2015/09/26 のログ
■ヨキ > 「ははは。よく言われるよ。
武術の先生とか、国語の先生とか……。
ヨキと本気でやり合ってくれるのは、それこそ生徒たちの方がよほど真摯なのだろうよ。
真摯というほどのことはしていない。
この学園に勤めて長いものだから、体よく使われているだけだ」
(言いつつも、まるでそれが教師の本分なのだというように。
ふっと笑うと、あの剣呑な眼光は次第に穏やかな光に変わりつつあった。
焔が収まったとて、自ずと灯を宿す瞳であるらしい。
――そうして、奈倉が口にした『公安委員会』の語に瞬く。
唇を結んで、その問いにじっと聞き入る)
「…………。やり方が、『間違っている』?
それはまた、どうしてかね。
ヨキに公安の顔見知りは、多くはないが何人か居る。
そのいずれもが、それこそ『真摯』な者たちであったよ。
だがヨキが知るのは、あくまで『個人』の話だ。
委員会全体となると……詳しく聞かねば、何とも言い難いな。
例えば、具体的に……。
どういう点が、君にとって『誤り』だと感じたね?」
■白鷺奈倉 > 「………ちょっとばかり、ある人と話をして。
学生街の揉め事で怪我をした人と話をする機会があったんスけど。
監視が行き過ぎると居心地が悪くて堪ったものじゃない、と。
学生街での怪我は俺がしっかり、公安が監視しきれていれば存在しないと思っていて。
だからスイマセン、って言いに行った筈だったんスけど」
(言葉下手なりにつらつらと思考をそのまま口に出す。
公安委員会の事、そのうえ自分の思想の否定だったそれは上手く言葉にできなかった。
必死に頭を掻きながら、伺うような目を向ける)
「俺は『誤り』でもなんでもないと思ってたんスけど、『誤り』に感じる人がいる、らしくて。
……というか居て。それが果たして間違ってるのかが解らなくて、スね」
(困ったようにまた笑った。
それは何かを自分の中で誤魔化すような、それでいて慣れたもので)
「『個人』じゃなくて、公安委員会っていう『集団』のやっていることは。
間違ってない、スよね。特定生徒の監視。犯罪を未然に防ぐ。
俺にはちょっとわからなかった、ものッスから」
(下手くそな敬語が問い掛けた)
■ヨキ > 「監視して……犯罪を防ぐ。
確かに、その行為自体は何も間違ったものではない。
もしそれ自体が誤りならば、コンビニの一軒一軒にまで監視カメラの付くようなことはなかったろうから」
(居住まいを正して座り直し、指先で顎を撫でる。
ふうむ、と低く零して)
「その者は……監視されることによって、『自由』が阻害される、と感じたのやも知れん」
(奈倉へ向く。今や冷たく光る金色の眼差しが、真っ直ぐに相手を見る)
「……そもそも『自由』とは何か。
それは法や監視、束縛、それ自体によって阻害されるものではない。
そうでなければ、この法治国家は全くの不自由、ということになってしまうからな。
そういう点で、『自由』とは……。
『個人が各々の持つ思想や信条に、全面的に従って行動すること』が可能な状態、のことだ。
つまりそれが不可能な時点で、犯罪者にとっては『不自由な社会』という訳だな。
……ヨキは君らがどれほど監視を強めようとも、自分の思想が阻まれうるとは思わん。
束縛の中においてこそ十全に働くのが、このヨキであるからな。
だが君のいうその者にとっては、違った。
その人物が犯罪者だとか、悪事を働くと言っているのではない。
一個人の、思想よりもさらに繊細で、曖昧な心の動き……。
――『性格』とか『性質』と呼ばれる部分によって、その者は『監視』を忌避したのではあるまいか」
(淀みない言葉。ひとたび目を伏せ、そうであるからして、と向き直る)
「――ヨキは公安のやり方が間違っている、とは思わん。
しかしてその『やり方』が、この島全体へ画一的に敷かれるならば――
ヨキはそれに反対する」
■白鷺奈倉 > (その言葉を一字一句聞き漏らさんと、黙して聞いた。
彼の紡ぐ言葉を、選ぶ言葉を聞き漏らすことがないよう、真剣に、その目を見据えて)
「………、『自由』」
(時折相槌を打つようにして小さく言葉を拾った。
自分の中でその言葉について思案を巡らせるように、至極真剣に)
「……スイマセン、ええと。
『自由』、ってのが『個人が各々の持つ思想や信条に、全面的に従って行動すること』である、というのは。
それに関しては俺は正しいと思うし、それが正解だと思うッス。
けど、一つだけまだ疑問があって。
法に、校則に触れないことをするだけならば全ての生徒は、教師も『自由』であると思うんス。
───東側歓楽街地区の住人を除いて。
監視されていて困るようなことを『普通』の生徒はしない、スから。
『性格』に『性質』。…………、それなら俺が考えても如何にもならない、スね」
(困ったように笑った。眉を下げ、小さく肩を竦めて)
「公安が、お偉いさんがどうかは下っ端の俺にはわかんないッスけど。
俺自身は、白鷺奈倉自身は島全体へ画一的に敷くのは間違ってると思ってるス。
東側歓楽街地区。アレは触れなければ害はない、ッスからね。
アレには触れずに、学生が生活している場所の監視はもっと強くすべきだと思ってます。
最近、学生街での揉め事が異様に多い。
それも恐らく、監視がもっと進めば問題なくなる筈なんスよ。きっと。
それでいて、───学生街に異物が紛れ込んだら即座に取り除ける環境になればいいと。
俺は思うんスよね。スイマセン、なんか変なこと言っちゃって」
(ぱん、と自分の意識を切り替えるようにして小さく手を叩く。
また彼の方を見遣れば、ふにゃりとした緩い笑顔を向けた)
「センセに話してよかったッス。自分の中でも整理つきましたし。
ありがとうございます、ヨキセンセ」
■ヨキ > 「学生街には学生街の、歓楽街には歓楽街の自由が、ある。
ヨキ自身、それぞれの区画へ特別に手を入れる必要は――ない。そう思っている。
学生街の揉め事においては、風紀委員がよく出動してくれていると聞いている。
だが、監視を強めたとて……果たして『異物』の進入を完全に防ぐことができるか?
答えは『否』だ。
それには公安より、風紀よりもさらに大きな――財団ほどの権力が動かねば、よほどの策にはならんだろう。
例えばこの演習場のように……結界を張る、とかな。
そうでなくば、『監視』がどうして上空や異界から現れる怪異を防げようか」
(絵空事だ、と言わんばかりに、軽く笑って)
「監視が強まれば……いたずらに反発を招くだけだ。
街にはこのヨキや君のように、監視されることの平気な者ばかりではないでな。
……次々に降って沸く騒動を、鎮め、元の状態に戻すこと。
それは風紀委員や、生活委員の仕事でもある。
一概に公安委員、だけで語れる領分ではあるまいよ」
(手を張る音。小さく笑う)
「……いや。ヨキでよければ、いくらでも。
さぞ答えの出ぬ問いであろうが……君の心が幾許か軽くなるのなら、それで」
■白鷺奈倉 > 「それでも!」
(噛みつくように思わず声を上げた。
それに数秒置いて気付けばスイマセン、とまた頭を下げた。
紫水晶と青い髪がゆうらりと揺れる)
「…………、やらないよりはマシだ、って。思いたいん、スけど……はは。
学生一人がああだこうだ言っても出来ることではないッスもんね。
───、存外、無力なんスね。
常世島を守る砦だって、風紀も公安もその通り怪異に、超常には敵わない。
妨げ──……らんない、スよねえ」
(宙を仰いだ。
ンー、と低く唸ったのちに小さく目を擦った)
「監視を、当たり前に気付かれないように街に張り巡らせば。
反発はされない、スかね。見られているのに気付かなければ、──ハハ。
やり方は幾らでもある、ッスね。
──ッし。小さいことから頑張るッス、ね。ありがとうございました」
(たんっ、と勢いよく立ち上がればそのまま深く頭を下げた。
幾らかスッキリとした表情で、演習場の出口へと駆けだす少年の姿がひとつ)
ご案内:「演習施設」から白鷺奈倉さんが去りました。
■ヨキ > (声を張る少年の姿を、動じるでもなく見据える。
謝罪の言葉にも、いいや、と答えるに留めて)
「つまり君にとっては、撃退を――完遂するだけでは足りぬ、ということだな。
完全に街から怪異が姿を消さねば、真の平和はないと。
しかし、反論こそすれ、封じはせんのがこのヨキだ。
君の意見、確かに受け取った。
……そうさ、やりようはある。いくらでもな。
気付かれぬように張り巡らせば?だがそれを検知する異能を持つ人間が、監視を嫌うとしたら?
怪異と風紀がいたちごっこを繰り返すように……
環境を整えゆくというのもまた、切りのない話だ。
万人にとって平等に居心地のよい社会、というものは、未だ存在せん。
そうして君が考えを巡らす限り――付き合うよ。このヨキは、いくらでもな」
(立ち上がった奈倉の会釈に、微笑んで礼を返す。
走り出した背を見送って――しばし無言で、目を伏せる)
ご案内:「演習施設」からヨキさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に蒼穹さんが現れました。
ご案内:「訓練施設」に『ウィザード』さんが現れました。
■蒼穹 > (ウィザードを連れ歩いて数時間。
午後の授業の一コマ目は既に終わって、あろうことか二コマ目の半分くらいにまで差し掛かっていた。
まぁしかし、そんなことは全く気にせずと言った様子でふらふらとあっちへこっちへ歩いて回る。
食事をした第二教室棟のサボリに使える保健室を一つ紹介。
程々に寿司の話で盛り上がりつつ。たまーによく分からない百合っぽい話に触れれば適当に話を逸らして。
あっちこっちまた歩いたかと思えば、何とウィザードを電車に招いた。
この辺りの情報を拾っているウィザードなら、電車賃ぐらい払えたのだろう。
払えなくても奢って無理やり乗せたのだが、彼女が黙ってついてくるかはさておく。
文句を言ったとしても聞こえていないふりでもしたことだろう。
最新型特別急行ブルームスターに乗り込んで揺られる事数十分。
残念ながら日本のソレと同じ電車であったが故、早い訳ではなかった。
転移魔術を使えば一瞬だった。
だが、どうしてわざわざ電車を選んだかと言えば、化けの皮を引ん剥いて本音で会話させてやりたいと言うのが一点。
あと、単に面白い乗り物でしょ?って、そう言いたかったのが一点。
いずれにしても、計画性のない気まぐれな本質はこんな所にだって出てくる。
災害は何処までも気紛れ。特にこうした、殺気や殺意を、ただならぬ程内在させていながら、
大人しくしている奴は色んな意味で目を付けたくなる。
面白そうなおもちゃを見つけたかもしれないし、面白そうな遊び相手を見つけたのかもしれない。
破壊衝動は擽られるけれど、今は、置いておく。
己がそう決めたなら、それは絶対だ。…そう思うくらいには、自分の力に自信を持っていたわけだが。
学生街から向かうのは演習区域、その大きな建物の一つである、訓練施設。)
…んで、ま。
そういうわけでー。ここが訓練施設。
(と、物騒な事を記述したが。
普通に紹介して、普通に入って行く。
そして、後ろを付いてくるのは当然とでも言いたげに手招きしながら先先と訓練施設に入り込んで。
慣れた具合に魔法訓練の施設、模擬戦の部屋に向かって行った。)
■『ウィザード』 > 蒼穹先輩に、親切に学校案内される。
先輩と言っても、同じ一年生であるが。
案内されるがままに、あちこちと歩きまわる。
サボリに使えるという保健室だが、せっかく知識を得られる機会を潰すなどもったいない。
色んな話をしながら、歩いていく。寿司の話は盛り上がったものだが、百合の話になればスルーされる。
蒼穹は、少なくとも『ウィザード』の手では百合には目覚めないそうだ。
そしてしばらく歩くと電車に招かれた。当然、電車賃は払える。
少々冗談気味に文句を言ってやったが、これもまたスルーされた。
電車に乗ってしばらく。
というか電車に乗るぐらいなら、転移系の魔術使えばよかったのでは? と提案しようとするが、そこはやめておいた。
化けの皮を剥いでやろうと思っても『ウィザード』相手では、そううまくいくものではない。
電車に乗った事がないわけではないが、面白い乗り物という事には同意する事にした。
殺気殺意といったものは、当然『ウィザード』の内に秘めている。それも、常人では絶対に考えられない程に。
もちろん、実際に『ウィザード』がそれを解放する事はない。
遊び相手はともかく、さすがに自分がおもちゃと思われているなどとは『ウィザード』も思ってはいない。
ただ、蒼穹には破壊衝動があるものだと、『ウィザード』は思っている。
今は大人しい、それだけ。
そして辿り着いた場所は、訓練施設だ。
「訓練施設か。さすがにここに来るのは初めてだな。
それで、学校案内だけではなく、態々ここまで招いたのには理由があるのか?」
そう質問するが、『ウィザード』は気付いている。
内に秘める“悪魔”がまるで、興奮しているかのようだ。
先に歩いて中に入る蒼穹の後を追う。
向かった先は模擬戦をするための部屋。
やはり、そういう事だったわけだ。
先に歩く蒼穹の後ろで、『ウィザード』は不敵に笑う。
宝具『デーモンズ・ロッド』も僅かに漆黒に煌めいた。
だがそれは、ほんの一瞬の出来事だった。
■蒼穹 > (残念ながら。と言った具合。
お互い理解がある話では盛り上がるが、理解がない話では全くと言ったところである。
文句の一つ二つ漏れたが、想定内なので気にしない。
可哀想に、転入数日でいきなり午後の授業を全部飛ばしたとなれば彼女も不良扱いだろう。
だが、やはりというか、その原因を作っているこの駄神は悪びれない。
寿司の話は楽しかった。いずれ彼女も連れて行こうか。
百合の話は、お断りしておいた。いや、別に女の子いぢめるのは好きなんだよ?
本音を剥がし取ってやろうと何度かカマを掛けたが、やはりこれが一番残念ながらと言った具合だった。
彼女は、頭脳明晰と言うにふさわしく、演技も上手かった―――否、それが演技と気付けないのだから厄介なのだ。
ともあれ、彼女の本来の性格や目的が、彼女自身の口から洩れたり、不必要な情報を漏らしたりすることは、なかっただろう。
彼女の持つ尋常ならざる殺気。それは、感じている。
表には出なくても、破壊神という属性は、恐ろしく、そう言ったものに敏感だった。
普通では考えられないくらいに凄まじい殺気は、隠し切れず、漏れている。
勿論、普通の人間なら感じる事は出来ないだろうが、己はとても敏感だった。
故に、気付く。気付いたうえで、捻じ伏せてやったり、遊んでやったりしたいと、そう思う。
だから―――。)
なぁに、簡単な事だよ。
"遊び"に来たのさ。
(―――「"遊び"に来たのさ。」
振りむいて屈託のない笑みを向ける。
己が向けるのは、不敵と言うには憎たらしさのない、恐れを知らない様な、或いは間の抜けた垢のない子供の様な笑み。
彼女の中に蠢く悪魔、尋常ならざる魔力を秘めた杖。それらが、呼応するように笑って光った事は見えない。
だが、何かしら、第六感を擽る"気"という物が、まさにほんの一瞬だけ、過って行った。そんな気がした。
バスケットコートを拡張した様な、地面に様々な色の線が引かれた40m四方の模擬戦の部屋。
広々としているけれど、こんな部屋がこの施設には幾つもある。
原理は良く知らないが、よくできているものだ。
まぁ、格好つけるのは良いのだが。
―――体操服着てくるの忘れたんだがどうしよう。いやべつに良いんだけどね、良いんだけどね。)
■『ウィザード』 > 存在そのものが悪である七英霊が不良認定など気にするはずもない。
というのは本音の話。
建前的には、まずいが、こうなってしまっては仕方がない。
明日からまた、真面目出席しよう。
蒼穹と一緒に寿司を食べに行くのも悪くなかろう。ただの友人ごっこだがな。
百合の話が合わない理由は、お互いサディストという事もあるのだろうか。
『ウィザード』は、全く情報を漏らさない。
演技が上手く、頭脳明晰な『ウィザード』は、蒼穹の口車にはのらない。
破壊神は殺気などに敏感。
もし『ウィザード』の内に秘める“悪魔”の殺意まで感じれるのならば、それはもはや邪悪という言葉ですら生ぬるい。
“悪そのもの”というレベルを遥かに超えた殺気があった。
“悪魔”を抜きにした『ウィザード』自身から感じれる殺気など、確かに普通では考えられない程凄まじいものだが、それすら片鱗に過ぎない。
もちろん、本人は隠しているつもり。
だが当然のように漏れている可能性も想定し、警戒している。
“遊び”に来た。
そんな言葉に返す『ウィザード』の言葉は一言。
「だろうな」
質問しておいて、答えが返ってくればこの返事である。
そして再び不敵な笑み。
破壊神が振り向いて見せたのは、子供のような笑み。
やがて模擬戦の部屋に辿り着く。
戦うには広いような狭いような、そんな部屋。
ここなら、存分にやれるというわけだ。
『ウィザード』は、部屋の中央に向かって立つ。
「それでは“遊ぼう”か、蒼穹」
宝具『デーモンズ・ロッド』をしっかりと握り、深めに被っていた帽子をあげて、顔がはっきりと見えるようになる。
赤い瞳が蒼穹を見つめる。
「私は準備ができているぞ。
貴様はどうだ?」
■蒼穹 > (明日も食堂で相席を強要しに行くかもしれないが、果たしてどうなるのだろうか。
悪そのものな英霊の、波瀾万丈な学園生活は、果たして。
サイディストとサディストは相いれない。理由は、まぁ言うまでもないだろう。
磁石のS極とS極はくっつかない。ソレと同じである。多分。
それはさておき。
…尽きぬ事のない、その殺気を、隠し切る事は恐らく難しいのだろう。
そして、ともすれば本人は漏らしていることに気付きながら、行動をしているのかもしれない。
幾等漏れていても、表にしなければどうと言う事もないのだから。
逆に言えば、己の内には静かながら確固とした嵐の様な破壊衝動があるが、それは別の話。
何故かしら、二面的な、ウィザードだけれど、ウィザード以外の物が棲みつくかのような、
殺気は殺気でも、一つ、異常性がある殺気とも見える。…単に、殺気が大きいからそう感じれるだけだろうか。)
あっはは。分かってた?
つっても、"遊び"だよ。"遊び"。
準備?ああ、良いよ。
(ふぅ、と一息。人差し指に、その手に息を吹きかける。
己は剣を手に取る必要はない、存在そのものが暴力だから。杖を手に取る必要はない、存在そのものが魔術だから。
構える必要だってない、どんな体制でも無理な移動が出来るから。
てく、てく。と、そんなフロアのど真ん中に足を運ぶ。)
ところでさ。キミは前にやって見せたよね、氷に変わって避ける魔術。
あれのやりかた、後で教えて欲しいな。
それと。先にあの魔術、使っておいた方が良いよ。
当然だけど、遊びは遊びでも楽しくないと意味ないからね。
つまらない小細工は一切ナシ。5分間避けきったらキミの勝ちにしてあげる。
2回…いや、3回当たったらキミの負け。
―――こんなもんでどうかな?勝敗の罰ゲームでもつけるかい?
(トントン、と真ん中を足蹴にしながら、漸く見えた真っ赤な瞳を見据える。
不自然に青白く、金属の様に光る瞳を向けながら、びしりと指差して。
ちょっとした提案。これは、遊び。だから、ルールも付けるし、ゲーム感覚だ。
さりげなく彼女の大魔術をパクろうとしつつ。)
■『ウィザード』 > 明日、食堂で相席を強要しても、成功するだろう。
英霊『ウィザード』の学園生活は始まったばかりだ!
お互いサディスト。
両方攻めでは、成り立たぬ。
本人はもちろん出来得る限り隠そうとしている事には変わりない。
もちろん“悪魔”の殺気など、最優先で隠すべきものだ。
だが、相手がかなり敏感だったらどうだ。
そこを想定しない『ウィザード』ではない。
“悪魔”の方は殺気だけではなく、酷く禍々しかったりする。
「当然だ」
分かってた? という言葉と“遊び”という言葉の返事を一言で返す。
こちらは存在そのものが“悪”。まあ、他の七英霊もそうだが……。
蒼穹も、部屋のど真ん中に移動する。
「手品の種はそう簡単に明かすものではないぞ、蒼穹。
私も、魔術師なのでな。
無論だ、楽しくいこうではないか」
『ウィザード』は、余裕を感じさせる笑みをする。
「ルールは分かった。
私は避け続ければいいわけだ。
だが、私から攻撃するのもあり」
罰ゲームを問われると即答する。
「罰ゲームを設けてもいいな。
敗者は、一日下僕だ」
『ウィザード』は、そう提案する。
『ウィザード』の大魔術を容易に真似できれば、苦労しない。
術式は高度かつ、めちゃくちゃにも見えて、複雑。
それを詠唱なしでやってのけるのだからこそ、『ウィザード』は“異常”なのだ。
ルールは承諾した。これはたかだか“ゲーム”だ。
避ける事が勝利条件なので、こちらから仕掛けに行く事もない。
『ウィザード』は風魔術を使い、宙に浮く。
「貴様ももちろん、空ぐらいは飛べるな?」
■蒼穹 > (彼女の学生生活は、充実するのだろうか…果たして。
諸々はさておく。
今は、よく分からないウィザードの本質も置いておく。
見透かしたって、どうってことはないのだから。
ただ遊ぶ、それだけ。)
…ふふん。
(悪と災害。英霊と破壊。
それらがこれからやることと言えば、世界崩落ではなく、遊びなのだから面白いもので。)
うっわー、一日下僕とか。
…あっはは、まぁそれでいいさ。
ただ、洗脳とかはナシで頼むよ。
教えてくれない、か。面白くないなぁ。
ま、下僕にした暁にでも、聞かせてもらおうとしようか。
(複雑な術式は"どちらかといえば"苦手だった。
残念な事に、魔力の痕を辿っても、馬鹿らしいほど絡まって、消えかけの、しかも氷の魔術だったから、
遊び半分で模倣は出来なかったのだ。)
そういう事。
ま、つまりこれからやることは、撃ち合い《シューティングゲーム》だよ。
この世で最も無駄なゲーム。…下らない遊び、最高の余興さ。
あっはは、飛ぼうと思ってた。だけど、飛ぶのはまだ早い。
(飛ぶ、という事はよく分かってる。
これからやることは、己は当てること、彼女は避けること。
そして、地面で避けるより、宙で避けた方が回避できる範囲が広いのは言うまでもない。
風の魔法を軽く使役したこともさることながら、その判断を心中で賞賛して、
宙に浮く、文字通りの魔女を見上げて、笑う。)
じゃあ、始めようか。
行くよ―――ッ!
(何かを掴んだような、見かけには何も掴んでいるようには見えず、実際には馬鹿げた量の魔力を掴んでいる、
そんな両手を、地面に向けて一振り。何かを投げおろして、叩き付けるかのような動き。
いつか過った異常な魔力。予告線にもなるけれど、それの元をただせば、ただの純魔力。
破壊の属性を背負わせれば、真っ黒な色を持つ。災害を齎し、害をなす魔力。
それ自体には、一切の善悪も伴わない。気まぐれな、気紛れすぎる性質。
地面に叩き付けられれば、爆発四散して迸り、辺りに余波を撒き散らしながら、薄膜の様に広がって、丁度40m四方の訓練施設の地面を覆った。
軈て、円形の黒紫色という暗澹色でありながら、煌めく魔方陣が形成される。
真ん中に三日月の様な模様。幾多の正三角形が合わさり、六芒星を幾つも描く、神々しくも、何処か廃退的な魔方陣。それが、訓練施設の地面に張られた。
最も、これもまた、遊びの一環。「魔法っぽいから」と、ただそれだけで作っている遊び道具で、イミテーションの一つでしかない。
だが、今地面に海の様に破壊の魔力が流れていることは、疑いようのない事実。
もし、この海に破壊の魔力と相容れない物が落ちたら、ただではすまないのもまた事実。
それでも、キミは同じ顔で笑っていられるかな?と、心中で問ながら、笑って。)
…改めて聞くよ?準備は良いかい?何が出ても驚かないかい?
ああ、言っておくけどこっから出たらダメだよ。ルールは良識の範囲内で。
(五分で三発。この化け物を相手に我ながら少し無謀な事をしたかもしれない。
せめて一発だったら楽だったろうが。理不尽に下僕にされてはかなわないので、念押しをして。)
■『ウィザード』 > 遊びが始まろうとしていた。
「ああ。ナシにしておいてやろう。
貴様も追加ルールを申請したのだから、私からもルールを加えよう。
そうだな、下僕で出来る事は基本的に雑用的な命令だ。
分かりやすく言えば『あれ持ってこい』とか『肩を揉め』とかそういう類だな。
つまり、『手品の種を明かせ』などという命令は聞かなくてもいい」
“ゲーム”とは言え、態々情報を与えるようなルールを定めなくてもいい。
それも、蒼穹が追加ルールを申請した事を利用してやる。
「撃ち合い《シューティングゲーム》、こちらの残機は三つというわけだ。
無駄、下らないからこそ、“遊び”なのだ。
なんだ、貴様は飛ばぬのか」
それも、よかろう。
当然だが、空中にいた方が避ける範囲は広い。
もし地上に障害物があるなら、話は変わってくるが。
──その“遊び”が始まった。
「ではまず軽く、ウォーミングアップといこうじゃないか」
『ウィザード』は特に構えたりはしない。
ただし、何もしていないわけでもない。
蒼穹は何かを掴んでいる。魔力だ。
それも、馬鹿でかい魔力。
蒼穹に魔力の無駄遣いなんてものはないだろう。
それは『ウィザード』とて同じ。
《シューティングゲーム》で例えるならば、互いにボム数無限といったところか。
膨大な魔力を蒼穹は地面に叩きつけた。
すると、爆散して迸り、周囲に余波をまき散らす。
地面に広がり、魔法陣が形成される。
「ほう……」
この破壊神……本当に、魔法陣なんて張る意味があるのか?
少なくとも『ウィザード』が魔術を発動するのに魔法陣なんてものは必要ない。
普通に考えて、ただの演出的な魔法陣だ。
魔法陣のデザインが微妙に凝っているところも、そう思わせる。
魔法陣形成という行動自体に意味があるかは疑問だが、そこは“遊び”だと考えて良い。
しかし無視できないのは、魔力がそこに流れている事だ。
『ウィザード』は同じ顔、余裕を感じさせる笑みを崩してはいなかった。
「無論だ。
ここから出たら、周囲が危なかろう」
その蒼穹の念押しは、これから何をするかを教えているようなものではないか。
最も、それ以前にこんな魔法陣を展開するのだから、蒼穹の念押しがなくとも気付かない方がおかしい。
そちらが態々魔法陣を展開するなら、こちらも“遊び心”で分かりやすく演出してやろう。
『ウィザード』は宝具『デーモンズ・ロッド』を天に掲げる。
その魔杖から膨大な魔力の塊が放出され、天井に向かっていく。
天井にぶつかった魔力の塊は、四方に広がって行き、やがて蒼穹の魔法陣と同サイズの、虹色の魔法陣が展開される。
それに伴い、部屋全体が虹色の光を帯びようとしていた。
本来、魔法陣なんてものは必要ないはずだが、これも余興だ。
「貴様こそ、それで準備は十分か?」
■蒼穹 > あっはは、それは僥倖。
困ったね、じゃあキミの手品のタネは明かしちゃあくれないんだ。
それで結構さ。
(残念ながら、自分の情報や手品のタネは、漏らしてはくれないと言ったところで。
だが、それで結構かもしれない。ただの遊び。そう身構える必要もない。)
いいや、こっから飛ぶのさ。
撃ち合い《シューティングゲーム》だけど、
飛ぶ時も見計らって、ね。
地面に魔力を叩きつければ…もうそれで良い。
(魔方陣を地面に、そこから一気に飛び立った。
風の魔法ではなく、重力の魔法。
無重力空間を、まるでそこに陸があるかのように、二段三段のジャンプをしながら、空を飛ぶ。)
無意味な射撃《ショット》は下らない。
本人なりの演出を心がけるって事さ。
例えば、極端な話シューティングゲームでも自機の辺り判定があるところにいきなり敵の弾が出てきたらクソゲーでしょ?
そういう事さ。
…あっはは、成程。
(張り合う様に、天井にちょうど同じサイズの、それでいてカラフルな魔方陣が展開された。
この光は、何だろうか。まぁ、今は気にする事もない。
ただ、黒紫色の飾らない色合いのそれと、虹色のそれは、美しさで言えば何か負けている気がするが。
色を付ければいいという物ではないのだ。と、苦し紛れの反論をしておく。)
結構だよ。
じゃあ始めようか。
5分間の耐久シューティングゲームを。
("遊び"が、始まった。
魔方陣は、広げたけれど何もしなかった。これは、後のお楽しみというやつだ。
左手を向けて曲げて、広げる。)
じゃあ、ウォーミングアップにこんなのはどうかな。
破壊魔法・第一術式「滅の矢」
(今となっては、御なじみかもしれない、破壊魔法の最も単純な術式。
球ではなく、矢の形をしているのが特徴だが、今回だけは違っていた。
左手から出てくる真っ黒な魔法弾。それは、紛れもなく球の形をしていた。
時間が経過するにつれて、軈てその正体を徐々に顕わしていく。
数え切るのも億劫な程の数の矢で創られた、球体。
それが、球面波の様に、余すところなく拡散して、広がって行く。
矢の形、矢の速度。唯一矢と違うのは、その馬鹿らしい破壊力。
何を以てしても防げない、破壊の体現。当たったら、残機《ライフ》を失う。
虹色の光が降り注ぐ中、その矢は虹色に照らされる事さえなく、永劫と真っ黒なまま、
右に、左に、上に、下に―――到底ウィザードには絶対に当たらない方向にでさえ、進んでいく。
こういう無駄な射撃《ショット》もまた、演出の一つだ。)
■『ウィザード』 > 「手品はタネが明かされないからこそ、見ていてあっとするものだ」
蒼穹もこれで、程良く遊び感覚を掴めるだろう。
「安心した。
このまま貴様が飛ばないままでは、盛り上がりに欠けるからな」
『ウィザード』の風の魔法に対する、蒼穹は重力系の魔法で飛び上がった。
飛ぶいっても、無重力空間で跳んでいると言った方がいいかもしれない。
「なら精々、よく狙って射撃《ショット》する事だな。
爆弾《ボム》もいくら使っても構わぬぞ。
この《シューティング・ゲーム》を楽しませる演出に感謝する。
確かに、そのような《シューティング・ゲーム》はクソゲーだからな」
もちろん、虹色の魔法陣は無意味に虹色というわけではない。
魔法陣美しさコンテストを開くのもいいものだが、これは《シューティング・ゲーム》。
むしろ、黒紫色の魔法陣というのも、禍々しくて素晴らしいものではないか。
「そうだな。
始めよう」
やはり、あの魔法陣をいきなり使ってくるわけでもないか。
後々、楽しみにしておくか。
蒼穹が魔法陣を広げるタイミングとほぼ同時に、宝具『デーモンズ・ロッド』を僅かに揺らし、虹色の魔法陣も広がる。
破滅魔法。第一術式……。
その言葉だけで分かる、初歩の初歩的魔術。
滅の矢というが、その形状は球体だ。
時間が経つと、球体から無数の矢が創られる。
文字通りの矢となったわけだ。
防御手段はそうだな……。
『ウィザード』は正面に、炎の盾を形成する。
灼熱の業火が、展開される。
何を持ってしても燃やす、火炎。
これで、漆黒の矢を燃やそうというのだ。
ちなみに、盾が展開された位置は、無駄に『ウィザード』よりかなり前方。
それが下策だった……。
当然のようにして、無数の矢は炎の盾を貫通。
次々と『ウィザード』に矢が突き刺さっていく。
『ウィザード』が地面に落ち──。
──正確に言おう。
一瞬、敵に下策と思わせる、『ウィザード』の策だ。
その『ウィザード』と思われていた人物は、地面に落ちる前に氷となってバラバラに砕け散る。
ここまでは一見、あの時に公園で使った氷系統の回避、防御魔術だ。
だが、氷が割れると、そこから出てきたのは炎で出来たドラゴンだった。
つまり、あの時常世公園で扱った魔術と違う、しかも上位魔術である事を表している。
氷系統だけではなく、相反する炎属性との複合だ。
もはやあの時以上の“異常性”が、そこにはあった。
その炎の塊たるドラゴンが蒼穹へと突撃していく。
ちなみにドラゴンは全長20m。この部屋の半分のサイズを占めている。
その温度は、3000度。
普通に考えて、当れば焼かれるのは必須。
■蒼穹 > 私もあっとさせたいけど、それはさておくさ。
なぁに、地面に細工をするのに、飛ぶ必要はないからね。
だけど、今度からは飛んで天井にも細工するとしようか。
(上に横たえられた虹色のそれを見上げれば、負け惜しみを一つ。
風に煽られて浮き上がっているのではなく、重力を破壊して立っている。
故に、飛んでいるとは言いにくいやも。)
レーザーを撃つ前には予告線。
画面下端《じめん》から攻撃する際はCAUTION!の表示。これがゲームのルールだよ。
じゃあ私は残機《ライフ》∞で爆弾《ボム》は70個くらいってステータス画面に表示しようか。
(つまり、地面に横たえた魔方陣は、余興で演出であると共に、一種の警告表示。
いつから射撃《ショット》されるかは、本人の気紛れ次第?)
―――あっはは、呆気ない。
(これで、残機を一つ減らせた。
炎だろうが、氷だろうが、風だろうが、土だろうが、鉄だろうが、闇だろうが、光だろうが、
どんなものを前に立てたとしても、無力だ。
防御は無意味、回避のみを強いられる、そんな魔術。
用意しておけと言った通り、この間の手品を使って回避される。
…が。)
…?!
(少し、驚いたかもしれない。
肌に伝わる、異様な蒸し暑さ。
炎で視界が遮られた向こうに、巨体が見える。
氷と炎の複合魔術。知らないわけではない。
見たことがないわけでもない。
氷柱を爆炎に変える魔術も知っているし、広がる爆風を狭まる氷の檻にする魔術だって知っている。
だが、どう考えても好き好んで使われる魔術ではない。
理由は簡単だ、その通り、相反する属性だから。
氷から炎は、最悪の組み合わせの一種。
にもかかわらず、ここまでやれるか?
高等な回避魔術である氷の大魔術から、
転じて上位種であると分かる純粋なる炎の魔術。
彼女の言うかなり優秀な魔術師に属する奴でも、これら片方だけを使って一呼吸置かないと、
連続してこの2つを使う事は至難だろう。
それが、どうだ。連続ではなく、複合という形を取っているではないか。
―――化け物が。)
破壊魔法・第八十三術式「凛冽寒気―ゼロダウン―」
(馬鹿でかい巨体を、避ける事は難しい。―――否、出来ない事はないけれど、避けてどうなる?
また突進して来るだけだ。
これでも破壊神。四大元素魔法は、対策済み。
どんなに熱いものであっても、結局四大元素魔法は魔法でありながら、
その性質は物理に近い。魔力と言うエネルギーを、こうして炎や熱のエネルギーに変換しているだけだ。
と、己は思っている。が、故に、こうしてその原理を「魔法だから」という理由でしか説明できない魔法の前にはあまり功を為さない。
使用する魔術は、氷。使用する魔力は、破壊。
無理矢理と言った具合に、氷の大技を破壊の魔力でぶっぱなして、
熱源たる分子運動を破滅させる、そんな性質の冷風を放った。
ただ、向こうはあれだけ大きさがある。絶対的な氷属性であるが故、触れればその箇所は一瞬で消滅するだろうが、
全身を消すには今一範囲が足りないかもしれない。
―――が、今日は己が攻める役。
普通に余興を楽しむなら、ここで手を止めていただろう。
しかし、今日は少し訳が違う。この火竜には、折角出てきたところ申し訳ないが、早々に散ってもらおう。
化け物染みた、異常な魔術に意趣返しだ。)
―――禁術「永久凍結葬送呪―エターナルフォースブリザード―」
(大人げないし、幾等でも卑怯な手を使う方法はあった。
だけれど、今回は正面からぶつかる約束をした手前、それを無下にも出来るまい。
遊びに茶々入れをするとつまらない。遊びは遊び。ルールに従う。
それを差し置いたとしても、どう考えても過多すぎる魔力だった。
先の冷風に続いて、飛んでいくのは、禁忌の術。うろ覚えの術式で、本来のものとは違うのかもしれない。
もしかしたら、本来のものを向こうは知っているのかもしれない。
兎角、アドリブで作った術式を一瞬にして組み上げるのは、破壊神ならではの才なのだろう。
それはただの氷の魔術だった。
強いて言うなら、使われている魔力はやはり破壊の属性を持っているけれど。
とにもかくにも、馬鹿らしい程に威力と氷の性質を突き詰めた、異界の術式。
目の前の対象を凍らせんと、放り付く様な寒気が、3000度の竜を凌駕せんと吹き荒んだ。
訓練施設の温度が目まぐるしく下がっているが、使用者本人はこっそり破壊と炎の魔術でぬくぬくしている様子。
黒い炎で温まっているらしい。)
ご案内:「訓練施設」に蒼穹さんが現れました。
■『ウィザード』 > 「その通りだな。
だがお陰で、貴様が地面に小細工している間、私は天上に小細工する事ができた。
そうすると良い。
地面と天上、両方を支配できればかなり優位に立てるからな」
そうは言っても、『ウィザード』側も初手は実質、後手に回っていたのだ。
回避が勝利条件とは言えども、後手後手はよろしくない。
「そこまで演出してくれるのか。
それは、芸が細かいな。
良いだろう、そこまで演出して自分を縛って、どこまで私を追い詰められるかな?」
さすがは破壊神と言ったところだ。
どんどんゲームを再現するために、自分を縛っていく。
たかが“遊び”の通り、まだまだ全然余裕を残しているという事だ。
炎のドラゴンが蒼穹に迫っていく。
確かにこれは、四大元素魔法に属するものだ。
例え上位魔法だったとしても、その枠組みは変わらない。
だが、この四大元素魔法がなぜよく扱われているか。
応用の幅が凄まじい、というのも理由にある。
蒼穹が扱おうとしている魔術は氷。
3000度だ、氷如き簡単に溶けてなくなる。
破壊神は氷の大技を放つ!
それはもはやただの氷であらず。
熱源を分子レベルで破壊しているのだ。
──なんて奴だ……。
だがこちらはまだまだ余裕で構えていける。
確かに分子レベルで熱源を破壊されては、厄介極まりない。
だがこの炎のドラゴンは、あまりに巨大。
あの氷の魔術では、ドラゴンを消しきれまい。
さて、蒼穹の打つ次の手はなんだ?
あるいは、これまでか?
そこで、蒼穹が扱ってきた魔法。
その魔法には、『ウィザード』も驚かざるを得なかった。
なに!? 禁術「永久凍結葬送呪―エターナルフォースブリザード―」だと!?
『ウィザード』もよく知っている魔術。
それはただの氷の魔術だ。
ただし、超極大規模の氷魔法である。
あんなものが出てこれば、もはやあの炎のドラゴンは持つまい。
炎のドラゴンは一瞬にして、物凄い氷により消し飛んだ。
“遊び”と言いつつ、あんなものをぶっぱなしてくるか。
おまけに、その禁術は本来のものと全然違うどころから、術式などに大幅な差異があるものだと思われる。
どういう事かと言えば、一瞬の間に蒼穹がアドリブで組み上げたという可能性すら考えられる。
それも、禁術をだ!
破壊神……。
もはや、化け物の域すら超えている。
なんでもありなのか、あの邪神は……。
単に強いなんてものではない。
当然、部屋の温度は大幅に下がる。
さて、『ウィザード』はどこにいるか……。
もちろん、部屋からは出ていない。
覚えているだろうか、滅の矢を放った時に『ウィザード』がガードに使った炎の盾を。
実は、あれはまだ残っていた。
その炎の盾こそ、なんと『ウィザード』だ。
態々、自身より大分前方に盾を展開したのには理由があった。
少々、複雑な説明になる。
まず最初に『ウィザード』が展開した炎の盾は、間違いなく純粋な炎だった。
滅の矢は当然のように、その炎の盾を貫通。
その貫通し、無数の滅の矢が通り過ぎた直後に、『ウィザード』は例の氷像のダミーを置く魔術を発動。
そしてその時に、『ウィザード』は炎の盾の位置に転移し、炎の盾に化けた……というわけだ。
その炎の盾は既に滅の矢が通り過ぎた後であり、安全圏になる。
後は、炎のドラゴンが陽動になって、炎の盾に化けた『ウィザード』から視線が外れる。
それが今回の『ウィザード』の策の全容である。
ひとまず、しばらくはこのままで時間を稼ごう。
蒼穹は、『ウィザード』がどこにいるか探さなければいけなくなるわけだ。
5分耐えたら勝ち、というルールを巧妙に利用してやろう。
何も、魔術だけが戦闘手段ではない。
ルールがあればそれだけ、策が生きる。
■蒼穹 > (うろ覚えで撃ち放った、アドリブの術式。
やってやった。あの生温い風を、突進してくる炎の塊を、鎧袖一触と言った具合に打ち払ってやった。
あの魔術、本当の使い方で相見えた敵は使えるのかもしれない。
軽く禁術を使って見せたけれど、普通にやったら反動とかが物凄い。
五分で三回、それを今の化け物を相手に遂行するのは、遊びでもそんな馬鹿げた魔術を持ち出さないと負けそうだ。
何しろ、相手は賢い。如何に力で勝っていても、これは遊び。知恵比べでもあるのだから。
その意味では、物凄く分が悪い相手と戦っているのかもしれない。
七英霊で最も頭脳に優れるものであることは、己は知らないけれど。
それでも、彼女がずば抜けた頭脳を持っている事は、感じていた。
とは言え、火竜の件はひと段落つけられた。
…のは良かった。
だが、あくまでも今攻撃すべきは竜ではなかった。
竜におかえり願うのは、ただの通過点だった。
そう、己が攻撃すべきは―――。)
―――?
(消えた?…一体、何処に?
あたりを見まわすが、…何処なのか、さっぱり見分けがつかなかった。
成程、先ほどの炎は目隠しも兼ねていたか。
だが、彼女が何処に隠れたかなんてわからない。
よもや、その目隠しの壁自体に、それも、己がこの手で一度貫いたそこに、
隠れるなんて、誰が想像できようか。
だが、もっともな話だった。馬鹿馬鹿しいくらい冷え切ったこの部屋で、
ウィザードが平気で居られる場所は、炎の中であるのは必然的なのかもしれない。
あらゆる意味で、彼女が選んだその居場所は、安全圏だった。)
―――。
(してやられた。
撃ち合い《シューティングゲーム》では、相手の自機が見えていないと、
ホーミング弾や、自機狙いショットは使えない。
その上、相手は避ければいい。5分間避ければ良い。
言い換えれば、隠れ続ければ、勝ち。…狡賢い子だなぁ、と苦々しくも笑うのだが。
まさか、エリアの外に隠れてもいまい。
魔法で姿を消した線も考えられる。若しくは、何処かに擬態しているのかもしれない。
何処に居るか、探すのは面倒だ。隠れられよう場所を壊すしかない。
―――虱潰しに。)
じゃあ、そろそろ始めようか。魔方陣の出番だね。
籠目の牢獄で、何処まで隠れて居られるかな?
(最初に展開した魔方陣から、真っ直ぐ下から上にと、敷き詰める様に黒い球体が一個一個おかれて、
それぞれが天井を目指していく。等距離、等間隔。
先ずは縦に線を描き、次は横に同じ間隔。最後は奥行き。
彼女が隠れる炎の盾に、触れるかどうかは分からないけれど、次なる攻撃の波が形成されていく。
組み上げられるのは、牢獄。幾多の正方形を描く様に球体がぽつんぽつんとおかれて、
軈て形成されるのは、人が四人入れそうなくらいの沢山の立方体に変わって行く。
これらも、予告線、否、予告点と言うべきものだった。)
さぁ、早いけれどお楽しみの始まりだよ。
―――ほら。爆弾《ボム》使っちゃうね。
破壊魔法・第四術式「滅光」
(置かれた点を、一瞬で走って行く、真っ黒な閃光。
予告点の牢獄は、間もなく破滅の牢獄となる。創られる幾多の立方体。
その威力の程を今更説明するまでもないだろう。
あわよくば、この光線にて一突きにしたいが、残念ながら彼女は予告点を見せた以上、余裕でそれを避けるだろう。
だが、それでいい。
避けると言う事は即ち、この立方体のどれかの中に、姿を隠しながらも居るには違いないのだ。
例え見えなくても、隠れられても、逃げられる場所を限定して、囲い込んで―――。)
さぁ、次はどう出る?
(最後に、何処に追い込んだかもしれないけれど、最初と同じ様に、
滅の矢を球面波状に飛ばした。あらゆる方向に向かう矢を、宙に浮かびながら撃ち放つ。
今回ばかりは、相手が何処に居るのか分からないので、これが仇となる事はないだろう。
幾多の牢獄と、球面状に飛び交う矢。狭まる回避範囲に、彼女は何処まで抵抗して見せてくれようか。
己も大概おかしな魔術を使ったが、相手も大概だった。
大方次は、雷と風でも複合して来るのだろうか。いや、四大元素魔法なら土と風、だろうか。
何にしても、手品の如く繰り出されて、よく考えていながら、相応の実力を行使に要すると思われる莫大な魔力量。
相手の次のカードを見るのが楽しみでさえある。
だから、どう出る?と聞きながら笑っている。追い詰められた風は無い。
実際は、追い詰められているのかもしれないけれど。)
■『ウィザード』 > 炎のドラゴンは禁術により消し飛んだ。
そこはさすが破壊神だ。
あれだけの攻撃を無傷で済ませたのには、もちろん称賛に値する。
だが、これは五分間避け続ければ良い“遊び”。
『ウィザード』は今、一度防御に使われた盾に成り済ましている。
寒いこの部屋で、炎の盾に化けるのは、そういう意味でも有効だった。
『ウィザード』が考えているのは、あくまで時間稼ぎのみ。
この策一つでゲームセットはまずないと考えていい。
あの破壊神蒼穹なら、何かしらの手段は必ずとってくる。
ただ、ゲーム性を出そうとして、自分で定めてしまった縛りにより苦戦している事は想像できる事だ。
もし蒼穹が《シューティング・ゲーム》の枠の外に出ようとすれば、この策も簡単に敗れているかもしれない。
蒼穹は周囲を見渡すが、『ウィザード』を見つけられそうにない様子。
だがさすがに、このまま都合良く時間切れというわけには絶対にならない。
やはり、魔法陣を発動してきた。
話が変わるが、英霊『シーフ』の宝具『アサシン・ダガー』は所有者の姿を見えなくするという能力がある。
それを踏まえて、これはかつて『ウィザード』が『シーフ』に言った言葉だ。
姿が見えない相手にはどう対応するか。
──簡単な話だ。敵が見えないのなら、辺り一帯を消し炭にすればいい。
つまり、『ウィザード』自身、敵がとる作戦は絞れている。
相手は、それに近い理論の魔術を扱ってくるはず。
蒼穹が用意した魔法陣から、いくつもの黒い球体が敷き詰めるようにして一個一個天上を目指し置かれていく。
描かれた線に炎の盾が触れる事はなかった。
牢獄がだんだん、形となっていく。
たくさんの立方体が完成していく。
冒頭の魔法陣による魔術だ。
当然の如く、危ない魔術なのはほぼ確定である。
そしてあれらの点は、予告点と見るべきだ。
炎の盾になる事で予定通り、時間は稼げた。
炎の盾に化ける策の役割は既に十分果たしたと言える。
真っ黒な閃光が、走っていく。
破滅の牢獄が、形成されていく。
予告点を見ていたという理由も大きく、あいにくだが炎の盾(『ウィザード』)は、かなりひっそりと光線を避けていた。
それも、炎の盾が違和感なく、自然に動いている感じで、ちゃっかりとだ。
当初から、部屋全体に効果を及ぼす魔術を行使するとは思っていたが、それは動きを大きく制限する魔術だったわけだ。
こうも閉じ込められては、身動きがとり辛い。
なにせ、この破滅の牢獄は、ひとつひとつの立方体が狭い。
当然の如く、直接漆黒の光線に触れるのは論外だ。
正直言って、蒼穹の魔術にしてやられた。
ここから当然、蒼穹は追い撃ちをかけてくる。
先程と同じ、全方向に飛ぶ矢だ。
そして周囲には破滅の牢獄……。
もちろんだが、炎の盾に化けたままではいられない。
即刻解除し、炎の盾は『ウィザード』の姿に戻る。
「やってくれるな、蒼穹。
貴様と“遊ぶ”のは、やはり楽しいものだ」
『ウィザード』は不敵に笑った。
「いいだろう。
防いでみせよう」
迫ってくるは、無数にある滅の矢だ。
避けるべきは、致命傷。
状況的に、一機くれてやるのは仕方がなかろう。
『ウィザード』の姿が消えていく。
次なる無詠唱の大魔術を行使したのだ。
使用した魔術の系統は風。正確には風系統に含まれる属性、雷。
『ウィザード』の体が人から、電気と化した。
いくら無数にある矢でも、電気そのものを狙うのは難しい。
すばしっこく、そして変化自在。
その上、狭い空間でも人の姿より動きやすい。
電気と化した『ウィザード』は次々と滅の矢を回避していく。
だが、さすがに全て避けきれたわけではなかった。
一発だけ、矢は電気を掠ったのだ。
全ての矢が通り過ぎた後、『ウィザード』は元の姿に戻る。
致命傷は避けた。
だがその右肩には、掠り傷があった。
「これで私は、一機損失だな」
この状況で尚、『ウィザード』は愉快そうに笑っていた。
だが危機的状況なのには変わりない。
破滅の牢獄がそこにあるのだから。
「では、これならどうだ?」
『ウィザード』が『デーモンズ・ロッド』を少し揺らすと、天上に浮かぶ虹色の魔法陣がさらに煌めきだす。
すると、無数にある立方体の牢獄全ての中に、それぞれ宝石が誕生する。
それぞれ火属性は赤、水属性は青、風属性は緑、土属性は黄色の宝石で、ほぼ均等の数存在する。
『ウィザード』の魔法陣が虹色だった理由は、四属性複合魔術だからだ。
おまけに、天上にある虹色の魔法陣はまだ消えていない。
この宝石は属性攻撃できる他に、ワープ地点の役割もある。
これで牢獄から牢獄へのワープは自由自在になったわけだ。
『ウィザード』は次の攻撃に備える。
■蒼穹 > (そう、結局はと言えば、見えない相手にはどうすればいいかと言えば、辺り一帯を焼き尽くせばいい。
だが、これは遊び。あくまでもその範疇を越えてはならない。
故に、閉塞というキーワードに基づいて、全体攻撃ながら、クソゲーにならないような、
そんな配慮をした微妙な攻撃を繰り出した。
追い討つようにお得意の矢を繰り広げたのだが―――?)
こい、つ…っ?!
あはは。面白いし、楽しいねぇ。
(体は、一体どうなっているのか。電気は無数に枝分かれする。
流石は英霊。…否否、今更それを訂正するまでもないか。
破滅の属性を持っていたとしても、こういう分散してすばしっこいのには当てにくい。
致命傷を狙うわけではないが、本当に戦うとしたらこの種の魔術は非常に厄介だ。
たかが遊びで、たかが"遊び"で面白がらせてくれるではないか。
自分の体を電気にするなど、それこそ誰が思いつこうか。奇想天外な発想で行われる大魔術。
数え切れぬ球面波の矢を、くぐり抜けて、牢獄の中でさえ、たった一発の被弾で済ませる。
不敵に笑ってくれるだけはある。
その対処に仕方と、容量の良さに、驚かされるのだ。
色んな魔法を見てきたと思っている。そして、色んな魔法を使って来た。
だけど、身体強化でも防御魔法でもない、自分の体を組み替えて、こんな事をして来る奴は今まで見なかった。
否、見たことはあるが、それを魔法で、それもこんな大魔術をわざわざつかって避ける奴は見なかった。
居たとしても精々もとからそういう体質だ、とかそういう異能だ、というレベルだった。)
あっはは、やっとか。
―――最初のは、被弾としてノーカウントかい?
(ノーカウントなのだろう。前に置かれた炎で良く見えなかったけれど、彼女は間違いなく矢を躱したのだから。
残念ながら、己は炎に視界が遮られて、前の一件もあって、
氷になって砕けたのだから一発貰っていたのだとばかり勘違いしていた。
だが、今見たら分かったけれど、彼女が受けた傷は、右肩、ただ一点。
これだけ大掛かりな仕掛けを使わせておいて。右肩、ただ一点、である。
ワンミスすれば一瞬で残機《ライフ》をゼロにしてやれようこの仕掛けで。
遊びとは言え、ふざけている。やっぱり化け物だ。
だから、面白い。
牢獄と矢尻から逃れる魔道ネズミを追い詰めようか。
次はどうしよう、次は何をして来るだろうか。
どんな風にしてやったらキミのその不敵な笑みを崩せるだろうか。
遊びとは言え敗北に塗れて歪んで吐く負け惜しみを聞かせておくれよ。
ああ、壊したい、この手で握り潰したい、その笑顔―――。
―――あ、れ…?
―――やっと、残機を一つ減らせた。もう時間は、1分はゆうに経過しているだろう。
2分くらいたったかもしれない。…楽しい時間は、あっという間に過ぎるものだ。
そんな事を考えているうちに、向こうも魔方陣を作動させた。
虹色である理由のネタばらし。四つの色合いの魔道宝石と思しき塊が、
それぞれ牢獄に位置していく。)
………あっはは、
なぁるほど。この発想は、なかったよ。
シューティングゲームじゃ、これは一体なんて必殺技になるのかな。
(幸いな事に、彼女が人間の体になって戻って来てくれた。それだけが救いだ。
それぞれの宝石の効能は分からないが、魔力は感じる。
何かしらをしでかしてくる事は分かるが、破壊の属性を妨害する事など出来ない筈。
しかし、先程の様に視界を誤魔化したり、何かに変幻したり。
そういった搦め手を使うのが上手な彼女。明晰な頭脳によって、牢獄へと置き据えた宝石は、
きっとこれから行う牢獄との合わせ技を妨害して来るに違いない。
綺麗に同じくらいの数で存在しているのは、あくまでも虹色というコンセプトに基づいた、遊び心なのだろう。)
面白く、なってきたね。
じゃあもうウォーミングアップは良いか。
さっきの炎で十分温まったし。
(段々と、分かってくる。遊びで、ルールで、策に溺れていっていることを。
力では勝っているけれど、知恵比べでは、負けていることを。
だが、それは認めない。認めてなるものか。力だろうが知恵だろうが負けなどあり得ない。
特に、ここまで面白い奴に、下僕を掛けた勝負で負ける等、あってはならない。
大人げないが、あくまでも、あくまで最小限度に、遊びの範囲を越えない程度に、
少しだけ、スロットルを上げてみよう。)
破壊魔法・第二十一術式「轢殺の剣」
(ところで、今更だが全体に牢獄が広がっている。
それ故、己もまた牢獄の中に入る事は免れないが、牢獄を形作る破壊の閃光に触れたとして、何事もなかったように突っ切る。
その理由は、簡単で、所謂太陽と炎の関係。元々、己は破壊の魔力や破壊という概念で出来ているから、触れたとしてなんてことはない。
さて、そんな話は置いておいて。
かつて、かのハンターという英霊の武器を切り払いまくった、これまた真っ黒な剣を片手に召喚するようにして携える。
長さは何と、この広くも狭い訓練施設の端から端まで、丁度届く様に常に大きさが変動している。
何をして来るかは分からないけれど、牢獄内に居る以上、あの宝石は逃げ回れない。
故に、ウィザードを狙いながら宝石も巻き込もうと言う方針。
あまり頭を使っていない、力押しの考え。だから、ウィザードに智慧負けするのだが、本人はおかまいなし。)
―――んじゃ、
当たったら痛いから覚悟しなよ。
(黒い剣を、振りかぶって、ウィザード目掛けて斜めに振りおろす。
剣術の心得など一切ないのが分かるだろう。
剣を持って、遊んでいるだけだ。本気でウィザードを斬りかかっていないのも分かるだろうか。
斬りたいのはウィザードではなく、新たに顕れた、色とりどりの煌めく宝石。
もしウィザードを斬っても、真っ二つでここで成仏じゃつまらない。
だから、もし当たったとしても、途中で斬らない程度に余裕で止められるくらいに手加減している。
無論、彼女から見れば不要な手加減であろうことは言うまでもないだろうが。)
■『ウィザード』 > 実際のところ、風系統の大魔術を用いて徹底的に電気になりきれば、掠った程度でダメージにはならない。
だがそれは“遊び”としてつまらない。
“遊び”なのだから、少しは弱点をつくった方が面白味がある。
そういう意味で、先程の一撃は一機くれてやるのはもはや仕方がない。
「被弾の基準は、そういえば定めてなかったが。
最初のあれは、ただのダミーだ」
ノーカウント以前に、直接『ウィザード』に当っていない。
種が分からなければ、誤解を招く事もあるだろう。
それにしても、この動きを封じる立方体の牢獄と言い、閉じ込めた所を確実に狙ってくる滅の矢と言い、中々にいやらしい攻撃をしかけてくる邪神だ。
破壊神の名は伊達ではないという事だ。
凄く、楽しめる。
不敵な笑みを浮かべてしまう。
──今、“世”の体が“悪魔”ではなく、『ウィザード』である事が惜しいとすら思えてくる。
いや、その方が遠慮なく“遊べて”、むしろよかったと考えるべきだろうか。
残り時間は4分、いや……3分。
残機は2。
ペース的には、際どいところ。
虹の魔法陣を発動。
それぞれの立方体の中には、四色の宝石が出現する。
「そうだな、特殊な必殺技だから分類に悩むところだ」
手の内はギリギリまで明かさない。
だが、牢獄のお陰で本来魔法陣で発動する魔術が扱い辛くなったのは事実だ。
その代理としての側面があるが、こういう時に多種様々な魔術を知っている事が有利となる。
「ああ。実に、楽しい余興だ。
ウォーミングアップをしていたというのに、貴様の唱えた禁術のせいで一旦冷えてしまったがな。
よかろう。
お互い、魔法陣も発動したところで、温まった事だろう」
面白い、と言ったところで、冷静な分析も必要だ。
こちらに理があるのは知恵、あちらが優勢なのは力。
単純に真正面からの力勝負では、この『ウィザード』が不利。
これまでも、策略やテクニカルな大魔術から有利になる展開が主だった。
逆に言えば、“遊び”とは言え蒼穹は力でこの『ウィザード』を超えているのだから、やはり化け物以上の大した奴である。
予想した通りに、この破壊神は“悪魔”を楽しませてくれる。
現状の事実は認めて受け入れてこそ、次の手を的確に考え、戦いを有利に進める事ができる。
当然だが、蒼穹自身も牢獄にいる。
しかしそこは想定通り、閃光など無視して突き進んでくれる。
この手の魔術において、自分すらも縛りつけてしまうというのならば、まだまだ三流だ。
蒼穹が取り出したのは剣だ。
何にしても、長さが異常だ。
この部屋内全域とどく程のリーチの長さを誇る。
「そうだな。当ったら、痛いですまぬかもな」
その剣に剣術の心得など見られないのが、魔術師たる『ウィザード』でも分かるぐらいだ。
さらに斬ろうとしているのは、『ウィザード』ではなく宝石の方だった。
やはり、正体不明なものは先に潰そうとするか。
斬られようとする宝石はそれぞれ、なんと自立行動して攻撃し始める。
もはや宝石自体が一人の魔術師かの如く、行動する。
赤い宝石は爆発して刃こぼれを狙い、青い宝石は剣の刃を氷らせようとし、緑の宝石は真空波で剣の刃を受けようとし、黄の宝石は剣の刃を錆びらせようとする。
剣を振るうごとに、その剣にダメージを与えようとしていた。
だがその宝石の数は確実に減っている。
剣が『ウィザード』を斬ろうとする。
「そんな巨大で大ぶりな剣が当るはずがなかろう」
『ウィザード』の手前にあった宝石に触れ、別の宝石、つまり他の立方体にワープした。
宝石の数が減ってこれば、ワープする箇所も制限される。
だが、それでいい。
蒼穹が四色の魔導宝石に手間取っている間は、確実に時間を稼げているという事だ。
もう一つおまけに、『ウィザード』は魔術を発動する。
またもや無詠唱での大魔術。
蒼穹の目の前に、ひとつの球体が現れた。
半径一メートル程で緑色の球体だ。
その球体が口を大きくを開かせたと思ったら、蔓状の触手を生やす。
その力は、思いのほか強い。
土系統に含まれる木属性の魔術と火属性の複合魔術だが、今のところ火属性らしいところは見せない。
触手は、蒼穹を捕えて、球体の大きな口の中に入れようとする。
こういった時間のロスが、蒼穹を苦しめていくものだ。
特に触手系の魔術は、捕えるという事で時間稼ぎもしやすい。
■『ウィザード』 > 一旦切り上げます。
ご案内:「訓練施設」から『ウィザード』さんが去りました。