2015/08/17 のログ
ご案内:「第一演習場」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 足音が響く。白衣を着た男が訓練場の中央へと、歩み出る。
今日はもう講義は残っておらず、実習や演習の予定も無い。
「………………。」
左右の手にはそれぞれ3つずつ指輪が嵌められている。
そしてそのいずれもが、高濃度の魔力を含んだ魔導具であった。
■獅南蒼二 > 全てを合わせれば、その魔力の絶対量は第一級の大魔術師にも匹敵する。
先天的に魔力を殆ど内包していない獅南にとってそれは、まさに無限の魔力に等しい出力であった。
「………………。」
魔石は実験の中で生成した、だが、今この瞬間は、実験の一環ではない。
生まれてから、ずっと手に入れたかった力。
それを不完全ながら手に入れた興奮と、そして“使ってみたい”という子供じみた感情。
■獅南蒼二 > 強引に理由を付けるのなら、魔石に充填した魔力を出力しつつ魔術を行使する実験、ともいえるだろうか。
獅南は魔力を生成するための研究を進めているが、その目的の1つが、この、言ってみれば携行用の魔力タンクである。
これを量産することができれば、無限の魔力を、誰もが…まるで電池を使うかのごとく使用することができる。
……なにはともあれ、今は、無限の魔力を無制限に行使できるのだ。
無限の魔力、といっても、それは人間レベルの話であはあるが。
ご案内:「第一演習場」にヨキさんが現れました。
■獅南蒼二 > 両腕を掲げて…宙に術式を描く。
蔦が爆発的に伸びるように、獅南を中心として光で描かれた術式が、魔法陣にもにた魔導文字の羅列がものすごい速さで部屋じゅうを埋め尽くしていく。
それは単純な炎を再現する魔術。
しかし、一切の制限を掛けることなく、ひたすらに出力を上げ、多重に属性と指向性を描き込んだ。
■ヨキ > (その日、訓練場で行われていた最後の実習。
一般生徒と共に授業を受けることのできない、特別支援学級――『たちばな学級』の、ごく少数の生徒たちを集めた異能制御、および応用の訓練。
身体が丈夫なことだけを取り得に『指南役』として狩り出されたヨキが、最後の生徒を送り出す。
ふう、と息を吐いて、通り掛かった演習場を見遣る。
不可視の防壁を透かした向こうに、一人の男の姿を認める。
話を交わしたことはないが、その名と受け持つ授業、『凡人教室』の評判は聞き知っていた)
「――おや」
(壁の外から興味深そうに目を細め、術を振るう男――獅南の姿を見つめる)
■獅南蒼二 > 今日は周囲に生徒の姿はなく、そこに立つのは白衣の男1人だけであった。
外部からの目に気付いているのかどうか…獅南は超人的な感知力をもっているわけではない、気付いていないと考えるのが自然だろう。
借りに気付いていたとしても、恐らく彼の行動は変わらない。
爆発的に広がった術式…並の魔術師ならこれほどの術式を描くには相当の時間を要するはずだが、それを瞬時にやってのけた。
演習場は、その空間そのものがキャンパスであるかのように、光の術式で埋め尽くされる。
「………燃えろ。」
獅南が小さく呟き、両手を強く握りしめる。魔力が瞬時に放出され、術式によって属性や指向性を与えられ……一挙に解放される。
燃焼というより、それはもはや爆発であった。防壁を揺るがし、床を焦がし、空間を炎で埋め尽くす。
その様子は壁の外からでも、尋常ではないと認知できるだろう。
■ヨキ > (腕を組み、演習場の入口に凭れて立つ。
そのごく限られた外界との通路さえ余さず侵すように、光の術式が宙を駆け抜けてゆく。
自分と紙一重の眼前を、読めもしない文字が眩く輝く)
「――――……、」
(閃光。)
(床を揺らす振動だけが、ヨキにその魔術の強大さを伝える。
覗いている部屋じゅうが炎に埋め尽くされても、別段取り乱す風もない。
その爆炎がどれほどの間、部屋を埋め尽くしたか――
とにかく、獅南が気付くにせよ、気付かないにせよ。
その威力への賛辞を、拍手に表した。
叩かれた手の乾いた音が、爆発に紛れるようにして響く)
「凄まじいものだな」
(思わず零した笑い交じりに、声を漏らす)
■獅南蒼二 > これだけの燃焼には大量の酸素が必要になる。
本来ならばこんな空間では酸素が不足し、火は燃え上がらず、獅南は窒息する。
だが、これは魔力によって再現された炎に過ぎない。よって、
「…こんなものならガソリンを1キロℓ買えば誰にでもできる。」
そう自嘲気味に呟いた白衣の男の発言は、厳密に言えば正しくはなかった。
左右の指輪のうち1つずつが光を失い、魔力を消費し切ったことを示している。
そして白衣の男は、来訪者へと視線を向けた。
「……見た顔だな。あんたもここの教師、だったか?」
■ヨキ > (振り返った獅南に、目を細めて笑い掛ける。
演習場へ一歩足を踏み入れ、壁じゅうの焼かれた跡と、その冷めやらぬ熱とをぐるりと見渡す)
「獅南――と言ったか。魔術学の。
美術のヨキだ。今日は『異能の先生』としてここへ来ていた。
君が知らぬのも仕方のない話だ。何しろヨキには、魔術の素養がなくて」
(異能者で、獣人。
それが『凡人教室』の担任たる獅南の目にどう映るかなどお構いなしに、気さくに話を続ける)
「今の爆発は……君の研究の成果かね?」
■獅南蒼二 > まるでそれは、ナパーム弾でも撃ち込まれたかのように焼け爛れ、熱によって破壊されていた。
と言っても確かに、魔術でなくても現代兵器を使えば十分に可能な破壊ではあったが。
相手の言葉を聞けば、白衣の男は僅かに目を細めた。
「美術か…私には縁が無い分野だな。
しかし、暴走する異能者を出さんようにするのも、骨が折れるだろう?」
こちらも肩を竦めて笑いながら、貴方の方へと歩み寄る。
「このくらいなら誰にでもできる……魔術の素養が無い、と言ったな?」
仄かに輝く指輪を1つ外して、貴方へと差し出し、
「研究の終着点は、万人に魔術を授けることだ。」
魔力を感じられるのならば、そこには膨大な量の魔力が凝縮されているのが分かるだろう。
■ヨキ > 「なに。このくらい、心地よい疲れのうちさ。
学園に名を連ねる限り、みなヨキの可愛い生徒らだ。……」
(差し出された指輪と、獅南の顔を交互に見る。
それに秘められた膨大な魔力を――しかし察する様子はないらしい。
四本指の手のひらを向けて微笑み、穏やかに施しを辞する)
「いや。見事な力ではあったが……このヨキには結構。
受け取ったとて、鉄を燃す炉の代わりほどにしか使えんだろう。
……何しろヨキは、ヨキ自身の異能を何より愛しているのでな。
異なる力を併せ持つ訳には行かんよ。君の研究の妨げになってしまうがね」
■獅南蒼二 > 不思議な語り口と、柔らかい物腰。
指輪を差し出した白衣の男は、まるで値踏みするかのように、貴方を見る。
「出来ることなら、その調子でこの世の全ての異能者を飼い慣らしてくれると助かるんだがな。」
表情は笑い、しかし瞳は笑っていなかった。
指輪を差し出したのも、挑発的な言葉を向けるのも、全ては相手を見極めるため。
「どうやら我々は相容れんようだ。」
やがて、小さくそうとだけ呟き、指輪を嵌め直した。
■ヨキ > (瞬き。笑うときの顔の筋肉の動き。髪の下で垂れた耳。華奢に見える肉付きの、それでいて頑健な骨格。
人間のような所作を見せながらに、その身体のつくりが、細やかな骨肉の動きのひとつひとつが、『人間とは異なる』。
そんな印象を与えるのが、このヨキという教師だった。
獅南の値踏みするような視線が、自分の金色の瞳を見ている。
ヨキの暗い瞳孔の奥で、獅南の起こした爆発よりもずっと小さな焔が、ぐるりと黄金色に渦巻いたかのように見えた)
「ふふ。飼い慣らすとは、少し人聞きが悪いな。
……この島の人間らと、いわば招かれざる『まれびと』たる異邦人との境界を失くす。
さらには異能の特殊性を攪拌し、限りなく薄めること。
『我々』は決して『異』邦人でも、『異』能者でもない――
それを常世島のみならず世界中へ広め、知らしめるのが、このヨキの役割だ」
(相容れない、という評に、半ば愉快そうに目を細めてみせる)
■獅南蒼二 > 決してそれを言葉に表すことはないだろう。
だが、獅南は貴方の特異性に気付かないほど鈍感ではないはずだ。
貴方の言葉を、獅南は静かに聞き…そして、笑んだ。何の感情も感じられない、形だけの笑み。
「特殊性の撹拌…なるほど、異能をよく理解しているようだ。
現代における異能はあまりに特殊だ…当人の思惑、能力、そして研鑽に関わらず突発的に開花する。」
小さく肩を竦めて、ポケットから煙草を取り出す。
ライターを用いることなく、指先から発現させた小さな炎でそれに火をつけ…
「…で、そのヨキは、異能をどう考える?
神の奇跡か、悪魔の悪戯か……それとも、羨むべき才能か?」
紫煙を燻らせながら、尋ねた。
■ヨキ > 「……この駄犬とて、伊達に異能者をやっておらんでな。
考える頭の無いなりに、付き合ってきたつもりだ」
(獣が炎を忌むのとは裏腹に、惹き付けられたように獅南の指先、小さく点る火を一瞥する)
「異能をどう考えるかって?」
(『神の奇跡』『悪魔の才能』。
まるで小噺でも訊いたかのように、可笑しげに顔を伏せてくつくつと笑う。
顔を上げる――牙の並んだ大きな口が、ふっと弧を描いて笑う)
「――『花粉症』。
縁のない者には一生無縁。ひとたび発現すれば一生付き合う。
時に重症化しさえもすれば、その一方である程度の統御が可能。
我々異能者は、『能力を持たないこと』に対するごく単純な反応として、異能を獲得したに過ぎない。
誰しもそのトリガーを持っている――それが引かれるかどうか、判らないにせよ。
……ゆえに、異能に特殊性は、ない」
(腕を組み直す。左手の人差し指をくるりと回す。
その指先に突然、うねる炎を象った金属のオブジェがぱっと現れて――たちまち蝋のように熔けて、消える。
言葉のとおりに『特殊性のなさ』を証明せんとするような、ヨキの異能の発現だった)
■獅南蒼二 > 指先に生じた炎は紅色に輝いて、やがて獅南がその手をくるりと回せば、かき消された。
静かに煙草の煙を吹かして…男は笑う。今度は心の底から、楽しげな笑み。
「なるほど…花粉症とは面白い表現だ。
発症者自身が鼻炎に苦しんでいるだけならそれでいい。
だが、個人差はあるだろうが、その花粉症は、周囲の人間を時に支配し、時に殺す。
……随分と、厄介な【病気】だとは思わんか?」
特殊性が無い、そう断言した貴方の言葉。
男はそれを否定はせず、しかしそれを忌避すべきもの、病気と表現した。
煙草の吸殻を携帯灰皿へと入れて、
「魔術も人を殺すが…努力と研鑽によってのみ得られる力だ。
どちらも特殊だろうが…私は努力と研鑽によって得られるものを【病気】だとは思わんね。」
楽しげに笑い、男は貴方に背を向ける。
この男は貴方の考え方に理解を示しはしなかった。
つまりそれは、この学園の存在意義をすら、否定しているということに他ならない。
■ヨキ > 「『病気』……君にとっては治さねばならぬもの、か」
(くすくすと笑いながら、獅南を旧い友人のような、無遠慮な眼差しが見つめる)
「人間は、長い歴史を経て――
自動車に轢かれて死ぬようになった。乗っていた飛行機が墜ちて死ぬようになった。
火力を増した銃弾に撃たれて死ぬようになった。人工的に生成された毒ガスによって死ぬようになった。
新たな病原体によって死ぬようになった。
『異能によって命を落とす』ということは、ただ『人間の死因がひとつ増えたに過ぎない』と。
……そう思いはしないかね?
特効薬の開発に尽力するのも、症状を和らげる薬草茶を淹れることも――我々にとっては、まったく自由だ」
(背を向けた獅南を見る目は、いかにも活き活きとして輝いている。
交わされる会話を、朗らかな雑談のように楽しむ顔で)
「ひとつだけ訊かせてくれたまえよ。
さっきの魔術は……、『病者を焼き払う』ための炎か?」
■獅南蒼二 > ヨキの語りは、興味深い。
…これまでは異能学者たちの話など、真面目に聞いたこともなかったが。
「“門”より現れる怪物による死も、魔術の炎に焼かれる死も…
…お前が言うように、新たに生じた人間の死因の1つと考えるのは実に自然だ。」
足を止めて、肩越しに視線を貴方へ向ける。
「だが自動車や飛行機の事故とは違い、その死は意図的なものだ。
銃や毒ガス、魔術とは違い、その死は万人が持ち得るものではない。
病原体や怪物とは違い、その死は人為的なものだ。」
「…と、まぁ、精々【凡人】の自由を脅かさんようにしてほしいものだな。」
そうとだけ言えば、小さく肩を竦めた。
それから視線を貴方から外し、再び背を向ける。
「……言っただろう、終着点は万人に魔術を授けることだと。
あれは我々【凡人】が【新たな死因】から身を守るための炎だ。」
■ヨキ > 「意図的――果たして本当に?
言ったろう、『花粉症』だと。
ヨキのように、『新たな見地を得られたと喜ぶ』異能者が存在する他方で……
望まずと発現した異能者だって、少なくはない。
車で、ナイフで、銃で、毒ガスで、意図的に――ないし未必の故意によって命を奪う者が居れば、
他意によって、暴走によって、無意識によって、殺人を『犯してしまった者』も居るのと同じだ。
それらを防ぐために、この常世島は在る。
財団が、学園が、公安が、風紀が、教師が、たちばな学級が……そしてヨキが」
(自分がやってきた方角、つまり獅南とは真逆の方向へ向けて、踵を返す。
獅南を見送るかのように、細めた視線は相手を捉えたまま)
「そうして獅南、君もまた。
この島に身を置いた者、みな等しくヨキの子らよ。
誰ひとり死んではならぬ――
異能者に特殊性がないように、『凡人』とて奇異ではないのだから」
■獅南蒼二 > 「…誰一人死んではならぬ、か。
神にでもなったつもりか知らんが……」
獅南は演習場の中央で足を止め、背を向けたままに語る。
右手を翳せば指輪が1つ光り輝き…空間を歪めた。
「この島の…お前の子らを守りたいのなら、私を殺しておけ。
……【凡人】にもなりきれん出来損ないの子だ。」
そうとだけ言い残して、獅南は歪みの中へと、躊躇することなく入り込んだ。
歪みが消えればそこには何も残らず。
ただ、焼け爛れた壁と床だけが、そこで起きた事を、静かに物語っていた。
ご案内:「第一演習場」から獅南蒼二さんが去りました。
■ヨキ > 「神。ふふ……随分と褒めてくれるではないか。
ヨキはこの島で、『ただの教師』をやっているだけだ」
(空間が歪む。まるで『門』を顕現せしめたように波打つ向こう側へ。
獅南の姿が消えてゆくのを、じっと見ていた。
去り行く背へ向かって、変わらない調子で声を投げる)
「殺しなどするものか……『君自身がヨキの子を手に掛ける』、そのときまでは。
――ヨキのものとなったこのヒトの手を、自ずから汚す真似はせん」
(ひらりと手首を返す、舞めいた動きで左手を掲げて軽く振る。
残されたヨキひとり、顔を伏せて笑う。大きな口が、耳まで裂けるかのごとく)
「…………。
……――うふッ」
(その声を最後、異形の足が地面を踏み締めて、去る)
ご案内:「第一演習場」からヨキさんが去りました。