2018/11/29 のログ
ご案内:「スラム」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > その晩、珍しくスラムは平穏だった。
風紀・公安の両委員会がアンデッドの対処、制御薬の対応に追われ、その矛先が違反部活や薬の売人に向かっている事もあり、スラムへの警邏そのものは行われていても、過剰な摘発が行われる事は無かった。

無論、それは今夜が偶々であり、明日は此の地区でも大規模な戦闘が起こるかも知れない。或いは、アンデッドの群れが押し寄せたり、制御薬で狂った能力者が暴れまわるのかも知れない。
だが、少なくとも今夜は平穏に夜を過ごす事が出来る。その日の糧を得て、決して柔らかくは無い寝床で寒さに震えながら一晩を明かす事が出来る。

スラムの上空に金属の月が現れるまで、住民達はそう信じていたのだ。

「…良い夜だ。さて、仕事を始めるとしよう」

スラムを見下ろす古びたビルの屋上で、制服をはためかせる少年の姿。その少年の背後には巨大な真円の金属球と無数の小さな金属球が従者の様に漂っていた。

神代理央 > 事前に服用した制御薬は、相変わらず甘みが今ひとつ足りない味わい。精神的な高揚感も、力が溢れ出る高揚感も無い。

ただ、異能そのものは劇的に変化した。というよりも、開く扉の鍵が変わったと言うべきか。

「…まあ、使えれば何でも良い。使い物になれば、の話だが」

今回の任務は、人員不足によっておざなりになっていたスラムへの示威行動。風紀委員会は未だ健在であり、様々な問題が発生していても落第街・スラムに対して常に正義の鉄槌を振るう存在である事を示せ――という勇ましくも曖昧なもの。

「負けていないのに末期感漂うな。その方が都合が良いんだが」

緩い口調で呟いた瞬間、背後の金属球の群れが輝いた。
文字通り、さながらミラーボールの様に白く輝いた球体から発射された光線は、轟音も砲声も無く、無音の内にスラムのバラックを薙ぎ払った。

神代理央 > 「…戦闘能力だけなら、一体の召喚でも十分か。しかし…」

掃射を停止し、再び異能を発動。
スラムに浮かび上がる人工の月が一つ増える。

「……っ…ああ、くそ。忌々しい。何が言いたい。何を訴えたい。喚き騒ぐだけなら、猿でも出来るというのに…!」

米上に響く鋭い痛みに、眉を顰めて頭を抑える。
強化された異能を発動する度に、断片的な【何か】の情報が脳内に押し込まれる感覚。
余りに断片的過ぎて理解し得ぬまま、頭痛が治まるのを待つしか無かった。

「…召喚物が劇的に強化されても、これでは戦い辛い事この上ないな。とはいえ、現状であれば一体でも十分か」

深く息を吐き出して薄れゆく痛みを押し込めば、緩く腕を振って球体に指示を出す。
再び放たれた光条は先刻の倍の輝きとなり、熱した金属が水に触れる様な音と共にスラムの建造物を消し飛ばした。

悲鳴も轟音も黒煙も無い。
静寂の中で、ひたすらに死が積み上げられていく様を、引き始めた頭痛に表情を顰めたままで眺めていた。