2015/11/03 のログ
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 学園祭期間中は通常の授業が行われないため、獅南は普段にも増して研究室に籠ることが多くなっていた。
元より多趣味な男でもないから、外出することは稀であったが、
欧州でのテロ事件の後、輪をかけてその傾向が顕著になった。
本命である魔力生成の研究を進める傍らで、その魔力を貯蔵する方法を探求し、
過去の大魔導士が膨大な魔力を如何にして制御したのかを解き明かし、
賢者の石と呼ばれる魔力触媒について様々な角度から検討する。
もはや魔術学の研究が人生そのものとなっていた。
■獅南蒼二 > 生命活動をしている、という点においては生きていると言えるだろう。
だが、およそ人間らしい生活とはかけ離れている。
そんな研究者を周囲がどう思うかは別として、研究は目覚ましい成果を挙げていた。
魔力貯蔵の研究では、黒曜石や宝石の類ではなく金属の銀を利用することで素材の調達を容易にし、
副産物としてではあるが魔力鋼の生成に繋がる技術を得た。
魔力制御に関しては多くが魔術学の確立していなかった旧時代の人物であることに注目し、
術式構成による許容量に増大ではなく、魔力を分散させることによる術式への負荷の軽減を達成した。
■獅南蒼二 > 机上の空論ではあるが、魔力の生成が成功し膨大な量の魔力を得ることができれば、
この世界に存在する如何なる魔術も、この世界に存在した如何なる魔術も、
文献に残されている全ての魔術を、この世界に再び蘇らせることが可能だろう。
「……触媒さえあれば、の話だがな。」
2つの並行研究に関する論文をタイプしながら、白衣の男は肩を竦め、小さく、呟いた。
魔力生成に関する研究はサリナの尽力もあって比較的順調に進んでいる。
最も遅れているのは、膨大な量の魔力を消費し大規模な魔術を発動する際の魔力触媒の研究である。
■獅南蒼二 > 手を休め、ポケットから煙草を取り出す。
ライターを使ってそれに火を付ければ、静かに、白い煙を吐き出した。
一般的な規模の魔術を行使するだけであれば、触媒は必要ない。
“大魔法”に類する魔術であっても既存の触媒で十分である。
だが、それ以上の規模であった場合は?
現在研究を進めている魔力の生成は、自然に存在する事象から魔力を抽出するという手法を取っている。
言うまでもなく、自然は偉大であり、人の手には余るほどのエネルギーを内包している。
実験場で小規模な生成を行うならともかくとして、それを実用化に結び付けるのであれば……超高出力に耐えうる触媒は必要不可欠だった。
■獅南蒼二 > 紫煙を燻らせ、煙草を灰皿に置く。
長く、長く息を吐いてから……小さく頷いた。
「……急ぐ必要は無い、か?」
顔色は決して優れているとは言えず、窪んだ目元は僅かに黒ずんでいる。
この白衣の男が研究に没頭するのはいつもの事であるのだが、
あのテロ事件以降、彼は常に複数の研究を並行させている。
もはや、その様子は尋常ではない。
■獅南蒼二 > 学問に殉ずる研究者と言えば聞こえは良いが、
今の獅南はスロットルの壊れたマッスルカーのようなものだ。
しかも、ブレーキを踏むことを忘れている。
「…………………。」
しかし今やその思考は澱み、斬新な発想は生まれない。
それは疲労によるものなのか、それとも、何かを擦り減らした結果なのか。
■獅南蒼二 > 魔力生成、魔力貯蔵、魔力制御、そして触媒。
全てが揃えば、世界を変えることさえできるかもしれない。
しかしそんな未来の絵はまだ、獅南の頭の中にしか存在しない。
魔術学は飛躍的に進歩する。
あらゆる危険から身を守ることも、あらゆる不可能を可能にすることも、
そして、あらゆるものを破壊することも可能だ。
「………………。」
慎重な獅南は決してそういった論文を書くことはないが、
魔術学による素晴らしい未来への一歩を踏み出す一方で、道を逸れれば世界を終わらせることさえできる。
理想の未来を他者と共有しようにも、この学園には、魔術学の未来を語るべき友は居ない。
ブレーキを踏む者は、まだ、誰も居ない。