2016/10/12 のログ
ご案内:「魔術学部棟情報処理室」にクローデットさんが現れました。
クローデット > ある平日の午後。
クローデットは、委員会職務の前に情報処理室で作業をしていた。

「裏切り者」の講義は、一応まだ聞きにいっている。
知識は、まだ欲しいのだ。
…もっとも、顔を合わせずに済むようにレポートを自分では提出しに行っていないから、相手からすれば、自分は今どうしているやら、というところだろう。
成績は不可となるかもしれないが…他の講義はきちんとこなしているのだから、構いはしなかった。

クローデット > 情報処理室のコンピュータを利用して行う作業は、3Dソフトを利用した図面引きだ。
禁書庫での再勉強を踏まえて、その成果を織り込んだ『門』発生予測装置の改良版の設計をしているのである。

「………。」

いつもより、涼やかで無機質に見える目元で、無表情のまま、無言で図面を引く。
その瞳は真剣そのものだ。

クローデット > コンピュータのモニター上に、奇妙な記号の連なりが描かれる。
細かく位置を調整されるそれは、ある種の統制された美を作り出しているように…見えなくもなかった。

(術式構造がこの規模であれば、周辺の機械は…)

そんなことを計算しながら、様々な図面を引いていく。
涼しげな目元と澄んだ青の瞳の印象が重なり、いかにも知的といった風情。
普段のたおやかな表情作りとは、一線を画してすら見える。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
わずかに浮いたまま移動して、情報処理室の前を通りかかる。
その時、見覚えのある魔力の残滓を感じた。

静かに部屋に入り、静かにドアを閉めて。

「……お疲れさまです、クローデットさん」

隣に来て、声をかける。
こちらを覚えているだろうか、などと無意味なことを考えながら。

クローデット > そうして作業をしていたところ…よほど静かに入って来たのだろうか、いつの間にか、傍にいるのは以前落第街で出会った、自分と大差ない背丈の男。

「…お気遣い、痛み入りますわ」

彼の方を向いて、静謐に目を伏せがちにして、軽く頭を下げる。

「…もっとも、こちらに留学に参った身と致しましては、こちらが「本業」ですので…
こうして自らの探究と向き合う時間も、心安らぐものですから…「疲れる」というほどのことでもございませんわ」

そう言って、静かな微笑を浮かべる。
目元の印象もあるだろうか…以前落第街で見かけたときの「艶」は、随分抑えられているように思われた。

寄月 秋輝 >  
研究と向き合うのは心安らぐという言葉に、小さく頷いた。

「同感です。
 ……いえ、さすがに十時間も研究と向き合うと疲れますね」

そう考えるとこの女性はすさまじいな、と感じた。
微笑みに対し、同じように柔らかい表情を返して。

「そういえば、あなたに一度お会いしたかったのです。
 ちょうどこちらで見つけられてよかった」

上から声をかけても威圧感がある。
椅子に腰を下ろすように、足を曲げ、空中に座るような姿勢に。

クローデット > 「ふふふ…あたくしは他の講義などもございますので、そこまでの時間はなかなか取りませんから。
…それでも、好んでいる分野であれば長時間でも面白いものですけれど」

「あなたこそ、お疲れ様です」と、くすくすと笑みを零した。
…それでも、以前ほどの柔和さは薄く感じられるかもしれない。目つきが、さほど変わっていない。
…が、「会いたかった」と言われれば、不思議そうに瞳を瞬かせる。

「あたくしに用事…ですか?
…ああ、長いお話でなければ、上からでも構いません」

空中に座るような姿勢をとる秋輝に対して、「お気遣いなく」と静かに目を伏せて首を軽く横に振った。
口元は、アルカイックスマイルのごとき笑みを刻んでいる。

寄月 秋輝 >  
「いえ、講義との両立それ自体が凄まじいものだと思いますよ。
 ……その上で、先日の討伐戦への参加もされていたのですから、なおさらです」

目を細め、首を小さく横に振る。
研究と学業との両立は、武道との両立とはまた違う辛さがあると感じている。

「……例の大規模討伐の折の話です。
 彼らの浄化の際、あなたの魔力の残滓を感じました。
 ……おそらく、彼らを『あるべきところ』へ還してくれたことも」

悲しげ、もしくは申し訳なさげな顔をして、小さく頭を下げた。

「……本当に、ありがとうございます」

クローデット > 「使う知識も、頭の部分も違いますから…寧ろいい気分転換ですわ。

委員会には随分便利に使われておりますけれど…
こうして研究や学業には配慮して頂いておりますから、文句を言うほどではございませんわね」

学業と研究の両立は、寧ろ彼女にとっては「脳にとっての車輪の両輪」であるらしい。
涼しい調子で微笑んでみせた。

…しかし、委員会活動方面では、クローデットに瑕疵がないわけではない。
それでも便利に「使わないといけない」あたり、公安委員会の魔術系人材はそこまで余裕があるわけではないのかもしれない。

「………自らの力量にしたがって、為せることを為しただけです。
改めて、頭を下げられるようなことでもございませんわ」

大規模討伐の件を切り出されれば、そう言って…笑みが、幾分以前の柔らかさを取り戻す。
クローデットは公式に、白魔術を得意分野の1つに挙げているのだ。

…が、秋輝の表情が、晴れやかさからはほど遠いそれなのを見ると、顔を気遣わしげな表情に変え。

「………「彼ら」の中に、お知り合いでもいらっしゃいましたの?
お別れの機会を差し上げられなかったのであれば、申しわけなく思いますけれど…」

と、尋ねた。

寄月 秋輝 >  
「公安委員会はなかなか大変ですね……
 いえ、風紀委員会も似たようなものかもしれませんが。
 魔術を扱える、理解出来る『学生』というのは、未だ希少なのでしょうか」

気楽に言ってのける彼女は、それに納得しているのだろう。
体を壊すようなことがないならば、それでもいいのかもしれない。

「いえ、知り合いが居たというわけでは。
 ……僕は退魔師でもあるのですが、先日あれが漏れた現場に居合わせたのです。
 その場で力及ばず、彼らを全て還せなかったことを悔いていました」

現実には、病み上がりの体でもあり、力の使用を制限されていたというのもある。
だが、それは敗北していい理由にはならない。

「彼らは悪意に飲まれただけの妖でした。
 だから出来る限り、あるべき綺麗な場所へと還してあげたかった。
 ……でも、力が及ばなかった結果、討伐という形で彼らの何割かは消されてしまったことでしょう」

悔しくて辛くて、耐えがたいといった、抑えられた声音。
悪意の塊と化した悪霊に、心底から寄り添う退魔師の声。

「……僕もあの場に居て、いくらかはあるべきところへ還しました。
 それでも手の届かなかった彼らを……あなたは、同じように還してくれました。
 それが本当に嬉しかったのです。
 そのお礼を、どうしても告げたかったのです」

もう一度、頭を下げた。

クローデット > 「卒業要件に、魔術使用者はその制御が含まれますから…あまり、多くはないのかもしれませんわね。
…あたくしはそうではありませんけれど、中には委員会専業のようになってしまっている学生もおりますから…彼らの負荷は並大抵ではないでしょうね」

そう言って、優しく伏し目がちにする。
実際、好きなことは割と存分にさせてもらっている上に委員会専業のような学生の姿を見てしまっているので、委員会の負担にはそこまで頓着していないのだ。
…経済的に余裕はある上で、支払われるべき手当もきっちり頂いているし。

「ああ…あなたも。
しかも端緒の現場に居合わせてしまったとなれば…ご心痛、お察し致しますわ」

「退魔師」を名乗られれば、納得したように。
…そして、彼が感じただろう無力感を察して、共鳴するかのように悲しげに眉を下げ、目を伏せがちにする。

「…そうですわね…「退魔」の術を持つ者は、風紀委員会の外を見ても、あまり多くなかったようですから。
………本当に、残念です。どれほど、痛い思いをしたことか…」

穏やかに語るが…「彼ら」の「痛み」に共感する姿勢に、嘘はないように思われた。

「…いえ…それでも、あたくしは自らの力量に従って、為すべきことを為したに過ぎませんから。
………お気持ちは、有難く頂戴致しますけれど」

頭を下げられれば、そう言って首をゆるく横に振るが…
秋輝に向けられる視線は、最初の涼しい印象を裏切るほどの優しさを伴っていた。
口元には、自然に出たかのような、柔らかい微笑。

寄月 秋輝 >  
「そうですね……最初から扱える人間は、そもそも学園で生徒をしていないか。
 実際、警察機構に近しい存在ですからね。
 授業と委員会だけで限界、という人は多そうです」

自分も嘱託とはいえ、風紀委員であるが故にそれは感じる。
睡眠時間がモリモリ減っていくという実感もあるわけで。

「……退魔師というのは、地域によっては概念すら存在しませんからね。
 だからこそ、僕がなんとかしたかった」

続くクローデットの言葉に、顔を上げる。
優しげな女性の表情。
自分と同じ想いを持ってくれている。
心の底から、安心出来た。

「……自らの持つ力、能力に見合う、為すべきことを為す。
 それが出来る人間は多くない。
 そして……僕とあなたの願いが重なったこと、『彼ら』を僕の願う通りに還してもらえたこと。
 ……本当に嬉しいんです、クローデットさん」

魅入られそうなほどに優しい表情に、安心したように微笑んでみせた。

クローデット > 「こちらで学べる魔術は多岐に渡りますから…既に扱える者でも、「生徒」になる甲斐はありそうですけれど」

そう言って、まさにその「見本」とも言うべきクローデットがくすくすと楽しげに笑う。

「ええ…あたくしも「本業」がございますので、職務は多くしないように配慮して頂いておりますの。
そういった手続きをしていらっしゃらない方々は、本当に大変でしょうね」

そう言って、軽く視線を下に落とす。
クローデットほどの実力者が未だに一般委員扱いなのは、研究との兼ね合いに対する配慮もあるのかもしれない。

「…概念すら…ですか。
あたくしも「白魔術師」ですから、厳密には違うのかもしれませんけれど…
…少なくとも、あなたとは「思い」が違わなかったようで、安心致しました」

そう言って、視線を少し下に向けたままにしながらも柔らかい微笑を口元に刻んだ。

「人が能力に縛られてしまうのも、それはそれで考えものですけれど…
「思い」と、それを為せる力が重なることは、幸福には違いありませんわね。
………そして、それを共有出来る者がいることも」

秋輝の安心したような表情に、くすりと、花のつぼみがほころぶようなささやかさで、笑みを零した。

寄月 秋輝 >  
「僕らは似た者同士かもしれませんね。
 僕も元々扱えなかった魔術の学習や、得意な魔術の研究もしていますから」

そして語らないが、正規の風紀委員ではなく嘱託扱いで、仕事を増やさないようにしていることも。
治安の維持等も含め、生徒の健康や安全を守るための仕事だ。
それで自分のやりたいこと、やるべきことが阻害されてはいけないと考えていた。

「……あなたに礼を述べて、この話が出来てよかった。
 少しだけ……クローデットさんに救われた気がします」

自分がたとえ彼らのために戦えなくとも、彼らのために力を振るうことが出来なくなろうとも、
この女性ならば確かに導いてくれるのだろう。
そう感じて、救われたと口にした。
あまりに優しいその表情に、心に、引き込まれそうになるのをぐっとこらえて。

「……すみません、これだけ告げるつもりでお邪魔してしまって。
 わざわざお時間ありがとうございます」

もう一度頭を下げて、座るような姿勢から再び腰を伸ばした。

クローデット > 「…ふふふ、確かに、学園での振る舞いは似ているかもしれませんわね」

手で軽く口元を隠すようにしながらも、どこか楽しげに笑いながら頷いた。
実際のところ、彼と自分では、違う部分の方が大きく…そしてそちらの方が、それぞれの人格の根幹をなしているはずだと思いながらも、それを示唆程度に留めて。
…が、「救われた気がする」と口にする秋輝の言葉に、少しだけ表情を失うと。

「そんな…大したことはしておりませんわ。
………まだ、「大切な人」を救うことも出来ておりませんのに…」

そう言って、口元では笑みを保ちながらも、どこか切なげに視線を落とす。
…が、相手が改めて頭を下げれば、再び表情を取り繕って。

「いえ…それであなたのお気持ちが軽くなったのでしたら、構いませんわ。
研究自体は、緊急を要する類のものではありませんので」

そう言って柔らかく笑みかけてから、時計を確認し…今までの作業を記録媒体に保存すると、コンピュータの電源を落とす準備を始める。

寄月 秋輝 >  
クローデットの言葉に、ひゅっと息を飲む。

(あぁそうか、彼女もか。
 ……いや……)

彼女はまだ、大切な人を救えるところに居るのだろう。
既にこの手から取りこぼしてしまった自分とは、大きく違うのだ。

「……何かお手伝いできることがありましたら、いつでも。
 来年からの開く講義の根幹に関わること以外でしたら答えられますから」

ここで作業を打ち切ったのを見て、そう告げる。
多少時間を使わせてしまった負い目があるのだろう。

クローデット > 「「大切な人」を救えていない」という言葉に息を飲む秋輝の表情の動きを、クローデットの目はしっかりと捉えていた。
…恐らく彼にも、何らかの負い目があるのだろう。しかし、そんなことに関わっている余裕はない。

「大切な人」以外を救うなんて、考えてもいない。なぜなら—

(………今、何を考えたのかしら?)

しかし、その一瞬の思考の全ては、なかったことになる。

「お気遣い、ありがとうございます…
ですが、「あたくしにしか、出来ないこと」ですので」

そして、秋輝の申し出を、どこか誇らしげな笑みとともに断ってみせるクローデット。
コンピュータの電源を落とし、持ち運べる記録媒体を本体から抜き取ってポシェットに収めると、

「…それでは、あたくしは委員会がございますので、失礼致します」

そう言って柔らかい笑みを向けると…そのまま、スマートな足取りで、情報処理室を後にするのだった。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」からクローデットさんが去りました。
寄月 秋輝 >  
立ち去るクローデットを見送り、自分もまた端末と向かい合う。
研究所に送るデータの最終調整をしなければならない。

それでも少しだけ、心が軽かった。
気張る必要が無くなるだけで、こんなにも軽くなるものなのだ。

久しく忘れていた開放感に浸りながら、データを入力し始めた。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」から寄月 秋輝さんが去りました。