2017/08/02 のログ
黒峰龍司 > 「…いや、月香…テメェはやろうと思えば出来るクチだろーがよ…やれないとは言わせねーぞ」

と、真顔でそう切り返していく。彼女の方が正しい事を言ってる筈なのだが、自分のペースを崩さない男である。

「…まぁ、俺だけじゃねーだろうな、こういう感想っつぅか感覚抱いてんのは。
はみ出し者や変わり者、数えりゃキリがねぇ。とはいえ…。」

一息。「その退屈や平和を悪いとは思わねーよ」と続ける。
男は別に退屈を一気に変えたいという願望は無い。ただ自分に合わないだけ。
だから、退屈や平和そのものを否定はしないし、それもそれで大事だと分かってはいるのだ。

「……過去を、ねぇ。…そりゃアレだろお前。意識してないだけでもう”悲鳴”を上げてんだろ、心か体か知らんが。
だから、過去の自分を想起して取り戻したり思い出そうとしてんじゃねーか?再確認とも言うな。」

一瞬、こちらの指摘に黙り込んだかと思えばすぐにヘラリとした笑みで軽く語る月香をジーッと眺め。
そんな言葉を口にしてから、一度彼女から視線を外して空に煙を吐き出す。

「――もし、仮にもう”どうしようもなくなったら”俺に言え。
…痛みも苦しみも迷いも、余計な事全部ひっくるめて”今のお前を殺してやる”」

言葉の内容はそっけなく物騒で。けど男なりに彼女を案じてはいるのだろう。
その言葉は淡々としているが、ある種の感情が篭っており。

和元月香 > 「まぁやれる、だろうね...」

うん、と降参、或いは認めるように頷く。
体術などは体だけではなく、案外心にも染み付いている。
魔術ならこうは行かないが。

「...。
...そっか」

黒龍の顔を見上げていた月香の表情が、僅かに変わった。
しかし、すぐに「やっぱり黒龍は根っから悪いやつじゃないんだねー」とへらへら笑う。

「...確かに、壊れかけなのは気づいてるけどさ、だからどうしろって話なんだよね。
このまま壊れても、どうなるのかさえよく分かんないし」

気づいてた、と笑う月香。
今でさえ壊れてるのに、その先は一体どうなるのだろう?
淡々と過去を思い出したところで何が変わるのだろう?
恐怖さえ感じることが出来ないので、月香はいまいち危機感は持てなかった。

「____.......。

ん、ありがとう。そん時は頼むよ」

黒龍のその言葉を聞いて、いつもと違う表情になった。
彼なりの優しさ、のような感情を感じることが出来たからだろうか。
確かに救いの手を差し伸べる言葉だっただからだろうか。
____情けないような、少しだけ崩れた、いつもより温かく穏やかな笑顔だった。

黒峰龍司 > 「…体に染み付いたやり方、技能、経験っつーのはそうそう消えるモンでもないし忘れるモンでもねぇからな。
仮に忘れていても体が自然と覚えてるっつーのもよくある話だ」

もっとも、彼女がその手の技能を進んでやる事は基本無いだろうな、とは思う。
そうなるとすれば、よっぽどの事情か状況になった時だろう。

「……別に悪者扱いでも構わねーけどな。善悪関係なく俺は俺でしかねーんだしよ」

ヘラヘラと笑っている月香に右手を伸ばし、無遠慮に頭をポフポフ撫でようとしてみる。

「…ま、薄々感づいてただけマシだろ。そもそも壊れてどうにかなるとして。その時にテメェがそれをちゃんと認識できてるかどうかも怪しいだろうさ」

要するに、壊れたその先の状態になっとして、彼女自身がソレを認識出来るかどうかという問題。
案外、もう手遅れかもしれない可能性だって十分にあるのだし。
とはいえ。

「……おぅ、任せておけ。責任持ってその時はきっちり殺してやる。
とはいえ、テメェがこのままぶっ壊れていくのもつまんねーしな。
俺に出来る限りの協力はしてやる。何が出来るかはわかんねーがな…。」

安易に何でも協力とは言わない。あくまで男に出来る範囲の事だ。
そんな何でもと無責任な事を今は口にするべきではないと分かっているから。

ついでに、頭をなでていた手をそのまま彼女の腰に伸ばしてこちらにグイッと引き寄せる。拒否権?ありません。

「取り合えず、勝手に壊れたり野垂れ死んだりするんじゃねーぞ。
どんなにクソッタレな状況でもテメェがこの世界、この時代に生きてる意味や証を残せ。死ぬならそれからだ。」

和元月香 > 「出来るだけ使いたくないんだけどさ、使ってみたら案外生活の役にも立つんだよね。
気配遮断とかもちっさい時に隠れんぼとかに使って勝ちまくりだったし!」

どう考えてもここでこの相手に自慢げに語る話ではないが、何故か誇らしげに話す月香。
怪しい事じゃなくて、下らないことに使うぐらい許してくれるだろうか。
人を殺すために磨いた、技術さえも。

「わ...っ、黒龍らしいねぇ」

頭を撫でられる感覚が感じたことのないぐらい安らかで暖かいものだった事に、月香はまず驚いた。

しかし、素直に受け取っておこうと猫のように目を細めて享受した。
彼女自身の、彼への感情の変化でもあるのだが。

「...自分が気づかないまでに壊れたら、か...。
ある意味、もう手遅れなのかもしれないけどね...っ」

既に壊れてしまっているのかもしれない。
もう取り返しのつかないところまで来ているのかもしれない。
それでも。

「...充分だよ」

月香はたった一言、本当に嬉しそうに呟いた。
同時に理解する。まだ自分は【完全に壊れていない】と。
この感情が、表面的なもののはずがない。
紛れも無く心の底から沸いた感情だったのだから。

引き寄せられた時も何だか嬉しかった。
あはは、と笑い声を上げながら月香は吹っ切れた。

「...言われなくとも、もうそんな無様な死に方はしないよ!
こんなのに付き合わされてるんだから、この世界に負けるみたいな真似はもうしたくないし」

答えた月香は、笑顔だった。
ただ、いつもより、何処か明るかった。

...そんな笑顔を浮かべながら、黒龍の背中に腕を回し、嬉しさか楽しさか、ギリギリと音を立てて抱き締めている。

黒峰龍司 > 「…ああ、まぁいいんじゃねぇか?使い方は色々あるし、応用もまた然りってな」

自慢げに話す事ではないかもしれないが、男は誇らしげにそれを話す彼女を笑ったりしない。
人を殺す技術?それは逆に人を救う・助ける技術にもなるだろうから。

「…つーか、最近俺こっちの日本人?の名前に合わせて改名したんだが。
なんで、今は一応「黒峰龍司」っつー名前が…あーまぁ、黒龍のままでもいいけどよ」

自分らしい、と言われても自然体でしてる事だから男にはピンと来ない。
とはいえ、存外好感触だったので、多分しばらくは頭をワシャワシャ撫でていただろう。

「…そうかもしれねーが、まだそうと決まった訳でもねぇ。
テメェ自身がまだ把握しきれてないだけ、まだ猶予はあるっつー考えも出来るしな」

根本的な解決はきっと難しいだろう。何せ彼女の今まで全ての人生、年月の積み重ねから生まれたと言える歪みだから。
だが、どこかで男は確信できた。「コイツはまだ壊れきってはいない」と。

「…なら、いい」

充分だと、その一言を聞けば淡々とぶっきらぼうにそう返す。
しかしアレだ、コイツ意外と抱き心地悪くねぇな、とか何となく思う。
…これで、もうちょい豊満ならと思うがそこは空気を呼んで口にしない事にする。

「おぅ、その意気だ。どうせなら世界と自分自身の歪さに喧嘩売って勝ち取るくらいのノリが丁度いいってもんだ」

彼女の笑顔を眺める。何度も笑顔は見ているが今回のは…今までの笑顔とは違う。悪くないと思えた。

と、いうか何かギリギリとハグされてるんだが。まぁ頑強なので勿論平然としている男だが。
取り合えず、暫くは何か二人してハグしていただろう。頃合を見てから腕を離して解放しようと。

「…んじゃ、景気づけに何か食いに行こうぜ。気分がいいから奢ってやる」

勿論、スラムとか落第街ではなく、せいぜい歓楽街とか学生街の真っ当ぽい店だ。
それに、スラムにずっと居てもしょうがないし今は何となくこの娘と飯を食べに行きたい気分になったから。

和元月香 > 「...そうだよね、使い道を変えれば、ね」

ちゃんと話を聞いてくれる黒龍に何だかこそばゆい気持ちになる。
不思議だったが、嫌な気はしなかった。

「でも本当の名前は黒龍なんでしょ?
あー、でも龍司って名前かっけーね、龍司って呼ぼうかな」

頭を撫でられる感覚が気に入ったのか、月香はへへへと笑いながらその感覚を味わう。

「うん、そう願いたいね。
何か情けないなー、私、黒龍に言われるまで自分のことさえ分からなかったなんてさ。
年上ぶってんじゃないよって話だよね!」

そんな事を言う月香の笑顔は相反して穏やかだ。
感謝の気持ちをありありと現すような笑顔を浮かべ、笑い声を上げる。

「.......ん。
ちっちゃくてすまんね」

短い言葉に頷いた後、ふっと息を吐くように笑って控えめな胸を黒龍の体にぐいっと押し付ける。
詫びている感じではない。どう聞いても。
身体を離された後、食事に誘われて月香は笑顔で頷く。
たまには外での食事も悪くないだろう。

「あと、ほんとにありがとうね!
私も、君に出来る限りの協力はするよ」

そう言って、月香はぐっと親指を立てた。

黒峰龍司 > 「そういうこった」

道具も、技術も、魔術も異能もその他色々。使い方次第で違う道筋が見出せたりするものだ。
これは、彼自身が長く生きてきたなかで実感している事でもある。

「…まぁ、変なあだ名とかじゃなけれりゃ月香の好きに呼べばいいと思うぜ」

結構撫でられるのが好みなのだろうか?ともあれ、何だかんだでめっちゃ撫でて堪能してた。

「…そういうもんだろ、情けなくねぇよ。自分の事を自分自身が一番分かってなかった、なんて事もそりゃある。
大事なのは気付いてからどうするか、だからな」

つまりこれからだ。彼女がこの先どうするのか。その行く末を見届けたい気持ちはある。
それに、こんな穏やかでいい笑顔が出来るなら、まだコイツは完全に壊れていないと思えるから。

「…なら育ててやろうか?」

と、軽口を返す。まぁ、この娘がスタイル良くなったらアレだ。
正直ちょっと押し倒すかホテルに連れ込みかねないのでこのままでもいいのかもしれない。
しかし、やや久々に遭遇したが、上手く口に言えないが互いにしっかり心を通わせた、そんな気がする。

「おぅ、今の所は特に問題ねぇが何かあったら頼むわ。
つー訳でボチボチ行こうぜ。何か食いたいのあるか?」

サムズアップする彼女に小さく男も笑みを返し。スラムという場所に似合わぬノリで二人で歩き出そうと。
まぁ、多分後で彼女か男の魔術なり力なりで転移して一気に移動したかもしれない!そんなオチ。

これは、転生者と黒い龍で交わされた確かな信頼の一幕だ。

ご案内:「スラム」から黒峰龍司さんが去りました。
和元月香 > 「...分かってるはずだったんだけどなぁ」

ぽつりと呟いて、しかし嬉しそうに微笑む。
彼に言われると、何だか再確認できたようなそんな気持ちになれた。

「じゃあ、龍司って呼ぶ!よろしく!」

結局そう呼ぶことに決めたようで、宣言するかのように手を挙げる。
頭を撫でられるのを堪能しながら、月香はにやにやと楽しげだった。

「これから、どうするか...か。
正直まだよく分かんないけどさ、これからもこの島で生きていきたいよ。
まだ自分について分かんない事も多いけれど」

でも、相手のお陰で何とかなりそうだという気持ちが芽生えた。
月香にとって、それは大きな1歩だ。
いつもより大きく歩幅を取って、少し違う場所に足を伸ばせた気がする。

「.......んんん??

え、それってどゆこと...」

と言いかけて、月香はぴしりと固まる。
彼の考えていることが大体理解出来たからだ。
暫く黙り込んでいたが、「...スタイル良くないとダメなのか」と呟いてしまった自分に自分で今日最大の驚きを味わうことになる。

(...え?わたし今何思った...?)

かなり混乱しながらも、龍司の後を慌てて追う。
戸惑ったような笑顔を浮かべつつも、月香の気持ちは晴れやかだった。

「...ラーメン食べたい!龍司の奢りで!」

もしかしたら魔術とかで行くかもしれないが、
2人の食事は大変賑やかだった事は確かだ。

これは、黒い龍と転生者で交わされた確かな信頼の一幕。
____そして少女の心に密かに芽生えた、淡い想いの始まりだ。

ご案内:「スラム」から和元月香さんが去りました。