2015/10/02 のログ
クローデット > 魔術の研究に関連するあらゆる資料が乱雑に散らかった部屋を見渡すと、あまり大きくない流し台がひっそりと存在した。
そこには透明なガラスのポットとマグカップ、そして小さい藤の籠に茶葉の袋がいくつも詰められていた。
アンティーク趣味のクローデットからすれば、そのティーポットとマグカップは味気ないものだったが…まあ、これだけ乱雑な研究室に、趣味の良いティーセットだけあってもしょうがないのだろう。

籐の籠の横にハーブティの茶葉の袋…ちなみに、ティーバッグ仕様ではなく、ティースプーンで計って淹れるタイプである…を置き、ポシェットからメモパッドを取り出して一枚めくる。
以前サリナにフランス料理店を紹介したときのように、手に取ったメモパッドにメッセージが勝手に浮かび上がってくる。

『思考をすっきりさせる効果のあるハーブティをお持ちしました。
研究の合間に、獅南先生とサリナのお二人でお楽しみ下さい。
          Claudette Renan』

そのメモをハーブティの袋にのせたところで…ティーセットの一部に指を引っかけ、かちゃりという音を立ててしまった。

サリナ > 「………ん」

眠い。眠いが、意識が戻るのを感じて目を開ける。
そのまま体を動かさずに居たが……何か、人の気配を感じる。

流しの方に居るとすれば、先生がコーヒーでも作ってるのだろうか。
身を起こしてその方角を見れば、ぼんやりとした視界の中に見かけない色を確認する。
眼鏡がないので詳しくはわからないが、獅南先生ではない事は確かだった。

「…どちら様ですか?」

眼鏡を探す前にそう尋ねた。

クローデット > どうやら、眠っていたサリナを起こしてしまったようだ。
…が、先ほど起こそうとして駄目だったので、罪悪感は覚えない。

(先ほど顔の近くで声を出したときにはまともに反応しませんでしたのに…
…やはり、この手の「雑音」は響いてしまうのかしら?)

くすりと笑んで、サリナの方を振り返る。

「こんにちは、サリナ。
起こしてしまったようで申し訳ありません」

そう言って口元に笑みを刻んだ様子は、どこか優しげで、楽しげに見えるだろうか。

サリナ > 「…へ?」

聞き覚えのある声に心臓が跳ね上がった。
先日の調べ物で彼女にある疑念が湧いて、それ以来彼女の事を考えるようになっていたが…
ふと、辺りを見回す。眼鏡はないので視界はぼやけていたが、この部屋に他に人が居ない事はわかって向き直った。

「こ、…ここで何を」

思わず声が裏返った。
この場に獅南先生が居れば幾分か落ち着きも出ていただろうに、状況がそれを邪魔した。

クローデット > サリナが声を裏返すほどに動揺するのを見て、くすりと笑む。
特に邪気のない、強いていうならやや悪戯っぽいくらいの笑みであるが…疑念を持つサリナには、どう映るだろうか。

「以前お話ししていたハーブティをお持ちするついでに、獅南先生に錬金術の学習について相談出来ればと思ったのですが…ご不在のようですわね」

そう言って、ティーセットの近くの、メモパッドを1枚乗せた袋を指差す。

「獅南先生がすぐに戻られないのであれば、本日は一旦失礼しようかと思いますが…サリナは、先生の予定はご存知かしら?」

サリナの動揺を「気にしないかのように」、穏やかに尋ねる。

サリナ > クローデットさんは笑みを湛えている。眼鏡がなくてもそれはわかった。
まずは落ち着いて、それから質問に答えないといけない。
テーブルにあった眼鏡を拾って立ち上がる。

「それは…失礼しました。先生ならば今は授業か、職員室に居るかと思います。
 明日ならばこの時間にはいらっしゃると思いますので……」

ふと、ハーブティーとは何の事かと思ったら以前そんな話をしたのを思い出す。
いつもであれば喜んでそれを受け取っていただろうが、今は彼女に対する疑念で喜べなかった。

「あの、ハーブティーありがとうございます。獅南先生もきっと喜ぶかと、思います」

本来なら私が喜ぶべきものだ。獅南先生はコーヒーばっかり飲むのだから…
だが今は、素直に喜べなかった。

クローデット > 職員室か授業…と聞けば、少し落胆したかのように目を伏せ。
…それでも、口元にはアルカイックスマイルが刻まれているのだが。

「…そうですか…本日はこの後委員会の職務がありますので、また後日改めますわ」

そして、1つの茶園だけでまとめた茶葉を薦めるほどお茶好きのはずなのにハーブティへの反応が薄いサリナの様子を、口元に微笑を湛えたまま目にとめる。

「…よほど、お疲れですのね。
もしよろしければ、お茶をお淹れ致しましょうか?
「お茶にこだわりのある」サリナのお口に合うかは分かりませんけれど、基本的な作法は弁えておりますのよ」

そう言って優しく笑みかける。
ハーブティに喜べないほど「何か」が気がかりなサリナにとって、この状況はどういうものだろうか。
笑みを湛えたまま、サリナの様子を伺う。

サリナ > 「いえ… 別に疲れているという訳では………少し、眠かっただけですので、本当に…」

さも申し訳なさそうにそう言って取り繕う。

その傍ら、レコンキスタフランス支部、そしてルナン派についての記述を思い出した。
異能者だけではなく、異邦人、それらに友好的な人間に害を為す。

…毒でも入っているかもしれない。そんな疑念が私の思考を覆い尽くす。
まだ彼女がレコンキスタと、そのルナン派と決まった訳ではない。
よく見れば、彼女はいつも通りの様子にも見える。…だが、用心に越しておく事はない。

「その、せっかく研究室に来ていただいたのですから私がお淹れしますよ。
 …そう、この前もそう言ったはず…ですので、どれでも、その籠の中からお好きな物をどうぞ?」

そっと、静かに流し台に向け歩きながら言った。

クローデット > 「…そうですか…でも、無理はなさらないで下さいね?」

申し訳無さそうに…どこか苦しんで言葉を紡いでいるようなサリナの様子に、とりあえず一旦引く。
あえて追求するのも、不自然だ。

静かに流し台に向かってくるサリナがお茶の希望を尋ねてくるので、

「………籠の中、ですか…
せっかくお持ちしましたし、サリナが眠いという事であれば、眠気覚ましにあたくしがお持ちしたハーブティでも良いかと思ったのですけれど。

…もし気分でないのであれば…アールグレイの系統はございますか?
柑橘系の香りが爽やかで、気分も晴れるでしょうから」

あくまで、「サリナの様子を気遣うかのような」そぶりを見せながら、そう言った。

サリナ > 「アールグレイですか…?」

どうやらハーブティーを飲む事にはならなそうで幾分か安心した。
彼女がもし本当に善意で持ってきてくれたのだとしたら、それは申し訳ない事だが…

籠の中を探せば、…見つかった。フレーバードティーに少し飽きてしまったので最近飲んでいなかった。その為、開封してから随分経ってしまっているが…

「最近はあまり飲んでいないので開封して結構経ってしまってますが…こんなものでよろしければ……
 何か他のがよければご用意しますが」

そう言いつつ、湯の準備をする。
ガラスのポット、それとマグカップに直接水を入れた後に小さい声で詠唱すれば、水が沸々と音を立て、10秒程で沸騰する。
普段から魔術で湯を作っているのでこういうものはお手の物であった。

クローデット > 「サリナが構わないのであれば、あたくしは構いませんわ。
あまり、ゆっくり出来るわけでもありませんし」

にっこりと、優美な微笑を浮かべる。
…無論、その裏でサリナがハーブティを淹れる事を避けたのは見過ごさない。

魔術を使ってあっという間にお湯を沸かし、ポットとカップを温める様子を見れば

「手慣れておりますのね」

と、感心したように。
クローデットの自宅でハウスキーパーを務める女性は、身体能力強化魔術以外の魔術は不得意なのだ。

サリナ > 「あまり大したおもてなしもできなくて申し訳ありません…テーブルも散らかっていますのでここで失礼します」

目を伏せて言った。
私がレコンキスタについて調べなければ、きっとこんな風にはならなかっただろうに…
彼女を疑う気持ちの他に、そう言った罪悪感にも似た何かが私の中にあった。

ポットから茶漉しを取ると、それに茶葉を入れて沈め、蓋を乗せる。
広口の茶漉しの中で茶葉が上下に踊った。透明なポットだからこそよく見える光景でもある。

湯が茶の色に変われば、マグカップの湯は捨てて、蓋を開いて茶漉しだけ抜き取り、また蓋を被せてそのまま注ぐ。
それと戸棚からクッキーを取り出して、小皿に乗せてお茶と一緒に差し出した。

「熱いので、気をつけてくださいね」

流し台の前での立ち飲みになってしまったが、礼に欠いているだろうかと思った。
クローデットさんも時間がなさそうだし、仕方の無い事ではあるが…

クローデット > サリナがお茶を淹れる手際は見事だった。
…サリナが疑念を抱いていなければ、ハウスキーパーにレッスンでも頼みたかったところだ。

「いいえ、あたくしが急に尋ねただけですから、お構いなく」

そう言って、マグカップを受け取る。
上品な所作でマグカップを顔に近づけ、香りを楽しみ(フレーバードティーなので、開封してしばらく経つ割には香りがあった)、そして一口。

「…香りも味もよく出ておりますわね…ハウスキーパーにレッスンをお願いしたいくらいですわ」

そう言って、幸せさをほのかに感じさせる、柔らかい笑みを浮かべた。

サリナ > 内心の焦りも、茶を淹れる辺りに段々と落ち着いてきた。

「ありがとうございます、恐縮です…」

クローデットさんを見ていれば、見事に上品な所作で、優雅で気品な人だとわかる。
こんな人が…その"ルナン派"と関係がある訳がないと思ってしまうぐらいには…

「クローデットさんは…確か以前"門"の研究をしていると仰ってましたよね?
 お忙しいのは理解していますので簡潔にどんな目的でしているのか、差し支えなければ教えていただければと…」

もしかしたら、何かわかるかもしれない。彼女の研究自体というよりは彼女自身に探りを入れる気持ちでそう尋ねた。

クローデット > 「あたくしの研究内容ですか?」

尋ねられれば、大きな目を、蝶の羽ばたきのように瞬かせてから、いつも通りの優美な笑みを浮かべた。

「"門"が開く予報を、この世界に普遍的な技術で確立出来ないかと考えておりますの。
この島であれば、"門"が開くのはそこまで珍しくもないですし、対応も慣れておりますが…島の外側は、そうではありませんから。
…確度の高い予報があれば、対応の検討の負担が軽くなるでしょう?」

島の外で、"門"に対応出来る人材は希少ですから…と言って、再びマグカップに口をつける。
…「対応」の中身については、詳しくは言及していない。

サリナ > 対応、対応という言葉が少し鼻についたが、考えてみれば門から出るのは人間やそれらに友好的な種族ばかりではない。
危険な生物という可能性もあるから判断はできなかった。

彼女がかの"ルナン派"であると確定できれば対応の種類も絞りやすかったが…

「…なるほど、確かに"門"の出現は予測ができませんね。
 しかし人によってその"門"に引き込まれた状況は違うようですし、研究は難しいように感じます…」

どうやって予測しようとしているのかはわからない。
実際に"門"から来た意思疎通可能な生物に状況を尋ねたりはしているのだろうか、
私が予測について研究するなら"門"から来た人達へ色々聞いて回ってそうだ…

と、そこまで思って自分も研究者染みてきたなと実感する。自分の研究という訳でもないのに…

クローデット > サリナの危惧は当たっていた。
…が、それだけを決定打にする事は出来ないだろう。クローデットも、そのつもりで堂々と話したのだから。

「ええ…島の外では"門"についての研究も進んでおりませんから、資料も少ないのです。
あたくしは、"門"に関する資料が豊富で…それ以外にも、ここには各地から多様な魔術の文献が集まりますから…そういったものを研究する目的でこちらに留学して参りましたの」

そう言って、にっこりと花の綻ぶような笑みを向ける。

「…この学園の図書館には、"門"を外形的な「現象」として捉え、その周辺の再現性について情報をまとめた論文がいくつかありますのよ。
いくつか禁書になっているものもありますけれど…目的を届け出れば、正式に閲覧が可能ですから」

優美な笑顔のまま、解説をする。
"門"という「現象」が引き起こされるときに観測される「何か」を元に予測するという…こちらの世界でいう「天気予報」の原理で上手く予測出来ないかと考えているようだ。

サリナ > 「外形的な現象…」

言われてもピンとこない。自然現象みたいなものだろうか…
それはともかく少し気になった事がある。

「そんな論文が禁書になる理由がわかりませんね。何かまずいものなんですか?」

例えば道徳に触れる魔術書とかならば禁書になる理由もわかる。
論文自体に妙な罠を仕掛けているとか…そんな感じなのだろうか、それもあまり現実味がないが…

クローデット > 「さあ…どうなのでしょう。
指定された当時は、"門"についての知識を収集する事自体が良くない事と思われたのかもしれませんわね。何か分からないが悪用されるかもしれない…と。」

実際、禁書になっている理由についてはクローデットも納得出来ていなかったので、少し困ったように笑った。
クローデットがこの島に参照しにきた論文は、それ自体が力を持つ事のない…本当に、クローデットの言ったような理由で禁書扱いにされている。

…と、紅茶を飲み終えて、マグカップを流し台に置く。

「…そろそろ職務に赴くべき時間ですので…失礼致しますわね。
紅茶、ありがとうございました」

そう言って、花の綻ぶような笑みを浮かべた。

サリナ > 「ふむ…悪用ですか……」

少し前なら私も禁書庫に入る事もできたが…今はもうその用を済ませてしまったし、難しい所だ。
自分で見れば理由もわかったかもしれないが…

「いえ、お引止めしてしまったようで申し訳ありません…こちらこそお話頂きありがとうございます」

彼女は先程から花のような笑みをずっと続けている。
その笑顔が嘘ではないと信じたいと思った。

クローデット > 「結局、知識も技術も使い手次第、ですものね。
…それでも、知識の収拾それ自体を「悪」と断じられてしまうのは、魔術を探究する者としては居心地が良いとは言えませんわ」

そう言って、少し目を伏せるようにして、口元だけで笑む。
クローデットは、サリナが危惧する通り「ルナン派」の人間ではあったが…それと同じくらい、純粋に知識を、魔術を探究する「魔術師」だったからだ。
その表情に、嘘はない。

「いいえ…ご興味がおありでしたら、魔術学を担当されている先生に正式に申請して、閲覧許可をお受けになれば良いかと。

それでは、また。…よろしければ、ハーブティの感想をお聞かせ下さいね?」

上品な笑みを残して…クローデットは、獅南の研究室を後にしたのだった。

サリナ > クローデットさんを見送った後、ソファーに座って少しだけ考えた。

「"門"……」

私はまだ元の世界に未練があるのだろうか…確かに残してきた家族は心配だ。
むしろこちらが心配されているのかもしれない。

ただ単に国が変わっただけだと、遠くに来ただけだと割り切った時もあった。
だが、"門"の出現を予測できたとして、予測できるのならばそれに入り込んで帰ったりする事はできるんじゃないかと思った。

「…無理に決まってます」

今度はまた別の世界に降り立つ事になるかもしれない。
そんな事を考え付いて自嘲気味に笑った。

ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」からサリナさんが去りました。