2015/09/30 のログ
ご案内:「訓練施設」に霜月 零さんが現れました。
ご案内:「訓練施設」にヴァルトラウテさんが現れました。
霜月 零 > 「よ、っと!」

霜月零は稽古に励んでいた。
つい先日の不覚もあるが、新しく身に付きつつある己の新たな型を、早く完成させたかったのだ。
様々な型を、それに囚われる事無く使い分ける軸となる型。
無形でありながら有形、全ての元となる体捌き。
それを極めたいと、切望していたのだ。

ヴァルトラウテ > ……此処が演習場ですか
ふふ、やってるやってる……

(太刀を佩きつつ演習場へと現れる少女
演習場で刀を振るう青年を見れば嬉しそうに眺めているだろうか)

霜月 零 > 「せいっ!」

気合一声、神速の斬り返しを行って一息。そのまま刀を納める。

「……なんか用かー?」

そして、とぉっても気だるそうに後ろを振り向いた。
こう、こう、とてもとても嫌な予感がする。けど、スルーすると悪化しそうな感じがした。
なので、もしかして優位が取れるかも?と言う淡い希望にすがって自分から声をかけていくのである。

ヴァルトラウテ > いえ、用というほど用でもないのですが、刀を振るう姿が素敵だな、と思いまして

(見れば、にこやかに笑う少女もまた、得物を腰に下げている
基本的に戦闘に関することはだいたいすべて好みであり、そういったデータを集めることが好きなのだ)

そういえば、つかぬことをお伺いしますが、この学校は複数の流派をミックスさせたような剣技が流行ってるのですか?
いえ、この間出会った方も私もそのような感じなので、みんなそう言うところに落ち着くのかなと思いまして……

(素朴な疑問である
もともと流派などはあまり気にしないのだが、この間尋ねられたことで少々気になったのだ)

霜月 零 > 「……そりゃどーも」

いきなりバトル展開、とはならなかった。一安心。
そのまま、トークだけで切り抜けらんないかなー?と思いつつ話題に乗っていく。

「どうだろうな、俺も実際多数の流派を取り入れてるが、場合によっちゃ一つの流派に操を立ててる奴もいるんじゃねえの?
示現流みたいに、基本が独特過ぎて他流と合成しづらいのもあるしな」

薩摩に伝わる剛剣、示現流。
あの剣術は『蜻蛉』と呼ばれる構えから、『左肱切断』と言う左肱から先を無い物として扱う技術により、太刀の動きの自由度を損なう代わりに太刀の速度と戻りを速くしている。
これは他流の基本からは大きく外れるモノであり、故に他流が限定的に蜻蛉からの打ちを取り入れる事は出来ても、蜻蛉を軸にする示現流が他流の技を使うのは比較的難しいのだ。
まあ、自分も一つの流派だけの剣士を見たことがないので、この学校ではそう言う流行りがあるのかもしれないが。

ヴァルトラウテ > ……なるほど、そういうものですか。ありがとうございます。
もっとも、いろんな流派を学んで開祖になられた方もいますし、あまり関係ないのかもしれませんね。

(どう何を捉えようとも、剣を扱う腕は2本しかない以上、基本の軌道は決まっている
である以上、それを元に行われる
ヴァルトラウテは基本、物事の効率を重視する傾向があるので、あまり無駄な動きはない
合理の手順化単純化複合化を旨とする
基本的に異能も含めて、特別速いわけでも特別手数が多いわけでもなく一つ一つを確実に打っていくタイプである)

霜月 零 > 「いくつか学んで一つに纏め上げた流派ってのは普通にあるし、逆に『流名に固執するのは偏狭である』とか言って、他流の技を取り入れて自流の欠点を補う事を説いた剣士もいるからな。
実際の所、あんまり細かく考えなくていいのかもな」

肩を竦める。
新陰流の開祖、上泉信綱は新陰流を興すに当たり、元々の陰流に加え念流、新当流を参考にしたとされている。
その新当流の開祖塚原卜伝も、鹿島中古流に加え天真正伝香取神道流を修めていたという。
今現在一つの流派として纏まっている流儀でも、元々は多数の流派を混成して出来上がっている物である場合だってあるのだ。
要は自分に合う、自分が扱いやすい流派を見出し、そしてそれを極める事こそが重要なのだろう。

「ちなみに、アンタはどんな流派なんだ?言いたくなかったらいいが」

ふと興味がわいたので聞いてみる。知らない流派かもしれないし、混成しているだけで軸となる流派はないのかもしれないが、それはそれで興味深いものであるのだ。

ヴァルトラウテ > ……一刀流みたいな心形刀流みたいな鏡心明智流みたいな?
まあ、どんな相手とやりあうかわからないので、そう言う感じですかね?

(総合的であり、また、自分はあまりブレずに逸らす、ということなのだろう
確かに空いてがなんだかわからないのであればそれはそうかもしれない

にこやかに笑う少女の太刀は、まあしっかりしていそうである)

霜月 零 > 「あー……成程そこら辺か」

ふんふん、と頷く。一刀流、心形刀流、鏡心明智流。どれも江戸時代に隆盛した剣術の流派である。
まあ剣術流派と言う物自体がおおよそ江戸時代に隆盛したのであまり参考にはならないかもしれないが、その付近の流派をある程度混成したもの、なのだろう。
読み取れる剣風は一撃必殺。主に一刀流はそのような剣風が強く出ていたという。
鏡心明智流まであることを考えると、流しつつ一撃で斬り落とす、と言った剣風なのだろうか。
とは言え、零としては鏡心明智流の術理に強い興味があった。
と言うのも、零の住む世界において、鏡心明智流は既に失伝してしまっているのだ。
かつて「位の桃井」として恐れられ、江戸三大道場にまで名を連ねた鏡心明智流。
だが、零の知る限り、その技は最早、警視流木太刀形に『位詰』と言う技と、分派である鏡心流に一部の抜き技が残るだけである。
根源接続においても、鏡心明智流の技は中々ヒットしない。『失われた』と言う概念は、それほどまでに重いのだろう。
だが、その失われた流派を使う、と言っている者が目の前にいる。
そのことに、僅かながら興奮すら覚えていた。

「……俺の技を見た分、ってのもアレだが、鏡心明智流の技を見せてくれねぇか?」

ついつい、と言った所か。
強い興味に抗えず、そんな事を口にした。

ヴァルトラウテ > ……なら、手合わせですね?
(至極あっさりと、にこやかにそういった。)

霜月 零 > 「……………アレ?」

じらいふんだ。
それを思いっきり自覚する。
そりゃそうだ、型を見せて貰うつもりでいたが、こういう展開になるのはわかってたじゃないか。普通に想定出来ただろう霜月零。
心の中で思い切り後悔しつつ、だが自分が口にした手前引っ込めることも出来ない。
せめてもの悪足掻きとして

「……型、ってのじゃあダメかい?」

そんな事を口にしてみた。駄目だろうなあ。

ヴァルトラウテ > 型に意味があります?
動作の手順化を記しただけじゃないですか。
本質はそこじゃないですから。

(要はやりかたや方法でなくて、もっと根本的なところだと言っている
まあそのために型を学ぶのではあるが、技術は理合や根拠のためにあるのであって技術のための技術ではない

そう言うと嬉しそうにヴァルトラウテは演習場に踊りでた)

霜月 零 > 「……だよなぁ」

ごもっとも、である。
型には術理の本質が詰まっている、とはいうものの、実戦において型とはどうしても崩れる物。
型だけを見ても、それは『生きた技』を見る事にはならないのだ。
更に言えば、一刀流五典が一『金翅鳥王剣』は、大上段の構えから敵を圧し、崩したところを斬る技とされているように、相手無しでは本質の見えぬ技と言うのはどうしてもあるのだ。
技を見て学ぶ。ならば手合わせ。
間違っちゃあ、いないのだ。

「で、木刀かい?」

そうであってほしいなあ、などと思いつつ提案半分で口にしてみる。

ヴァルトラウテ > ……え?

(すでに太刀を構える姿勢
時すでに遅しである)

霜月 零 > 「あっ……」

ときすでにおそし、あとのまつり。
真剣相手に木刀でやっても無駄なので、やむなく真剣同士の戦いになる。
盛大に溜息を吐きつつも、少し離れたところに立って太刀を構えた。
構えは平正眼、主にカウンターを得手とする構えである。

ヴァルトラウテ > はい、いつでも構いませんよ

(構えはごくごく普通の中段、ただ、それが恐ろしく綺麗である
なにか特別なことでも何でもない何の変哲もない中段のはずなのに
それが、特に威圧しているわけでも気を放っているわけでもないところがまた恐ろしい
これが剣の立合なんだろうかと思うほど、日常的である

何もしないなら徐々に、にじり寄って間合いを詰めていくだろう)

霜月 零 > 「(正統派、色のない綺麗な中段だな)」

そんな事を考える。
中段とは剣術の基本であり、万能の構えである。が、それにしても気配が薄い。
意と言う物がないのだ。何の気負いも気構えもなく、ただ当然の如く構えているように見える。
それは即ち、武が身に刻み付いているのを越え、染み付いて同化してしまっている状態を指す。
見事なものだと感心するが、そうやって感心してばかりもいられない。
じり、じり、と詰まる間合いの中、打つ手を決めてそれを実行に移す。
お互いの一足一刀の間合い……の、少し手前。そこから打ち込んでも届かないというギリギリの間合いにて動く。
動作は、平正眼から右上への切り上げ。だが、狙いはヴァルトラウテ本人ではなく、その刀。
中段に構えているその刀をどかす様に刀で擦り上げるのだ。
そして擦り上げて上に上がった己の刀にて、そこから袈裟懸けに斬り落とす連続技。
相手の打ちを躱すのでもなく、相手の打ちを潰すのでもなく、相手の守りをこじ開ける剣技。


――聖蓮流、陽炎之太刀『霞』

ヴァルトラウテ > (擦り上げようとすれば、その感触が、ない。
刀がまず、触れていないのだ
そのまま、ふらりと間合いに踏み込みつつ……正確には踏み込んだのかどうかもよくわからない
その擦りあげようとした動きにゆらりと、剣がそのまま置かれる
切るでも、突くでもない。
その動きの途中に剣が、置かれる。

零がやろうとしている連続技を3つぐらいすっ飛ばしたような技だ
払いもせず、振りかぶりもせず、打ち込みすらしていない)

霜月 零 > 「(はぁ!?)」

『霞』の入りは完璧だった、間合いの見切り間違いもない。
だというのに、霞は相手の太刀を捉えられず。

「ちっ!」

行く先に、刀が『置いて』ある。
同型の技法は、霜月流に存在する。
間合いを詰め、打ち込まんとする相手の打ちを読み、躱しつつ相手の向かってくる場所に切っ先を置いておくことで、自ずから切っ先に吸い込まれるようにする技。
霜月流『待宵』である。
だが、それにしたっておかしかった。
『霞』は、起こりが速く見えづらいタイプの技だ。
何故なら、平正眼の構えから予備動作無く起こる技だからだ。
見切りは至難。なれば、類型の技術を持つ天然理心流を元に読まれたか?
だがそんな事を考えている暇はない。
体を捻り、自分から遠くに切り上げる型を自分の右肩にぶつけるような型に変更、刀を避けつつ『蜻蛉』に移行する。

ヴァルトラウテ > ……あ、今のを避けるんですね?
よく止まりましたね、すごいなあ。

(ヴァルトラウテの方といえば、零が今の対応に対してそのままこなかったことに感心することしきりである
ヴァルトラウテは読まないし予想しない、力まないし、強張らない
すべてが日常感覚的で緩いまま、流れに逆らわないだけ)

じゃあ……こういうのどうですかね

(知人に声をかけるかのような気軽さで、間合いに踏み込んでいく
先ほどの零がやったことと同じようなことを、速度も速いわけでもないし鋭いわけでもない
振りかぶりもしないままに肩口の上に刀が落とされる
中段からさして動くわけでもなく、手の内の中だけの変化で、歩を詰めただけのことだ)

霜月 零 > 「遅せぇ!」

力みの一切ない無為自然の剣は、一見すべてに打ち勝つように見える。
が、無駄を省いても、結局は剣速自体には目を見張るものがない……意の外から打つ剣に過ぎない。
故に……最短最速の打太刀でこれを圧する。
奇しくも、今取った構えは『蜻蛉』。
薩摩に伝わる剛剣、示現流の構えである。
そこから腰の捻り、そして左肱切断によって最小に抑えた動作から、地軸の底まで打ち抜くイメージによって、かの流派の奥義を解き放つ。
最短最速。その速さは、『雲』間より『耀』る、一筋の日光に例えられた。
まさしく光速を目指す、一撃必殺の秘奧。

「っちぇぇぇぇぇぇぇぇい!!!!」

猿叫と呼ばれる裂帛の気合いと共に放たれるその剣の名は。


――示現流『雲耀』!

ヴァルトラウテ > (ゆらり。
その遅いはずの剣が、交差するように。

本来、速度も重さも圧倒的に劣っているヴァルトラウテの刀に「横から丁寧に」としか言いようのない教科書通りにずらされる
打ち合うでもなく、弾くでもなく、逸らされる
それもゆるやかに、ぬるい動き……のはずなのに

ただ、代わりに先ほどのような一刀で全てを終えるわけには行かず、そのまま左側面に回る)

霜月 零 > 「(なんで追いつくんだよ!フラガラッハかテメェの剣は!)」

ケルト神話において、光神ルーが使ったとされる剣。
念じれば勝手に鞘から抜け、ひとりでに敵を斬り倒し、鞘に収まったという。
これだけならまあ、ケルト神話や北欧神話にはよくある『勝手に行って勝手に帰ってくる剣』の系譜なのだが、一説に、このフラガラッハは『後出しからでも相手の攻撃が届くより先に相手を斬り落とした』などと言われていたりもする。
アンサラー、応報丸、回答者。
後より出でて先に断つは交叉法の常なれど、この少女の剣はそれが極まり過ぎている。
先出しに後出しが勝つ矛盾。それを当然の如く発生させる魔剣。
そんなものが本当に実在するならば、まさしく無敵だ。なんせ相手が斬る=自分が先に斬り終る、なのである。
が、そんな因果逆転の魔剣とて、人の業ならば打ち破れるはずだ。
そう信じ、ひたすらに突き進む。

「お、おおっ!」

この雲耀は単一の技、一刀目を外されれば斬り返しはない。
だが、示現流を簡略化して取り入れた聖蓮流には、ここからの斬り返しが存在する。
左側面に回ろうとする相手に対し、沈み込んだ状態から、その足のバネを活かして跳ね上がる様に斬り上げる。
逆風に断つ元の型とは違い、若干斜めになってしまうが……崩れるのもまた実戦。
神速の打ちから派生する、神速の斬り返しにてその魔剣を粉砕する。


――聖蓮流、秘奥之太刀『鳴神』

ヴァルトラウテ > 今のは……まだ返せませんね
……ですが

(どうも今の切り込みにも一刀で返したかったらしい
そもそも、隙があるんだかないんだかよくわからない少女である
普通であれは何の変哲もない中段からこうは動かない
……そもそも、どこから動いていただろうか

だいたい理屈としてならわかる
わかるが、それは普通見ることもできることもない事がほとんどだ

だが、この学園では無念無想や無為自然が安売りされるが如く日常的に行われる異常な場所だ
そしてヴァルトラウテもその一つだ

その切り返しに対してなら、割り込んで、落とす。

「切落」

一刀流の基本にして深奥。異常なまでの交叉法の精度と単純化

零との初太刀では置いておくだけだった剣が、ゆるりと振られている
つまり先ほどと違い、止まらなくても、当たる。)

霜月 零 > 「(『鳴神』まで合わせやがるかよ……!)」

『鳴神』は、本質的には奇襲技である。
渾身の打ち、そこに生まれる隙。そこを突かんとする相手の意の外から迫る神速の斬り返し。それが『鳴神』だ。
が、それすらも通じず。
先に出したはずなのに、なんでか相手の刀が先に置いてある。
因果逆転すら疑う現象、人間業を超越した人外魔境における魔技。
剣速はこちらの方が早い。出だしもこちらの方が早い。
そして、剣閃にもそんなに無駄があるわけではないはずだ。
なのになんで。
なんで相手の剣は、あそこにある!?
物理法則が崩壊したような、そんな衝撃を受けながらも、足掻く。
ギリギリ、刹那で僅かな手首の遣いにより、剣閃をずらす。
狙いはヴァルトラウテの太刀、精密な交叉法は僅かなズレで瓦解する。
その僅かを、霜月流『水燕』の技法……手首の返しによる神速の斬り返しの応用で無理矢理作り出す。

ヴァルトラウテ > 零に隙があったわけではない
一言で言うなら、2つの動作を一度に全ておわらせる、ということに尽きる

ヴァルトラウテの動きは、とにかく、無駄が少ない
剣を振る振らない、という以前に、すべてがそうである
単に、最短距離、という意味ではない
そう動くほうが効率が良い、というところから来ている

それがまるで予知のような動きを可能にしている、というだけでしかない
基本が恐ろしく出来上がっている、というその一点のみの剣だ

そしてその恐ろしいまでの単純な剣は、その「ずらし」にまるで吸い付くかのようにさらにずらして、逸らし、外す
先ほどの打ち込み同様に)

霜月 零 > 笑うしかない。
後出しで全てを制する、魔剣。所詮人間技が及ぶものではなかったのだ。
技巧?速度?剣圧?
全て無意味。全て無価値。
その全てを、数多の創意工夫を、そうなる運命であったかの如く後出しでズラしていく魔剣。
振り抜き、そして嘆息する。
応報必勝、あらゆる剣技は無へと還る。
幾度となく立ち上がろうとして、幾度となく突き付けられる現実。

霜月零の剣技は、この世界で意味を為さない。

その認識に打ちひしがれるというよりは……気が抜けて、そのまま剣を取り落とした。

「……はぁ」

溜息を吐くしか、出来る事がなかった。

ヴァルトラウテ > ……どうかしましたか?

(剣を落とした相手に不思議そうな顔を向ける少女
構えを解くと、何が起きたのかと不思議そうに問いかける

少女としては零が見たいといった物を見せただけに過ぎず、それ以上でもそれ以下でもない。
理解し難い程の基本の行く末の形態を見せただけだ)

霜月 零 > 「いや、もういい。降参だ」

す、と両手を挙げる。
これ以上は意味がない、いくら打ちかかっても返されるイメージが出来てしまったし、その技が自分には再現できない事もわかってしまった。
まさしく圧倒された、と言う事だ。

「見事。剣の果ての一、見させてもらった。俺には遠すぎる頂だったな」

落とした刀を拾い、鞘に納める。
鍛えた先にあれがあるのだろうか、ないのだろうか。
それはわからないが、とにかく今回は完敗だ。いいものを見させてもらった授業料だと思おう。

ヴァルトラウテ > そうですか、何かの参考になればいいのですが。
それにしてもすごかったですね、2手ほど切り落としきれませんでした
……私もまだまだです

(えへへ、と笑う少女
アレほどえげつない交叉法でありながら基本技、そして基本の中段の安定度である
しかも起こりもへったくれもないような足取りで踏み込んでくる割り込み度合い
それが一にして全である剣技であり、ヴァルトラウテに与えられた正統なる刃だった)

霜月 零 > 「参考に、なるかねぇ……」

遠い目。
ちょーっとばかし領域が違う、と言う状態だ。術理の系統も違うし、真似れるかどうか。
ただ、ああいう剣がある、と言う事は参考にはなった、か。

「やってることは基本だが、型でしか再現できないような『理想の基本』だな。
それを実戦で理想のまま体現する技量には恐れ入った」

魔剣だが、剣術だ。剣ではあるのだ。それを為すのが魔の業と言うだけ。
自分がまだ未熟なのか、相手が魔の果てに行ってしまっているのか。
分からないが、不可能ではない、のかも、しれない。

ヴァルトラウテ > ええと……先程も言いましたが、型は理念のためにあるんであって
型があるから理念が出来るわけじゃないですよ?

(型はあくまでも方法論であって道具でしかない
道具は大事だが、なんのために使うかであって、その把握力と目的の問題である
意味がわかるからたまたま適した方を使うだけであってそれ以上でもそれ以下でもない)

たぶん……なんていうかこう、皆が頑張ってやろうとしていることと大差ありませんよ、たぶん。

(そう言って微笑んだ)

霜月 零 > 「あー……」

多分言っていることはちょっとズレている。
ぶっちゃけ実戦で型通りに動く事なんてほとんどない。大体が多少ズレるもので、でも根幹となる型がないと何も出来ないから、理想となる形を型に仕込むのだ。
が、その『正直実戦でその通りにはいかない』と分かっているような、型の中だけの動きを、実戦で実現してしまう技量にこそ、舌を巻いたのだ。
だからまあ、皆が頑張ってやろうとしている事と大差はないのだが。

「(それは出来るってのが異常、って言うのが甘えなのかねぇ)」

出来ないという前提すら捨ててかかるべきなのか、自分でもよくわからなくなってしまっていた。
なんだかこう、常識が崩れていく感覚。自分が積み上げてきた認識にNOを突き付けられる感覚と言うべきだろうか。
これもまた、異世界の妙味なのかもしれなかった。

ヴァルトラウテ > まあ、そこに結局は型が、というのがこう、鏡心明智流、みたいな?

(言われてみれば恐ろしく整っていた中段を思い出すかもしれない
その覇気というか発散させる、というものがないために緩いのではあるが
そうかんがえると不用意……のつもりはないにしろ、打ち込んでしまった事自体が
自身で気づかないくらいのズレを産んでしまっているのかもしれないし
そこに合わせられているのかもしれない、と考えることも出来るかもしれない

……それにしても魔技とも言えるレベルだったが)

霜月 零 > 「一刀流だったろ」

少なくとも、零の知識の当てはめるなら。
まあ、鏡心明智流は一刀流の影響を受けていたと言うか、創始者が一刀流と新陰流を修めていたはずなので、一刀流の極地もまた、鏡心明智流の極致と言えるのかもしれないが。
いかんせん鏡心明智流に関しては知識がほとんどないので、そこら辺は曖昧である。

「……ちなみに、どういう稽古をしたんだ?」

ついでだ、と聞いてみる。そこから少しでも盗めるものがないか、と。

ヴァルトラウテ > まあ、切り落としは一刀流ですね。
無駄がないのが好きなので。

ただ、天地に芯を徹すのは鏡心明智流、っていうところですかね。
どちらもある種似た感じなのですけれど


……稽古、ですか?
その……喚びだされたものでそう言う記憶はあまり……

(ヴァルトラウテには過去がない
あくまでも呼びだされた英霊のようなもの、という設定である
しかもその件については自身でも詳しくない、ときている

故にどう身につけたのかは自身でも知らないのだ)

ただ言えるのは、とにかく体幹ですね。
これが狂ったりぶれると、むしろ崩されるのであんなふうに逸らせなくなります

(ただ、理念と意義は理解できる
故に、何が必要かは知っているから運用ができるのだ)

霜月 零 > 「……まあ、鏡心明智流の剣風を想像するに、そうなってくんのかね」

鏡心明智流開祖桃井直由は、自身の修得した戸田流、一刀流、新陰流、堀内流を合わせ鏡心明智流を創始した。
一刀流はまさに一撃必殺であり、斬り落としなどを得手とする剣風だが、新陰流は『転(まろばし)』と呼ばれるように、相手の剣を活かし、そこに切り込む剣風である。
相手の剣に合わせ、無駄のない一刀にて斬り落とす。
成程、そう考えればまさにこれは、鏡心明智流そのものなのかもしれなかった。

「って、なんだそりゃ?稽古の記憶がない?流石にあれが天然モノなわけねぇだろ、だとしたらそりゃあもう『剣を遣うために生まれてきた』ってレベルだぞ?」

そりゃあ、体幹がどうとか、術理がどう、理屈がどうと言うのはいくらでも頭で理解は出来る。
が、それを実行に移すのは、合理的で且つたゆまざる努力継続があってこそのはずだ。
いくらなんでも、いくら才気に溢れていても、稽古の記憶がないレベルの修練でアレだけの魔技を扱えるはずがないのだから。
もしかしたら、そこの記憶だけスポンと抜け落ちているのかもしれないが……それも不自然と言えば不自然だ。
なんとなく気にかかったので、ちょっと突っついてみる事にする。

「あー、じゃあ、アレだ。昔の思い出とか何か、ないか?」

ヴァルトラウテ > (安定、という意味では、確かに何の崩れもなかったように思うが
となるとあの2手に関しては少し崩せたということなのだろうか)

はい、ないです。
その……割と最近に喚ばれましたので。

(ヴァルトラウテには過去の記憶が無い
その辺りは設定するよりも、最初から無いものとして扱ったほうが早いし安定するからだ
故に過去のことを散策されても困ることもない、根掘り葉掘り聞かれた際の精度を設定する必要もない)

霜月 零 > 「あー、そう言うモン、なのかねぇ」

零の知る口寄せの術での霊魂召喚などは、おおよそ過去の記憶も鮮明に持っているものだ。
いや、本人が単に忘れている場合はその限りではないが、寧ろ一種の概念になった以上、記憶は生前より明確な場合すらある。
が、別にそれが全ての召喚術に適応されるとも限らない。
彼女が喚ばれて、そして過去の記憶がないという事は、その術は過去の記憶を引き継がない系列の物なのだろう。

ヴァルトラウテ > はい。お役に立てなくてすいません。

(しょぼ。
なんだか申し訳無さそうだ

そもそもヴァルトラウテは正体を聞いてもわからないほどの無設定っぷりだ
今現在しかない、それが彼女である)

霜月 零 > 「あーいや、別にいいんだけどな」

謝られると逆に困ってしまう。
別に悪いわけじゃなく、仕方ないのだし。

「無茶な質問したのはこっちだしな、気にすんな。つーか気にしないでくれ」

ヴァルトラウテ > あ、はい、ありがとうございます

ただ……そうですね、思ったこととしては、もしかしてだいぶ無理して刀を振ってませんか?
言うなればなにか特別なことをしないといけないとか、そういう。

(なんとはなしに思い当たることを言ってみた)

霜月 零 > 「あー……?」

あるかもしれない。
技術を重視するが故に、色気が出ていなかったか。
『綺麗に技で返そう』と言う欲がなかったか。
根源接続で得た数多の技に溺れていなかったか。

「……ああ、あるかもしれん」

自分でもはっきりとは分からないが、多分、あった。

ヴァルトラウテ > なんかこう、私の技を見る、というより、己の技を試すように思えたので。
それに、あの無理な切り返しなど、体の芯を傷めたりするんじゃないですか?

(そもそも、ヴァルトラウテの技を見たい、という話だったはずである
彼女の性格である、それは無論出し惜しみせず見せてしまうし、剣を振るってしまう
特に切落を旨とする以上、応じられればその分応じてしまうのだから

だが、そんな彼女に対してどうだったろうか)

霜月 零 > 「あー、あー」

ついつい、と言うべきか。
本気で自分の技術がどう通用するかばかり考えていた気がする。
本旨を見失っていたと言えるだろう。

「……はぁ」

情けなさにまた、溜息が出た。

ヴァルトラウテ > 基本的に私の剣技は芯を旨とするので、あまり無理はしません
ひたすら基本の基本の基本だけなので。
無論、だいぶ強引な力技やいろいろとアレなこともありますが、基本はそういうところだと思います。

(ヴァルトラウテはオンオフの切り替えがないこともあって
悠然と切り込んでくるし戦闘中も基本的に穏やかだ
派手な行動も力みもない

言われてみるといろいろ思い当たるフシがあるかもしれない)

霜月 零 > 「うーん……」

流儀が違う、と言えばそれまでなのだが。
とは言え、一度基本に立ち返り、今までの技術を端に置いてしまうのもまあ悪くはないかもしれない。
どうせこのままだと一切通じない事の方が多いのだ、開き直りも大事だろう。

ヴァルトラウテ > たぶん基本の練度の問題だと思うので、いろいろ申し訳ない気もしますが
個人的には基本鍛錬の精度を丁寧に一から見直すといいのではないかと思うのですがどうでしょう
あの感じからするときっと、技に芯がついてきてないようにも思うので。

……というのもありますが、一番は基礎の見落としの再確認です。
それが一番大事なので

(新しい情報だ
基礎の見落とし、という言い方。
どうも思い当たる原因があるようだ)

霜月 零 > 「基本、基本なあ」

大事にしてきたつもりだったが、小手先に溺れてしまっていた感は否めない。
いっそ敢えてしばらく、所謂『技』を封印してみるべきかもしれない。
そうした方がいい可能性すらあった。

「思ってたより未熟だなあ、俺も……」

未熟は自覚があったが、流石にこれはひどいというべき有様だった。猛省せねば。

ヴァルトラウテ > ……慣れで基本を「こういうものだ」と思ってたりしませんか?
もしくは、もう特に基本から学ぶことはなくて、一通りできていると感じてません?

もしそうなら、原因はおそらくはその辺りでないかなと。

(基本なあ、という言葉を聞くに、やはりその辺りに原因があるように思う)

霜月 零 > 「前者だな、多分。クソ、技に溺れたか、未熟者め」

歯噛みする。
なんてことはない、根源接続によって得られた多種多様な技に溺れていたのだ。
完全に異能に振り回されている、情けないことこの上ない。
技術を多数会得したからと言って、基礎の重要性は変わらないというのに。それを疎かにするヤツがあるか、と言う話である。

ヴァルトラウテ > ええとですね、その、基本は勘違いしやすいところがありまして
未熟な内に会得した基本、というのは、実は見落としや勘違いが多いんです
なので、理解度が上がるに連れて基礎を何度も更新しないといけません

基本的に基礎が大事だ、と言われるのは2つの意味で
たとえ歪でも土台ができないことには何も打ち出せないことが一つ
もう一つは繰り返し学ばないと基礎を全然習得できないからなんです

前者は比較対照するにもまず何かできるだけの素地がないといけませんし、
後者は慣れで中程度の基礎を十全と思ってしまうことにあります

(物事の上達が頭打ちになると思った時、基本的に単純なことから見返す必要がある
出来ないと思った時は難しいことよりも、むしろ簡単なことの精度に問題がある
故に基本は大事であり、基礎をしっかりしろと言われることが多いのはそのためだ)

霜月 零 > 「分かってる、分かってる……!」

苛立ち紛れに口にする。
分かってたはずだ、あんなに厳しく仕込まれたのだから。
一人で稽古するようになって、段々と基本を疎かにするようになってしまっていたのだろう、無意識の内に。
ああ、こんな事なら、ここに来た事自体が技術の上では失敗に繋がっている、一人になるのはまだ早かったのだ。
得るものもあったが、その裏で大きなものを自分から捨てていた。
恥でしかない、屈辱だ。
消え入りたい、今すぐ消え去ってしまいたい。
それくらいの思いで、純粋に放たれる言葉に切り刻まれていた。

ヴァルトラウテ > ……大丈夫ですか?

(なんだか悲壮な面持ちになってしまった彼を見て心配そうに声をかける
これくらいの言葉でこうなる、ということはなにか思い当たるフシがあるのだろうが
ヴァルトラウテにそこまでに指摘は出来ないし、またどういう常態化はわかっても具体鉄器な開放までは示すことは出来ない
心配そうに覗きこむのがせいぜいである)

霜月 零 > 「気にすんな、全部その通りなんだからよ……」

拳を握りしめ、ギリギリと歯軋りをする。
悔しいだとか、腹が立つとか、そう言った感情ではなく、ただただ恥ずかしかった。
父の教えを無下にし、目先の技法に溺れるなど下の下。無様以外の何物でもない。
自分の未熟が、どこまでも恥ずかしかった。

ヴァルトラウテ > ……。

(なんでそうしたかはわからない
が、なんとなくそうしたくなったので、ヴァルトラウテは零の手を優しく握りしめた)

霜月 零 > 「……すまん」

心配されている。
そのことが分かり、より一層恥が増す。
だが、ここでその恥に溺れては本末転倒だ。自分のメンタルを制御できなくては、今後やって行けるはずがない。
深呼吸をして力を抜き、詫びを入れる。
少し、気持ちが落ち着いた気がした。

ヴァルトラウテ > いえ……何かのきっかけになれればよいのですが。

(基礎が足りずに溺れてしまったものは数多い
基礎は習得過程で学ぶものであるという意識が邪魔をするため
基礎の情報を更新しないままにそれを十分に習得したと思い難しい物に挑戦しようとするからだ

無論、難しい物に対する挑戦もいいのだが、基本的には積み重ねである
土台の良し悪しに気づいたなら、土台の固め方そのものに気を払う必要がある

その上でに高い建物を建てようと思うならより一層の基礎工事が必要なのだから

……ヴァルトラウテはそんな零の手を元気づけるかのようにすこしだけ、きゅ、と握りしめた)

霜月 零 > 「十分だ、得るものはあったよ」

自分でも気付かない内に基礎を軽視していた。
それはショックだが、逆に言えばそれに気付けただけでも大きい。
今度からはいっそ技の練習は0にして、基礎だけの期間を長くとるべきかもしれない。
そう言うプランが立てられることに感謝しつつ、握りしめられた手のぬくもりを感じる。
……あれ、でもちょっとこれマズくない?

「あ、あー……手ぇ、握ってくれるのはありがたいんだがな。ちょっとこう、その、なんだ、困るんだ、色々と」

色々と。

ヴァルトラウテ > そうですか、なら良いのですが。

(もともと何かを得ようとしているのだ、慣れからくる思い違いや勘違いというのも当然ありうる
珍しいことではない)

……???

(有り難いけど困る、という意味がわからない、という顔になる

霜月 零 > 「あー……その、だな。
一応これでも恋人がいるんでな、他の女性にあまり密着したりされるのは、ちと困る」

とても困った顔で、恥ずかしそうに告げる。
ここら辺不器用なのは相変わらずであった。

ヴァルトラウテ > ……??

(よくわかってない。
心配して知人の手を握ることはヴァルトラウテの中で、他の女性と密着の中に入らない
これが抱きついたりしているならともかく、そうではないからだ)

霜月 零 > 「あーあーあー……」

手を握る、と言うのはそれなりの親愛表現として使われる場合も多い。
そう言った点を気にしているのだが、自分が気にし過ぎなのかこの女性が無頓着なのか、自分でもごちゃごちゃしてしまってよくわからなくなっている。

「と、取り敢えずだな。もう大丈夫だ、問題ない」

なので、取り敢えずもう手を握ってる必要はないぞ、と言う方向性にシフトする。

ヴァルトラウテ > はい、わかりました。

(よくわからないがとりあえず大丈夫と言われればそうなのだろう
……よく見れば零が知っている人物にどことなく面影がないとも言えない
美少女度合いということなのかもしれないが)

霜月 零 > 「すまんな……」

そっと溜息、やっぱり『すまない』が口癖になっている気がする。
と、そこで顔を改めて見て……

「(……?)」

どことなく、自身の恋人の面影を見た。髪型が一緒だからだろうか……?

ヴァルトラウテ > いえ、大丈夫そうなら何よりです!
……あ、申し遅れました
ヴァルトラウテと申します、よろしくお願いします

(自身もついノリで刀を握ってしまっていたために名乗っていなかったので
思い出した様に名乗る)

……どうかしましたか?

(いきなりじっと見られたので、なんだろう、と思いつつ)

霜月 零 > 「あ、ああ、霜月零だ。よろしく」

取り敢えず挨拶を返す。本当に勢いで試合をしてしまったため、お互い誰かもわからない状態だった。


「いや、なんでもねぇ……気にすんな」

思わずじっと見てしまったが、まさか自分の恋人となんとなく似てる気がしたので見比べました、などとは言えない。
曖昧に流すほかなかった。

ヴァルトラウテ > はい、学校には入ったばかりなので、よろしくお願いします。

(改めて握手)

……?
(なんだろう、と思いつつもそこで追求したりはしなかった
髪型もそうだが、不思議とそんな感じがした)

霜月 零 > 「そうか、まあよろしくな」

入学したてと来たか、最近そう言う生徒とちょくちょく会う気がする。
まあ偶然なのだろうが、この時期に入学と言うのも珍しい気がした。

「(……なんでダブる?)」

内心疑問に思う。
そこまで似ているわけではない。氷架はもっと吊り目だし、髪の色も金ではなく銀だ。
確かに髪型は同じだが、パーツを組み合わせていけば簡単に『別人』となるくらいには、そっくりさんと言うわけではない。
なのになぜ似たところを感じてしまうのか、それがどこなのか。
自分でもわからなくなり、首を傾げていた。

ヴァルトラウテ > (そう思ってみると制服も確かにおろしたてである)

……?

(どう思ってみてもヴァルトラウテは屈託のない笑顔を浮かべるだけである

もともとヴァルトラウテは氷架と対になるよう、そう言うデザインをされている
どことなく、という感じで対照的になるようもともとそう言う外見になっているのだ
……そう言う意味では胸もだが

……その一方で。
制服姿に長い刀
嫌な方でも思い当たるフシがあるかもしれない

霜月 零 > 「……」

なんだろう、この女性はこう、自分に関係がある女性に妙にパーツが被る。
恋人の氷架もそうだが、学生通りで襲って来た竜胆薙にも似ているのだ。武器が。
ちょっと心持ちゲッソリしつつ、こっそりと溜息を吐いた。

「あー……俺は帰るけど、お前は?」

なんだか自分の中で気まずい。よって即時撤退を選択する。

ヴァルトラウテ > (ヴァルトラウテは色んな意味でそういった関わりあいが多そうな相手ではある
もっとも、普段の服でないぶんまだ刺激は少ないのだが)

はい、私もいろいろ勉強させていただきましたし、帰ろうと思います

(途中まではおそらく一緒だろう)

霜月 零 > 「そんじゃあ、帰るか」

そのままてくてくと外に向かって歩き出す。
返ったらその後は、基礎の再確認に一日を使い切るのだろう……

ご案内:「訓練施設」から霜月 零さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からヴァルトラウテさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にステーシーさんが現れました。
ステーシー > 夕方。そして訓練施設の中。

であるにも関わらず、彼女の周囲には夜の闇が広がっている。
満開の桜の大樹の前に座り、左右には石灯籠。
ここはバーチャル・リアリティ・システムの内部。
異能や魔術を存分に試せる空間を提供する学園施設の一つ。

この中の何を破壊してもいい。
それだけの施設だが、学生に人気は高い。

ステーシー > 薄く瞳を開く。夜の闇の先にはごく普通の校舎の光が見える。
再び目を閉じる。瞼の裏の暗闇が世界を閉ざす。

今、自分はこの仮想の夜の中にいるのだ。
そして剣気を高め、斬る。
斬る。
斬る。
斬る。
全てを、斬る。

目の前を、桜の花びらが舞い散った。

ステーシー >  
武士道トハ 死ヌコトト見ツケタリ
修羅道トハ 倒スコトト見ツケタリ
我 悪鬼羅刹トナリテ
目ノ前ノ 敵全テヲ――――

ステーシー > 斬る!!
ステーシー > 剣閃が二つ瞬く。
彼女の持つ刀、『旋空』が切り裂いたのだ。

何を切り裂いたか?

まず左右の石灯籠が半ばほどで両断され、落ちる。
次に彼女の前を舞う花びらが一枚、四分割される。

そして、彼女の背後にある桜の大樹が斜めに斬られ、音を立てて崩れ落ち―――――

ステーシー > その時、彼女の周囲を覆っていた闇が晴れた。
そしてプシューという気の抜けた音と共に管理者の教員が『時間です』と告げる。

夢の世界は終わりを告げた。
彼女は刀を鞘に納めてクールにVRルームを出る。

そこで鳴る腹の音。

ステーシー > 「おなかすいたぁ………」

VRルームの使用料は彼女の財布の大きな硬貨を一つ、消し飛ばしてしまった。
剣の修行のためとはいえ、夕飯代の七割が消失した計算になる。

「……今日の晩御飯、ジュース一本にしとこ…」

武士は食わねどなんとやら。しかし、腹が減ってはなんとやら。

ご案内:「訓練施設」にリビドーさんが現れました。
リビドー > 「お疲れ様。帰っていいぜ、エルピス。」

 扉の中から出てくる推定黒い髪と栗色の髪の男女。
 その内黒い髪の方がゆっくりとステーシーの居る方向へと歩き始める。

 程なくして、ステーシーに気付いたのだろう。視線をやった。

「ふむ……。」

 見ない顔だなと思ったのだろう。
 やや物珍しそうに、眺めている。

ステーシー > 向けられる視線に気付いて右の猫耳をピコピコと動かし、相手を見る。

若い。学生だろうか?
そしてオッドアイとは珍しい。右頬に模様があるのよりもそちらが気になった。

「失礼だけれど、あなたは学生かしら、それとも教師かしら」
「それによって敬語を使うかどうか決めるのだけれど」

クールを気取って言ってみる。
基本的に彼女が気取っている時の態度は師匠の真似っこだ。
すぐに地が出るので意味はないのだが。

リビドー > 「ふむ。」

 一度、翠と紫の瞳を落とす。
 敬語を使うかどうかを身分で決める、と言っている。
 どう答えようか、と思案して、間を置いて口を開いた。 

「そうだな。まだまだ学ぶことの多い身だよ。
 案外、キミの方が年上かもしれないね。」

 瞳――視線を上げ、口元を緩めて少し笑う。
 皮肉味を極力消して柔らかい声を響かせる。
 

ステーシー > 「そう」

短く切り返した。
そして相手を学生と認識した。

「私の名前はステーシー。ステーシー・バントライン、生活委員会で、怪異対策室三課よ」
「あなたの名前も聞いていいかしら?」

嗚呼、タメ口。人を見る目がゼロの女。

「今日は剣の技を磨くためにVRルー(グゥゥゥ)ムに来たの」
話している途中で盛大に腹の音が鳴った。
真っ赤になって俯く。
「今のは気にしないで頂戴」

リビドー > 「ステーシーだね。確かに覚えたぜ。
…… ん、そうだな。リビドーと名乗っているよ。
 呼び方は任せるとも。ま、宜しくな。」

 軽い調子で声を転がした。
 決して見下す/小馬鹿にするようなようなものはなく、寧ろ懐っこいようなそれだろう。

「そうかい。さつまいもキャラメルなら有ったんだけどね。
 なら、一旦は気にしないでおくとするよ。……ふむ、剣の修行か。
 ボクも何人か剣士は知っているが、獣人の剣士は中々見ないね。それでも皆、独特な戦技を持っているから好ましい。
 しかし、ふむ……怪異対策室三課か。そう言えば聞いたことがあるな。確か……」

 記憶を紐解き思い出そうと、喉を鳴らして唸りながら思案を始める。
 ふぅむ、と。

ステーシー > 「リビドー。変わった名前ね……ええ、よろしく」

相手の態度に気をよくしたステーシーはタメ口続行。
完全に学友と思って会話を進める。

「さつまいもキャラメル………」
完全に心を奪われる。だってさつまいもだよ? さつまいものキャラメルだよ?
顔を左右に振る。ここでねだったらクール台無し。
「…私の種族、フェルパーは剣客を目指す人も少なくないらしいけれど。この世界では珍しいのね」
「怪異対策室三課を知っているのかしら?」

胸を張り、尻尾を軽くゆらりと揺らしてから言う。

「怪異との戦いを目的に設立された私設組織よ。規模は小さいけれど……」

リビドー > 「ああ。オブラートに包まれた、甘くおいしく仕上げつつもさつまいもの風味もちゃんと残った、美味しいキャラメルだよ。」

 くす、と、笑ってみせて誘いを掛けてみる。
 実際美味しい。気を良くした素振りには、彼にとっても好ましいのか言葉を転がす。
 クールな素振りこそ見せているものの、時折見える素のような仕草が愛らしく思えば、自然と笑むように目を細めた。

「フェルパー……ふむ。キミ達の種族は、己が恵まれた身体を鍛えながらも道具――
 ――知と技を以って獲物を扱う武芸を学び、武錬を究める一族なのかな。
 想像する限りだと、求道者と言う感じがするね。
 
 ……あくまでもボクが見た限りは珍しい、と言うだけであるからあ。
 案外ボクの見識が狭いのかもしれないが。」

 怪異、と、その単語を改めて聞けば思案は止まる。そう言えば。

「蟻人、だったかな。ボクはあまり詳しくしらないけれど、そのような勢力を撃退したと聞き及んでいるよ。」

ステーシー > 「美味しいキャラメル………」

ぐう、とお腹が鳴った。
もう我慢の限界である。

「ひ、一粒ください……」
こんな時だけ敬語。普段口にしている野良猫の矜持はどこへ。

「………剣客を目指すフェルパーもいる、と聞いているだけなの」
「実際は私は物心ついた頃にはストリートチルドレンだったし」
「私以外のフェルパーを見たことがなかったから」

蟻人の話を聞けば我がことのようにふんぞり返る。

「桜井雄二先輩が倒したA級怪異災害ね、最近じゃ侵攻もめっきり減ったという話だわ」
「種族間の戦争に正義も何もないけれど、この世界の平和を侵す者が倒されるのはグッドニュース」

リビドー > 「箱ごとあげるよ。お近づきの印だ。
 それでも1粒で良いと思うなら、食べたそうな誰かにあげるといいさ。」

 "ぶっちゃけてしまえば一人で食べきるには時間も掛かる"と、
 どこかおどけるような軽い素振りを作って見せてからさつまいもキャラメルの箱を投げ渡す。
 変な投げ方はしないので、取ろうと思えば致命的失敗でもしない限り取れるだろう。

「そうかい。それは悪い事を聞いてしまったかな。
 ステーシーが気にしているかどうかはともかくとして、同情を覚えてしまうのは流石に無慮かな。しかし、ふむ……。」

 誇らしげに蟻人の話――
 ――ひいて"桜井雄二先輩"先輩の話を交えたそれを確かに聞く。
 時折の相槌こそ打つものの、喋り終えるまでは静かに聞いているか。

「ま、そうだな。結局、互いにお前は相容れない敵だと思ってしまえば話しあいも何もない。
 ……とは言え、此の島に住まうものとしては同意だぜ。
 ただ、そうだな。平和を侵すものが倒された事を喜ばない奴ってのは、どんな奴なんだろうな。」

ステーシー > 「にゃあ!!」

投げられたさつまいもキャラメルの箱に飛びついた。
ハッとして自分のはしたなさを認識した猫娘。
「………ありがとう、リビドー。いただくわ」
顔を赤くしながらキャラメルを食べた。美味しい。風味抜群、滋養豊富な感じ。

「……いいの。私、剣の師匠に拾われてから幸せだったもの」
「その思い出さえあれば過去も乗り越えられる」

ぺらぺらと伝聞の蟻人の話を喋り続けるステーシー。
それがひと段落する頃に、リビドーの言葉。

「………それは…平和で不都合がある存在? 武器商人とか、違法薬物の売人とか」
「もしくは………本当の悪、とか」
「本当の悪かぁ……自分で言ってなんだけれど、実感がわかないわね」

リビドー > 「おや、可愛い。
 でも見なかった事にして置いた方が良いかい?」

 悪戯げに笑ってみせつつ、食べる姿を眺めています。
 美味しそうに食べている様子を見れば、どことなくリビドー自身も嬉しそうです。

「剣の師匠、か。良い師匠に拾われたみたいだね。ステーシーを見ているとそう思う。……で、そうだな。
 争いごとが有るような平和じゃない世界の方が需要を満たせる奴にとっては、あった方が良いだろうな。
 その通りに武器商人、違法薬物の販売――

 ――後はそれらの流通元だ。武器や兵器を開発する様な研究員もそれに当たる。」

 柔らかい声色から一転。脅かすように、シリアスのような重いトーンの声を発する。
 が、次の瞬間にはさくっと調子を戻してみせた。

「なんてな。しかし、そうでなければ本当の悪か。
 ……正義とは何かすら哲学されるような人の世では、本当の悪は曖昧なものになってしまうのかもしれないな。
 悪の定義こそ数あれど、だ。いや、数あるからかな?」

ステーシー > 「………見なかったことにして……」
赤くなりながらキャラメルもぐもぐ。美味しい。

「ええ、私の師匠……リルカ・バントラインに人間らしさと剣技を学んだの」
難しい表情をして相手の話を聞く。
「流通元………研究員…………」
もし、そんな奴がいるのであれば。
戦うに値する悪。

重くなった空気を吹き飛ばすリビドーの口調にどこか安心して。
「……完璧な悪なんて存在しないのよ」
「完璧な絶望が存在しないようにね」
ふと、目を細めてその言葉を口にする。
「花には水を、鳥には空を」
「荒野に希望を、罪悪(あやまち)に裁きを」
「……師匠がよく言っていたわ」

リビドー > 「ははっ、そうするよ。
 ……ふむ、名前からして師匠は女性のお方かな。
 キミの人間らしさは彼女から受け継いたものなのかい。ふむ。」

 少しの沈黙。また何か思案しているのだろう。
 ともあれ空気が変われば、小さく頷いてみせ。

「完璧な絶望、か。――ああ、そうだな。
 結局"完璧"な悪、いや、完璧なんてものは存在しないと思っておいた方が良いとボクは思う。

 ……所で、その言葉は何かの一節かい。ただ言葉を並べたにしては響きが良い。
 それとも、お師匠さんは詩や歌を嗜んでいたのかな。」

 ……とは言ったものの、恐らく気持ちや理念を言葉にしたものだろう。
 歌や句ではなく流派としての箇条か――なんて思案こそもあるものの、
 折角なので聞いてみる事にした。師匠の人となりも気になるといえば気になる。

ステーシー > 「そうなの……師匠は綺麗で、優しくて、強くて、怖くて、強くて、怖くて………」
「……家出から帰ったら殺される…………」
どんよりした表情で肩を落とした。

「完璧が存在しないのであれば、不完全な世界ね」
「そんな世界が好きなのだけれど」

小首を傾げると耳がふにゃんと曲がる。
「さぁ? 師匠はよくわからない言葉を知っていたし、歌のようでもあるけれど」
両手のひらを上に向けて肩を竦める。
「お師匠様、言葉の意味を聞いても素直に教えてくれないことが多くて…」
「いつかわかる。の一点張りだもの」
「私のことばかり話してしまったわね……リビドーは何年生なの? 部活なんかに入ってたりする?」

リビドー > 「ははっ、そりゃ大変だ。
 上手いこと帰れる事を祈っておくとも。
 ――ふむ。」

 この世界を"不完全な世界"、彼女は評した。
 哲学を学んでいる風には見えなかったが――

「そうだな。不完全な世界だ。ボクもそんな世界が好きだよ。
 とは言え、恵まれているからそう言えるのかもしれないな。」

 この世界は不完全だと云い、その不完全な世界を嘆き、不完全な世界に閉じ込めた神を恨むような主義の輩も居る。
 其処に恨みを向けるなど見当違いも甚だしいなどと一蹴出来るものであるといえばそうだ。が、

 事情はどうあれ、彼らがそれ程までに恵まれていない。あるいは恵まれているのかもしれないが彼らに取っては不十分――
 
 ――存在しないとされている"落第街"を脳裏に浮かべれば、瞳と口を閉じた。
 此処で区切らねば、ややこしい話になりそう故に。

 少し間を置いて目を開く。曲がった耳が見えた。
 曲がる仕草を見損ねたなと、気を変えるように内心で呟いてから、口を開く。

「いつかわかる、か。理知ではなくセンス寄りの師匠でもあるんだな。
 ……ん、ああ。部活には入っていないよ。"学生証"も持っていない。」

ステーシー > 「……上手く帰れたらこの刀持ち逃げしたことから謝らないと………!」

相手もこの世界が好きだというと、ステーシーは微笑む。
「恵まれているかも知れない。私、ちゃっかり日本の国籍を得て名前ももらったしね」
「星薙四葉。それが私のもう一つの名前。この世界とのつながりの一つ」

四葉と名乗った少女は目を細める。
この世界を好きな人間同士、仲良くなれそうな気がしていた。

「そうそう、センス寄り。錆びた刀で岩を斬れとか剣気だけで滝を逆流させろとか永久氷晶を木刀で砕けとか無茶振りばっかり」
「ふーん、部活には入っていない。学生証も持っていな……」
あ、先生だこれ。教師だこれ。
「…………す、すいませんでしたリビドー先生……………」

リビドー > 「星薙四葉。良い名前じゃないか。
 確か、四葉のクローバーは幸運を呼ぶ、だったかな。実に縁起が良い。」

 うん、うん、と二度なずく。
 彼女へ何処か好ましそうな視線を向け――あ、気付いた。

「――ふむ。落第街の存在や、違法な研究員とは思わなかったのかい?
 生活課に身を置くのならば、キミもそう云うのが無いことは知らないだろう。

 ま、構わないよ。
 露骨に生徒か教師で態度を変えると言ってのけたキミが可愛く思ったのも事実だし、
 たまには"ボクも対等に接して欲しかった"ものでね、ちょっと意地悪をしちゃったな悪い事をした。」

 ――やや声のトーンが落ち込んでいるのは、後ろめたさから来るものだろうか。
 いずれにせよ、罪悪(あやまち)を詫びるような所作と声を見せた。

ステーシー > 「……気に入っているんです、四葉って名前も」
急に敬語を使い始めるスタイル。

「落第街の人間がこんな職員がしっかり管理している場所に顔を出すとは思えませんし」
「違法な研究員にしてはこう……思想がまともだと思いまして…」
涙目で両手をぶんぶんと左右に振った。
「すいません! すいません! 私が最初の態度間違えた感じです! ごめんなさい!」
「先生がこう……若く見えるので…学生かと……!!」
勢いよく頭を下げる。
「ごめんなさい、それとキャラメルありがとうございました!!」
鞘と猫尻尾を揺らしながら、居た堪れなさに耐え切れず走り去っていった。

ご案内:「訓練施設」からステーシーさんが去りました。
リビドー > 「ははっ。一粒で二度美味しいとはこの事かな。
 ――ああ、また会おう。ステーシー。」

 急に敬語を使い始めて、しどろもどろなステーシーの調子を見れば楽しそうに笑う。
 意地悪な笑みを浮かべていたものの、走り去ってしまうのならばそれを見送って。

「ま、違法な研究員って言うのは……
 ……今のところセーフだと思いたい所だぜ。」

 今のところはであるものの、溜息とともに一つ呟く。
 少なくとも、ノータイムでしょっぴかれる事はやっていない、筈。
 扱いに注意の要るような、危険な技術を取り扱ってないとは言わないが――

「さて、ボクも帰るとしよう。」

 視線を出口のある方へと向ければ、ゆっくりと歩き去った。

ご案内:「訓練施設」からリビドーさんが去りました。