2015/09/05 のログ
ご案内:「スラム」にシェムハザさんが現れました。
■シェムハザ > (スラムの一角、雑居ビルの中、スリーパーの少女たちに違反組織の連中を始末させている
ドラッグと人身売買とetc.、etc.……いわゆる大概の問題のある行動に手を出している組織でもある
こうした組織と小競り合いを随分と繰り返しているので、スリーパーたちも単純な戦闘では損傷が減っている
とはいえ、やはりセルリーダークラスと違って、基本的には優秀な戦闘用人形止まりとも言える
これ以上はセルリーダークラスの性能を与えてやるかもしくは何か学習するしかないだろうか
ともあれ、この組織の首謀者は安全上問題があるから私刑だ
特殊能力に溺れ、他人を弄んでいたのだから心を折る必要がある
まずひどい目にあって、次にひどい目に合わされて、さらにひどい目に落とされた上で
ひどい目に合わされる側だと自覚させる
それだけのことだ
そんなこともすら許されず、ただ殺されたり弄ばれたり剥奪された者達に比べれば
生存権は可能な限り確保されているだけマシだ
もっとも、壊れるかもしれないが、その時はその時だ
それはそれで苦しむこともなくなるだろう)
■シェムハザ > ……やれやれ
どうしてここにはこういう連中が尽きないのかしらね
ま、異能者が多いから上下の差が出来やすいのが原因なんでしょうけど
(要は拷問である、安心させては落とし安心させては落とす
必死に助かろうとすればその答えが間違いだと教える
選択肢を選ぶことは間違いだし、選ばないことも間違いだ、正解は最初からない
気の毒だが、それは彼が他の連中にして吸い上げていたことを少し凝縮しただけにすぎない
話でわかっていただけない以上、骨を抜いて丁寧に処置をするのだ
……少なくともシェムハザはそれが自分の理念だと設定されている
故に、その目の前で涙と鼻水と涎を零しながら前後不覚に陥って過呼吸に陥っている男を
こともなげに一瞥した)
■シェムハザ > ……ん、随分と出来上がったようね、そのくらいでいいんじゃないかしら?
(存分に心が折れれば用はない、特別にこれといった感慨もない
あとのことは雨宮雫に連絡を入れるだけだ
彼らが上手くやるだろう
自分らは謎の自警団で十分だ
そういったよろしくないことをよろしくないと伝えるだけでいい
いずれは自分らの能力も邪魔になる時が来るかもしれないが、それはそれでめでたいことだ
異能なんて全部なければいい
それは自分の持つ能力だって例外ではない)
……人形たちがいれば、私はそれでいいわ
■シェムハザ > さて……と。
(始末がついたならここにはもう用はない
ぞろぞろと出ていくわけにも行かないので、各自、バラバラの出口……違う出入口や窓や屋上など
それぞれがパッと見にはわかりにくい方法で建物を出る
散開したあとは、廃ビルの屋上からいつものように街を眺めるだけだ)
■シェムハザ > (廃ビルの屋上、給水塔の上から一人、スラムの様子を眺める)
……一体いつになれば異能がなくなるんだろう
もしくは異能は安全に運用されるのだろう
こんなことをしなくて良くなるのだろう
(……異能なんかなくなればいい、シェムハザはそう思いながらスラムの夜の様子を眺めていた
異能のせいで、シェムハザの仲間も友達も家族もみんないなくなった
もともと人形の彼女に仲間も何もないのだが、彼女はそうプログラムされている
だから異能を安全だと、そういう運用ができる時まで、ひたすらこういうことを繰り返している
もっとも、安全に運用しているならとやかく言うつもりもない
日常で少し程度ならいい
……だがそれを使って違法行為をするとなると話は別だ
もちろん自分も例外じゃない
だが、少なくとも加害者がいる以上、加害者を排除する必要がある
排除して排除して排除して排除して、その後なら加害者として自分もどうなってもいい
……そう思うシェムハザはドコまでも人形でありプログラムだった)
ご案内:「スラム」にミウさんが現れました。
■ミウ > 落第街に訪れるのも随分と久しぶり。
今回落第街に来てしまった理由は単純。
ただの、神の気紛れだ。
謎の自警団が違法組織を始末するのも、ここではよくある光景。
ミウは上空から、千里眼でその光景をなんとなく眺めていた。
どうやら、用が終わった自警団は散会したようだ。
金髪猫耳少女がリーダー格なのかな?
しばらくして、ミウは廃ビルにある給水塔に突然現れる。
テレポートしてきたのだ。
「異能がなくなるか、安全に運用される世界を望んでいるのね。
だけど、あなたのやっている事を続けても、異能がなくなるなんて、
とても思えないわね」
優雅に微笑みながら、金髪猫耳少女にそう語りかける。
■シェムハザ > ……っ!?
(テレポート、というより「存在がそこに現れた」という方が正確だった
故に気配も歪みもなく突然何の前触れもなく現れ、あまつさえ今の独り言を聞いていたかのような発言
少なくとも、異能を感知するセンサーが、彼女が現れるまで反応しなかった以上、聞かれているわけもない
一瞬、AIが混乱しそうになるが、未知の異能の可能性により混乱自体をカットし
敵である可能性をを想定してアクティブに対処を選択した
話しかけられた瞬間、跳ね降りて距離を取り、向き直って対峙する
それほど異常な現れ方をした相手に戦闘用でない彼女が何かできるかどうかは分からないが
)
……誰?
そして何を知っているの?
(取り敢えず状況が掴めない以上、原因についてあまり過程と推論をせず、
物事に対して警戒しながら即物的な対処をメインにシフトした)
■ミウ > 誰かと聞かれたので、親切に答えておく事にする。
「わたしは神よ。
名前は、ミウというわ。
あなたは?」
笑顔で自己紹介。
そして、相手にもそれを求める。
いきなり現れたから、さすがに警戒されているかな?
少なくとも、こちらは敵意を見せる様子はない。
「何かを知っているという程でもないわ。
ただ、先程、謎の集団が違法組織を始末したところや拷問していた光景は、少し遠くの方から、なんとなく見ていたわね」
そう品のある笑顔で正直に答える。
雑貨ビルの内部だろうと、万物を見通せる千里眼なので当然、透視能力も備わっている。
■シェムハザ > ……神? 自称でしょう?
それともそういう名前で呼ばれてる魔物や精霊の一種?
今の話を含め強力だっていうのはわからなくもないけど
普通、神って名乗る相手はあまり信用出来ないわね
となれば、おいそれと名前を明かすわけに行かないに決まってるじゃない
貴女だって真名でなく通り名でしょう、それ
もしその手の連中なら私が名前を明かす……それを私が私の意思でそれを行うことで
家の扉を自分で開けた様な状態になるんじゃないかって思うんだけど?
……だいたい、なんでそんなこと知ってるわけ?
もう少し言うなら……なんでそんなことをわざわざピンポイントに知る必要があるのかしら?
(よくは分からないが、この手の活動を繰り返したことで強力な輩、もしくはマズイ相手からの依頼なりで
目をつけられたのだろうか
なんにせよ自身は戦闘には疎い、異能戦となれば敵う理由がない
出来るのは情報を収集するのが精一杯だ
……そしてシェムハザはこの相手が可愛らしいアマナ……ハイドレンジアを傷つけたことを知らない)
■ミウ > 「あなたは、わたしが神である事を自称だと思うのね」
自称、嘘。
ミウが神と聞けば、そう思う人が多くいる。
「そういう名で呼ばれている魔物や精霊ではなく、事実、わたしは神なのよ」
そう笑顔で語っていく。
「信用出来ないも何も、わたしは神なのだからそう名乗るしかないじゃない?」
実際のところは、態々名乗る必要性があるかどうか分からないが、
そこはミウの性格的な問題だ。
「あなたの名前を明かすかどうかは自由よ。
だけど、わたしの名、ミウは真名である事は保障するわ。
態々、通り名を名乗る事もないもの」
むしろ、落第街だったら真名より通り名とか名乗ってた方が何かと安全かもしれない、とかは考えなくもない。
だけど、そんな事で腰を引く神でもない。
「そんなに、名乗る事に抵抗があるのね。
その例えでいくと、自己紹介を求めるのは、インターホンを押した状態になるのかしら?
別に、家の扉を開けるのは普通じゃないの?」
何か問題でも?
といった感じで、やや首を傾げる。
「そんなこととは、どんなことかしらね?
ピンポイントで知る必要は、このわたしにはないわね。
理由があるとすれば、ただの神の気紛れとか、好奇心という事になるわ。
この世界は、面白い事が随分と多いものね」
先日戦ったアマナちゃんと猫耳少女が関連している事は、ミウの方も気づいていない。
なにせ、彼女(?)は目の前の猫耳少女の情報に関する漏らしていないからだ。
だが、アマナちゃんも違法組織を滅ぼしていた。
その共通点から、きっかけがあれば、下手をすれば結びつく可能性はゼロではない。
■シェムハザ > それは自称だって思うでしょう
だって、もし神だというなら私にその気がある無し関係なく、そうだって否応なしに分かるしかない
……そういうものじゃないの?
それとも、日本的な八百万のアレかしら? あれは精霊や妖怪、魔物の類よね?
私は後者だって考えてるんだけど
どちらにせよ、いきなりプライベートに踏み込んだ話をして、その瑕疵を問うような話を振られれば
普通、十分に敵として警戒してしかるべきだと思うんだけれど?
だから名前とか迂闊に明かすとそこから縛られかねないとか警戒するほうが当然じゃない?
まあ、少なくともそれくらいのことをされる可能性のある自覚はあるし?
(十分に問題だ、とその意識もあるんだかないんだかわからない
もしくはわざとそうとぼけているのかわからない相手に対して肩をすくめる
だいたいこの問答だって単にこちらに確認を取りたいだけかもしれない
それに……強力な異能使いであるなら、むしろ警戒しすぎて困ることはない
シェムハザは、所詮、機械に強いだけの軽戦闘用ロボットでしかない
軽戦闘用と言っても、彼女の戦闘行為は基本的に電子戦のそれであり
あとは獣人族的な身のこなしを模したそれでしかない
それでも一般人は遥かに凌駕するが、戦闘に長けたものや異能者と対峙するには心もとない)
■ミウ > 「例えば自分の種族や立場を伝える時に、あなたはどうするかしら?
手っ取り早い方法は、名乗る事よ。
あなたは、わたしの神性に気付けないという事ね?」
微笑みながら、語る。
「八百万とはまた違うわね。
わたしは、異世界の神に該当するわ。
向こうの世界において、わたしは唯一神なのよ。
だけど、他の世界には様々な神が存在しているという事ね」
自分の、神としての立場を明かしてみせる。
「わたしを敵視したり、警戒するのはあなたの自由よ。
だけど、別にあなたの名前を聞いたところでわたしは何かをしようとかは特に考えていないから、安心していいわ」
上品な微笑みで答えるが、別に何かしない根拠があるわけでもない。
「なるほどね。
先程の戦闘も見ていたけれど、自分が狙われる可能性がある立場だと思っているのね。
確かにそれなら、敏感に警戒するのも頷けるわ」
実際に、こくこくと呑気に頷く。
彼女から警戒を解くのは、ミウの態度からしても無理かな。
別段、警戒を解かせる理由もないし、そこは自由にさせてもいいと思う。
名乗ってくれないのは少し悲しいけれど、仕方がない。
「あなたとは初対面よ。
だから、心配しなくても、わたしはこの場で見たり聞いたりした事以上は、あなたの事を知らないわ。
ただ、わたしは落第街に来る事もないわけではないから、
他に、あなたの関連性があるかもしれない情報を知らない内に握っている可能性は否定できないわね」
と、ここまで嘘偽りなく、正直に話してみせる。
■シェムハザ > そりゃあ、いきなり出てきてあなたのやってること考えてること全部知ってますよって、普通警戒するでしょう?
と言うか唯一神名乗るなら、私みたいな連中の反応なんて腐るほど知ってるんだからだいたい分かるんじゃない?
……いい?
貴女がやってることは私に向かって「強力な力がありますよ」と誇示しつつ
「プライベートなんて丸裸で筒抜けですよ」って言ったってわかってる?
貴女は私に「どうしようと私の手のひらの上で、どう反応しようと羽虫がふらふら飛ぶのと変わりない」
って言ったも同然なわけ
その強力な力からしたら、私が警戒してる様子すらさぞおかしいんでしょうね?
こんな距離なんてないも同然なんじゃない?
前者であれ後者であれ、貴女の言ったとおりであれ、私がどう警戒しようが何を考えようが
その腕の一振りでどうにでもなるんじゃないの?
……だから異能なんて無くなればいいって思うのよ!
(ミウの様子に、忌々しげに吐き捨てるように言う
ミウの話は全て自分の都合で自分の立場で、向こうの要求をこっちが満たすか満たさないかだけの話に思えたからだ
そして話に応えるかどうかは関係なく、どっちでもいいのだ
それにこっちの思考も素性も望みも何もかも筒抜けなんじゃないかとさえ思う
きっと、私のような中途半端な連中が右往左往するのを見て楽しむ類なんじゃないかと思う
そして、そのとおりに不甲斐ない自分も忌々しい
結局こんな訳がわからない女の言いなりなのだ
自分がどう応えるかじゃない
彼女がどう思うかでしか無いし、どんな答えを返そうと、選択権は最初から無いのだ
彼女は圧倒的に飼い主で、自分はどこまで行っても家の外にはでられないのだから)
■ミウ > 「別に、あなたのやっている事の全部が全部知っているわけではないわ。
誤解させるような言い方になってしまったのは謝るわね。
ごめんなさい」
素直に謝罪。
「あなたは、自分が腐るほどいる連中の一人に過ぎないと思っているのね。
この常世島は色んな人達がいるから、それだけ色んな人物が存在しているのよ。
わたしは全知全能の神ではないから、その全てを知るなんて不可能な事ね」
神ではあるが、全知全能の存在というのはあまり想像し辛い。
ミウは異世界において唯一神という立場であるが、創造神であっても全知全能の神ではないのだ。
なんだか、説教が始まってしまった。
じっくり聞くと、結構ごもっともな事を言っている気がする。
ごもっともすぎて、思わずこくこくと首肯しながら聞いている。
「た、確かに……そう解釈できるわね。
弁明する事も、特にないわ。
わたしの気遣いが足りなかったわね」
彼女の言う事に、納得する意思を見せる。
「あなたが異能を嫌う気持ちは、結構伝わった気がするわ」
そして、もう一度深く頷く。
だが、異能がなくなれば次は魔術が、それもなくなれば次は科学あたりが、
その代わりになっていくのではないか、と思わなくもない。
「ひとまず、あなたとわたしは対等よ。
そんなに深く考える必要はないわ。
立場はどうであれ、あなたもわたしもこの島に住む住民である事にはかわりないわ。
別にわたしは、あなたを掌の上で踊らせるとか、そんな気はないわよ」
彼女の機嫌を損ねてしまったらしい……。
反省すべき点は、ミウにある事だろう。
■シェムハザ > 貴女の正体がもし本当に神なら……神が下々に向かって権限を振るうコトが
私達にとってどういうことか存分にご存知だと思いますけどね?
ええ、私なんか取るに足らない存在ですよ……そりゃそうでしょう
私がやってることはご存知なんでしょう?
……偉そうに異能を規制するとか安全に運用するとかほざいてますけどね
結局、異能嫌いで異能が無くなれば良い安全になればいいっていうだけのエゴを
押し通したいだけですよ
……だってそれ以外にどうすればいいっていうんですか
放っといたら異能を悪用する連中が我が物顔で好き放題するんですよ?
私だって、その中の一人じゃないですか!
あの子たちを便利に使って、楽しんで、戦わせて、わがまま押し通して……
でも、そんな……私みたいなクズには……それくらいしか出来ないんですよ
だからそれくらいのためならなんだってします……
だから異能なんて無くなればいい……
なくならなくてもいいから、普通にしたい……
(ミウが少し態度を軟化させれば、あとはプロジェクトのために設定された想いが吐き出されるだけだった
シェムハザは、そういうプログラムなのだ
少女は誰かに都合のいい人形でしかない
彼女の存在はすべて、誰かによって作られ、目的のために設定されだものだから
嘘偽りのない、偽物だった)
■ミウ > 「わたしはただ、権限とは関係なく、あなたに語りかけただけよ。
別に、あなたに何らかの事を強制させようとか、そんな事は考えていないわよ」
「違法組織を潰している所までは、この目で見たわね。
それ以外の事は、知らないわ。
魔術や科学ではなく、異能を嫌う理由や、異能を邪魔だと思う理由があるのね。
自分の信念を押し通すのは、とても素晴らしい事だと思うわ
わたしは、自分の信念を持つ者は嫌いではないわよ」
微笑みながら、そう答える。
最も、彼女がプログラムされているとか、そんな事は知るよしもない。
「してもしなくても、異能を悪用する人はするわね。
風紀や公安が取り締まるけれど、この落第街にまで手が及ばない事が多いのも確かだわ。
つまり、あなたのしようとしている事は、とてつもなく難しい事だという事になるわ。
あなたは、自分の信念を信じて活動しているのよね?
自分の部下を便利に使ってしまうのは、よくある光景よ」
部下に気配りできるようになれば慕われる上司、指揮官になりやすい事にはかわりないだろうけれど。
「つまり、落第街で違法組織を潰しているのは、あなたの意地……という事になるのね?」
世界から犯罪はなくならない。
同じように、異能を使った犯罪もなくならない。
正直、現実的に言えば、猫耳少女にとっては非情な結果が思い浮かぶ。
「確かに、やらないより、やった方が異能者の数を減らせるかもしれないわね」
とは言え、焼け石に水な感じがしなくもない……。
「だけど、他に選択肢はない事もないわね。
普通にしたいのなら、普通に暮らすという手段もあるわ」
異能が嫌いでたまらないから、異能者を襲う。
彼女のそんな行動を否定する気はない。
だけど、他の生き方があるのも確かな事。
最も、彼女が何者かによって作られた、嘘偽りのない偽物だという事をミウは知らない。
■シェムハザ > 貴女のことなんて知らないわ!
貴女がこっちのことをどれだけ知っててもね!
……権限? 能力の範疇なら嫌でも知るようなものなんじゃないの?
目を塞がないかぎり、勝手に見える光景や勝手に分かる物事は知っちゃうんだから。
それに……魔法や科学なら、基本的には道具や技術でしょう
でも、異能は、「能力」よ
つまり、背が高いとか、脚が速いとか、目がいいとか、顔がいいとか悪いとか
そういうのと一緒……歩ける人が歩かないはず無いのと変わらないわ。
なんで使えるかもわからない、理屈も理論もない、なのに爆発したり凍ったり次元を割いたり消し飛ばしたり!
……そんな能力を息をするような気軽さで使うのよ!?
でも、アリを踏まずに歩ける人間なんている?
そんな能力をついうっかりで使っちゃうかもしれない、くしゃみした勢いで人を殺すかもしれない
強力な異能使いのそばにいるなんて、人間に対するアリみたいなものよ!
貴女が……神かどうかなんてどうだっていい!
そんなのどうだって構わない……
だからって、そんな気軽さで、私を……私達を……
アリに気付かないような気軽さで、虫を扱うような気軽さで……
いたかどうかも気が付かないくせに、踏み込んでこないでよ!!
そんな貴女が気軽に普通とか言うな!
アリにも気付かない、アリをいつ踏み潰したか覚えてもいないんでしょう!!
そんな、そんな奴が神とか……どうでもいい……
……腕の一振りで世界の運命を捻じ曲げられる奴の普通なんて知らないよ!!
(涙を浮かべながら……むしろ、号泣しながら絞りだすように。
感情が暴走して止まらなかった。
……神が普通とか言う。
その普通ってなんだ?
なかったことになるからなんでもありなのか
それとも全部過去が帰ってくるのか
最初からやり直せるのか
どれだってゴメンだ
全部、こっちの都合なんかお構い無しだ
シェムハザはそういう人形でしかない
異能によって不幸があり、その不幸のために人形や機械ばかりと接し
プロジェクトのために行動する都合のいい人形だ
シェムハザの仮想人格AIにとってはそれが真実だし、それはどこにもない架空の設定だった)
■ミウ > 「先程言った通りよ。
あなたとわたしは初対面。
お互いの事を知らなくて当然の立場という事になるわね」
あるいは全知全能なら、初対面でいきなり相手の事を全部が全部知っているなんて理不尽極まる事が可能なのだろうか?
「わたしは何も、無暗やたらに神の能力を使用しているわけではないわ。
何もしなかったら当然、勝手に見えたり、勝手に分かるような事もないのよ」
千里眼なんかは、見たい時に見る、ぐらいの使い方が主。
それが出来ないのなら、そもそも能力制御自体が出来ていない事になる。
魔法や科学は技術や道具。
異能だけがほとんど判明していない。
不気味に思う研究者なんかも多いと思われる。
「生まれながらにして何かしらの差がついてしまう事は、残念ながらよくある事ね。
異能は、その最もたるものになってしまうかしら。
背が高い、脚が速い、目がいい、顔がいいの他に、種族の違いなんてものもほとんどの場合は覆らないわね」
何らかの方法、それこそ異能を用いれば覆る可能性もゼロではないけれど。
「身も蓋もない言い方をすれば、ある意味で異能はそれらと何ら変わらないとも解釈できてしまうわね。
もちろん、容姿の差で劣等感を覚える人もいるし、脚が遅い事をコンプレックスに思う人もいる。
それ等と同じように、異能を嫌う人を現れるのはごく自然な事ね。
逆に言えば、あなたの言っている事はそういう事になってしまうのかしら?」
聞けば結構単純な話。
ただ、異能は越えられない壁が大きすぎるとか、そういう事情も絡んでくるかもしれない。
異能者に襲われて死亡するなんて運命、理不尽に思う人は決して少なくないはず……。
「そこは、異能者達がどう異能を使うか、制御するかになってしまうわね……。
常世学園は、その異能の制御も行っているわね。
異能者も、自分の異能を欲して手に入れたわけではない人もいるわ。
そこは、異能者も異能を持たない者も差別なく一緒に過ごす事が理想かしらね。
それがだめなら、異能者だけを隔離してしまう方法もなくはないけれど……」
それだどやはり、異能者の差別に繋がると思う。
隔離すれば、不満に思い叛逆しようとする異能者が増える事も想像に難くない。
号泣しながら、感情的に叫ぶ猫耳少女。
そんなになるまで異能を嫌っているという事。
異能者なんて、望まれてなどいない……。
そういう……事なんだ。
ミウは、笑顔を崩し、少しの間、目を背ける。
だがその後、猫耳少女を一直線に見つめる。
「そうね。
もしかすれば、あなたの言う通りいつ踏みつぶしたのか覚えていない、あなたの言うアリもいるかもしれないわね。
気付かないという事は、そういう事になってしまうわ。
だけど、あなたの事は少なくとも気付いているわね。
異能者以外の人は全員、自分とは別でアリのような存在。
そんな事を考えてしまうのは、異能者側にとっても悲しい事だと思うわよ」
実際にそのような考えに及んでいる異能者は、一体どれぐらいいるのだろうか……。
「わたしは、普通という手段を述べただけよ。
異能者を狩るだけで、あなたが満足するのならばそれでもいいわ。
だけど、現実は何も変わらないわね。
もしかすれば、あなたのやり方だと、異能者側も数の暴力などであなたの言うアリになり下がっているかもしれないわね」
■シェムハザ > 初対面にもかかわらず無闇に神の能力を使って、突然現れて、
そういう内容を当たり前のように吹き込んできたのは貴女でしょう!
……勝手に見えたりわかったりしない? だったら何!?
私がしてたあんなことやこんなことはどうして知ったわけ!?
……なんかしたからでしょう!
神の能力で面白半分に覗いたんでしょう!
貴女の言うことが全部本当だとして、どうせ、自分の世界じゃ
そういう気軽さで世界を生んだり変えたり弄ったり消したりしてたんじゃないの?
それが貴女の言う貴女の普通ってやつじゃないの!?
(……わかってない……こいつ……
まるで、金持ちが、金があることが当たり前すぎて、日々の食事に苦しむことがあることなんて
ファンタジーにしか理解できない程度にしかわかってない……きっとそうだ
きっとコイツにとっては私なんて映画の悲しいワンシーンなんだろう
……そう思うと泣けてくる
もっとも、その思いは全部、デザインされた思考なのだが
放っておいても強大な力を持つものを嫌って卑屈になるよう出来ているのだから)
……欲してようと欲していまいと、力を持ってる奴は力を持ってるんだ
望んでなくたってミサイルやプラズマレーザー持ってるような奴だっているだろ!
望んでなけりゃ殺しても奪ってもいいの? ついうっかりで踏み潰していい?
……そうじゃない、そういうことじゃないだろ!!
寝返りうっただけでミサイル飛ばすかもしれないような奴の隣でどう普通にすればいい?
いびきをかいただけでこっちは頭吹き飛ばされかねないのに、どうすればいい?
そんな連中が……自分にもどうしようもないから責任押し付けるなっていうの?
自分がのうのうと生きるために他人踏み潰す責任はあるでしょう!
肉を食うために牛や豚を殺すくらいの責任はあるでしょう!
私はクズだから、できる範囲でそういう連中をどうにかするしか思いつかないよ!
神だって偉そうに言うなら、どうにかしてよ……!
……わたしはただ、おびえたくないだけなのに。
(人形はどうしようもなく止まらない
答えを求めてるわけでも、解決を求めてるわけでもない
ただただ、感情のままに、言葉が暴走してるだけだ。
目の前のミウに対する言葉ですら無いのかもしれない。
少女は偽りの記憶で偽りの意思で、自分にとって正しいことを設定通りに行うことしか出来ないから。
もっとも、人間もあまり変わらないかもしれないが。
……彼女は人間を模して作られた人形だから)
■ミウ > 「移動手段としては、とても便利なのよ。
わたしは神なのだから、突然現れる事もあるわよ。
あなたの独り言を聞いたので、単に話を振っただけよ。
正確に言えば、あなたが直前に違法組織を抹殺しようとしたり、拷問していた光景は、少し遠くから見ていたわね。
それ以外は、何も見ていないわよ」
そこもやはり、正直に答える。
猫耳少女の事を直接心を覗いたとか、そんな事はない。
面白半分、とまではいかなくても好奇心があった事は否定できないけれど。
「それは心外ね。
わたしの世界は、神の箱庭にはとどまらない素晴らしいものなのよ。
あらゆる生物が“成長”し、“発展”し、そして“進化”していく。
そしていつしか、強大な科学力と魔法技術を生み出し、神であるわたしを驚かせたわ。
わたしは、そのきっかけを創ったに過ぎないのよ」
世界は箱庭などではない。
いわば“子”のようなものであり、それがすくすく成長していくのだ。
「殺人がいけない、なんて事は、神であるわたしではお答えできないわ。
ただ、人の命は神でも蘇らせる事は不可能だわ。
そこは頭に入れておくべきでしょうね」
道徳的に言えば、人殺しはいけない。
ただ、歴史上、戦争などでいくらでも人は殺されてきたわけだ。
「それに、危険な存在だという観点で見るなら、魔術や科学だってそうなのよ。
危ないものは世界にいくつも存在しているわね。
決して、異能だけではないわ」
その違いは「技術」か「能力」になる。
使い方を誤れば危険な点は、変わらない。
「寝返りを撃っただけでミサイルを飛ばすような人は、異能の制御が出来ていないかもしれないわね。
異能者が怖いなら、出来るだけ異能者から離れる事になるかしら。
少なくとも、落第街なんて所に近づけば、それこそ異能の被害にあう事も多いでしょうね。
もちろん、責任を押し付けないで、とまでは言わないわ。
異能を持った責任があるのだから、異能者は異能を制御しようと、この学園に訪れるのだものね」
異能を研究するのも、制御する方法を探るのが一つの理由だろう。
猫耳少女みたいに、異能をどうにかしようと考えている人は、決して少なくないはず。
「あなたは、異能者をみんなやっつけてしまえば、それで満足なの?
例え神の力を使ってでも、異能者を根絶やしにすれば、それでいいの?
自分が怖いと思うものは、破滅させればいいのね?」
やはりミウは、猫耳少女の偽りの意思や記憶に気付かずに話をすすめている。
彼女はとても感情的だ。
これが設定されたものだと、誰が気付こうか。
■シェムハザ > 貴女はわかってない……だから、わかってない……
破壊力や技術が悪いんじゃないわ
でも、技術なら、制限できるでしょう?
刃渡り30cmの単分子ナイフを片手に握ったまま生活する?
科学も魔術も、ちょっと挨拶で手を振っただけで隣の誰かを刺すような、そういうことをやる?
……アクシデントも事故も否定しないわ
でも、頭を撫でるつもりで吹き飛ばすのは事故って言うの?
ついカッとなって平手打ちしただけで一帯を吹き飛ばすのは?
ともすれば、ちょっとウトウトとなった瞬間に人が死ぬかも知れない
……異能なんて歩く不発弾みたいなものよ
ハッキリ言うわ
息をするような安易さで傷つけることと、息をするようにまったく無作為に傷つけてしまうこと
異能にはコレが多すぎる
突然現れたり密室の様子を覗き見ることを「当然でうっかり」だと思っているんでしょう?
ここから街を見下ろすのと同じように、たまたま見えたとかそういうレベルなんでしょう?
それが恐ろしいってさっきから何度も言ってるの、わかる?
私は……異能者を可能なかぎり安全な範囲内に収めたいの、それだけ。
それが出来るならなんだっていいわ、神の力だろうと、禁忌だろうとね?
……”成長”し“発展”し、そして“進化”するっていうなら、そうさせてよ!
箱庭だってなんだっていいからそうしてよ!
私なんかどうなったっていいからそうしてよ!
だって……神なんでしょう?
素晴らしい世界作ったんでしょう?
なら、ここもそうしてよ!?
……わたしには、せいぜい、人形たちを使って
そこそこ弱くて悪い異能を止めるぐらいしか出来ないんだから。
壱耶もアマナも冥鴉も亜々夜も!
私はそのためだけに人形をかわいがって人形を使って、人形を何度も何度も狂わせて愛して
戦わせて壊して直して、また可愛がって。
だって……私が怖いから私のために私がみんなを作っていいようにつかってるんだから。
わたしが……これしかできないから。
わたしがわがままだから。
(どうしようもなく無念で無力でコレしか出来ないし人形しか頼れないし
人形しか愛してくれないし愛せないしそれしかわからない
……そう設定されている猫耳少女の人形は、だから、涙を拭うこともせず
だからといって言葉を止めることも出来ないまま、
自分でもどうしていいかわからない感情に溺れていた
その設定された感情に流されていた)
■ミウ > ミウは分かっていない……。
そんな言葉から始まる。
「技術なら、確かに制限が可能ね。
同時に、この常世島では異能の制御も進んでいるわ」
彼女は、魔術や科学ではなく、異能のみをだめなのだと言うようだ。
「異能も、ちょっとした挨拶で手を振る動作みたく誰かを刺すとかは、制御が出来ていればさすがにない……と思うわよ。
あなたの言う事は、とても極端ね……。
まるで異能を制御出来ない事を前提で話しているわ。
異能者のみんなはみんな、暴走しているとでも言うのかしら……」
もしそうなら、恐ろしすぎる。
恐ろしすぎて、この世界すら破滅してそうだ。
「だから、人を傷つける容易さや危うさなんてものは、科学や魔術にも言える事なのよ。
異能だけに言える話ではないわね」
実際に、異能によるものが多いかは、統計をとってみないと分からない。
「たまたま見えた、というのはその通りね。
まさしく、街を見下ろしていたら見えたわ。
だけど、そんな事が可能なのは異能だけとは限らないわね」
そんな事は、異能に限定された事でもない。
異能『のみ』を否定する材料になり得るかは、やはり疑問が残る。
「落第街は、環境が悪いと言えるわね。
だけど、この常世島において、落第街を除けば異能を出来る限り安全な範囲に収めたいと、考える人は多いのではないの?
それとも、この落第街まで安全な範囲にしないと、あなたは不安?」
きょとんと首を傾げる。
ある意味で、落第街には落第街のルールめいたものもある。
力が支配するという、結構単純なルール。
「先程も言ったはずよ。
わたしは全知全能の神ではないの。
万物の創造を司る神ではあるけてどね」
むしろ、全知全能の神がいないからこそ、猫耳少女のような、どうしようもなく自分の無力さを嘆く人も現れるのだろうと思う。
神だって、完璧な存在ではない。
「それに例え出来たとしても、あなた一人の願いで、そんな大それた事を実行する気もないわ。
完璧ではない、何かしらの欠点があるからこそ、素晴らしい世界が生まれるの。
もし本当に何も問題のないパーフェクトな世界だったとすれば、それは果たして本当に理想郷と呼べるのかしらね」
それこそまるで、神の箱庭ではなかろうか。
そんなものをミウは望んでなどいない。
壱耶ちゃんとアマナちゃんの名は聞き覚えがあった。
「あなたは、壱耶ちゃんとアマナちゃんの知り合いなのね。
なるほど……ね。
壱耶ちゃんが語っていた大好きなお姉様とは、あなたの事だったのね。
そして、アマナちゃんに違法組織を襲わせるよう指示を出したのもあなたという事ね。
防衛のためとは言え、アマナちゃんには申し訳ない事をしてしまったわ」
なるほど……そういう事。
その辺り、話が繋がったというわけだ。
「あなたは、人形と過ごすのが幸せなのね。
なら、嫌いな異能から距離を置いて、人形達を愛するという道もあるわけだわ。
壱耶ちゃんなんて、とてもあなたの事を愛している事が、わたしにまで伝わったぐらいよ」
そう優しく語ってみせる。
愛する方面はそれぞれあるので、それを否定する理由はどこにもない。
相手が人形で、狂わせるぐらいに愛しても、いいだろう。
■シェムハザ > お前……まさかアマナの!
くっ……
(あのアマナをあそこまでやったのが彼女というなら、やはり強大な力すぎる
自分の敵う相手じゃない……)
全員が暴走、とかそういう話じゃないわ
異能は寝返りを打ったことでそうならないとは限らない、っていってるの
生理的に無意識に、寝ている時に夢で敵をやっつけたなんて普通のことを
普通じゃなくしてしまうかもしれない……それが問題だって言ってるの
だから、なにもわかってない
……落第街だってそう
なんでただの学生街がここまで落ちるの?
おかしいんじゃない?
まるで「そうあるべきで、異能を大それたことに使っていても問題のない場所」を提供しているみたいな
実験場のような場所じゃない?
だって……あんな地獄の門みたいな奴が開きそうになったって、ここじゃ普通なんでしょう?
……あんなの、おかしいじゃない
だいたい、ここじゃ毎日、まるで戦争よ
……なんで?
暗黒街だってもっと統制が取れてるわ
貴女は銃や刃物、魔術だってそうなる、っていいたいんでしょう?
力でっていう意味ではそれはわかるけど、異能ほどじゃない
貴女がその自分の力の異常性に気づいてないくらいには、そうよ
……だから
異能はもっと制御されないといけないわ
魔法も武器も、特別なものよ
異能みたいに……呼吸するように使っていいものじゃない
特に貴女みたいなそういう、武器を武器だと理解しないで使ってるようなのがいるんだから。
(猫はあくまでも異能にこだわるし、実際、異能に関しては一理ある
ただし、どうしても自身が設定された目的からは逸脱できないし
その考え方も行き方も趣味も思考もデザインされているのだ
そういう人形である
人形たちと話がつながった今、もしミウのレベルで望むなら
魂まで偽装されたよく出来た人形だと理解できるかもしれない)
■ミウ > 「アマナちゃんはとても強かったわよ。
わたしの創りだしたケルベロスを葬ってみせたものね」
そんなアマナちゃんを従えている彼女もまた、ただものではないという事である。
ただ、これまでの会話を振り返るに、推測ではあるが指揮官タイプという事もありえる。
「一口に異能と言っても、色んなものがあるものね。
異能の悪用に関しては、魔術や科学も同様、されては危ない事にはどれも変わりないわ。
異能の制御に関しても、常世は積極的に指導しているわね。
寝返りを打ってそうならないとは限らないなんて、それこそ魔術にも言える事ではないかしら。
確かに、普通ではなくなってしまうかもしれないわね」
「実験場ね、それは面白い解釈だわ。
実際に、学園の上層部はそういった意図があるのかもしれないわね。
学園は、この落第街をない事にしているぐらいだものね。
そう。
ここは、異能で戦う事が普通なのよ。
異能だけではないわ。
色んな武器を持ち、魔術を用いて、殺し合いをしているわね。
まさしく、学園の闇とも言える部分かしら。
だからこそ、本来、必要がなければ近づかないように言われているのよ」
学園側が意図して用意した。
そんな彼女の推測も、もしかすれば当っているのかもしれない。
実際のところ、この島で行われている研究も謎が多いし、
まことに、この島の闇は深い……。
猫耳少女は、異能を魔術や武器よりも上に見ているようだ。
そこは、個人差がある部分だとも思うけど、異能の方が優勢という見方をする事自体には納得できる。
「わたしは元から異能、万物を創造する力を有しているのよ。
それに、この島だと異能を持つ人が多くて、異能自体の異常性に気付き難いのは事実ね」
異常性に気付く人は気付くだろうけど、慣れてしまっている人も、結構いるのかな。
「異能者は異能を制御する必要があるのは同意よ。
してくれないと、困るのは彼等自身ではなく、周囲も巻き込んでしまうものね。
もちろん、魔術も武器も、その通りね」
「武器を武器と理解しないようにと言うけれど、異能は別に人を傷つける方法以外にいくらでも使い様があるのはご存知よね。
攻撃手段に使う事も、もちろんあるわね。
その時は、武器であると自覚しているつもりよ。
だけど、それ以外の用途で使う事もできるのが異能なのよ。
異能は、ただの武器とは言い切れないわね」
話の流れ的に猫耳少女もそこは理解していると思うけれど、そう語ってみせる。
猫耳少女は、あくまで異能にこだわっている……。
そこが不可解だ。
彼女は、異能を嫌っている事を感情的にミウに語ってみせた。
だけどそれは、魔術や科学にも該当する部分があるのではないか……と思えてしまう。
それでも、少女は異能にこだわる。
この疑問は、猫耳少女の魂まで偽装である事に気づけば理解できるだろうけど、あいにくミウはそこに気付かない。
ミウが翼を広げると、羽根が舞う。
「それでは、わたしはそろそろ行くわね。
あなたとは、とても興味深い話ができたわ。
またね」
結局、彼女の名前は聞けなかった。
ミウは、その場からテレポートで消えようとする。
■シェムハザ > ……初対面の人に敵意なく話しかけるだけ
そのことを満たすために
前触れもなく顕現し、密室で私のしていたことを暴いて晒す
そういった異能の使い方がたまたまで普通だっていう貴女が異能は武器じゃないって?
つまり、日常的にナイフで脅したり、食事に毒を盛ったり、魔術で催眠にかけたりするようなことが
普通だっていうのね?
異能の普通っていう感覚はそれくらい危険だって自分で証明しているじゃない?
貴女、「まるで吸血鬼がちょっと気が向いたら血ぐらいすって眷属にするでしょう?」みたいなこと
言い出してるのと変わらない意見だってわかってる?
ナイフ持ってたら脅して当たり前とか
魔術使えるならいかがわしいことのひとつやふたつしていて当たり前とか
そういう狂った物言いしてるってわかってるの?
……そういう感覚がおかしいって言ってるの
そして異能使いは全般的にそうした傾向が高くて
それは自分が持っている能力だって思ってて、体の一部みたいなもんだって思ってる
わかる?
ミサイルや爆弾を持ってるのが普通だって思ってるのよ?
それが扱えて当然だって、むしろ、そういった力の危険性も知らないで
ちょっと肩がぶつかった時ぐらいの感情で、気軽にひけらかしてる
戦いで扱うにしてもそう
魔術だって武器だって気軽に扱えるものじゃない
手に入れないといけないし、手に入れた時点で武器になるし、とり上げることも縛ることも出来る
私の知る限り、銃の引き金より軽くて、魔術の詠唱より手軽で、しかも自分の特性だという自覚で常時携帯できるものなんて知らないわ
まるで致死性の毒ガスを日常的に持ち歩くことが異常だと理解できないくらいに……
それくらい異能に対する感覚は狂ってるわ
……貴女がそうだもの
特別で限定的で恐ろしくて使いどころによっては危険極まりない超常現象で止める手段もない
そんな力を、たまたまで偶然で当たり前だっていう
あの……特別製のアマナが、貴女のその力で対等にすらならない
そんなものを、普通とか、技術や魔術と一緒っていう神経が理解できない
つまり貴女たちの多くは……そんな異常で強力で防ぎようがない特別な行動を
一般的な物事と変わらないって認識してる
そんなの、認められるわけないじゃない……
あのアマナすら敵わないような、そういう連中が言う普通なんて
それこそアリを踏み潰すなんて仕方のない事だって言うようなものだわ。
そんなの……私は許せない。
(そう、これだけ科学や魔術と一緒、そう言いながら、「消える」のだ、この女は。
……階段から降りるわけでも飛び降りるわけでも空をとぶわけでもなく。
どうしようもなく許せないしやるせない。
つまり……ひとかけらもそのつもりもなく小馬鹿にされたのだ。
あまりにも理解の範疇外すぎて考慮にすら入らないほど、異能の特殊性を理解してない。
アリであるシェムハザは、きっと彼女の気まぐれでいいように楽しまれたのだろう
まるで観察日記のように。
どれだけ絶対的で超常的なことを当たり前のように押し付けたのか、
その事実に気づくことすら不可能そうなその事自体が、猫耳少女の感情をひたすら逆撫でした。
そしてそのことに対してどうしようも出来ない自分がなおさら惨めだった。
そしてそのことに対してそう考えるようデザインされている事実に
まるで気づくことが許可されていない人形は、製作者の意図通りに
まるで人間のように人間らしくその感情に溺れ、
非人間的なまでに都合よく目的を遂行するためにプログラムを走らせていた。
きっと、どうしようもないものに対抗するために無理をしようとして
機能を超えて徐々に狂いだしているのかもしれない。
彼女たちは量産型の都合のいい道具でしかないのだから)
ご案内:「スラム」からミウさんが去りました。
ご案内:「スラム」からシェムハザさんが去りました。
ご案内:「スラム」にリヒットさんが現れました。
■リヒット > 背の高さも揃えずに立ち並ぶ、違法建築とおぼしき雑居ビルの森。
その間を縫って、ふらふらと風に流される木の葉がごとく……あるいは、ポイ捨てされたビニール袋がごとく。
雨合羽を着た、青い長髪の小人の姿がありました。羽根もなく、宙に浮いています。
海からそう遠くない立地の住宅街。路地を吹き抜ける風はやや強く乱れており、それに煽られて右左、宙返りしそうなほどに吹き上げられることもしばしば。
力ない飛び方ですが、別に疲れているというわけではありません。
リヒットはシャボン玉なので、これが正しい飛び方と言えましょう。
纏う雨合羽はところどころ破れ、ボロと言ってもいい様相。それはこの貧民街という立地には合っているといえるかも。
しかし、泉の水のようにつややかに澄んだ蒼色の髪は乱れもなく綺麗で、そこが雰囲気とも服装ともチグハグでした。
■リヒット > 彼が貧民街などという、吹き溜まりのような場所に来訪した経緯とは……。
端的に言えば、たんなる迷子です。
公園で蒼穹さんと出会い、常世学園へと連れられて入学手続きと相成ったリヒット。
しかし当然ですが、翌日から即生徒となり講義を受講、とはなりません。
……まずリヒットは、素人目に見てもあきらかに異邦人。少なくない適性検査を経る必要があります。
もしリヒットが『ちょっと突付くだけで大爆発を起こす異邦人』や『未知の病原菌の保菌体』とかだったら、うっかり学園に入れるだけで大惨事を免れません。
彼の出自、性質、能力をしっかりと見定め、適切な管理下に置く必要があり、そしてそのための調査設備は研究区にあるわけです。
そんなわけで、学園区での簡単な問答ののち(それもリヒットには難しい問答でしたが)、研究区へと連れて行かれたのでした。
また、いざ入学するとしても、どのようなカリキュラムを組むべきか。学力テストも必要です。
リヒットには数日後に、委員会棟への出頭が命じられています。そこでのテスト如何によって、受けるべき授業、属すべき集団が決められるでしょう。
……おそらくは、小学生低学年相当のクラスか、幼稚園相当の集団か。後者になる公算が高そうです。
リヒットは字が読めません。島に張られた翻訳魔術も、もともと識字のできなかった者の知能までは補完しません。
さてさて。そんなわけで、研究区の施設で色々と検査を受けるハメになったリヒット。
何らかの理由で血液検査だけはできませんでしたが、それ以外の検査については素直に受け、とりあえず致命的な能力や性質は認められなかった様子。
その後、異邦人ということで異邦人街へと向かうことを勧められたリヒットでしたが……。
……南に向かって飛ぼうとしていたところ、歓楽街の猥雑な町並みで感覚が狂ったか、西風に流されたか。いまはスラムにいるというわけです。
■リヒット > 貧民街の建物の多くは、歓楽街とそう代わり映えのしない雑居ビル群ですが、窓の多くにはガラスが嵌め込まれていません。
夏は暑く、冬は凍える。ビルしかり、それ以下のバラックやテントしかり、最低限雨を凌げる程度の住環境しかないようです。
それが、ここ落第街の住人の、精一杯の『住』の確保のようです。
風が口笛のように甲高い音を立てて、穴だらけヒビだらけの建物を撫でていきます。
真っ暗でその内側の様子を伺わせない窓から、あるいは継ぎ接ぎだらけのテントの入口から、人間たちが顔だけを覗かせ、宙を舞うリヒットを目で追います。
小さい体躯。不自然に青い髪。宙を舞う姿。遠目に見ても、いわゆる『異邦人』です。
そんなリヒットを睨むように観察してくる視線こそ数多あれど、干渉してこようとする住人はほとんどいません。
そんなことをしても得は少なく体力の無駄、逆にどんなしっぺ返しを食らったものかわからないからです。
彼ら住人にとって、空をふらふらと舞うリヒットは、夕暮れ時にビルの屋上に集ってくるカラスなどと同程度の存在なのでしょう。
……当然、例外はありますが。
■リヒット > 先程から、ふわふわぷかぷかと無秩序に風に舞いつつ南を目指すリヒットを、距離を保って着けてくる人影が3つ。
色が違うだけのおそろいのパーカーを着た、明らかにチンピラ然とした少年のチームが、何事か小声で相談しながら、リヒットを追いかけていました。
ひとりはマッチョ、ひとりは痩せたメガネ、ひとりは手の甲に刺青を彫り真っ黒に日焼けした三枚目。
リヒットがビル風に煽られ、地に脚を着きそうなほど高度を下げたところを見計らい、彼らは早足で距離を詰めます。
そして……
「よぅ、嬢ちゃん。迷子かよ? お兄さん達が送ってやろーか?」
マッチョが声を掛けます。
無視すればいいのにリヒットはその声に振り向き、地面すれすれに浮遊しながら、風に乗るのをやめてしまいました。
そして、性徴の感じられない、男子とも女子ともつかない甲高い声で、鳴くように応えます。
「ん? リヒットはシャボン玉だよ。おじょうちゃんじゃないよ」
「――だってよ、《ノロマ》。タマ付いてるってよ」 …三枚目が気だるげに言います。
「構わねぇさ、《ハチ》。穴はついてるだろーし、最悪サンドバッグ代わりくらいにはなんだろ」 …《ノロマ》と呼ばれたマッチョが応えます。
不穏な会話が彼らの間で交わされるのを(メガネは黙っていますが)、リヒットはぼんやりと眺めています。
「まァまァ。お坊ちゃん、おめェみたいなチビが歩くにはここは危険だぜェ? 俺たちと一緒に、アッチで遊ぼうぜ?」
《ノロマ》が、汚らしく腕毛を生やした右手を伸ばし、リヒットに掴みかかろうとします。
■リヒット > 「んー、リヒットは歩いてない……」
生真面目に返そうとしたところを、不意に路地を風が駆け抜けました。
それに首根っこを掴まれたかのように、リヒットの身体はふわりと巻き上げられ、見る間に地面から離れていきます。
「――ちょ、オイ、待てよテメェ!」
そう怒鳴り散らしながら、《ノロマ》が地面を蹴り、跳び上がります。……あっという間に、その身体は宙に浮いたリヒットの高さを越えてしまいました。
《ノロマ》はただのマッチョではありません。身体強化の異能を保持しているのです。最も単純で、最も落ちぶれやすいタイプの異能……。
「とりあえず動けなくしとくぜ。話はそれからァ…!」
長い滞空時間でそう言い放ちながら、《ノロマ》はリヒットの頭上で身体を捻り……風切り音がその巨大な体躯の背後で響いたかと思うと。
安全靴の踵が、うなりを上げながらリヒットに襲いかかりました。重力加速度を載せた踵落としですが、その勢いはまるで隕石のごとく。
「ひっ……」
甲高くか細い悲鳴が響くのもわずかの間。鉄鋲や鉄板を打って強化された踵がリヒットの二の腕に食い込み、その中にあった枝のように細い骨が砕ける感触を覚えました。
戦闘時のアドレナリン分泌で鈍化する意識の中で、《ノロマ》はいつもどおりの手応えにニッと口の端を吊り上げますが、それはすぐに訝しみの表情に変わります。
……反動が、異常なまでに軽いのです。猫などの小動物はおろか、枕を蹴った時だって、もう少し重い手応えを感じたはずです。
「………!?」
そして、踵に伝わるその不自然に軽い肉感ですら、次の瞬間には消えてしまいました。そう、リヒットが消えてしまったのです。
彼の身体があった場所には、代わりに数滴の水滴が浮かび、放物線を描いて放射状に散っていくように見えます。まるで、シャボン玉が割れたときのように。
相手の身体を捉えることで勢いを減殺する《ノロマ》の目論見は外れ、まるで空振りも同然の踵落としの加速度を殺しきれず、地面にヒビが入らんかという速度で地団駄を踏みました。
「……ッてえー…!! なんなんだアイツ!?」
……リヒットは、壊れて消えてしまいました。
■リヒット > ……ふわり。粗雑なコンクリ造りのビルとビルの間、猫ですら通過に難儀しそうな狭い空間から、小さなシャボン玉が舞い出てきます。
「……リヒットは死んじゃったよ。痛くて、壊れて死んじゃった。かわいそう」
シャボン玉に続いて、青髪の小人がその隙間からツルリと現れました。
「痛いのはよくないよ。泣いちゃうよ?」
「――オイ、《ドク》! 一体全体どーなってんだこれはよォ!」 《ノロマ》がメガネの方に向けて青筋を浮かべながらどやします。
「わかりませんねェ。転移能力には見えませんでしたがァ……」 《ドク》と呼ばれた男が、汗でズリ下がる眼鏡を直しながらのろのろと応えます。
どういうわけか、生きていたリヒット。その腕も肩も健在で、五体満足の様子。
そして、あいも変わらずぼんやりとした表情のまま、怖い男たちの談話をなおも見つめています。
……その小人に向けて、《ドク》が手を突き出します。
右手中指に嵌められた金色の悪趣味な指輪が不吉な光を放ったかと思うと……リヒットの周囲の大気が、にわかにチリッと緊張したように感じます。
「……とりあえず、空間を強化して転移を防いどきましょうかァ」
《ドク》は野良魔術師のようです。妨害魔術に加え、各種の精神操作術も自慢としています。
そんな《ドク》の威圧的な眼光、魔力の奔流に対しても、リヒットの表情はボケッとしたままです。
■リヒット > 「おにーさんたち、怖い。あと、まだ昼間だし、お仕事したほうがいいよ?」
神経を逆撫でするような台詞を、さも当然であるかのように言い放つリヒット。無邪気ゆえの所業でしょうが、その言葉に、いままで静観していた《ハチ》が一歩前に出ます。
「――なァ、いい加減ヤッちまっていいだろ? まだるっこしいんだよ、ガキ相手は」
「お、おう。別に死んじまっても使い道はあるだろうし」
――ガァァァァン!!
《ハチ》の問いかけに対する《ノロマ》の応答が終わるのを待たず、雑居ビルの路地に銃声が響きました。
いつの間に突き出したのか。いつのまに構えていたのか。《ハチ》の右手に握られた拳銃が、硝煙をたなびかせていました。
『刺青に道具を収納する異能』と、卓越した射撃術による暗殺業。それが《ハチ》の生業でした。ある意味、言われたとおりに『お仕事』をしたと言えましょうか。
銃口は正確にリヒットの頭部を捉え。銃声にやや遅れて、リヒットの軽く小さな身体は、空中でキリモミを始めていました。
水流のようにつややかな青髪を振り乱し、舞い飛ぶリヒット。いくつかの髪束はリボンのように、リヒットから離れていきます。側頭部の頭蓋を破壊されたのでしょう。
出血は見られません。代わりに、着弾点からは髪がちぎれ飛ぶと同時に、小さなシャボン玉が無数に飛散していきます。
……即死と思える銃撃を頭部に受けたリヒットが、竹とんぼのようにくるくると回転し。
そして先ほどと同様に、石鹸水の飛沫だけをわずかに残して消えてしまいました。無数に散ったリヒットの欠片も同時に消失します。
「――やっぱりダメじゃねーかよォ! めんどくせーなオイ!」
《ノロマ》の呪詛が響きます。
■リヒット > 先ほどリヒットが現れたビルの隙間を油断なく注視する、パーカーの3人。しかし、別の路地裏から、リヒットは再出現しました。
「リヒットは、死んじゃったよ。頭いたいいたいってなって、辛くて死んじゃった。かわいそう」
背後から響く甲高い声に、3人はビクッと肩を震わせ、振り向きます。
子供の声というのは、なんと神経を苛立たせるものなのでしょうか。《ノロマ》はボサボサの髪をちぎれんばかりに掻き乱します。
「あ゛ーッ!! もう、わかったわかった!! 知らねぇ、こんなヤツ! 帰ろうぜ、オイ!」
その叫び声に、返事も同意の素振りもなく、《ドク》も《ハチ》も踵を返しました。《ノロマ》ほど露骨ではないですが、同意見だったのでしょう。
早足に向こうへと去っていく3人の若者を、リヒットは首を傾げながらも、小さく手を振って見送っています。
「またね、おにーさんたち。今度は痛くしないでほし……」
聞こえるか聞こえないか程度の声量で呟くリヒット。その頭部が、前触れ無く破裂しました。
《ノロマ》が、路地に落ちていた空き缶を蹴り飛ばしたのです。イライラの限りを載せて射出した蹴りの勢いは、空き缶を銃弾……否、砲撃に変えました。
リヒットの小さな頭部を容易く貫通し、さらに背後の建物の壁にひしゃげた破片をめり込ませました。ズゥン……と区画に鈍い音が響きます。
数瞬遅れて、リヒットの存在は三度、壊れて消えました。
■リヒット > 「……ゴミは、ゴミ箱へ……」
先ほど自分の頭部を破壊して壁に突き刺さった薄い金属片を、五体満足のリヒットはぼんやりと見上げ、指で弄っています。
コンクリートに亀裂を作って深々と埋め込まれたそれは、リヒットの力では引っ張り出すことも難しいでしょう。
しばらくして諦め、3人組に出会う前と同じようにまた風に乗り放浪を始めるリヒット。空き缶を弄っていた手指の匂いを嗅ぎ……。
「つん、ってする……」
空き缶についていたのは、果汁の匂い、のようなそうでないような。腐り、酢に変わり始めているようです。
この区画に入ってから、あちこちから『汚れた匂い』を感じます。清潔でない、ある意味『生活感』のある匂い。
リヒットにとってどちらかといえば、慣れ親しんだ匂い。居心地がいいかと言われれば違いますが……。
「……シャボン玉を割るのは、よくない」
故郷にもいました。シャボン玉を飛ばした端から、あらゆる手段をもって割ろうと躍起になる子供が。
きらきらした綺麗な飛膜の移ろい、風に弄ばれて漂う軌跡に楽しさを見いだせず、他の子供が泣くような真似ばかりする、ガキ大将。
大人にしょっちゅう怒られていたのを思い出します。
……先ほどの彼らは、大人のように見えましたが。もしかすると、この世界の大人は、故郷の世界の大人とは概念自体が違うのでしょうか。
「……おしごとしないの、よくない」
ご案内:「スラム」にリビドーさんが現れました。
■リヒット > 先ほどの騒動もあってか、リヒットを観察する視線は少なくなっています。それでも、街並みのあちこちには人の息遣い。
――この『街』は、リヒットの想像以上に広いようです。そして、人間も多いようです。
洋上に浮かぶ島であることは、入学手続きのときに大雑把に教えられましたが、その島の半分以上に人間が入植しているとは、なかなかの人口密度です。
転移荒野から、居住区へ。学園地区から研究区へ。そして、南下。
放浪によって島の雰囲気を掴もうとするリヒットの試みは、いまだ途中といえますが。場所場所によって、その生活様式も多種多様のようです。
「……どこで、寝ようかな」
とりあえず、蒼穹さんに出会うまでは常世公園の池に棲んでいました。
しかしそのことを学園に素直に打ち明けると、『公園は公共の場所だからやめてね?』とやんわりと否定されてしまいました。
まぁ、仕方ないことです。
貧民街の生活感は馴染み深いものがありますが、悪い人も多いようです。
とりあえずは、言われたとおりに『異邦人街』に行ったほうがいいのでしょう。蒼穹さんもそんなことを言っていた気がしますし。
フワフワと所在なげに、リヒットは路地を舞っています。その動きはかろうじて南を目指してるとも見えなくはないでしょう。
■リビドー > 「……また間違えたか。
好い加減、どうにか調べてから足を運んだ方が良さそうだな……。」
道に迷ったような口ぶりで呟く年若そうな男が、混沌としたスラム街へと足を踏み入れました。
顎を触りながらふむと頷けば、ぼんやりと空模様を眺めます。
特に降雨の心配は無さそうだと察してしまえば、視線を路地に戻します。
そうしてみれば、何処かへと歩き出す小さなものをみつけました。
リビドーの身長の半分、ぐらいでしょうか。
「……ん、珍しいな。」
異邦者、あるいは精霊の類だろうかと思案すれば、物珍しそうに独り言を呟きました。
■リヒット > またしても、視線を感じます。
……否、それはこれまでに感じていた、厭世的な住人の抑圧した好奇の視線でも、弱者を肉塊か金塊としか見ていない捕食者の眼光でもなく、どこか無垢な興味の色。
場にそぐわない、整った着衣をした少年の姿を、路地に認めました。
リヒットはくるりと身体を一回転半ひねると、風に乗って膨らんでいた雨合羽を翻し、その少年の目の前に静かに降り立ちます。
「ぷー。リヒットはめずらしい?」
くりんと真ん丸な瞳は紺碧。丈の合わない雨合羽の下に、細く小さな肌色の四肢がぼやけた像を作っています……身長はおそらく少年の半分以下でしょう。
白く曇った雨合羽を羽織ったその姿は、どこかてるてる坊主に似てるかもしれません。
首を傾げながら、貴方を見つめています。
■リビドー > 「……と、ああ。少々珍しいね。」
整った衣は、多少なりとも眼を引くかもしれません。
とは言え彼は意に介する様子もなく堂々とした立ち居振る舞いを見せています。
「ああ、珍しいね。……迷子かい?」
青い髪と青い瞳に雨合羽。
どこか水模様を覚えれば、芋づる式にてるてる坊主を連想します。
無邪気な子供だ、とも思ったかもしれません。
見つめられれば、柔らかく微笑んで見せました。
貪欲な気配は一度、隠しましょう。
■リヒット > 「んー……」
迷子か、という問いには、首を深く横にかしげ、しばし思案する様子を見せたのち
「うん、リヒットは迷子。『いほーじんがい』に行けって言われてたけど、ここはきっとちがうよね」
こくこくと縦に頷きながら、素直にそう告白します。長く伸びた髪が揺れ、スラムにそぐわない清潔な石鹸の香りが漂ってきます。
そして、再び少年を見上げ……。リヒットの脚は地についていないようですが、それでも首をぐっと持ち上げて見上げるほどに、小さい体躯です。
カーディガンを爽やかに着こなす少年を、碧玉のような眼球に映しながら、リヒットは歌うように喋ります。
「おにーさんも、迷子? それとも、おにーさんもリヒットを壊す?」
その表情は真顔。恐れも戸惑いも、嬉しさも見て取れないかもしれません。
■リビドー > 「異邦人街……ああ。」
小さな彼の歩いていた先を見ます。恐らく南、だったと思いました。
恐らくこのまま順当に歩けばたどり着くなと、そう思案しました。
「ボクも迷子と言えば迷子だけど、帰り道は分かるから大丈夫だよ。
……ふむ。今のキミに気に入らず許しがたい要素はないし、こわさないとも。」
感情を見せず真顔で尋ねてみせる彼へとしゃがんで眼を合わせれば、柔らかい口調を作ってそう答えました。
感情こそ無い表情に見えるとは言え、軽率にそのように扱うべきではないと思ったのかも、しれません。
■リヒット > 「こわさないなら、よかった。こわされてばかりじゃ、シャボン玉はつまらないから」
歌うように吟じる声の色が、どこか朗らかになったような気がします。表情は相変わらず真顔ですが。
「さっきは、怖い男の人に、3回もこわされちゃった。あんまりよくない遊び方だから、やめてほしいなって思う」
人差し指一本だけ立て、自身のこめかみをコチョコチョと弄っています。少年が来る前に、ちょうど銃撃されたあたりの箇所です。
……そこには傷跡一つありませんが。
そして、きょろきょろと周囲の様子を軽く伺ったのち、視線を合わせるように屈みこんだ少年の顔を、まっすぐに見つめ込んで来ます。
「リヒット、『がっこう』に行くことになったんだけど。おにーさんも、『がっこう』のひと?」
常世公園に棲んでいた頃、少年少女が皆似通った衣服を着て往来していたことを思い出します。
目の前の人物は、背格好こそその少年少女たちに近いものがありますが、衣服は似ているようで違う……ような気がします。
■リビドー > 朗らかな声が弾んでいる辺り、元気になった、と推測します。
顔に出ないだけなのだろう、と、仮説を立てて言葉を返します。
「シャボン玉。ね。」
そう言われてみればと思えば、頭の中でイメージを更新します。
てるてる坊主から、しゃぼんだまっこ?にイメージを書き換えました。
「そうだな。ここはイライラしている人ばかりだからね。
『がっこう』に行く人は近づいちゃダメだよ。……ふむ、『がっこう』の『おしえる人』、先生だとも。
……キミが一般的な生徒なら、教師として」
装いも見た目も若く見えますが、これでも立派かどうかはともかく教師の一人です。
シャボン玉が好きなのか、あるいは別の理由かと思考しながらも、今は目の前の彼に調子を合わせます。
■リヒット > 「せんせい……!!」
瞳がいよいよ真ん丸に見開かれ、先生を自称する少年の顔立ちや身なりをまじまじと見つめて来るリヒット。
四肢を動かすことなくスライドするように浮遊して顔を近づけ、鼻と鼻が触れ合いかねない距離までにじり寄ってきます。
複数の柑橘類と複数の花の香りを絶妙にミックスしたような、清涼感と安堵感を同時に感じさせる芳香が、リヒットの頬や鼻っ面から漂います。
「せんせいだ……。おしえるんだ。すごい。
『もじ』の読み方や書き方もおしえてくれるの? 『けいさん』のしかたもおしえてくれるの?
『とこよじま』の話もおしえてくれるの? おにーさん、せんせいのおしごとなの?」
色素の薄い唇を動かし、まくし立てるリヒット。と言っても、入学手続きの折に言われた文句をそのまま返しただけですが。
「リヒットはおべんきょうをしたい。そうしたほうがいいって、ソラ(蒼穹さん)に言われたから。
まだ、生徒じゃないけど。もうすぐ、生徒になる……かも? よくわかんないけど、なりたい」
顔を離し、再び真向かいになって、先生の顔に無垢な視線をそそぐリヒット。
いつの間にか、その周囲には小さなシャボン玉が数個、ふわふわと漂っています。
その色は鮮やかな山吹色で、無機質なスラム街にまるで一輪の花のように彩りを与えているようです。
■リビドー > 「ああ。ボクだって、ボク以外だって教えてくれるとも。
でも、此処は危ないから、『学校でな』」
見開かれた瞳に見つめる視線。
とことこ近付く小さな彼の姿は自身に強い興味を抱いていると察するには十二分なものでした。
(石鹸……にしては甘い匂いだな。)
まくし立てる言葉は、学校への憧憬や"これから"への希望や意欲の洪水のようにも思えました。
(意欲があることは好ましいとも。)
そっと流れを整えるように小さな彼の頭へと手をやろうとして、あわよくば、なでてみせようと手を伸ばします。
「ん、そうだな。これから生徒になれると思うよ。
楽しみにしておくといいさ……で、異邦人街に行くんだったかな?
目的地があるのなら、そこまでは送るとも。」
■リヒット > リヒットは、水の精です。そして、石鹸の精でもあります。
リヒットの額や髪に触れれば、その感触はとても冷ややか。人間だと思って触れれば、不自然な冷たさに感じるでしょう。
髪はしっとりとして、指を伝って流れる毛髪はまるで清流のさざなみのよう。皮膚は湿潤感の中にわずかに石鹸の滑りも感じられるでしょう。
……触れてくる手ざわりに、リヒットは抵抗の素振りは一切見せず、目を細めて受け入れます。
「そーだね、ここはあぶない。学校じゃない。
リヒットは学校行ってみたいけど、次また呼ばれたら行くってことになってる」
行きたくても学校に行けない連中も、スラムには多数居るでしょう。
そんな奴らが聞いたら逆上して襲ってきそうな台詞を、リヒットは恐れの素振りも見せずに復唱します。
「リヒットのおべんきょうは、『しょーがくせい』か『よーちえん』の内容になる、って言ってた。
よくわかんないけど、おべんきょうできるなら、先生と会えるなら、リヒットはそれでいい」
小人であることを差し引いても幼い容姿。それにも増して幼い口ぶりから、相当程度の低いカリキュラムになりそうなことは察せられるとは思います。
とはいえ意欲は万全です。これまで故郷にいても縁のなかった『先生』という役職と話せるということも、モチベーションの1つではあるのです。
「送ってくれるの? 先生、やさしい。先生って、大人なんだね。
『いほーじんがい』に行けとは言われてるけど、そのなかのどこに行けってのは聞いてないから、寝るところは適当に探そうと思う。
……なんか、いい感じの池とかあるかなぁ」
■リビドー > (ん……冷たいな。)
人には在らざる冷めたさとしっとりとした感触をその手に感じます。
不気味な冷たさと言うよりは、流れる水や透き通るような風邪のような爽やかな冷たさ。
その涼しさは、空気が篭もるようなスラムの路地に於いて、リビドーに清涼を齎してくれました。
「そうだな。次に呼ばれたら迷わず行かないとな。」
咲き誇るシャボン玉の数々に視線を移します。鼻をくすぐる良い香りです。
このようなものはなかった事や、小さな彼の口ぶりから察するに、小さな彼が出したものでしょう。
そう判断を付けて、視線を戻しました。
此処には学校に行きたくても行けない人が居るでしょうが、
目の前の小さな彼に遠慮する事もさせる事もありません。
危険こそは増してしまいますが……睨みを聞かせておくことにしました。
「うん。それは"はじめに勉強を学ぶ"人の学問だ。
勉強する人の殆どは、其処から学ぶんだよ。さいしょから教えてくれる、ってことだとも。」
「ん、異邦人街に、か。ふむ。
また呼ばれたら、ってことは一度は行ったのか。この学園は冷酷な所も在るといえ、
(特異な、の言葉を飲み込み)小さな子供寝る所の手配もなしに放り出す事も無さそうとは思うが……
……何か、紙とか封筒とか、貰っていたりしないかい? それとも、池の方がいいのかな。」
■リヒット > 「もらったもの……」
呟き、しばし首を傾げて思案するリヒット。
着衣は半透明のビニール製の雨合羽で、その下は素っ裸のように見えます。鞄の類もなく、その身1つ以外に何も持っていないように見えるでしょう。
……しかし、何かを思い出したように首を元に戻すと、雨合羽の袖を振り、シャボン玉を1つ作り出します。
それをすぐさま小さな手指で摘むと、どういう手品か、シャボン玉は1枚の小さな封筒に変化しました。
「もらったもの。紙。『がくせーしょーのかわり』って言ってた。他のやつは、白い服の人にあげた」
北の方……研究区のある方を指さしながら、目の前の先生に、ほんのり湿って柔らかくなった紙封筒を差し出します。
中を見れば、そこには数枚の紙。1つは、履歴書めいたフォーマットの枠線が書かれた紙です。
とはいえ、いきなり転移してきた異邦人の常として、欄のほとんどは埋まっていません。名前と写真の欄程度です。
常世学園の印が押されたそれは偽造防止の魔術が施され、本入学までの『仮の学生証』として機能するプリントのようです。
さらにそれに包まれるように、ボールペン書きのメモ紙も入っていました。
地図のようです。異邦人街のはずれにある、小さな公園の位置を示しているように見えます。池だか温泉だかわからない、水溜りめいた図も見えます。
どうやら、常世学園の受付の人にも同様のことを言い、池に棲むように手配してもらったようです。あまり子供向けの地図とは言えない、雑な描き方ですが。
「リヒット、水がないとからからで壊れちゃうから。人間のおうちよりは、川とか池のほうが、すき。
……でも、その地図、よくわかんない」
■リビドー > (ふむ。)
特異な収納術を一つ眺めれば一つ唸って、
取り出された其れの中身を改めてから概ねの目星を付けました。
……成る程と一つ零して小さな彼――リヒットへと柔らかい口調で語りかけます。
(……あの子にはちょっと厳しいかもしれないな。
直観的に察しを付けられる子も居るかもしれないとはいえ、この島の地理を分かってる奴の描き方か。)
一旦封筒を返してから改めて屈んで、リヒットの眼を見て語りかけます。
「このまっすぐな線を引いてある紙は、キミがここで暮らす為の紙だから、大事にしなきゃダメだよ。
……ん、地図であることは分かるのかな。ボクならこの場所が分かるけど、一緒に行くかい?」
■リヒット > 封筒を返されると、リヒットは身分証だけを封に仕舞い、パチンとその紙を指で弾きます。
……すると、その封筒がまるでシャボン玉のように、数滴の石鹸水の飛沫だけを残して消えてしまいました。
リヒットはシャボン玉なので、その所有物もシャボン玉なのです。
「んー、地図。地図なのはわかるけど、場所は今はわかんない。
『いほーじんがい』に行ってあちこち見て回ってれば、そのうち分かるかなって」
地図は手元に残し、じろじろとその図を睨みながら呟きます。なんとも気楽な考えです。
「だから、連れてってくれるなら、一緒に行く。
……なんなら、先生もいっしょに泳ぐ? この街はあついから、池で泳ぐときっとひんやり気持ちいいよ。川のほうが好きだけど」
ふわりと雨合羽を風に乗せ、目の前で躍るように身体を翻し、空中を泳いでみせるリヒット。その所作はなんとも楽しげです。
数回舞ってみせたあと、姿勢を正してまた先生を見つめなおし。
「……そういえば、リヒットはまだ先生の名前を知らない」
■リビドー > (所有物をシャボン玉に。
……ふむ、幾つか仮説は立てられるが)
単純にシャボン玉に変化させる能力か、
"それ"も所持と言う形でシャボン玉(水玉か?)を構成する要素なのだから、
当然"それ"はシャボン玉であると言う因果律の制定か。
もしくは転移魔術であり、シャボン玉はその際に生じる時にモーションなのか。
色々浮かぶが、一旦於いておくことにしようと、リビドーの彼は思いました。
(今考える事でもあるまい。)
とは言えわずかにでも思案に耽っていれば、一旦気が外れてしまいます。
一緒に泳ぐ、と、声を掛けられた所でようやっとリヒットと会話していることを思い出しました。
「……ああ、一緒に行こう。でも、そうだな。
先生は先生でやる事があるから、次の機会にしようかな。
どうせならゆっくり、泳ぎたいものさ。」
そして、名前を尋ねられました。
丁度良いタイミングでもあるので、名乗る事にしたのでしょう。
ゆっくりと、滑舌を意識しながら声を発します。
「ああ。そうだね。ボクの名前はね。
リビドーって言う先生だよ。ま、宜しくな。」
■リヒット > 「りびどー。それが先生の名前。これはリヒット。よろしく」
自分の鼻っ面を指さしながら、リヒットはこれまで何回も自称してきた名前を改めて唱和します。
「名前、似てるね。おもしろいー」
そう呟くリヒットの声色も表情もさして楽しげではないですが、目の前でくるくると身体をくねらせながらシャボン玉を振りまく姿は一応楽しげです。
「リビドー先生は、先生がおしごと。リヒットはまだ生徒じゃないけど、もうじき生徒になるリヒットにおしえてくれる。
……うん、じゃあ、遊ぶのはまたあとだね。おしごとしてる人とは遊んじゃダメって、いわれてる」
こくこくと頷きながら、リヒットは先ほど封筒にそうしたのと同様に、空中に向けてデコピンを繰り出します。
すると、周囲を漂っていた鮮やかな色のシャボン玉が一斉に、ピャッというかすかな音を立てて割れてしまいました。
「リヒットは、リビドー先生についていくね。ありがとう」
一時、リビドー先生が見せていた、考え込む仕草と表情。そこに、『先生』という仕事の雰囲気を感じ取ったのでしょう。
腰を曲げ、浮いたままで恭しくお辞儀をします。自分の能力について思案を巡らせていたなどとはつゆ知らず。
……まぁ、この島で特異な能力を持った異邦人は、少なからずや『実験体』の扱いを受ける運命なのでしょうが。
■リビドー >
「リヒットだね。確かに覚えたとも。
確かに、似ている名前だね。うっかり間違えてしまいそうだよ。」
軽く笑ってみせながらも、
無邪気だな、なんてことも思ったかもしれません。
もしかすれば、偶然にもシャボン玉が触れたかもしれません。
どっちにしても、すぐに割れてしまった模様ですが……。
「とは言え、ずっと先生のお仕事をしている訳じゃないからさ。
先生のお仕事をしていない時なら、遊べるぜ。」
砕けた調子で声を弾ませてみせてから、屈んでいた姿勢から立ち上がります。
そして、お仕事している人と遊ばない事や恭しくお辞儀をした所を見て思います。
……知識や教養に足りない所は有るものの、決して其れが彼にとって埒外の常識ではない。
"寧ろ貪欲に知ろうと学ぼうとしており、排斥せずに取り入れている。"
純粋さ故もあるかもしれないが、小さな彼――リヒットは学べば伸びるだろう。
内心で、リヒットに対して興味を持ちました。
「さ、ついておいで。
先生の傍から離れたらまた迷ってしまうからね。」
声を掛けてから地図を改めて眺めて、方角や大体の経路を脳内で構築します。
数秒かけてそれを追わせれば、その方面へと歩き出すことでしょう。
置いていかないように、ゆっくりとした足取りです。
ご案内:「スラム」からリビドーさんが去りました。
■リヒット > リヒットは、妖精です。
水や風といった現象・概念が擬人化された存在であり、生や死の扱い、思考回路、自分という存在の捉え方に至るまで、人間とは似て非なるモノです。
擬人化という言葉が表す通り、ある程度は似てはいるのですが。とはいえ、水や風は勉強をしません。
果たして、リヒットは『学べる』でしょうか。
リヒットはあくまで『学生』という存在に憧れ、『先生』という仕事を見てみたくなり、『学校』を目指したに過ぎません。
……今後、どのような風が吹くか。シャボン玉の行き先は誰にもうかがい知れないでしょう。
「うん、休みの日に、あそぼうね。リビドー先生。
べんきょうもしたいけど、あそびもいっぱいしたい。シャボン玉だからね」
再び、雨合羽の裾からシャボン玉を漏れ出させ、アヒルの子のように後ろを連れ歩かせます。
仕事中のリビドー先生の邪魔をしないように、こっそりと。
少なくともまだ生徒でないうちは、シャボン玉の精であるリヒットの仕事は『遊ぶこと』と言えましょう。
「ぷかぷか~」
歌うように、泳ぐように宙を舞いながら、雨合羽に帆のように風を受け、リビドー先生の後をついていきます。
そのまま、異邦人街のほうへと、2つの人影は消えていきました。
ご案内:「スラム」からリヒットさんが去りました。