2017/03/19 のログ
獅南蒼二 > 炎の中でクローデットの身さえ案じたこの魔術学教師は,
時間が過ぎるにしたがってその思考の路線を歪めながらも,
あの強大な魔術師に対抗するための手立てを考え始めていた。

魔力の絶対量で勝ることは叶わず,あの混沌とした術式を書き換えることもできそうにない。
元は高度な術式なのだろうが,あれではワインに泥を入れた上で年代を当てろと言うようなものだ。

「……………。」

煙草を灰皿に押し付ける…いや,もはや灰皿の底は見えない。
どう見ても普段の数倍は吸っているだろう。
そしてすぐに次の煙草を取り出し,ライターを使って火をつけた。

獅南蒼二 > 一切の攻撃を捨てて防御に徹するのなら,魔力が続く限りは防壁を張ることができる。
だが,その防壁さえも貫くような高出力の魔術を撃たれれば窮地に陥るだろう。
時間逆行は有効だろうが,それこそコストパフォーマンスが悪すぎる。

やはり本来のやり方を突き詰める他ないだろう。
獅南にとって幸いなことに,クローデットの術式には一定の癖がある。
非常に単純ながら,術式を解析する上では切り口の一つとなり得る癖が。

獅南蒼二 > もっともそれは全ての術式に該当する癖ではなく,
魔術学と言っていいのかさえ怪しいレベルの話でしかない。
抜本的に状況を変えるのであれば,知覚魔術をより洗練させ,
術式の即時性を高める何らかの工夫をするべきだろう。

「………才能か。」

忌々しい言葉だと,思う。
それを超えるために,どれほどの努力を積み重ねてきたか分からない。
だが,相手も同様の努力を積み重ねていたとしたら?
結局はスタート位置が違うのだから,差は縮まらないのではないか。

獅南蒼二 > ある一点においてそれを痛感したのが,先日の戦いだった。
魔力量の差を補うために装備している指輪,これによって獅南は大規模な魔術の発動を可能とした。
しかし,この指輪には一つ,大きな欠点があった。

通常,魔術師は空間ないし体内に存在する魔力を消費し,魔術を発動する。
だが,獅南の場合はこのプロセスの中に,指輪から魔力を解放するという手順が加わる。
……その僅かな時間が致命的な遅延となるのだ。

獅南蒼二 > もはやそれは機能的な限界だろう。
魔力を定着させる方法は無数に存在するとはいえ,解放せずに使用できるような便利な方法は無い。
ガソリン缶に入れたガソリンは出さなければ使えないし,瓶の中の牛乳は蓋を開けなければ飲めないのだ。

「………………。」

この時の獅南の思考はやや危険な方向へと流れていたかもしれない。
本来であるならば,いかにして克服するかを考えなければならないところだが,
獅南は,いかに克服が困難であるかを考え始めていた。
それは自己弁護のためでも責任転嫁のためでもなく,純粋に衰弱した獅南の思考力が低下しているだけのことだったが…。

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
獅南蒼二 > 停滞と混濁の渦に沈む思考に光が差すのは,煙草を1箱近く消費した後の事だった。
彼が思い至ったのは,あまりにも単純でありながら,獅南の行動を大きく制限している一つの箍。

「……酷い話だな。」

獅南は小さく肩をすくめて,楽しげに笑う。
それは,それまで悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなるような,発想の転換だった。

もしかすると,獅南の頭は,とうにそれに気づいていたのかもしれない。
けれど同時に,彼の中の何かが,それを認めることを拒んでいたのだろう。

獅南蒼二 > “どう対抗するか”を考えるのは無益だ。
“いかにして超えるか”を考えることも意味がない。

考えるべきなのは“どうやって殺すか”という一点のみ。

獅南蒼二 > クローデットの身体能力に見るべき点はない。
ともすれば問題となるのは身に付けた装備品の魔術的防御力。
それからクローデット自身の防御術式による防御力。
そしてさらに言えば,白魔法を駆使しての回復力。
一見非常に堅牢だが,一方で精神的にはクローデットも“もう1人”も盤石とは言い難い。
魔術的なアプローチとともに心理学的なアプローチにより消耗を強いることができれば,隙を生じることも十分にあり得る。

獅南蒼二 > そして,推測に過ぎないが装備品に込められた術式には呪詛の影響も限定的なものとなっているだろう。
時間さえかければ無力化することも不可能ではない。
むしろ精神侵食を逆手にとって,逆撃をかけるという手もある。
もっともこれはあの状況から推察するに愚行の域を出ないだろう。
逆撃どころか触れた瞬間に意識ごともっていかれかねない。

だが,心理学的アプローチが有効なことに変わりはない。
不安を増大させるか,憎悪を駆り立てるか…クローデットはそう容易く策に乗るまいが“もう1人”はより手玉に取りやすそうだ。

「………。」

そこまで考えてから,獅南は苦笑を浮かべた。
結局,人には在るべき姿があり,それは容易くは変わらないらしい。

獅南は今,クローデットを“殺す”ことを決意した。
それは憎しみからではなく,使命感からでもなく……。

ご案内:「魔術学部棟第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。