2016/05/30 のログ
クローデット > 「白魔術が難しいなどと…考えたこともありませんでしたわね。
あたくしも外傷の治癒は「復元」で行いますけれど、発動原理はとてもシンプルで…「美しい」と思われませんか?」

くすくす…と、楽しそうに笑って言う。
「利他」「自己犠牲」などの精神を要求される、白魔術。
その優れた使い手である女性を、度々生み出した、ルナンの一族。
クローデットは、間違いなくその血脈の流れの中にいた。

「あなたのその研究で寿命が縮むような者は、既に随分寿命が縮まっておりましょうね」

くすりと、艶のある笑みを見せる。それは、残酷な世界の「真実」を、知によって見抜く者の持つ冷酷さの表れだった。

「あって困るものではございませんが、あたくし自身はなくてもさほど苦労は致しませんわね。
…随分、質の良い魔力を生産出来たようで、何よりですわ」

指輪を楽しげに見ながら…しかし触れることはせず。
魔術を行使する「知恵のある者」にとってのその指輪の価値を、クローデットはよく理解していた。

獅南蒼二 > 指輪をポケットへと無造作にしまい込めば,小さく頷いて“嗤った”。
それはクローデットへ向けた笑みと言うよりかは,どこか自嘲的なものに映るかもしれない。
それも当然である。この指輪は,発想と構成こそ獅南の知識や技術によってなされたものであるが,
異世界からもたらされた術式を不完全に再現した上,異能者の協力によって完成したのだから。

「単純である事を美しいとするのなら,たしかに美しく洗練されているだろう。
 だが,私はどちらかと言えば,機能美より複雑に描き込まれた絵画が好みだな?」

……眼前の少女が白魔術に長けた魔術師であるなどと,どんな皮肉だろうかと思う。

「さて,どうだろうな。
 どこぞの魔女が,魔女狩りという血塗られた過去を再現しようとしているのなら,その通りだろうが?」

楽しげに笑ってから,視線をクローデットへとまっすぐに向ける。

「さて,私からの話は1つ終わった,次はそちらの話を聞こうか?」

クローデット > 「学術的には、よりシンプルに説明出来る理論の方が「美しい」ものです」

そう言って、淑やかに笑むクローデット。
本国で"炎の魔女"と呼ばれ、恐れられている「テロリスト」の姿は、未だに衆目には明らかになっていない。
…もっとも、"炎の魔女"を個人的に知る者の何人が、彼女を「知っている」と言えるだろうか。
それほどまでに、クローデットという「人間」は、引き裂かれていた。

「あのような、露骨な性差別と身分差別に塗れた所業と同様なことを「自ら」為そうとする「愚か者」に、心当たりはございませんわね」

淑やかな微笑を湛えたまま、平然とそう言いきる。

本心だった。
身分差別を積極的に煽りたてはしない。「そこにあるもの」を、「積極的に運用」し続けるだけ。性差別など、もってのほか。
クローデット自身は、そう思い込んでいた。

しかし、話を自分の方に振られれば、その微笑が、曇る。

「…そうですわね…以前承っていた件なのですけれど…一つ、確認させて頂いてもよろしいでしょうか。
………そもそも、必要としていらっしゃるのかしら?

…「友人」だと、伺ったのですけれど。」

「あのバケモノ(異能者)から」と、再び苛立ちを匂わせながら。

獅南蒼二 > クローデットの言葉と,その表情,そして内心に燃える苛立ちを見て取れば,
獅南は楽しげに,それこそその反応が可笑しいと言わんばかりに,笑った。

「ほぉ,お前も随分とあの男に近付いたようだな? 隠す必要も無いだろうが,ヨキと獅南蒼二は信頼し合った友人だ。
 尤もそれは,お前にヨキの身辺調査を依頼してからの話だがね。
 酒を酌み交わして出自も聞いた,弱みも,それから異能でどこまでできるのかも。
 彼には私が魔術学を究める理由を話してやったが…いまだ彼は私の多くを知らず,私は彼の多くを知った。」

その言葉には淀みが無かった。
獅南は確かに異能を嫌ってはいたが,異能者そのものを嫌うことはしない。
それをクローデットがどうとらえるかは,想像の域を出なかったが…

「不幸な友情だ。
 ヨキがどう考えているかは分からんが,私が己の信条を捨てぬ限り,やがてどちらか一方が死ぬことになるだろうからな。」

それは,クローデットとの関係を取り繕った言葉には聞こえないだろう。
ヨキと友人であるという言葉も本心から,その友人を殺すという意志も本心から。
一般的な感覚からすれば,それは大きな矛盾を内包している。
だが,この白衣の男にとってそれは,少しも矛盾しないのだと言わんばかりに。

クローデット > 心外だと言わんばかりに、首を横に振る。
それでもまだ、振る舞いから品位を失わないだけの矜持はあった。

「あのバケモノの方から、勝手に近づいて参りましたのよ。

…それにしても、随分馴れ合ったものですわね?
あたくしの調査結果の大部分は、既に当人からお聞きになっているのではありませんか?」

そう言って、嘆かわしげに首を横に振る。
…が、意を決したように、獅南の瞳を見据えた。

「………もし、あなたの信条に「真に」お変わりがないようであれば…
あのバケモノからあたくしを守って下さると仰るのであれば、あなたの得た知識に足りない分を補うのにも、やぶさかではございませんけれど」

信条の変質は、微細なものであれば自覚は持てないだろう。
…しかし、「クローデットをヨキから守る」という言葉が、クローデットという「力ある者」から出る不自然さに、どう応じるか。
それが答えとなるはずなのだ。この男が、「同志」として相応しいか、否かの。

…そして、クローデットの口から度々出ている「バケモノ」という言葉に、普段クローデットが使う「異能者」という意味とは別の意味が含まれていることに、獅南が気付くかどうか。

獅南蒼二 > クローデットが“バケモノ”という言葉をどんな意味で使ったのか,そこまで読み取るほどに感覚は鋭くない。
だが,ヨキが獣人であること,獣としての姿をもつだろうと思われる事,かつて異世界の住人であったこと,
獅南が“友人”から聞いた話はその友人ををして“バケモノ”と呼ばせるに十分なものだった。
だからこそ,含まれた意味を読み取れずとも,そこにコミュニケーションの過不足は生じない。

「山犬にかみ殺されるようなクローデット=ルナンではないだろう?
 だが,お前がヨキに害されるようなことがあれば,私はその時にこそ,あの友人を私の魔術で殺すとしよう。」

だが、と男は静かに言葉を続ける。

「お前の器量を信じて話そう。
 私の信条が,お前の……いや,【レコンキスタ】のそれと完全に重なるかどうかについては,少々疑問が残る。
 私は異能者をこの世から消し去ろうなどとは,微塵も思っていない。」

クローデット > 「互いの力をぶつけ合った結果殺されるとは思っておりませんわ。それ以外の問題があるのです」

そう言い切るあたり、クローデットの自らの力に対する自負は相当だ。
クローデットが心配しているのは、「友人に知られたくないこと」が知られ、その経路がクローデットであると判明した時に、あの「バケモノ」が、どのように自分を追い詰めようとするかである。
なまじ「ヒト」の社会に溶け込もうとしている…だからこそ、面倒なのだ。

「………以前にも、そのようなお話は伺ったことがございましたわね。
そのための研究の成果が、今あなたのポケットの中にある。

………それで、そのお話とこの件と、どのような関係がありまして?」

獅南の信条の話を、訝るような表情で促す。

獅南蒼二 > 「ははは,バケモノと形容しておきながら,それ以外の問題とは恐れ入った。
 友人としてヨキと話した私から言わせれば……私に何を教えたところで,ヨキがお前に報復するとは言い難い。
 だがあの厄介な友人は,島の法で裁けぬ悪を自ら裁くそうだ。
 この島の在り方に反抗する我々は,元よりその対象であるかもしれないな?」

「私が裏切らないという保証がほしいのなら“破れぬ誓い”でも立てようか?」

それはとあるファンタジー小説の中に登場する魔法だが,それに近い魔法が存在しないわけではない。
冗談交じりではあるが,もしクローデットがそれを求めれば,断ることも無いだろう。

「簡単な事だ。この指輪は確かに私が設計し,構成した。
 だが,術式を含めた魔術的な技術は異邦人であるサリナによって齎された。
 そしてこの膨大な魔力は……異能者の生徒が生み出す,無限の熱から生成したものだ。」

机に向かって,くいっ、と指を動かして何かを引っ張るような動作をすれば…引き出しが開いて木箱がふわりと浮かぶ。
それがテーブルの上に乗せられて,蓋が開かれれば……その中には,無数の指輪が収められていた。
その全てに,先ほどの指輪と同様にして膨大な魔力が封じられている。
総量で言うのなら,これほどの魔力を内包する魔術師は世界でも数えるほどしか存在しないだろう。

「異能を凌駕するための研究が,異能によって助けられ,完成したのだ。
 これほど皮肉なものは無いと思わんか?」

クローデット > 「…そうであるならば、公安委員という立場をあのバケモノを追い詰めるために利用したあたくしが、追われぬ道理はありませんわね。
「バケモノ」とは、存在のありようの問題です。力の有無の問題ではありませんわ」

『島の方で裁けぬ悪を自ら裁く』と言ったというあのバケモノの、「ヒト」としての顔を思い浮かべて、笑みを消す。
怒りというよりは、呆れの表出に近いように見えるが…その奥でどんな情念が渦巻いているのか。
「破れぬ誓い」の提案には、眉をひそめて。

「…興味深いですけれど、せめて誓いの文面を考えるのに時間を頂きたいですわね」

と。否定はしないが、あまり乗り気ではない…といったところだろうか。
かつて、外交の最前線の地であったヨーロッパに生を享けた者として、誓いの「抜け道」は警戒してしまうのだろう。

…そして、獅南がこの指輪…いや、指輪の山を「バケモノ(異能者)」の協力を得て作ったと知れば。
その膨大な魔力を齎すほどのエネルギーを持った異能への、嫉妬心と。
無警戒にそれほどのエネルギーを提供してしまった、哀れな「バケモノ(異能者)」への侮蔑の念と。
その他、様々な感情が渦を巻く。クローデットが、険しい顔をしていたのは間違いなかった。

「………ヒトの歴史には、よくあることでしょう」

やっとのことで、絞り出した言葉。

獅南蒼二 > 「尤も,お前を害せばどうなるかくらい,あの厄介な友人にも分かることだろう。
 私はあの男の情報を,確かに欲しているが……さて,バケモノに追われるお前は何が欲しいんだ?」

誓いに関しては,文面を考える時間を,と言われて苦笑する。
抜け道を用意することもできるが,別段そのつもりも無かった。
誓いに沿ってヨキと戦うのならそれも良い。
いずれにせよ,獅南にとってクローデットは道具であるかもしれないが,
優秀な魔術師でなおかつ良い生徒であるクローデットを使い捨てにするほど,
この男の人間性はすり減っていないようだった。

「全くその通りだな……。
 彼らを利用すれば,この通り魔術学は大きく躍進するだろう。
 だがそれは,【レコンキスタ】の掲げる思想とは大きく乖離している。」

「私は魔術学者だ……原始的で理不尽な力である異能は脅威であると思う。
 だが,理性ある人間によって異能が制御され,魔術学のために役立てられるのであれば……“異能者”はその限りではないのではないか?」

獅南は静かにそうとだけ告げて…お前は,どう思う?と、真っ直ぐに尋ねた。

クローデット > 「………単刀直入に申し上げれば、「あたくしから聞いたあのバケモノに関する情報は他言無用とすること」、「あのバケモノに、あたくしに調査をさせていたことを語らないこと」です。
その点さえ漏れなければ、あのバケモノがあたくしにとっての脅威となる可能性は、「この経路からは」排除出来ますから」

ヨキの前で漏れなければ良いかとも思ったが…人の輪は、どこでつながるか分からない。用心するに越したことはなかった。

「………」

獅南の話を、黙って聞いている。

獅南は、この話を聞いたクローデットが、露骨に苛立ちを露にするとか、そういったことを想像していたかもしれない。
しかし…現実は、全く別の方向に向かった。クローデットは、徐々に表情を失っていったのだ。

「………だめ………」

かすれた声で、そう呟く。その瞳はガラス玉のようで、何も見てはいなかった。

「………あがなわせなくてはいけないの…
ひいおばあさまのかなしみを…せかいにうらぎられたいのちの、むくいを………」

声の出し方も、口調も、まるで、別人のようだった。
くるりと、機械じみた動きできびすを返す。

そのまま、ふらふらと獅南の研究室を後にしようと…

獅南蒼二 > 「そんな事で良いのか……?
 私としても生徒に探偵の真似事をさせたなどと広めるわけにもいかんからな…その点は約束しよう。」

苛立ちを露わにすることを期待していた部分も,無いわけではない。
だがそれ以上に,獅南はクローデットの本心を知りたかった。彼女の父を知っているからこその,挑発だったのだろう。

「……………?」

だがその反応は,随分と,奇妙な形で返って来た。
扉には鍵がかかっている,防諜魔術を解除しない限り外界から干渉できないのと同様に,外界への干渉も,離脱も不可能だ。
クローデットは,そんなことが分からないような人物ではないはずだが…。

「クローデット!」

立ち上がって,呼び止める。

クローデット > 獅南の呼ぶ声に、びくりと反応するように立ち止まる。
瞳に、徐々に自我が、理性が帰ってくる。

「………」

それでも、しばしその場で呆然としていたが…くるりと、今度は生気を帯びた軽やかさで獅南に向き直り。

「…あたくしとしたことが、随分と間の抜けたところを見せてしまいましたわね。
お恥ずかしいことです…」

目を優雅に伏せ、羽根扇子を広げて顔の下半分を隠す。

「今の失態…お忘れ、頂けますか?」

羽根扇子で顔を隠したまま、ちらりと、上目遣いで獅南の様子を伺う。

獅南蒼二 > クローデットの言葉を聞けば小さく息を吐いて,それから椅子に座り直す。
彼女のその不可思議な言動が何を意味するのか……それを考えながら。

「他言無用,ということなら約束しよう。
 だが,忘れろと言われても,人間の記憶はそう都合よくできていないからな。」

“魔法で私の記憶を消すか,それとも私を殺すか?”なんて苦笑しつつ,頭を掻いて,溜息を吐いた。

「失態ではない,誰にも見せたくはない顔だったのだろうが…
 …不安定な火薬を小さな薬室に押し込めればそれだけ,爆発力を増すだけだ。」

いや,妙な言い回しはやめよう,と小さく呟いてから…

「…無理に自分を納得させようとするな。
 私は友を殺しても何とも思わんが,お前はまだ,そうではないらしい。
 今日はゆっくりと休み,悩むといい。」

クローデット > 「…あなたの城で、あれだけの魔力源を備えたあなたに有効なのであれば、記憶の改ざんくらいはしたいところですけれど」

「どうせ効きはしないのでしょう?」と言わんばかりに、くすりと笑む。
花が綻ぶような柔らかさはあったが、普段の表情が纏う甘さは影を潜めていた。

「他言無用、を約束して頂けるのであれば十分ですわ。
全ては、あたくしの弱さが招いたことですから」

ということで、獅南の見た光景の記憶については、妥協した。
…が、その後の諭すような口調には、怪訝そうに眉をひそめ。

「…あたくし、そのような無理はしておりませんし、バケモノ(異能者)の友など、あたくしにはおりませんが」

と、冷淡に言い放つ。

本人には、自覚がないようだ。
「白魔術の資質に優れた者」としての心と、「炎の魔女」としての行いの間で、何が起こっているのか。

獅南蒼二 > 「さて,試してみる価値くらいはあるかも知れんがな?」
そんな風に笑うが,その表情からも,底知れぬ自信が見て取れるだろう。
どう考えても,対策を講じていないはずがない。

いずれにせよ,獅南はこの女生徒に対する認識を,若干改めねばならなかったようだ。
彼女が彼女自身の信条に殉じて暴発することをこそ,恐れていたのだが……

「……それならいい。くれぐれも,自分を見失わないことだ。
 我々魔術師は,いかに優れた才能を持ち合わせようと,学ばぬことには弱者でしかない。
 自己について学ぶことも,強さに繋がるだろうからな。」

手をひらりと振れば,扉の鍵が解除され,防諜術式は消滅する。

クローデット > 「…やめておきましょう。曲がりなりにもあたくしの「願い」を聞いて下さった「同志」に、無駄になると分かっている悪意ある術式を行使する気にはなれませんもの」

優しく目を伏せて、首を横に振る。
一時の「錯乱」は、すっかり影を潜めたようだった。

「世界の「力」のあり方を読み解くことこそ、魔術師(あたくしたち)の力の源ですものね。
今後とも、ご教授をよろしくお願い致します」

そう言って、品のある所作でお辞儀をする。
「自己について学ぶこと」に言及しなかったのは、偶然か、それとも。

扉の鍵が開き、防諜術式が消滅すれば、改めて出て行こうとするだろう。
女性らしくも、しっかりとした足取りで。

獅南蒼二 > 「お前と力比べをするのも面白そうではあったのだがな。」

冗談じみた言葉と苦笑,普段通りにクローデットを扱いながら…
…もう,呼び止めることもしなかった。

いかに彼女が頑強な精神を持ち合わせていたとしても,あの様子ではそう長くは持たないだろう。
どのような理想を語っても,どのような大義名分を掲げても,今もなお異能の排斥を唱える我々は,
変容した社会に適応できない,思想的マイノリティに過ぎない。

クローデットが部屋を出れば,扉は静かに閉じられるだろう。

クローデット > 「力比べは…もう少し、「フェア」な状況で行いましょう?」

そういって、楽しげにくすくすと笑い…それから、いつもの調子で獅南の研究室を出て行った。

自らの引き裂かれた心がもたらす破滅の足音に、無意識に、それでも全力で耳を塞ぎながら。

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。