2015/06/15 のログ
ご案内:「第一演習場」に霜月 芙蓉さんが現れました。
霜月 芙蓉 > ……眠れない。

悲しいかな、眠れない。色々とありすぎたせいで、変に覚醒してしまっている。

だから、取り敢えず気分転換と、後運動もかねて稽古をしに来たのだ。

霜月 芙蓉 > 「……」

用意したのは、以前と同じくマンターゲット。拳銃の射撃訓練でよく使われるものだ。

そのマンターゲットに対し、弓を引く。集中して、狙いを定める。

霜月 芙蓉 > 「……ふっ!」

弓を射る。命中。

命中はしたが……命中箇所は、右肩。これでは、相手を確実に仕留めることは出来ない。

「……よし」

だが、彼女は満足そうだ。

霜月 芙蓉 > また、弓を構える。

狙いが、思わず心臓部や頭部…つまり、致命傷を狙う個所に行きそうになるのを理性で抑え、あくまで制圧のための射を意識する。

「……ふっ!」

命中。今度は左肩だ。

霜月 芙蓉 > 「……うん。まずはじっくり」

反射的に致命傷になる箇所を狙いそうになる自分の手癖に苛立ちながらも、次々と、少しずつ致命傷を外して打ち抜いていく。

右足。左足。右腕、左腕。

少なくとも、そこだけでは即死しない箇所。そこを連続で打ち抜いていく。

――普通に考えれば、おかしい事だ。

霜月 芙蓉 > そもそも、何故そんな手癖がついているのか。

決まっている。そういう訓練を受けてきたからだ。

退魔師を請け負う霜月家。そんな家の弓術なのだから当然といえよう。

うっかり仕留め損ねたら、自分が死ぬ世界。

そんな世界において、急所を狙わない理由がない。

彼女が弓を射る時に性格が豹変するのも、射において心の揺れ動きは大敵だからだ。

『射る時は、五体の全てを射る事に使い切れ』

霜月流五行弓術は、そのように教えている。戦闘時には余分な情報をカットし、的確に命を奪う。そうしないと、自分の命がないから。

霜月 芙蓉 > では、そんな彼女が、何故その「合理的」な射を崩すのか。

「……私は、風紀委員なんだ」

彼女が、風紀委員だからだ。

否、それだけではないだろう。風紀であっても、彼女は躊躇なく、敵の心臓を狙ったからだ。

――だが、かけられた言葉があった。

本分を忘れ、「殺し」に走ろうとした芙蓉を叱り付けてくれた人がいた。

その人は、こう言った。殺したら全てが終わりだと。もう普通の人間には戻れないと。

だから……霜月芙蓉は、正しい射を捨てる。

掛けてくれた言葉が嬉しかったから。

その背中が、あまりに寂しそうだったから。

だから……「風紀を守るための射」を会得するのだ。

霜月 芙蓉 > 集中して、射を繰り返す。

「……ふっ!」

敢えて外す射。足元を狙う事で動きを縛る射。牽制、威嚇のための射。

そういった射を繰り返し練習する。

霜月 芙蓉 > 一通り打ち終えた後、別のマンターゲットを用意し……今度は、走り出す。

「……ふっ!」

そして、走りながら、射る。

……外れた。

霜月 芙蓉 > 「ああもう!」

それでもなお、様々な方向に走りながら射る。

――そもそも、走りながらの弓射と言うのは、非常に難易度が高い。

まずもって、ただ普通に走るのでは駄目だ。体が上下に揺れ動いて、狙いを定めれたものではない。

故に、腰を浮かさない走り方から。そして、それでも常に横へは変化する自分の体を意識して、狙いを微調整する。

霜月 芙蓉 > それでも、以前までの彼女ならば、簡単に当てる事は出来た。

何故なら……狙う個所が、心臓部付近だったからだ。

人間の胸部は、多少ズレても他の箇所に当たりやすい部位だ。上にズレればヘッドショット。お得である。

だが、それでは、万が一そのまま命中したとき、相手を「殺害」してしまう。

それではダメなのだ。

霜月 芙蓉 > 故に、狙いは末端部。よほどのことがない限り、ズレても致命傷にならない箇所。

それを、動きながら。さらに速射で射るのである。

「……ああもう、このっ!」

簡単に当たる筈がない。

霜月 芙蓉 > 走る。射る。走る。切り返して射る。また走る。今度は切り返しながら射る。

動かないマンターゲットの周りを、その分自分が縦横無尽に動きながら射掛け続ける。

延々と繰り返すが…命中率は4割程度だ。

「もう…もうっ…!」

苛立ちが募る。

霜月 芙蓉 > 「きゃあっ!」

切り返しながら射掛けようとした時、足を滑らせてしまった。

スカートがめくれ、下着丸出しですっ転んでしまう。

「う、うう~……!」

だが、そこから起き上がろうとしない。

霜月 芙蓉 > 割とあられもない姿を晒している事に気付かないまま、どん、と床を叩く。

「何よ、何がお兄ちゃんの才能を開花させてあげる、よ…!」

自分は、これでも才能があると思っていた。

親からも筋がいいと言われ、兄からも褒められてきた。これでも、何度か実戦だってこなしてきた。

だから……どこか、天狗になっていたのだ。己の射に。

だが、現状はどうか。

ほんの少し――と言っても、非常に大きな「少し」だが――形を崩すだけで、ろくすっぽ当たらない。

挙句、苛立ちで移動の体重移動を疎かにし、転んでしまう始末。

「情けない……!」

悔しさがこみ上げる。

守る対象とされてしまい、与えられた仕事も満足にこなせなかった。

そう、自分は……

「出来る子なんかじゃ、ない」

霜月 芙蓉 > 認めざるを得ない。

もしかしたら、才能はあるのかもしれない。少なくとも、平均以上であるのは事実だろう。

だが、それを使いこなせていない。

自分の射は、まだまだ未成熟なのだ。

「う、うう……ううう……!」

どん、どん、とその姿のまま床を何度も叩く。

悔しさと情けなさに涙が溢れる。

さっき十分泣いたはずなのに、呆れたことにまだまだ出てくるようだ。

霜月 芙蓉 > 「うあああああ…………!」

どん、どん、と床を叩きながら泣き続ける。

自分はどれだけ調子に乗っていたのだろう。

どれだけ浅はかだったんだろう。

どれだけ、間抜けだったんだろう。

…………10分ほど、そのまま泣き続けた。

霜月 芙蓉 > 「……泣いてちゃ、ダメ」

約10分後。

体に力を入れて、ゆっくりと立ち上がる。

……流石に射の練習をするコンディションではないが、このまま泣き続けてるわけにもいかない。

「……頑張らないと」

決意を新たにする。

自分は弱い。まだまだ未完成だ。

それを認めた上で、前を向く。

だって、こんな私でも、褒めてくれた人がいたから。

こんな私でも、見守ってくれる人がいるから。

こんな私でも、心配してアドバイスしてくれた人がいたから。

こんな私でも……追いつきたい、背中があるから。

こんなところで、ぐずってる暇はない。

霜月 芙蓉 > とは言え、泣いてブレたメンタルとままならない体で射の稽古を続けても、怪我をする可能性が高いだけだ。

それに……このままでは、いつものWKY(割と空気読めない)芙蓉ちゃん、に戻れない。

ちょっと、気分を流され過ぎた気もする。

「さぁ~って!じゃあ、元気に後片付けしますかぁ!」

だから、空元気でもいつも通りに。

明るく喧しい芙蓉ちゃんに戻るのだ。

霜月 芙蓉 > 「よーいしょっ!よーいしょっ!」

マンターゲットを仕舞い、床の掃除。最後に自身の弓を軽く点検。

「はーい、おっつかれさまでしたー!」

誰もいない演習場に無駄に元気よく挨拶する。

霜月 芙蓉 > 「さーって!今日の一時間目はなーにっかなー!」

思い出して、うげ、と顔をしかめる。

……超眠い先生の授業だ。徹夜しちゃった状態で凌ぎ切れるだろうか。

「……いざとなったら、誰かにレジュメのコピー貰おっかな~?」

そんなダメ学生発言をしながら、演習場を後にした。

ご案内:「第一演習場」から霜月 芙蓉さんが去りました。