2016/09/19 のログ
ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > ……誰も知らない荒野での出来事から,丸1日。
獅南は授業の休講解除を申請し,何事も無かったかのように教壇に立った。
相変わらずの疲れ果てた顔で,理由を何一つ話さずに淡々の授業を進めるその姿は,
きっと,また,妙な噂を増やしてしまうのだろう。
「…………。」
研究室のソファに腰を下ろし,長く,長く息を吐く。
部屋の隅にはまだ,金属の腐食に関する論文集や,異能学,呪術,様々な研究の痕跡が積み重ねられていた。
■獅南蒼二 > この1か月半,知識も時間も熱意も,すべてを注ぎ込んだ。
それは決して,あの男のためではない……自らの信じた魔術学のために。
己が積み重ねた努力と研鑽を,その力を自分自身の手で証明するために。
「………………。」
全ての努力と研鑽は実を結び,あの男は呪いから解放された。
そうして全てを練り上げたこの部屋に戻ってきた獅南は…今,奇妙な感覚に陥っている。
達成感なのか,満足感なのか…ある意味では喪失感なのかもしれない。
今はまだ,片付ける気力も,新しい研究を始める気力も起きなかった。
■獅南蒼二 > 乱雑に積み上げられたメモ。試行錯誤の末に破棄した疑似魔石の山。
大量に付箋を貼りつけられた魔導書。必要な部分だけを抽出した禁書の写本。
魔力を生成するための術式,時間を操作するための術式,金属を破壊するための術式……
……この研究の過程で実証したいくつかの魔術を論文に纏め,将来の展望を描いて魔術学会に発表すれば,相応の研究費を回収することもできるだろう。
だが,そんなことは,どうでもよかった。獅南にとってそれらは副産物に過ぎない。
ポケットから煙草,ライターを取り出して火をつける。
■獅南蒼二 > 共生と融和などと,取って付けたような御託を並べていたあの男。
決して相容れぬだろうと思っていた,厄介な異能者にして異邦人。
全ては,あの男を殺すために始まった研究だ。
「それが,どうしてこうなったのか……。」
紫煙を燻らせながら,自嘲気味に笑う。
……かつて,両親と弟を失った時に,決意したはずだった。
異能によって破壊された秩序を、魔術学によって取り戻すと。
理不尽な力に支配される“凡人”が“努力と研鑽”によってそれを振り払う事ができる世界を作ると。
■獅南蒼二 > あの時望んだ未来に,自分は今,立っているのだろうか。
■獅南蒼二 > だが,どれほどの努力と研鑽を積み重ねようとも,世界を変えることはできそうにない。
あの男が語った“共生と融和”こそが世界の流れとなった今,この獅南蒼二の理想は,もはや異端の1つでしかない。
全ての凡人に魔術を授けることができたとしても,彼らはこの世界を変えようとは思わないだろう。
この世界の新たな秩序は,もはや確固たる形をもって生み出されつつある。
…そんなことは,とうの昔に理解していた。
だからこそ,どれほどの努力と研鑽を積み重ね,どれほどの高みに至ろうと,
誰にも求められず,誰にも認められず,誰にも顧みられない。
■獅南蒼二 > ……いや,違う。誰にも,ではなかった。
1人だけ,この異端者を認め,称賛する間抜けで愚かな男が居る。
「……………。」
煙草を携帯灰皿へと入れて,苦笑した。
あれほど大きな理想を抱いていたというのに,
これほど小さな称賛で,確かな喜びを感じている。