂話が聞こえてきた。

曰く、数日前にこの近くで女子生徒同士の戦闘があったとか、無かったとか。

──フードの奥で僅かに顔を顰め、ナナミは今聞いた話を耳から追い出した。
本当に、何も変わらない。

小さく溜息を溢して、投げ出していた足を畳むと、腰掛けていた鉄格子を強く蹴りつけた。
その反動を利用して大きく跳躍、隣の建物の屋根に飛び移る。

ナナミ > コンクリートの感触を靴底越しに確かめながら、一歩、二歩。

三歩目で大きく跳躍し、さらに隣の建物へ。
まるで川の中で岩から岩へと飛び移る様に、ナナミは人の頭上を軽々跨いでいく。
暴力が幅を利かせるこの街も、ナナミにとっては“ちょっと危ないアスレチック”以上足り得なかった。
一見して不気味な、今にも崩れ落ちそうなコンクリビルも、でかい跳び箱程度である。

「っとと……。」

何軒か渡り歩いた先、トタン屋根の上でナナミは足を止めた。
──行き止まりだ。

「なるほどねえ、このルートはここまで、と。」

頭の中に広げたスラム街の地図に、赤い線を引いて、現在地でバツ印を付ける

ご案内:「スラム」に昼奈さんが現れました。
昼奈 > 暴力が支配をするこの街を気に入る特異な人間もまた存在する。
通常とは異なる手法で生み出された、人非ざる存在の彼女もまたその特異の一つ。

学校帰りにこの街にふらりとやってきては、己の凶暴な野生を慰める、そんな日々。


今日は以前争った一団に追い立てられて、屋上に身を潜めてのんびりと夕暮れを眺め………。

「誰さ。」

とん、っというトタンによく響く足音に、びくりと身体が震えて、物陰から声をかける。
まだ姿は見せない。声そのものは少女らしい声だけれども、殺気こそ無いが、声には僅かに緊張が見える。

ナナミ > 「ぉ?」

新たな“ルート”の突き当りが分かった事で、そろそろ居候先にでも帰ろうか、と思った矢先。
短い誰何の声に気付いて軽く首を傾げる。極力着地の物音は抑えたつもりでいたのだが、
トタン屋根というのはどうしても音がしてしまう。

──また迂闊ったか。

心中で小さく舌を出しながら、
声のする方へと顔を向ける。その視線は深く被ったフード越しにでも“見得る”

「あー、別に?散歩、みてェな?
 別に誰かに危害を加えようってェ肚じゃねェよ。」

“この街用”の声音と口調にも、やや慣れてきた。

昼奈 > 「………ふぅん。じゃ、いーけど。 散歩するにゃ、ちょいと妙だけどさ。」

割とあっさり警戒が解ける気配。くぁ、っと欠伸交じりに伸びをしながら、室外機の影からひょこりと顔を覗かせる赤毛の少女。
相手は………パーカーを来た男。確かに、敵意バリバリでないことを改めて自分の目で確認をしつつ。……相手からは見えてるんだな、と確認。
ちっちゃいツインテールをひょこひょこさせながら周囲を見回して。


「ま、いいや。 そんな妙なとこで寝てるあたしが、人のこと言えたギリじゃねーしな。
……ところで、下でなんか喚いて探してる奴らってまだいたかわかったりする?」

ひらり、と手を揺らしながらにしし、と唇の端を持ち上げながら笑って。
その上で、ちょいといいかな、と質問。 べ、別にあたしは何にも関係ないけど? みたいな態度。

ナナミ > 「喚いて探してる?」

少女の言葉を復唱し、視線を近くの通りへと向け、耳も澄ます。
にわかに聞こえ始める、お世辞にも教養ある人間のものとは思えない雑音。
それらの中から目当てのものを探そうとして、

すぐに諦めた。
如何せん、喚き声も誰かを探す声も“多過ぎる”

「そンなの、この街じゃァ日常茶飯事みたいなモンじゃねェの。
 あり過ぎて分かンねェよ。ケヒヒッ」

顔の大半を覆い隠したフードから、唯一覗く口元が弧を描く。
先日、自分も追われる身になったので判る。この少女は、何かしたのだ、と。

昼奈 > 「だーよねぇ。あーもう、畜生。暗くなる前に帰りたいんだけどなー。」

ぼりぼりと頭をかいて、うえぇ、と舌を出し。
屋上から階下をひょい、と覗きこむ。ぴょろん、とちっちゃなツインテールが垂れて。

……しばらくして、わかんねぇ、と一言つぶやいた。わかるはずがない。例え誰かを探していたとしても、確かにそれが「多過ぎる」。自分を探しているかどうかの判断がつかない。

「ったく、この街危なすぎじゃない?
美少女が一人歩くにゃあ、どうにも向いてないさね。
尻触ってくるんだから、多少の反撃しゃーないと思うけどなぁ。」

相手の笑いに対して、こっちも、ケッケッケ、とゲスい笑顔を向ける。
全く触られたことを気にする様子は無い。むしろ、愉しんでいる様子すら。

「……んで、にーさん何してんの。 散歩じゃねーっしょ?」

改めて。首をちょこん、と傾げての純粋な好奇心か。とことこと素直に屋根の上を近づいてくる少女。

ナナミ > 「ご愁傷様ァ。」

何をしたのか知らないが、どんなことであっても誰かの気に障ればここじゃあ簡単に追われる身だ。
それが分かっているから、少女の零す不平は全て聞き流す。
そもそも危ないと思うなら来るなよ、と当然の感想すら口にしない。

「あァ?散歩だって言ってンだろ?
 ちょっと歩くとこが違うってだけでェ、俺にゃ散歩と変わらねェの。」

フードの下で眉間に皺が寄る。

昼奈 > 言われても、ククッ、と肩を揺らして聞いておく。
彼女もまた、危ないと思っているから来ているクチ。
ぺらぺらと喋りながらも、その言葉は当然薄っぺらくて、テキトーな響きが交じる。


「ふぅん。 まー、他の場所に比べりゃ、面白いもんが多いのは多いとは思うけどさぁ。 何か面白いもんでもあった?」

両腕を頭の後ろで組んで、スラム街の屋根の上で世間話。
ケッケ、と笑いながら。声で何となく眉間の皺を理解しつつも、それを気にした素振りもなくあっけらかん、と会話を続ける少女。
懐こいというか、アホっぽいというか。表情も悪辣な笑顔を向けたかと思えば、ぽけっとした子供の顔に戻ったり。


「暗くなっちまうと、腹減るんだよねぇ……」

頬をぽり、と書いて呟いて。

ナナミ > ハン、と鼻を鳴らして少女を見下ろす。
よく喋る奴だなあ、と内心で感心しつつもその薄さには勘付いていて。
話半分で聞くのが良いな、と早々に決めて大半を聞き流した。

「面白ェもんねえ……何やらかしたか知らねェが、追われる身になってる阿呆とかなら。」

今まさに。
軽く視線を周囲に向けて人の目が無いかを確認だけすると、おもむろにその場に腰を下ろした。
建物を飛び移って来た所為もあってか、立ち話をするには少しばかり気怠過ぎて。

「腹ァ減ってんならその辺で何か買ってくりゃ良いんじゃないか。」

非合法が横行するからと言って合法が罷り通らないわけでも無い。
出すもの出しさえすれば、食料を得ることも容易いだろうに。
呆れ半分で呟く声にはそんな主張が混じっている。

昼奈 > 「うっせえやぃ。」

阿呆呼ばわりされて、ぷぅ、と頬を膨れさせて不満気にする。
不満気にするけど反論しないのは、まあ、自覚はあるのだろう。
阿呆ではあるが、無知では無い。己の悪を知った上で、舌を出して冗談交じりに言葉を零す。
その場に座る相手の少し側にぺったん、と腰を下ろして。

「そりゃそうなんだけど。
……あー、いや、何。 あたし、阿呆の子だから追われてるしさぁ。」

ぷー、っと膨れたまんまに、ちょっとだけ拗ねた声を漏らして足をぱたぱたとぱたつかせ。
そーですよあたしが悪かったですよぅ、と、肩を落とす。

まあ、その実「人を」食いたいなんてことは口に出せない。
ふくれっ面の少女のままで、相手から目線を逸らす。

ナナミ > 「ケヒヒッ。」

いじけた様子を見て愉快そうに笑みを浮かべる。
普段ならこうして年少者を、それも異性をからかって遊ぶような趣味は無いのだが。
しかしまあ、それほど堪えてない所を見るに、深く気にしなくてもいいのかもしれないと。

「なるほどねェ……
 しゃァねェな。だったら俺が気を利かせて何か買ってきてやろうか。」

阿呆呼ばわりした詫びも兼ねてな。
そんな事を言ってはみるが、正直下ろしたばかりの腰を上げる気にもなれず。

そして少女の内心など知る由も無い。

昼奈 > 「ちーくしょー。いじめらーれたー。」

ぷぅ。 まあ、全く堪えていなさそうだった。 不満気ではあるけど。
んぅぅ、と唸りながら頬をぽりぽりとかいて………いたところで、相手の申し出にぱっと目を見開く。

「マジ? そったらありがたいなぁー、なーんて思っちゃうんだけどさ。」

目をキラキラさせて相手を見て。 あ、これは期待してしまったらしい。
身体をゆらゆらと揺らしながら見上げる姿は犬のよう。 尻尾ぱたぱた。 無いけど。

……見上げて喉がこくりと鳴ったのは、ちょっと二重の意味で。

ナナミ > 「ったく、その代り金はお前が出すンだぜ。
 それに……ちったァ割り増しで頂くからな。」

手間賃上乗せで、先払い。
そう告げながら立ち上がると、尻の埃を叩き落とす。
そしてそのまま手を少女へと突き出した。

「まあサービスで何が食いたいかの希望くらいは?
 聞いてやっても良いぜェ。」

昼奈 > 立ち上がったその姿を見て、へへへ、っと素直に笑った。
子供らしい笑顔で、ツインテールがひょこひょこ。
でも、手を差し出されたところで目線と、身体の動きがぴたりと止まる。

「………肉食べたいなぁ。 ………」

視線が、じ、っとその手を見つめている。
こひゅう、ひゅう、と僅かに吐息が漏れて。………その手をじ、っと見た上で、喉が鳴る。
全身の動きが止まっての、注視。
その少女の手が僅かに、ぷつりと泡立ちかけて………


「………ぃ、ぃーーーっや、その、肉? できるだけおっきいやつ! これお金!!」

はっ、と。 何かに気がついたかのように目の焦点が合えば、財布を取り出して紙幣をばしん、っと渡してくる。 明らかな動揺と焦り。

ナナミ > 「……?」

ざわり。
ナナミの肌が僅かに粟立つ。
一瞬だが、身の危険を感じ取った証。しかしその原因を探る前に。
我に返った少女が紙幣をこちらへと手渡してきた。

「お、おう。
 そンじゃァ、ちょっくら近くの肉屋か。行ってくるからな。」

そう告げるや否や、近くの通りへと飛び降りる。
するすると流れるように人の間を抜けて、あっという間に少女の視界から消えた。

──それから数分後。


「おう、こンなもんで良いかァ?」

ナナミが手にして戻ったのは、数本の串焼き。

昼奈 > 飛び降りる相手を見て、ほ、っと一息。
もしも万が一このまま戻ってこないにしても、それはそれで仕方ないだろう。
この街で、他人に金を預ける、なんて言葉がまず存在しないのだ。

どっかりと腰をおろして、食欲を抑える。 ああ、喉が渇いた。腹が減った。
手慰みのようにそっと手を伸ばしてトタン屋根の端を掴めば、がりり、っと音。
トタンの屋根が、歯型状に抉り取られ。ぺ、っと唾液と共に錆びたトタンの端が落ちる。
掌で噛み付いて、吐き出して。それを繰り返して………。


「………戻ってきた。」

割と普通にびっくりした。 ちゃんと戻ってきたことに目をパチパチと瞬かせ………。

「頂戴っ! うんうん、それで十分だしっ! ……あ、後、食べるとこは見ないでよ? 乙女なんだしサ?」

喉をごくりと鳴らしながら手を差し出して、早く早く、っと急かし。

ナナミ > 「ンだよ、阿呆みてェなツラ。」

こちらを見る顔を見下ろして。
フードで大半を隠した顔はどんな表情をしているのか。
急かす様に求められた串焼きを、無造作に少女へと突き出すと、

「言われなくても、見やしねェっての。」

興味も無い、と言わんばかりにそっぽを向いて腰を下ろした。
余計な運動をさせられて足も疲れて来ているのだ。

昼奈 > 「この街で金を預けること自体が、もうクソみたいに阿呆じゃん。」

ぷう、と小さく膨れながら声を漏らして。
そっぽを向いた相手の後ろで、ぐ、ぱあっと手が大きく割れて、その中に串焼きを串ごと放り込んで、ぼり、ぼりっと食べる。
それそのものを噛み砕いて身体の中にと取り込んで。

「だから、良い奴だなアンタ、ってびっくりしたの。」

ちぇ、っと舌打ちをするように言いながら、小さく言葉を漏らす。
その言い方は可愛らしい。 食べ方は化け物だけれど。


「………まあ、その。………私、お腹が空き過ぎると、……見境なく襲ったりする、んだよねぇ。………だから、ありがと、ね?」

ぼそぼそと、ちょびっとだけ本当のことを呟いて。

ナナミ > 「あァ、まァそれもそうだな。」

どのみち阿呆なんじゃねえか、と思ったが口には出さず。
何だかやたらと普通の食事にしてはおかしい音などが聞こえて来るが、それらに対しても特に反応は無い。
ただ、手で食べているとは想像していない。精々串ごと食ってるんだろうな、程度で構えている。

「ほォ、そうなのか。
 見境無く、ねェ……ったく、少しは自制とかしろっつの。」

軽口を叩きながらも、大体は理解したつもりでいた。
そういう種族か、はたまた能力か。いずれにせよ、もう慣れたものである。

昼奈 > 「………だからがんばったんじゃん。さっき、我慢したんじゃん。褒めてくれてもいーよ?」

自制しろ、と言われて唇を尖らせる。
その上で、先ほどの危険が彼女自身の獣欲であったことも、ぽろりと明かし。
串焼きを食べたからか、少しだけ落ち着いて………その上で、そっぽを向いた相手の隣にぺたん、っと座りなおす。

「やっぱ、この島はとんでもねーな。
………襲い掛かるとか言われても、驚きゃしねーとかさ。
そういうの、一杯いんの?
私さ、実はまだこの前来たばっかりなんだよね。」

へへぇ、っと笑いながらまた視線を向ける。
距離感は違えど、世話を焼かれてそれなりに懐いたのか。

ナナミ > 「そうかよ。」

あの悪寒はお前が原因か。
そう呟いてから、少しの逡巡の後。
隣に腰を下ろした少女の頭をぽんぽん、と撫でようとする。
それなりに褒めてるのを伝えようとした結果らしい。

「ンまァ、場所が場所だしな?
 さすがに学園の方でそんな事言われりゃ驚くが、此処ァ落第街だぜ?
 むしろ何も言われねえで襲われる方が普通なくれェだろォが。」

手を引っ込めてそんな事を嘯く。

昼奈 > 「………!」

頭を撫でられれば、ちょっとびっくりする。 阿呆かと切り捨てられるかと思っていたからだろうか、目をパチパチと瞬かせて。

「………へへー♪」

照れた。 緩んだ微笑みを浮かべて、目を細める。
想定外の言葉って嬉しいものだよね。 頬をちょっとだけ掌で押さえて。

「………そーなんだ? ……おっもしろいとこだなぁ、ここ。」

ケケケ、と笑う。
普段の生活と、血と暴力の入り混じる生臭い生活の双方を両立させることのできるこの島は、確かに彼女にとっては楽園とも言えるのかもしれない。

「……んで、顔隠してるってこたぁ、名前とか聞かない方がいい感じ?」

あぐらをかいて身体を揺らしながら、ぱちん、っとウィンクを送りつつ言葉をかける。

ナナミ > 「面白ェ、か。
 まァそういう物好きも……いや、どっちが物好きかなんて些末事か。
 そう言う奴も居るだろうなァ。」

何だか機嫌が良くなったらしい少女へと半ば呆れながらも。
以前落第街で会ったのも、“そう言う”側の人間だった。
人それぞれ過去があり、理由があって生きてるのだから綺麗事だけじゃ罷り通らない事もあるのだろう、と。

「あァ?……別に名前まで隠す気は無ェぜ?

 ナナミ、だ。あァ、未発育に欲情する趣味も無ェんでヨロシクなァ。」

ケヒヒッ、と笑いながら付け加えた。

昼奈 > 「へへへ、面白いじゃん? マトモな………一応マトモってことにしとくけど、マトモなガッコと、こんなとこが凄い近場につながってるなんてさ?」

まあ、そういう意味では全くの異質な島である。
異質というよりも、「普通」をどこぞへと置き忘れてしまったような、そんな島。
だからこそ、異端ばかりが流れ着くのであろうか。

「…あ、そーなん?
 私は昼奈(ひな)って言うんだけどさ。 ま、ヨロシク?

 ちょ、美少女を前にそういうこと言うかなぁ? 本当に未発達か見てみるぅ?」

なんて、ぺろり、っとシャツをめくりあげて、日焼けしていないお腹までを見せて流し目かつウィンク一つ。んっふっふ。

ナナミ > 「そうかねェ……?」

割と気付かないだけでごくごく普通なのかもしれない。
未来のモデルケースとした学園都市、とは言ったものの、その実、日本本土の縮図であるともナナミには思えた。
範囲が狭いから表立ちしやすいだけで、どこもこの島の様なのでは、と。

「へいへい、見ても特になりそうもねェからパス。
 まァもうちょい出るとこ出てから色目使えよなァ?」

そう言って立ち上がる。脳裏に過ったのは居候先の家主の顔。

「じゃ、俺ァ行くわ。
 昼奈もまァ、精々見つかって酷ェ事されねェように気を付けて帰れよ?」

昼奈 > 「そうだと思うけどなぁ、私はさ。」

彼女は人生経験は薄い。ゴミの吹き溜まりのような場所から、当たり前の生活を見上げて過ごしてきたのだから、……それが混ざり合うこの場所が、新鮮なのだろう。楽しげに笑って。

「あー! ちょっと、美少女がこんなに素肌を晒してんのにさー!」

むきゃー!と両手を振り上げて怒った素振りを見せつつ。相手が立ち上がれば自分も立ち上がって。

「へへん、だいじょーぶだいじょーぶ。 心配してくれんの? ありがとね。」

言葉の切れ端に、へへぇ、っとまた表情が緩んで、手をパタパタと振って見送る。んじゃねー! と、元気そのものだ。

ナナミ > 「そうかィ。」

少女の生い立ちは知らない。
しかし、人の数ほど生い立ちの数はあるだろうことは知っている。
なので決して自分と重ねることはしないし、こちらから詮索する気も無い。
ただ、少女が今を笑えていれば、それで良いと思う。
フードの奥で僅かに優しく目を細め、笑顔を見つめた。

「ケヒヒッ、美少女より美女の方が好みなんでねェ!」

そんな事を嘯いて、足音一つ響かせてその場から跳び去る。
直近の建物の上に降り立てば、ひらりと片手を振って挨拶に代えて。

そのまま、点々と建物の屋根を飛び移ってスラムを後にした。

ご案内:「スラム」からナナミさんが去りました。
昼奈 > 「ちっくしょー! 後で美女になってもしんないんだからねっ!」

むきゃー、と手を振りながらぷんすか怒るも、……スラムから屋根を駆けて去っていく姿を見送って。


「………屋根ああやって飛んでけば帰れるじゃん!!!」

おもいついた。 やはり私は天才か。


この後、ゴミ捨て場に足を滑らせて落ちる少女が完成するのだけれども、それは別の話。

ご案内:「スラム」から昼奈さんが去りました。