2015/09/14 のログ
ご案内:「第一演習場」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
「ここが演習場、か」

中に入ってぼんやり呟く。
最近荒事に関わっていなかったため、一度勘を取り戻すために足を運んだ様子。
用具室から木刀と居合刀を借りてきて、フィールドに立つ。

「……演習場って言うくらいだし、人が居ると思ったけど……」

予想に反して誰も居ない。
仕方がない、実戦の勘を取り戻すのは次回にしよう、と。
心を落ち着け、居合刀を横に置き、木刀を腰に携える。

寄月 秋輝 >  
「……刀を振るうのは久しぶりだな」

愛刀が返ってこない四年間、トレーニングこそしてきたが刀を振るう練習はしてこなかった。
勘が鈍っていないことを願う。

それだけ、体に染み込ませてきたはずだ。
刀と、己を。

寄月 秋輝 >  
呼吸を沈める。
己を無へと返す。

無念無想。明鏡止水。天衣無縫。

あらゆる呼ばれ方をする『極地』へと己の心の歩を進める。

寄月 秋輝 >  
ピン、と張りつめた糸のような空気。
そしてそれすらも空へと溶かすように、無へ。
張りつめてはいけない、それは己の存在の証となる。

至るべきは無。

空気すら、世界すら己を認識できないほどに無へと。

至る。

ゆっくり目を閉じて、細く漏れる息すらも停滞させる。
人と刃を一つに。
己は一振りの刃。

至る。

生と死の狭間へ。

寄月 秋輝 >  
目を開く。
世界の音も色も感知できない、極限の集中状態。
常人の十数倍の知覚速度を得られる状態。
目を向けるは空。
視線に先は無く、仮想敵すら見ない。

無へと至るまま、木刀の柄に手をかける。
手の中から、鞘から抜き放つように、刀を打ち抜く。
最大速度で切っ先を振り抜き、瞬間で速度をマイナスの同じ速度まで引き戻し、手の中へと一切のズレなく納める。

木刀の残像すら常人の目には残させない。
神速の居合抜き、そして納刀。

無数にこなして『染み付かせた』、自身の居合術。

寄月 秋輝 >  
振るう。
鞭のように、自分の腕をしならせ、木刀を振るう。
振り抜いた瞬間には手の中に納まる。
一太刀一太刀が神速、その速度が衰えることなく。

振るう回数は十を超え、二十を超え、三十を超え。
幾度かの居合を終え、木刀を手に納め。

残心。

敵を切り伏せたとて、それで勝利ではない。
己の命を保ち、把握して初めて勝利だ。

「……ふぅ」

呼気とともに、集中を解く。
世界に色が戻り、音が戻る。

「ほとんど動いてなかったにしては上手く行ったかな」

左手で握った木刀を見ながら呟く。
もっとも、これが鈍ってしまっていたら自分の価値の半分は吹っ飛ぶわけだが。

寄月 秋輝 >  
次に居合刀を手にする。
鞘を握り、柄に手をかける。

瞬間、一気に無の境地へと至る。
刀に触れることで、また強く勘を取り戻したか。

振るう。
鯉口を切る音すら響くのが遅い。
その音が響く瞬間には、既に振るわれた刀が鞘に収まっている。

十、二十、三十と振るう。
終えて、納刀したまま残心。

最後に、刀を縦に向け、会釈をする。

「悪くない、かな」

呟く。
当然最善ではない。
四年ものブランクはあまりに大きいものだ。

これでは仮に今『ヤツら』と戦えば、愛刀が手にあったところで勝てはしないだろう。

寄月 秋輝 >  
「仕方がない、しばらくは物干し竿あたりで練習しよう」

野太刀ではなく、普通の物干し竿。
刀が返ってこない以上は仕方がないのだ。
木刀と居合刀を返却しにいく。

「……結構、悪くない場所だったかな」

入り口からフィールドを見て呟く。
さすがにかつての職場ほど素晴らしい場所ではないが。
むしろあのフィールドと比べてはいけないのかもしれないが。
わずかに苦笑しながら、演習場を立ち去る。

一筋の汗も流すことなく、涼しい顔で。

ご案内:「第一演習場」から寄月 秋輝さんが去りました。