2016/01/23 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 授業が終わり、生徒たちが下校し、周囲が暗闇に包まれても、
彼の研究室だけは、いつまでも灯りが灯っていた。
今更何をか言わんやであるが、獅南は、一度火がついてしまうと止まらないタイプである。
“生体細胞”による魔力の蓄積を思いついて以降、獅南は生物学の分野と魔術学の融合を模索していた。
生体細胞の培養は流石に専門外であったが、生命維持に関しては魔術学を応用可能である。
思い付いてしまったのだから仕方がない。
テーブルの上には生物部から借りて来たアメーバのシャーレと、山ほどのメモ用紙が置かれていた。
シャーレに次々と術式を施しつつ、メモを取っている。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 禁書になっていない範囲で図書館蔵書の魔術書を調べてみたが…魔具に描く魔法陣についての資料で、高度なものは大体母が自分に指導する際の参考資料にしていたものばかりで、めぼしいものはなかった。
クローデットは、禁書についての知識がそこまで豊富とは言えない。助言を求めるべく、調査を終えた足でこの研究室に赴いた。
「獅南先生、いらっしゃいますか?」
扉をノックする。獅南は気付いてくれるだろうか…。
■獅南蒼二 > 感知魔法や哨戒魔法の類は全く展開されていない。
だが、金属製の扉を叩く音は流石によく響いた。
「…クローデットか。」
きりの良い所までメモを書き上げて、それから、扉に向けて手を翳す。
かしゃり、と、ロックが外されて、扉は静かに開いた。
■クローデット > 開いた扉の向こうにいたクローデットは、最初から羽根扇子で口元を隠していた。
それでも、その目元には険しい気配が漂うだろう。彼女にしては、珍しい有様だ。
「失礼致します…少々、研究で行き詰まっておりましたもので」
その声は、いつもより柔らかさ、甘さに乏しい。
それでも、品のある所作で会釈をして研究室に入ってくる。
「…大したことではないのですが…「内密に」お願い頂けますか?」
羽根扇子を閉じる。その口元は、アルカイックスマイル程度にしか笑んでいなかった。
しかし、それよりも物理攻撃を無効化する魔術防御の不自然なまでの厚さが、獅南には異常に映るだろう。
以前からかなり厳重だったはずだが…今は、重複する魔術防御が共鳴して効率を落としているほどだ。
■獅南蒼二 > その瞳を見た獅南は、僅かに笑んだ。
嘲るような笑みではなく、悩める生徒を前にした、笑み。
小さく頷けば、その右手を翳す……全ての窓、扉が閉じられ、防諜魔法が展開された。
余程の使い手でない限り、これを破ることはできないだろう。
「……それにしても、まるで戦車に鎧を着せたような有様だな。」
小さく肩を竦めて、立ち上がる。
それからクローデットにソファへ座るよう促して、自分は本棚の方へ。
「大方検討はつくが、用件は?」
■クローデット > 獅南の笑みの質が普段と異なることを見て取ると、目尻の辺りがぴくりと動く。
そして、獅南の論評を聞いて、ますます瞳の中の光が険しさを増す。
それでも、クローデットはそれ以上の表情の表出をしなかった。
「………ええ、全く美しくありませんわね。
それでも…実際に防御が破られてしまったのですから、やむを得ません」
建造物の崩落くらいなら耐えられるようにしておりましたが、と、いつもより硬さを感じさせる声で。
「…魔具に付与する術式の効率化を図りたいと思っておりますの。
それで、参考になる資料をご存じないかと思いまして。
…一般書架にあるものでは、ろくに成果がなかったものですから」
本棚の方へ移動する獅南に、控えめながらもいつもより温度の下がった視線を投げた。
■獅南蒼二 > 獅南は公安の情報にアクセスできる権限を持っていない。
それ故に、クローデットの身に何が起きたかを知る由もなかった。
「ほぉ、何とやり合ったのか知らんが……アレを破るとは相当だな。
尤もどんな防壁だろうとやがては崩れるものだが…」
言いつつ、魔術書の中から1冊を選び出す。
「…防護に関する魔術は、大きく分類すれば2種類だ。
1つは物理的、ないし魔力的な破壊を肩代わり、もしくは無効化するもの。
もう1つは、物質の強度や魔術耐性を強化するもの。
一般的のは後者だが、その多くは初歩の魔術に毛が生えた程度のものだ。
……この本は、参考にはなるだろう。」
クローデットに手渡すのは、さほど分厚い本ではない。
それは強化魔術ではなく、呪術に近い、古の魔術。
身代わり、無効化、それは非常に高度で危険な魔術だが、クローデットになら、会得できるものだろう。
■クローデット > 「ええ…もう一度「あの男」と対峙する際には、防御ばかりに頼ってもいられないでしょうね」
不幸中の幸いで、「あの男」は話に聞いていたよりも力押しで来るタイプだった。
ある程度動く方向を制限するような状況にすれば、もう少し上手く立ち回ることは出来るだろう。
…ただ、念には念を、である。
そして、獅南からある魔術書を手渡されれば、訝しげに片眉を動かしながらも、一応手に取る。
「今あたくしが身につけているのも肩代わり、無効化の術式だとご存知の上でそう仰るのですか?
別の理路ならば、参考にする余地もありますが…」
そう言って、手にした魔術書を開くと…意外性を感じ取ったのか、目を大きく開いた。
クローデットの防御術式は、結界術の応用で成り立っている。しかし、獅南の手渡してきた魔術書は、呪術に近いものだ。
「………そうですわね…防御術式のうちいくつかをこの理路に振り替えれば、それだけでも効率は随分改善されるでしょう」
課題は「身代わり」の確保になるが…錬金術で魔法生物を作ることも出来るクローデットだ、さほど難しい問題ではない。
クローデットの口元に、いつもの楽しげな笑みが戻ってきた。
■獅南蒼二 > クローデットが笑みを取り戻しても、獅南は苦笑を浮かべて…
「どのような壁もやがては崩れる。
そのわずかな隙間から矢玉を撃ち込まれれば優れた魔術師であれ死は免れられないだろう。
……どのような魔導書を読み、それをその身に付けたとしても同じ事だ。」
そう呟くように言い、小さく肩を竦めてから…椅子に腰を下ろす。
「さて、では問うが……“その男”と再び対峙したら、どう戦うのかな?
その本の術式を全てコピーしたとしても、恐らく“時間稼ぎ”にしかならないだろう。
つまり、お前が決定打となり得るカードを持っていない限り、状況はあまり変わらん。」
■クローデット > 「決定打は…逃しさえしなければ十分ですわ。
そのための状況を作り上げる時間さえ、確保出来れば良いのです。
…もっとも、単独で討たねばならないような相手でもないのですが」
そう言って、楽しげに笑む。
その言葉から、彼女の『敵』が、大義名分をもって討てる相手であることの推測は容易だろう。
「…ところで、そちらのシャーレはどう致しましたの?
魔法生物に興味がないのであれば、一般的な生物学にはますますご縁がないように思われますが」
自分のことに区切りがついたところで、獅南の研究室の現在のありようについて、話を振る。
■獅南蒼二 > 「ふむ……その自信がどこから来るのか。
まぁ、そう嘯けるのならそれだけの準備はある、ということなのだろう?
ならば、その言葉を信じるとしよう…。」
あっさりと、それ以上の追求をやめてしまった。
獅南にとってみれば、この少女は貴重な手駒の1つではある。
だが同時に不確定要素でもあり、そもそも、獅南はこの少女をまだ、さほど信頼していない。
“あの男”なる者と戦って散ることになろうとも、さほど気にすることは無いだろう。
「あぁ、魔法生物を培養しようというのではないよ…
…単に、魔力の蓄積に関して賢者の石よりもコストの安い方法を見つけただけのことだ。」
メモを見れば、やろうとしていることはすぐに分かるだろう。
魔力と親和性の高い生物が持つ細胞を培養し、そこに魔力を流し込んで蓄積させ、魔力電池として活用する。
今は生命維持のための術式構成を試行錯誤している段階のようだ。
■クローデット > 「「あの男」も魔術師との戦い方は心得ているようでしたから、生半可な増強ではあまり意味がないでしょうけれど…
手の内を知っているのはお互い様ですもの」
優美に笑みながら。
使える魔術の種類を考えれば、駆け引きという点では自分の方がやや有利なくらいだとクローデットは認識していたが…流石に、そこまでの大口は叩かなかった。
「…魔力の蓄積、ですか…
魔法生物ではないものに蓄積するとなると…」
話を聞いて…数瞬考えを巡らせて、心当たりがあったらしい。少し眉を寄せて
「………あまり、美しい手法ではありませんわね」
と感想を零した。
一応、クローデットとしては言葉はオブラートに包んだつもりである。
■獅南蒼二 > 「ははは、それこそ、美しさよりは禍々しさの方が先に立つだろう。
お前のその防御術式よりも、よほど混迷していると言われるかも知れん。
だが、見ていろ…いずれ、凡人がお前たち生粋の魔術師をも凌駕する日が訪れるぞ?」
小さく肩を竦めながら、楽しげに笑う。相も変わらず、獅南は自信家である。
だがその自信は、自己の努力と研鑽によって裏打ちされていた。
眼前の少女は、膨大な量の魔力をその身に内包している。
魔力の内包量に限って言えば、さらに膨大な量を持っている生徒も居る。
「賢者の石のまがいものを生成しようともしたのだが、錬金術は、私には合わんようでな。」
■クローデット > 「魔術が「技術」として確立される世界は興味深く思っておりますわ。
…先天的な魔力「だけ」に頼った魔術師と思われるのは、少々心外ですわね」
口元に柔らかい笑みを保ちつつも、やや不穏に目が細められる。
クローデットは母国の高卒認定試験にあたるもので優秀な成績を修める程度の努力は出来る人間だし、複雑な術式構成を理解する能力も、補助の術式を抜きにしてなお高い部類に入るのだ。
…後者は、目の前の教師には流石に後れを取るとはいえ。
「賢者の石ですか…正統なものは、材料が希少な上に手順が煩雑ですものね。
…それにしても、生物の細胞の培養が出来て錬金術が不得手な魔術師というのも、不思議な話に思えますが。
伝統的な錬金術であれば、魔力の内包量はさほど問題にならないでしょう?」
ことりと、人形めいたしぐさで首を傾げる。
魔力「だけ」に頼る魔術師でないとはいえ、やはり価値観は古典的な部類の「魔術師」として形成されているのだろう。
■獅南蒼二 > 「気を悪くしたのなら謝ろう。
お前の学ぶ意欲は、私の教え子たちにも見習わせたいくらいだ。」
先天的な魔力に欠ける獅南は、そうとだけ言って笑った。
クローデットの技能もある程度認知しているし、努力ができない人物だと思っているわけでもない。
だが、獅南の思考は古典的な“魔術師”のそれではない。
全ての魔術は技術に過ぎないと、そう言いたげな表情で。
「細胞の培養など私には到底不可能だよ。
それを可能にするのは科学だ…培養は、生物学の研究者に発注したよ。
同一視されるのは心外かも知れんが、錬金術もバイオテクノロジーも一種の技術だ。
町工場のモノづくりと同じだな…こればかりは、学べば誰にでもできるものとは言えん。」
「……だが、コストの点で、錬金術よりもバイオテクノロジーの方が、より優れている。」
■クローデット > 「…その評価は、有難く思いますわ」
とりあえずそう答えて、この場は収めることにする。
この島での数少ない『同志』と、あえて事を起こす事もない。
錬金術ではなくバイオテクノロジーを頼る事について説明を受ければ
「…考え方としては、理解しうるものですわね。
…ただ、魔術学の研究者がそう仰るのは…あまり、ある事ではないように思えますわ」
やはり、少し首を傾げながら。
少し言葉が淀んだのは、彼女なりに言葉を選んでの事だろう。
■獅南蒼二 > 「ははは、確かに“魔術”だけを特別視する輩が多いからな。
魔術学はすべてを可能にする学問だとは思うが、それなら、かつての科学だってそうだ。」
「それに、私のような魔術学者が珍しいのも当たり前だろう…
…私は“魔術師”のために研究しているのではないからな。」
獅南の発想は、古典的な魔術師や魔術学者からは、時に煙たがられることもあるという。
クローデットが生粋の魔術師に近い感性を持っているのなら、同様にして、獅南の考えに同調することは難しいだろう。
「さて、他に用件はあるかな? 無ければ、実験を続けたいのだが。」
■クローデット > 「あら、奇遇ですわね…あたくしも、そもそも魔術と科学が決定的に対立するものだと、あまり考えておりませんのよ。
「あたくしにとっては」、魔術の方が便利ですけれど…そうですわね、あまねく「技術」として普及させたいのであれば、あたくしの感覚は危ういかもしれません」
そう言って、くすりと笑む。
元素魔術を物理学がより高度にしていくように。
「魂」の概念を、進化心理学が補強しうるように。
クローデットにとっては、それは補い合えるものだった。
ただ、「科学技術の方が便利」と言い切る魔術師の存在が、珍しいというだけで。
「用件…そうですわね、それでは「彼」の件で、1つだけご報告を差し上げようかと」
クローデットが獅南にわざわざ報告する人物の件といえば…恐らく、以前依頼された異邦人で異能者の、獣人の講師の事だろう。
■獅南蒼二 > クローデットが“彼”と、ある人物を示唆すれば、
獅南は僅かに目を細めてから、小さく頷いた。
「…聞かせてもらっても?」
クローデットとは別ルートで、独自に生徒たちを動かしてはいるが、
決定的な情報を掴むことはできていなかった。
もっとも、本人と話をする中で、様々に情報は得ているのだが。
■クローデット > 「「彼」がこちらに来た時期がある程度絞り込めたのと…その時期に「彼」が保護を受けていたと思しき研究機関を深掘りする「口実」が出来ましたので…そちらの方を調べようと思っておりますの。
興味深いことが分かりましたら、お知らせ致しますわ」
クローデットは、「表」で、「公安委員の権限を上手く使えそうなところから」情報を洗っていた。
決定的な情報それ自体は、出て来る可能性は低いだろう。
「…お役に、立てれば良いのですが」
それでも、その「決定的な情報」の手がかりとしては、「彼」にとっての、こちらの世界との最初の接点を探るのは有用だろうという、確信の度合いの強い推測のもと、クローデットは上品に、気持ち控えめに笑んだ。
■獅南蒼二 > 「流石だな…、私もそれ以前の事はいくらか聞き出したが、ね。」
クローデットの言葉に小さく頷いた。
それから、手を翳せば全ての防諜魔術が解かれ、鍵が開く。
ある意味で、あの男については、それこそ“大義名分”など必要なくなっている。
彼が、そして自らが信念を貫くのなら、やがて、その時は訪れるだろう。
「その魔術書は危険なものではないが、あまり無理をし過ぎないほうが良い。
何かあれば、また、頼ってくれて構わんよ。」
小さく手を翳せば、静かに、扉が開かれた。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。
■クローデット > 「少し、危うい時期があったので遠回りをしたのですが…結果的に、その甲斐はあったようですわね」
にっこりと、花がほころぶような笑みを浮かべる。
獅南の様子を見るに、どうやら、情報の重複はさせずにすみそうだ。
「ええ…呪術も苦手ではないのですが、気をつけて扱わせて頂きますわ」
借りた魔術書の表紙を大事そうに、繊細な手つきで一撫で。
「それでは、また何かあれば、よろしくお願い致します」
丁寧な所作でお辞儀をする。
想像以上の収穫にすっかり機嫌を直して、クローデットは獅南の研究室を後にしたのだった。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」からクローデットさんが去りました。