2016/10/16 のログ
■獅南蒼二 > 落第街の薄暗がりに潜む生徒は,発表というよりも“商売”をしに来ていた。
彼が扱う商品は魔法触媒やスクロール等,さほど珍しいとも思えない魔法アイテムたち。
それぞれ既製品と外見の上では大差のないものだったが,魔術的には改良が加えられている。
魔力を蓄積しておき,必要な時には術師の残有魔力に関わらず魔術を発動できる杖。
チャージを行うことで幾度も繰り返し使用することが可能な上,発動に際しては指向性を変化させることのできるスクロール。
獅南の考案した技術をもとにした劣化版ではあるが,魔力タンクとして利用できる指輪。
彼は決して光を浴びることのない,裏の世界で生きている。
だが,獅南蒼二はそれを否定することなく,己の努力と研鑽によってその世界に居場所を確立したことを,むしろ称賛していた。
彼の存在そのものが,生徒にとっては大きな指針となるだろう。
何も,決められたレールの上を進み,光を浴びることだけが進むべき道ではないのだと。
■獅南蒼二 > 2人の話と,それに対する質疑応答が終わった。
もっとも,2人目に対する質問はほとんどが商品に関するものだったが…。
「……物販の許可はもらっていない,興味のある者は店の住所でも聞いておけ。」
そんな風に苦笑を浮かべてから,獅南は立ち上がって,壇上へと歩んだ。
■獅南蒼二 > 獅南が壇上へ上がれば,生徒たちは静まり返る。
彼はよく言えば理解のある教師で,悪く言えば放任主義であった。
“凡人教室”の生徒に学ぶ機会や,材料を提供することはあっても,
彼らのやり方にいちいち口をはさむようなことはしなかった。
“努力と研鑽によってのみ,大きな力を得ることができる”
口癖のようにそう生徒に話す意外,獅南がこうやって,生徒の前に立つというのは珍しいことだった。
「お前たちにだけ,話しておきたいことがある。」
■獅南蒼二 > 「…今後,私はこの教室に“異能者”を受け入れるつもりだ。」
その一言が,どんな意味をもつのか。
獅南との付き合いが長い卒業生ほど,動揺は大きかった。
「以前から話しているように,我々が究めんとしている魔術学が向かう先には“真に平等な世界”が待っていると,私は信じている。
何者であろうと,己の努力と研鑽によってのみ力を得ることができる世界だ。」
■獅南蒼二 > 「異能とは先天的なものであれ後天的なものであれ,それは本人の意思や,努力とは無関係に,無作為に生じるものだ。
それ故に,その力をまともに制御さえできぬ異能者は危険ですらあり,
与えられただけのその力を悪意をもって振るう異能者は,滅すべき敵だろう。」
だが,と獅南は逆説の接続詞をつなげた。
「…それらを排斥することによって解決を図れば,魔術学の狭量さを示すのみだろう。
同様にして“努力と研鑽によって制御された異能”は時に,魔術学にとっても有益な結果をもたらす。」
■獅南蒼二 > 「我々凡人,魔術師,異邦人,異能者,そして異形の知的生命体。
それらすべてを受け入れ,共存の道を作り得る力は,魔術学を置いて他に無い。」
「……同様にして,これはあまり穏便な話ではないが,
それを妨げる者,我々を害する者を打ち倒す力も,魔術学が与えてくれるだろう。」
「重ねて,お前たちにはより高みを目指す努力と研鑽を期待したい。」
■獅南蒼二 > 獅南蒼二は,理想主義者であり,現実主義者であった。
友人であるヨキに語った“理想”を“現実”にするためにどのような手法を取るべきか。
馬鹿馬鹿しいと誰もが思い,切り捨てるだろうそれを,獅南はどこまでも誠実に,考え,構築していく。
……そしてそれは,まだ具体的になってはいないが,徐々に光は見え始めている。
「…これに関してはお前たちの意見もあるだろう。私もまだ,全ての問題点を洗い出したわけではない。
意見や質問があれば,いつでも研究室を訪ねて来給え。」
「……今日はここまでとしよう,各々解散し,在学生は後日レポートを提出すること。」
ご案内:「魔術学部棟第2研修室」から獅南蒼二さんが去りました。