2017/04/15 のログ
ご案内:「魔術学部棟情報処理室」にクローデットさんが現れました。
クローデット > 週末の午後。その日の講義を終えたクローデットは情報処理室に足を運んでいた。
論文検索で、卒業研究に役立ちそうな新しいものを見つけたので、プリントアウトしにきたのだ。
閲覧自体はコンピュータ上でも出来るが、複数のページを同時に見るなどの観点からは、やはり紙の方が読みやすい。

静かな情報処理室に、コンピュータの操作音が妙に響く。

クローデット > 最初の年度こそ教養科目に相当する講義をいくつか履修していたものの、今年はいよいよ専門科目をいくつか履修するだけになってしまった。
職員室などに用事のない限り、クローデットは、もはや通常の教室棟にほとんど顔を出さない。

…しかし、今はそれが幸いだと思う。
異邦人(ヨソモノ)や異能者(バケモノ)で溢れる通常の教室棟で、どこまで「暴走」を抑えられるか、自信は無かった。

論文をプリントアウトする、機械の動作音が続く。

クローデット > クローデットの研究・作業効率を著しく落としているのは、そういった不安と、週末に組み込まれているカウンセリングだ。
今のところは、ぼろを出さない範囲で受け答え出来ているが…それでもなお、カウンセリングによってクローデットは著しく疲弊させられて週末を過ごす羽目になっており…更には、その疲弊が「暴走」を誘発しやすくなっていた。

公安委員会の後方支援として、防御系の魔術具(工程をシンプルにして、クローデットが使っているものより効力は低いものの量産が可能なようにしている)を一定数収めることになっているが…それの作製も、あまり捗ってはいなかった。

(頭を使わない作業も進まないなんて…どれだけの時間を無駄にしていることでしょうね)

論文のプリントアウトの終了を待つ、クローデットの表情はお世辞にも明るいとは言えない。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」に宵町彼岸さんが現れました。
宵町彼岸 >   
「どくしょーどくしょ、たーのしいなぁ」

いつもは図書館や研究室に籠っている事が多いその姿は今、廊下にあった。
ふらふらと歩くその姿は少なからず好奇の目を集めている。
完全に頭以上の高さになってしまっている何冊もの本を器用に積み上げ、ゆらゆらと歩くさまは実に危なっかしい。

「本がいっぱいある方が楽しいのにぃ」

独り言を愚痴ながら揺れ揺られ廊下を歩く。
何故だか図書館でゴロゴロしながら本を読んでいたら此方で読めと追い出されてしまった。
けれどそれなりにご機嫌のようで、ふらふらしつつも時折ステップすら踏み、目的の場所にたどり着くと……

「とっなりーのかきはー、よく客食う柿~ぃ♪」

小声で歌いながら情報処理室の扉をスライドさせる。
基本的に授業以外でこの部屋を使っている生徒は少ないが今日は先客がいる様子。
とは言えそれをいちいち気にかける性格でもない。

「アメンボ赤いな次は貴様がこうなる番だー」

どさりと重々しい音共にデスクに本を下す。
同時に埃が舞う所から見ても古い文献が殆どという事は傍目にも明らか。
最も電子機器の多い部屋に埃っぽいものを持ち込むのはあまりよろしくないのだけれど。

クローデット > 突如開く情報処理室のドア、聞こえてくる素っ頓狂な歌声やら愚痴やら。
入ってきたのは、白衣を羽織った小柄な少女だ。
彼女が抱える埃っぽい本の山に、情報機器類の心配をしてか少しだけ眉間に皺を作る。
…そんな折、論文のプリントアウトが終わったようだった。
席を立ち、回収に向かう。枚数を確認して、コピー漏れがないのを確認すると…

「…埃に弱い情報機器類が場所をとるここよりは、ロビーなどの方が読書に向いているのではありませんか?」

少しだけ遠回りをして、自分の後にやってきた少女に、一言だけ忠告をするつもりで声をかけた。

宵町彼岸 >   
「んぁー…?」

控えめにかけられた声に初めて気が付いたかのように瞳を向ける。
その内容に目をしばたたかせると小さく首を傾げつつふにゃりとした笑顔を浮かべた。

「あー……うん、あそこ人が多いんだもん。
 この子達はしゃべらないからねぇ
 静かだし調べものには便利だしぃ
 埃は……まぁ気にしない方向だと嬉しいかもしれない?」

最後はもはや願望だけれど特に気にする事もなく言い切る。
相手は何かをコピーしに来たようで……しかしあまり楽しそうな表情でもない。

「あ、もしかして気になっちゃうタイプぅ?
 だったら御免なさいかも?
 苛々してるときとかは特に気になるよねぇ。うんうん」

独りで納得するかのようにのんびりマイペースに
腕組みをしながら頷いてみる。
何か忘れている気もするけれどそれはそれでまぁいつもの事。

クローデット > 「………そういうことですか」

「人が多いから」という理由を告げる少女に対して、微妙そうな返答。
人形めいて整った眉を少しだけひそめつつも、声はまだ平静だ。

「…近づかなければ、あたくし自身にはどうという事も無いのですけれど。
せっかく研究用に高性能な情報機器が揃えられているのに、物理的な要因で調子を悪くされては面倒だと思いまして」

「敵地」とはいえ、知的作業に従事する者として研究環境にはそれなりの敬意を払うのである。
問題は人間ではなく情報機器の方だ、ときっぱりと言いきるが…

(………。)

その一方で、少女の抱えてきた古びた本の中身が気になるのか、タイトルだけでも見ようと、ちらりと視線を向ける。少女の方を向いている顔を動かさない程度に。

宵町彼岸 >   
「ああ、そっかぁ。
 うーん……この子達に罪は無いよねぇ。確かにぃ」

研究室に入り浸っていた分機器の性能に対する認識がかなりずれてしまっている感はある。
一般学生が利用可能な範囲においてある程度の機器なら
基本、そういったものとして無意識に評価してしまう傾向が知らず知らずに出来上がってしまっていた。
主に此処を利用する学生からすれば確かに埃は由々しい問題かもしれない。

「うん―……次から気を付けるぅ。
 古い文献だとこういう所の方が扱いやすくってぇ。ごめんねぇ?」

のんびりとマイペースの口調ながらも両手を合わせてごめんねと目を瞑ってみせる。
相手が言う事もまぁ間違ってはいない。
――どうせすぐ忘れてしまうのだろうけれど。

「魔女裁判とかそういうのって資料本当扱いが雑なんだよねぇ……
 あ、人の事言えないねぇ」

積み上げられたものは幾分か古書が多いものの、彼女の頭の中を示すかのように様々なジャンルの物が混在していた。
実は中には禁書と呼ばれるものであったり"正式にはこの島に存在しないことになっている"ものも混ざっている。
見るものがみれば……と言っても相当精通しているような相手でなければ気が付く事は無いかもしれないけれど、
魔術的、異能的観点ではある意味爆弾ともいえるようなものが無造作に机の上に積まれていた。

クローデット > 相手が納得してくれれば、表情を安堵に少し緩めた。
目の前の少女の印象とは対照的な、瞳の怜悧さは相変わらずだろうが。

「………人が飲食する場で、これだけの書物を広げるのは双方の益にならないことも理解出来なくはありません…ただ、気をつけて下さると幸いです。
あたくし、個人の研究室などは与えられておりませんので」

そんな風に言いながら、相手も書物について口に出すので、改めて見分。

「………魔女裁判、「とか」…ですか。
…歴史に興味がおあり…というだけでもなさそうですけれど」

ただの歴史書ならば、大したことはないのだが。
クローデットには察することが出来てしまった。目の前の彼女が無造作に積み上げている書物の、危うさが。

すっと、怜悧な目がその雰囲気のまま細められる。

宵町彼岸 > 「飲み物に埃が入るといやあな気分になるよねぇ
 クッキーとかの小麦粉は気にならないのにぃ
 あれもあれで粉っぽいと思うんだけどぉ
 まぁ私物持ち込みで怒られるのは良くあるみたいだからぁ……
 一応気を払っておくねぇ?」

彼女が図書館を追い出されたのは実はこれが本当の理由だったりする。
これらの本は図書館から借りられたものではなく……逆に持ち込まれたもの。
情報の爆弾……汚染源になりうるものを平然と持ち込んで図書館で目を通していては
他の生徒に影響を与える可能性がある。
そんな理由で人の居ない場所か研究室で読むようにと追い出されてしまった……というのが事の顛末。
そう、これは彼女"個人"の所有物。

「歴史―……それにはあんまり興味ないかなぁ。
 どっちかというとそれが作られた方に興味がある感じぃ。
 そいうの好きぃ?面白いよぉ?
 恨みつらみが凝り固まって、触っただけで死んじゃうのとかあってぇ」

まるで軽い笑い話を聞いた時のようにくすくすと無邪気に笑いながらそれを撫でる。
そんな汚染源の中心で、目の前の相手の表情に気が付いてはいても……

「大変容以前の魔術師は文字通り幻想だもんー
 ロストセルを埋めるには良い方法だと思うんだよねぇ……」

彼女自身も生粋の研究者でもある。
それが及ぼす影響を観察できるなら
クラスの一つや二つ巻き込んでも特に気にしない形質の持ち主だった。

クローデット > 「…生の小麦粉も、あまり身体に良いものではありませんけれど。

………「私物持ち込み」、ですか」

少しだけ瞬いて、束の間だけ、視線を本の山に落とす。
「私物」という、相手の言い方が気になったのだ。
…あくまで束の間だけ視線を落として、再度少女の方に目をやる。

「………まあ、「恨みつらみの凝り固まっ」たのを解くのを、得意分野としてはおりますけれど。
「面白い」と評する感覚は、理解致しかねますわ」

情報機器の傍で埃を撒き散らすことへの注意を理解してもらって僅かに緩んだ表情が、再び険しさを帯びる。

「…旧来の魔術師のコミュニティ自体は、世界各地に残っていると思いますけれど。
そういった場所での聞き取りやその報告には、あまり興味をお持ちではありませんの?」

「歴史にはあまり興味がない」という辺り、期待はあまり出来ないが、一応尋ねてみる。

宵町彼岸 >   
「……そいうの得意なの?
 珍しい人もいるんだねぇ……あんなもの触れたくないって人の方が多いのにぃ
 もし今度そういうのがあったらお願いしても良ーぃ?」

相手の視線が強さを帯びる事には気が付きつつも
それに一切気が付いていないかのように首を傾げる。
何方かというとそのような事は評価に関わらないと思っているのかもしれない。
  
「聞き込み?聞き込み―……
 嗚呼、だって無意味だもぉん。
 幻想だからこそ、そこに付加価値をつけたくなる気持ちはわかるけどねぇ?
 そうじゃないと生きられなかったんだろうけどぉ……」

実に毒の無い良い笑顔を浮かべながら言外にバッサリと切り捨てた。
無駄な特別視で覆われた文献はその殆どが失笑し切り捨てるべきもの。
その選民意識が螺旋を描き内に籠った結果……それは醜悪な毒になる。
……何処かの実験施設のように。

「それで反発を招くわけでしょ?
 それはそれで正しい反応だと思うしぃ、禁忌扱いする方がよっぽど的を射てると思うのぉ。
 焚書には焚書されるだけの理由があるっていうのもまた真実だと思わなぁぃ?」

まぁ触っただけで命を奪う事すらあるような本であれば
問答無用で焚書にする方が本来は正しい感覚なのだろう。

クローデット > 「…触れたくなくとも、害が及ぶならば祓わねばならないでしょう。
誰かが、やらねばならないことです」

すっと、視線を伏せがちに答える。一族のルーツとしての要因には、触れなかった。

「………無意味、ですか。随分言いきられますのね?」

古いコミュニティにルーツを持つクローデットとしては、当然あまりいい気分ではない。
相手の事情は知らないが、怜悧な瞳を、まっすぐ彼女に向ける。そこに笑みはない。

「………まあ、焚書されるだけの理由というのは、全く理解出来ないわけでもありませんが。知的な営みの一環としては残念に思う部分もございますわね」

必要がなければ禁術の領域にそこまで執着しないクローデットは、その辺りのスタンスは意外と中庸だ。

「………まあ、「浄化」を望まれるのでしたら、あたくしが相談に乗れる範囲で乗りましょう。

…申し遅れましたが、4年次所属のクローデット・ルナンと申します。あなたのお名前をお伺いしても?」

淡々と、しかしそこまでキツさのない表情で。
そう名乗る声は、若い女性相応の甘さを伴っていた。

宵町彼岸 >   
「誰かはやらないと……かぁ。
 そいうところ優しいんだねぇ」

傷つかずにすむなら、それに越した事は無いはず。
それをわざわざ紐解くのは余程のもの好きか……

「ノブレスオブリージュ?だっけぇ
 持たざる者への義務……ふふ。いいことばだよねぇ」

さり気なく椅子を引き、踊るように回転し腰かける。
その手にはいつのまにか"禁書"のうちの一冊が開かれていた。
飛び切り危険で、人を闇へと引きずり込む呪詛を湛えたそれは
それを支える片腕に文字が伝い、黒く染めていくほど周囲を汚染している。

「顔とか名前覚えるの苦手でぇ……忘れちゃうかもしれないからぁ
 そう教えてくれると嬉しぃかなぁ?
 記録はちゃぁんとしてるからぁ。
 ボク?ボクは―……
 宵町、宵町彼岸……だったと思うよぉ。
 ごめんねぇ。忘れっぽくってぇ」

ぽたりぽたりと地面に広がるインクと体液の混ざったものには目もくれず
たっぷり数秒笑顔で固まったあと、思い出したかのように口にしていく。

クローデット > 「…ヒトならば、あたくしのような者でなくとも誰かが「手入れ」をするでしょうから。
手段を持つ者の希少性を鑑みて、そういった方面を優先しておりますの」

「大したことではありません」と、涼しい顔で答える。

「…まあ、持てる者にしても、何もかもを背負う必要はないのでしょうけれど。
背負える範囲で背負った方が、自分にとっての益になり得ますものね」

「社会が成り立つ土台が壊れてしまっては、元も子もありませんし」と言ったところで…「危うい」書物を、目の前の少女が手にしていることと、その影響を見て、目を大きく見開く。
…そして、その後剣呑に目を細めて…

「…宵町様…ですか。
覚え方はご自由になさればよろしいと思いますけれど…そういったものの影響を、校舎に与えるのは感心致しませんわね」

あまり気の進まない様子で、魔力を練る。

「…祈りの魔力よ、白き光よ…
蝕む禁忌を遠ざけたまえ…

『聖なる護り(デファンス・サクレ』」

範囲を、自身と情報処理室一帯に広げて、呪詛による侵食を防ぐ防御術式を展開する。
前準備も無しに、禁書が相手ではどこまで通じるか分からないが…術式強化の魔術具効果も織り込んだし、対応する部署が来るまでの時間稼ぎくらいにはなるだろうと。

「…あたくし、この後用事がございますので…残りは、専門の部署に引き継ぎたいと思います。

………今度お会いする時にも影響が残っているようでしたら、取り除くお手伝いくらいは致しますわ」

そう言って、少女から離れると…プリントアウトした論文を携え、情報処理室で使っていたコンピュータの後始末などをして情報処理室を出て行く。
出て行く間際、クローデットは彼岸に怜悧な視線を投げ…いかにも担当の部署に連絡することを知らせるように、携帯端末を取り出してみせたのだった。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」からクローデットさんが去りました。
宵町彼岸 >  
「手入れかぁ……庭師みたいだね!
 綺麗な花とか好きだよぉ?綺麗なものはぜーんぶすきぃ」

無邪気な口調とズレた雰囲気でニコニコと続ける。
それだけのプライドがあり、それを維持し続けるというのは
並大抵の事ではないと理解はしている。
そう生き足掻くモノが彼女は好きだった。たとえそれがどんなものだったとしても。
 
「……ああそうだった。つい忘れちゃうんだよねぇ」

校舎への影響も考えるべきという事をつい忘れてしまっていた。
何度か注意もされた気がするけれど……つい忘れてしまう。

「……あははー。やっちゃった。
 ごめんねぇ。迷惑にならないように頑張って処理しちゃうねぇ?」

自身を包む防御術式に触れるとそれに従うようにゆっくり本を閉じていく。
文字の奔流はそれに伴って収まっていき、最後には足元のインクと血の池共々
まるで悪い夢で、実際には何も無かったかのように消え失せていった。
そうして一礼して出ていく相手を無事な方の手を振りながら見送って……

「それはどこまで、貴方……なのかなぁ」

その背中を見送ってぽつりとつぶやく。

「……影響が残っているなら、取り除く手伝い……ね。
 ふふ、優しいねぇ……?嫌悪かもしれないけどぉ。
 それとも自戒も込めて……なのかなぁ」

その言葉は相手には届かなかったかもしれない。
届かなくとも、別に構わないのだけれど。

――担当が駆け付けた時にその部屋は穏やかそのものへと戻っていた。
そこに禁書はなく……あるのはいくつかの古書と無邪気に眠り込む少女の姿のみ。
それは満足げな笑みを浮かべながらただすやすやと眠りの淵を漂っていた。

ご案内:「魔術学部棟情報処理室」から宵町彼岸さんが去りました。