2017/05/01 のログ
《赤ずきん》 > 聞き違えただけであればいいと思った。
機械鎧の男が口にした名前には心当たりがある。
名前が同じなだけでなく、その呼び方さえも。

背格好は同じ。
苦し紛れにぶっきらぼうなことを口走る癖も同じ。
どうして気づかなかったのだろう。

「―――………御身、は……」

引き抜いた手のひら、赤く滴るものを見て震えが止まらなくなる。
何を否定するでもなく、頭を振って後ずさっていく。

傷付けてしまった。
仮初の主とはいえ、その穏やかな日々に仕えていた人を。
何故ここにいるのか、何故機械の鎧など使っているのか。訳がわからない。
そして思い当たってしまう。
………主はただ、この身の不在に気づいて探しに来ただけだったのかもしれない。
事実はあまりにも重たく、いかなる弁解も無意味に思えた。

どうしよう。どうしたらいい。
思考がまとまらず、眩暈と吐き気に襲われて冷静さを失くしてしまう。

「……………ぅ、あぁ……あああああああああ!!!!」

心の拠りどころにしていた、ささやかなものが崩れていく。
一体どうしたら良かったというのか。感情が一気に噴出して、無様に喚くような嗚咽を漏らす。

濃い霧の彼方から応援の車両が掲げる赤い輝きが近づいてくる。
時間切れだ。もう何もできない。この身はふたたび無惨な失敗を手にしたのだ。
煙幕手榴弾のピンを抜き、ひときわ色濃い白煙に溶けて………真紅の幻影は姿を消した。

イレイス >  
鎧の中で目を瞑った。
最期の瞬間というのは、長く感じるものだ。

………?

しかし、何時まで経っても死は訪れない。
それどころか。

「……おい、御身って…………お前…」

顔が引きつった。
相手が死ぬくらいの勢いでぶん殴ってきた。
相手が倒れても気にしないくらいの力で襲い掛かった。

それが、まさか、自分の日常を支えている―――――

胸に埋没していた手が引き抜かれると、その場に蹲る。

「うご………」

ストレスで吐き気を覚えたが、我慢した。
鎧の中で吐いたらそれこそ最悪だ。

……最悪?
今以上の『最悪』なんて、あるはずがないのに。

「嘘だ……嘘だそんなことー!!」

煙幕手榴弾が周囲に白い闇を広げる。
その中でしばらく蹲って何者かへの何かの言い訳を一人呟いていた、卑小なる者。
しばらくすると起き上がり、ふらふらと夜の闇へと消えていった。

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