2016/06/08 のログ
ご案内:「スラム」にカインさんが現れました。
カイン > それは、ランプだった。
他に言い表しようもない。
油差し、水差し。様々な呼び名があるが、それらはこの際重要ではない。
それは、ランプだった。

それはスラムには似つかわしくない、異国情緒溢れる姿で、ゴミ捨て場に転がっていた。
薄汚れ錆びついた、しかしどこか不思議な威厳のある姿で、街灯の光を鈍い金の光に変えていた。

ご案内:「スラム」に伊織 六郎さんが現れました。
伊織 六郎 > フードを被って顔を隠し、足早に道を歩いていく。
こんな場所に長居をしていいことなんか1つもないのだから。

歩く方角からして、歓楽街を目指して落第街を抜けようとしているのだろう。

季節に合わないジャンパーコートを着込んだ背を丸めて、ポケットに手を突っ込んで、誰とも関わらないようにしながら先を急ぐ。

そうしてゴミ捨て場を通り過ぎて…………足を止めた。

少しの間そのままで、そして振り向いてゴミ捨て場の方を見た。

「―………… ぁ?」

金色の光に吸い寄せられるように、ゴミ捨て場の方へと、歩く。

カイン > それは、ランプだった。
ただそれだけだ。
ただただ、そこに似つかわしくないというだけの、普通のランプにしか見えない。

しかし、あなたがこのランプを見た時、確信に近い感情が、貴方の中に湧き上がる。
『このランプの中には何かが潜んでいる』と。
悪しきものか、良きものかもわからない。そもそも、本当に潜んでいるのかもわからない。
しかし、このランプの中には何かが居るのだ、と。そう思ってしまうという何かがあった。

古ぼけた、みすぼらしい、錆びついた、薄汚れた。
しかし、奇妙なほど威厳のあるランプだ。

伊織 六郎 > 何度も周りを見て、誰も居ないのを、視線も感じないのを確認する。
武術や魔法の達人でも何でもない、自分に見分ける力なんてほぼ、ないが。

「…………んーだコリャ。
 何かのマホーの道具か何かか?」

ランプを手に取ろうとそろり、そろり、と手を伸ばす。
触れる寸前にも、もう一回だけ、周りを見て。

「………………まさかぁ、なあ。
 そんなモンは、ねぇよなあ、流石になぁ。」

思い浮かぶのは子供でも知っている物語の小道具。
ほんの少しだけ指先をランプに触れさせて、何も起こらなければやっと、片手で持ち上げるだろう。

カイン > そのランプの表面には、奇妙な文字でたくさんの彫り込みが書かれていた。
文字の種類は、おそらく誰が見ても「分からない」という認識に落ち着くだろう。
その文字は埃と錆で覆われており、大半が中に隠れている。
埃を拭えば、読めるかどうかはともかくもっと見ることは可能のようだ。

「……………。」

ランプは、妙に温かい。
というより、指が触れた箇所が奇妙に暖かくなっているように感じるだろう。

伊織 六郎 > 持ち上げたランプをフードで隠れた顔の前に持ってきて、上下左右に向きを変えて……しげしげと眺めているのだろう。

「………………読めねぇし。
 ……でも、売れるかなあ、コレ。」

触って感じる熱か、熱のような何かに両手でランプを持ち直す。
そのまま暫く、動きを止める。


「呼んだら出てくんのかぁ?
 それとも……」

物語そのままに、擦ればいい、とか?
そんなモノがあるかと、いやさ、あったとして何でこんなゴミ捨て場にあるものか。

だから。

「…………へっ。」

小馬鹿にしたような短い笑いを漏らしながら、ランプを軽く片手で擦った。

カイン > 擦られた。おそらくは、物語そのままに。それがトリガーだったのか。

一瞬にして、そのランプは燃え盛った。正確に言えば、ランプが燃えたわけではない。
ランプの口の部分から、尋常では無いほどの勢いで炎が吹き出し、目の前に火柱を生み出した。
ランプは赤熱して、異常なほどの熱で持っていることすら困難な程に。
その熱で生み出した蜃気楼に姿を溶かし、ランプの姿は何処かへ消えていった。




『我を呼び出したか、人間。』

辺りに、地響きのような重苦しい声が響く。炎が揺らめく。暴風と熱が吹き荒れる。
目の前の巨大な炎の中を引き裂くように、何かが現れた。

それは、人のような「何か」。
高さは2mをゆうに超え、黒曜の肌を持つ。黒曜のような、ではない。黒曜が肌なのだ。
ひび割れた黒曜の肌のあちこちからは、朱色の光がチラチラと踊る。
その体は筋骨隆々で、ふと見れば彫刻のような美しさも持つ。
しかし、その腕は明らかに人間ではなかった。6本だ。3対6本の腕を持った、黒曜の魔神。
そう表現するのが正しいだろう。

さらに、その顔には鼻がなかった。口もない。つるりとした、のっぺらぼうのようなものだ。
だがその顔には、炎よりも更に赤く力強く燃える、6つの目があった。

伊織 六郎 > 火を噴いたランプに間の抜けた声が出た。
そんなコトあるわけねーだろ、と笑う予定だったハズだったのに、本当に、ナニカが出た。

「は?
          うぁっづぁあ!?」

指と掌を焦がすランプの熱量で正気に戻って、反射的に手を離す。
そのランプは地面に落ちる前に消え去った。



目の前の火柱が。
それを割って現れたバケモノの姿が、それに取って代わった。

吹き荒れた風にフードを飛ばされ、露になった不健康そうな顔が炎に照らし出される。

熱によって荒んだ目を更に細めるハメになり、最早睨んでいるといった方が正しい目つきで目の前のバケモノの顔を見た。

「…………っだそりゃ。
 マジか、マジで   ランプのナニカかよ?
 
 …………呼ぶ気があったわけじゃあねえが、まぁ……オレが呼んだ、のか、な……」

カイン > ゴウゴウと燃える火の柱を背に、6本の腕を器用に組みながら魔神は立つ。
時折体を揺らしては、体中のタトゥーのような亀裂から、小さく炎を吹き上げる。
辺りは昼のように明るく、砂漠のように乾き、そして地獄のような灼熱へと作り変えられていた。

『誰が呼んだかはどうでも良い。
 我を呼び出したということは、つまりそういうことだ。』

そう言うと、目の前の怪物はぐっと体を屈め、顔を六郎の顔へと近づけた。
それだけで、怪物が放つ熱気が、顔をダイレクトに襲う。

『一つだ。一つだけ、貴様の願いを叶えてやろう、人間よ。
 ただし条件がある。』

まるで、実際のおとぎ話のようなことを紡ぎ上げる。
その条件というのは、その次に続いた。

『一つ。叶えられる願いは我が決める。
 こちらも、慈善で願いを叶えているわけではないのでな。
 こちらで叶えるのが不可能だったり、叶えるのに長期の従属・期間が必要となるものは却下する。
 二つ。願いの叶え方も我が決める。
 手っ取り早く叶える方法があるなら、過程は我の裁量で決めさせてもらう。
 三つ。』

そう言うと、魔神はぐっと顔を顰める。

『人は殺さん。』

伊織 六郎 > とりあえず、何歩も後ろに下がって距離をとる。
ぶっちゃければ、怖いのとそれ以上に 熱い! とても傍に居られたものではない。

今このときばかりは、寒いどころか、熱くて吐き気がしそうだ。
額に滲んだ汗を乱暴にジャンパーコートの袖で拭いながら、近づけられる顔の分だけ、更に後ろに下がる。

このままでは焼けそうだ。

「………………んーだそりゃ、細っけぇな。
 もっと大らかなモンじゃなかったか?ランプのバケモンったらよ。

 別に、誰か殺って欲しいモンもいやしねぇがよ…………
 オマエ、何ができんだよ?」

知っているのは 何でも願いを三つ だった気がするのだが。
細かくもツラツラ言い出す内容に、あと、暑さで顔を歪めて苦笑いした。

カイン > 怪物は、六郎が後ずさりして離れるのを見ると態勢を直立へ戻した。
そして、大きく腕を振ると、後ろの炎を裏拳で殴り付ける。
すると、一瞬で火柱は消滅した。高熱は辺りに漂っているが、先ほどの吐気がするほどの熱は消えてなくなった。

『言っただろう。我も慈善で願いを叶えているわけではない。我には我の目的がある。
 加え、我の目的は不特定多数の願いを叶えることだ。
 いちいち人間の願いに付き合って面倒事や束縛に巻き込まれる気はない。』

そう言って、腕組みを解く。硬いものが擦れるミシミシという音が辺りに聞こえた。

『この拳と炎で叶えられるものなら、なんであろうと。
 この近くには何者かの宝物庫もあろう。望むならそれを奪って来ようぞ。
 しかし、現代の人間は斯様な吹けば飛ぶような紙切れを好むのだな』

どうやら、銀行か何かのことを言っているらしい。
暗に『金を要求したらダイナミック銀行強盗をかます』と言っているような気がする。
いや、多分言っている。脳筋のようだ。

伊織 六郎 > 目の前で消失する炎に苦笑が凍りつく。
一瞬で吹き散らされた熱と炎に、目の前のバケモノが自分にはどうしょうもないものなんだ、と再認識した。

「そんなら何でゴミ捨て場に転がってんだっつーの。
 こんなトコロで言われる願いなんぞ、大抵クズばっかりに決まってんだ。」

とりあえず、さっきはランプを売り飛ばそうとしていたわけで。
まぁ、撃った方が良かったのかもしれないが……

「じゃあ、かn…………」

ド直球で金を要求しようとして、途中で黙った。
言い切らずに済んだ。

"金"といったらもしかして、炎の塊がどこぞの店でもどこでも突っ込んでいって、強盗してくると?

こんな、クズしか居ない場所で大暴れして強盗して、その金をくれると?
冗談ではない、誰がどう見ても

  このバカヤロウが火達磨のバケモン使って強盗かました

ようにしか(大筋合ってるが)思われない。
そんなの、明日には報復でコンクリの中で永遠の安息日を得てお仕舞いだ。

「冗談じゃねえ、マジ、冗談じゃねえぞ。
 っぶねえ、今のは、危なかった……  じゃぁ、オレに……」

要求を言い掛けて、寸で止まった。

「………………タダ、か?
 オレから何か払わにゃいかんのか?願う、と。」

カイン > 『クズの願いは御しやすい。金と女、大体はそれで終わる。
 手間がかからなくて済む。』

どうやら、願いの質や内容などは関係なく、純粋に願いを叶える難易度だけを重視している。
要は、「効率的に願いを叶える」事を目標にしているようだ。

『金でなくても良いのか。そちらの方が我には都合がいいのだが。
 まあ良い。言うが良い。』

そう言ってしばらく直立していたが、最後の問いには首を傾げた。

『場合によろう。貴様が狂人で、貴様を我に傷付けさせようとする願いを言えば、貴様は相応の対価を払うことになる。
 腕なり、足なり。ああ、命は取らんが。
 だが、基本的に貴様には見返りは要求しない。』



『既にこちらからの要求は通っている。』

意味深にそう言うと、ギギギと硬いものが擦れる音を立てて、目を細めた。
笑っているのだろうか。6つの鋭い目が、ねじ曲がるように細まった。

伊織 六郎 > 「あぁ……そりゃあ、なるほど、道理だ。
 すぐ終わるわな、そりゃあな……」

確かに。
金か女か力か、そんなもんだろう、この辺にいるチンピラのいうコトなんて。

「安心してくれ、オレはそんな極まったマゾじゃねえ。
 じゃあそうだな……  欲しいモンとか、多くねえんだ。

 …………ぁん?」

要求はない、が、通っている?
意味が、わからない。

細められた目に怪訝な顔と、きっと、ロクなことじゃないという予感もする。

しかしながら、もう  じゃ、オレこっちなんで  と別れる展開は無理だろう。

それに

「オレに炎の魔法でも力でも何でもいいから、身につけさせてくれ。
 寒くて仕方ねえんだ、ずっと。
 だから自分を暖める力が欲しいんだ。」

さっき少しの間忘れた寒気が、少しずつ戻ってきている。

ランプから噴き出した炎が、炎を割って現れた姿が、炎を吹き消した力が
それを溢れさせている相手が羨ましくなってしまった。

カイン > 『我は人に直接死を願う者以外はどうとでもなる。
 下手に世界平和など願われてみろ。断るのが面倒だ。』

随分リアリストらしい。あまりランプの精っぽくはない。
少なくとも、ランプを擦った少年に付き従って命令を効くタイプにも思えなかった。

『我は願いを叶えることだけが目的だ。貴様等人間の願いを叶える。
 それが我が目的なのだ。…いや、目的ではない。手段だな。』

ギリギリと音を立てて目の形を元に戻す。
そして、ゴキゴキと首を鳴らした。

『我が力を求めるか。しかし理由は珍妙なものだな。
 敵を焼き滅ぼすためではなく、自らを暖めるために、か。……まあ良かろう。その願い、聞き届けようぞ。』

そう言うと、指先に小さな赤い炎を灯した。
その炎はゆらゆらと飛んで、六郎の目の前に浮いた。

『我が炎の一片よ。
 それを手にすれば、我が灼熱の一部を意のままとすることが出来るだろう。
 貴様の寒気も、多少は緩和できるであろうな。なにせ、体も魂も燃やす炎だ。』

そう言って、その姿が揺らめく。
否、揺らめいているのではない。怪物が、爪先から炎に変わり始めている。

『我が名はカイン。
 不毛なる者。万の恵みを絶つ者。その焔は、我が一部。
 恵みを絶ち、大地を焼き、魂をも焦がす獄炎。その一片だということを、ゆめ忘れるな。
 貴様がその気になれば、天にも昇らず地にも堕ちぬ、魂の灰を作ることも可能なのだ。』

何やら、恐ろしく物騒なものを押し付けられてしまったようだ。
はた迷惑である。

伊織 六郎 > 「そんなもん アホか って蹴ればいいじゃねえか。
 世界に平和なんかこねえよ。」

吐き捨てるように、ぺっと地面に唾を吐いた。

そして、目の前に灯される炎に視線を集中した。
この炎があれば、自分の寝ても冷めても、何をしていても背後から這い登ってくる、寒気に抗えるかもしれない。

ゆっくり、両手を炎に翳し……願うように握り締めた。

「     カイン?
 ランプの精、じゃねえのか?

 聖書か何かで読んだぞ、そっち系のバケモンだったのか?
 でもまぁ、そんなこたぁ、関係ねえ。

 どうでもいいんだよ、こまけーコトなんかよぉ。


 何だっていいんだ、オレが焼けなきゃ周りがどーなろうが知ったことか!

 オレはもう、寒いのイヤなんだよ!」

どんな地獄の業火でも、呪いの炎でも何でもいい。
これが幸運だか不運だか知らないし、知りたくもない。

手に入った望みの力にどんな文句があるというのか。

カイン > 『そうだな。世に平和など訪れることはない。
 しかしそれを本気で望む人間が居ることもまた事実。どちらも事実だ。』

ゴキリ、と肩を大きく鳴らす。

炎は、奇妙なほどに熱くない。
温かい程度で、火傷をするような温度ではない。
しかしその炎を手に持てば、その炎は染みこむように体の中へと消えていった。
普通の人間ならば、それだけで内に燃える魂の炎を感じるだろう。
いっそ暑すぎる程度の暑さになるだろう。
望めば、灼熱の炎を手から吹き出すことも可能だろう。

だが、目の前の男はどうなるか。しかし、それはカインの管轄ではなかった。
願いは、『炎の魔法でも力でもなんでもいいから身に付けさせろ』というものだったからだ。
その結果は既に生み出した。

『それならそれで良い。我は人の営みにどうこうと口を出す気はない。
 貴様がそう思うのならばそうすればいい。
 我は「その炎はそういうものだと覚えておけ」と言っただけだ。』

カインの姿は、もう腰まで炎になっている。
そして、最後にこんな事を言った。

『人とはやはり度し難いものよ。』

そう言って、爆風と熱波とともに魔神の姿は消えた。
ランプも消え、魔神も消えた。しかし、しばらく経てばランプはまた現れ、願いを待つことだろう。

ご案内:「スラム」からカインさんが去りました。
伊織 六郎 > 体の中の、真ん中というか、腹の奥というか。
じわじわと内側から染み出してくるような熱を感じる。

どんな災厄のネタだか何だか知らないが、この熱に変えられるものはない。
背筋を這い登る寒気が和らいだ気がした。

「………………へへ、こりゃあ、温いわ。
 ありがとよお、これで寒い寒いって喚かなくて済むわ。」

自分に吹き付ける熱風にようやっと顔をあげ、炎になって消えたバケモノの、カインの居た場所に笑った。

折角、拾った幸運……うん、幸運のはずだ、大事にしよう。
それがどんな危険物だったとしても、だ。

「精々、大事に使わせて貰うぜ。
 たまにはいいコトあんじゃねえか    へへっ。」

伊織 六郎 > そして流石に、そろそろ炎や風やを不審に思って人が来るだろう。

ジャンパーコートのフードを被り直し。
ポケットに両手を突っ込んで、背を丸めてその場を足早に歩き去っていく。

ご案内:「スラム」から伊織 六郎さんが去りました。