2017/02/14 のログ
ご案内:「スラム」に三拍子天歩さんが現れました。
■三拍子天歩 >
血の海。
「話を聞くのは――さっきので最後って言ったはずなんだけどな。この手は何?」
彼女は足首を掴まれていた。弱く頼りない力。もはや掴んでいるとは言えない。
ただ、あまりにもしつこく降り注いだ暴力の雨から逃れるように。
地に転がる女子生徒本人が最も理解しているであろうことを。
これ以上の暴力の先には、死があると。
彼女にそう伝えるために伸ばされた手。
「それで」
ばつん。
その手を、女子生徒の手首を、地面から突然生えたクワガタの顎のような鋏が切断した。――悲鳴は上がらない。
声帯なんて最初に潰されている。
「……悲しいなぁ……」
地面を転がる力さえない女子生徒を尻目に、彼女は地面から一つのアイテムを拾い上げる。
生徒手帳。彼女――三拍子のものではない。その女子生徒のものだ。
すっかり血で汚れているが、折り目も傷もない新品の生徒手帳。
偽装されたものではない――本物の。
■三拍子天歩 >
「スタンスの問題だよね。ヘンゼルとグレーテルが森に迷い込み、凶悪な支配者である魔女を倒して森を出る。
それはハッピーエンドじゃん。
そして君も全てを失い、この街へと足を踏み入れた」
呼吸をしているかどうか、それさえも怪しい女子生徒の傍にしゃがみこんで、彼女は囁く。
「君は助かろうともせずに助けを乞うた――まあ、それはいいんだよ。そんなことを糾弾するほどつまらない人間じゃない。
それは当然だもの。弱者は庇護されて当然。
それで君は――うん、要するに」
ぺしゃり。
彼女が足元の血溜まりに落としたのは、もう一つの生徒手帳。
ここで横たわる女子生徒が、ほんの昨日まで大事にしていた、偽装の生徒手帳。
「帰り道を間違えたんだね」
本物の生徒手帳は、パンツのポケットにしまいこんだ。
■三拍子天歩 >
この場に居た二人が、一人になった。
「さてと」
死体の首を持ち、顔を手前に向ける。
顔の血をざっくりと拭き取って、くまなく視る。勝ち目のないにらめっこをしたいわけではなく。
「傷はなし。私も愚かだな……まあそれでもちゃんと出来るのが私の素晴らしいところなんだけどーっと」
ごきりと首をひねって、頭だけを仰向けに。
慈しむような顔で、恐怖に歪むその表情を安らかに眠らせて、そのまま掌で死体の顔を隠す。
「……」
深呼吸を一つ。
「『創面流し』」
賢くなさそうな言葉を唱えて、死体の顔の前で手を握る。
そのまま立ち上がり、握った拳はポケットに入れた。
「さ、終わりっと……これの処理どうしよう、置いておけば誰か食べるかな」
腕組み、首を傾げて考える。
ご案内:「スラム」に常夜 來禍さんが現れました。
■常夜 來禍 >
駆ける。叫ぶ。尾が靡く。
冬の空気に白い靄をかける、赤銅毛の餓狼。瞳は爛々として、喉を鳴らして溢るる唾液を嚥下する。
嗅ぎつけたは生き血の香。死肉を目にした途端、その傍の人物を認識することなく、食らいつく。
障害なくそれを食べ進めることができれば、その姿は徐々に人型へと近づいてくることだろう。
■三拍子天歩 >
「まあ一瞬でも上がった学生なんだから、万が一見つかっても面倒だし、自分で捌こ――お?」
とと。
不意の来訪者。餅は餅屋か、死肉の畑違いだというように、場の支配権を奪われてしまった。
数歩後ろに下がって、美味しそうに燃料を補給する面を見る。
するとどうだ。いつの間にやらその姿は――人だ。
「うーん……」
じっと、見るのは死体だったもの。今は……食べ残し?
■常夜 來禍 >
「――んぶっ!? えほっ、えほっ!!」
ようやっと人らしい顔つきに近づいたと見るや、今までかぶりついていた死肉をぺっぺと吐き出し始めるその男。
四つん這いのまま何度も繰り返し嘔吐いた後、こちらをまじまじと見る彼女の姿を、人のまなこで確認する。
「……また、やったよ」
そう悟ったように呟く。この前も同じような現場に邂逅した。定例通りならば、きっと俺はこの女に、“俺の餌”をご用意していただいたのだろう。
「もうちょい早めに、処理してくれんかねェ……? もう粗方、喰っちまったじゃねえか……」
話が通じるかはどうでもいいし、実質逆恨みだ。これからは腹が減った際、スラムに近づくのはよしておこう。この前もそう誓ったはずなのだが。
■三拍子天歩 >
「いっひっひ……生娘の缶詰は高く売れるんだけどねぇ」
そんなことを呟いて。
「まあ片付けてくれてありがとうと言うべきか、小銭稼ぎをふいにしやがってコンチクショウと言うべきかは怪しいところではあるけれど――そうだね、お会計にしましょうかお客様」
冗談混じりに嘯いた。狙ってやってきたというよりは、夜風に流れる血煙が鼻をかすめたと言うことか。
派手に血を撒き散らしてしまった自分にも問題があったかなぁ、と、先程一人でしていた反省を思い出す。
「そろそろ店じまいにするところだったんだ。ラストオーダーは過ぎてるし、深夜料金は10割増しさ」
にこり、クレーマーには冷静な状況証拠を突きつけなければ。
「君は……なんだろう、生徒?」
■常夜 來禍 >
また妙な人種に当たっちまったらしい。残念なことに、カニバリズミストではないと“一応は”豪語している俺にとって、『生娘の缶詰』なる商品名は耳なじみが悪すぎる。
「無賃飲食常習犯なもんでなァ。いつもは大体ツケてもらってるんだが、そこんとこどうだ?」
挑発的な笑みを浮かべたレインコートの女。まず彼女が尋ねるのは、こちらの身元。
「登録上は、一応生徒。何か問題があるようなら、脱狼の如く逃げていきたいんだけども」
■三拍子天歩 >
「まァー今の気分的には『学園関係者』ってだけでも天国を見せてあげたい心持ちではあるけれど。
やっぱり疲れるのは面倒だからね、ここは一度素直に、残飯処理ありがとうと言っておくよ」
礼儀は弁えているのだと言わん態度で、物凄く浅い会釈を一つ。
「しかし日銭はいくらあっても困らないものだからね!
商品をふいにされた礼はやっぱりしてもらいたいところだけど、畜人に文明を期待してはいないよ。お金って分かる?」
悪質な冗談だ。
「こうしよう、犬の缶詰になりたくなければ、ちょっと手伝ってくれない?」
■常夜 來禍 >
これだからスラムの人間とは関わり合いになりたくない。
「ああ、さいですか……。それと俺は“あれ”を飯とは認めてないんで、その礼は場違いな。ごめんなさい」
こちらからは丁寧な礼を返す。
「分かる、分かるとも。そして、この畜人にそれがあれば、こんなとこでマズイもん喰って、変な人に目をつけられることもなかったということも分かる」
脳に血中酸素が行き届き始めてきているのが疎ましい。
「狼な。で、缶詰でもねェ。借りるなら猫の手にしといて欲しいんだが……」
ただ、それで事が済むのなら、内容に依っては願いのままである。先を言わせるように、語尾を消す。
■三拍子天歩 >
「私ほど常識的なタイプは居ないと思うんだけど……
いやいや知っているよ、間違っているのが常識のほうだってことくらいね。
じゃあ本題なんだけど」
スタスタ。近づくのは相手へ――というよりも、食べ残しの下へ。
自分が落とした偽装の生徒手帳を拾い上げて。
消した。ふっと。中空で。それから――
「あ、いまの手品の鑑賞代は流石に要らないよ。
君は足が速そうだから――腐りやすいとなじっているわけじゃないよ。むしろ努力家に見えるから安心していい。
何、手を煩わせる気はないんだよ。使って欲しいのは足。
『生徒になりたがっている人』を見かけたら、私を紹介して欲しいんだよね」
どうかな? と。食べ残しの周りを囲むように、靴の爪先で円を描きながらの言葉。
■常夜 來禍 >
所作を眺める。提案を聞く。疑問が浮かぶ。
「なぜ」
なぜ生徒手帳を消した。
なぜ紹介して欲しい。
なぜ死肉を円で囲む。
「なぜ、ンなことをする?」
黙って言うことを聞くのも悪くない。でも。好奇心は狼を殺すか否か。
■三拍子天歩 >
「ゥん? 何故、って……お金もーけのお手伝いさんがタダで手に入ったら便利だよね」
少しだけ円から離れて、死体を見て――瞬きを3回。
「いま私は本物の『戸籍』を用意できる状態にあるからね。
生徒になりたくて困っている人に、生徒になる権利を売ってお金を貰う。
お金があると色々出来て私が嬉しい。
君は食事の代金を請求されなくて嬉しい。正確には食事の代金と言うか――」
ポケットから取り出す手帳。
最初のページを開いて。
「正規の一般生徒、『真昼野ソラ』ちゃんを殺した容疑で、風紀だか公安だかに狙われなくて済むという、素敵な提案」
■常夜 來禍 >
それ見たことか。やっぱりスラムにゃ、良い記憶なんてひとつもない。
「ごめん、無理」
完成した円の途中を片足で踏み消そうと試みる。ただ、あの瞬き。きっと阻害は間に合わない。
「容疑ときたか。アンタ、俺の事知ってンのか? それとも普通に揺さぶり? そういうのボク弱いから、やめて欲しいなァ」
戦闘態勢。体から熱気が漏れる。
■三拍子天歩 >
「そんなに無理かな……? 多分そこら中に居るよ? 正規でも二級でもない、名無しの人間なんて。
犬? 狼? って、鼻も利くでしょう。やる前から無理なんて愚かな人間のやることさ!」
そう力説してみるけれど、男が一度固めた意志を曲げるのは大変と聞く。
円は消えた――術式の発動は終わっている。
でも、何も起こらない。
「逆に食べ切っちゃえばバレないんだけどね。頑張ってみる?
私と戦うよりも、きっと楽だし、身体にもいいよ」
生娘の血肉は不老長寿の元と言うし。
「君のことは知らないけど、学籍のある一般生徒を殺した人間の末路は知っている。
”遺体を埋めるのも邪魔された”し、自首希望かな? したら罪も軽くなるよ」
後頭部をかく。
三回。