2016/01/07 のログ
ご案内:「演習施設」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 多くの教員は新学期の授業準備に忙しく、
生徒の大半は終わらない宿題を片付けるのに忙しい冬期休業の終わり。
演習場や訓練施設を使う人物など殆どいないため、この広い空間は危険な実験を行う格好の場所であった。
この空間は物理的に閉鎖はされていないが、魔術的には完全に封鎖されていると言っても過言ではない。
周到に用意された結界術式と防壁は、内側からの干渉を外へは逃がさず、外側からの干渉を内に入れることはないだろう。
地面にも空間にも、目には見えないが複雑な術式がちりばめられている。
■獅南蒼二 > そして演習場の中央には周囲の防御術式とは異なる魔法陣が描かれている。
それは本来の魔術とは全く逆の作用を齎す術式。
獅南が独自に研究し実用化を目指している“事象を魔力に変換する”術式だ。
理論上は全ての事象を魔力へと変換可能だが、ここに描かれた術式は“炎”を魔力へと変換することだけに限定されている。
「この程度の安全対策で実験か…慢心と言われても言い逃れできんな。」
苦笑を浮かべつつも、獅南はすべての準備を整え終えた。
炎、つまり熱を魔力へと変換する術式を用いながら、テルミット反応により超高温の熱を生み出し、その熱を魔力へと変換する。
そして発生する膨大な量の魔力を“制御”し、“保存”する。
■獅南蒼二 > 一般的に魔力を蓄積している魔具として有名なのは、羊皮紙などによるスクロールや、宝玉類を加工した魔石である。
だが、これまでの実験ではそのどちらも、容積あたりに保存できる魔力の絶対量は不十分なものであった。
万人が禁術にも近しい大魔法を扱うことのできる世界。
この狂気の魔術学者が目指す世界を現実のものするためには、容積あたりの魔力保存力を極限まで高めた物質が必要不可欠である。
そして、魔術学界隈で“賢者の石”と呼ばれる物質こそが、その条件を満たす可能性のある、唯一の物質。
■獅南蒼二 > 獅南は様々な文献から情報を集め、“まがいもの”を複数生成した。
どれも不完全なコピー品に過ぎないが、比較的、現実的な素材で構成されている。
それらが魔法陣の周囲に配置され、魔力が流れ込むように指向性を与えられていた。
「………最高の魔石が完成するか、この演習施設ごと吹き飛ぶかのどちらかだろうな。」
苦笑を浮かべながら、周囲の防御術式に魔力を流し、結界を発動させる。
すでに変換術式は発動しているので、あとは、点火するだけだ。
防御術式の発動で内包する魔力を使い切った獅南は、ライターを取り出して導火線に火をつけた。
■獅南蒼二 > 原始的な導火線。だが1つだけ細工を施してある。
防魔加工だ。そうでもしなければその小さな“炎”は即座に魔力に変換され、失われてしまう。
火花はやがて魔法陣の中央に配置された鋼鉄製の容器へと吸い込まれ、何事もなかったかのような沈黙。
数瞬の後に、赤熱したアルミニウムと酸化金属の混合物質が容器の底面をドロドロに溶かし、激しい光と熱を放出しながら溢れ出した。
「……………。」
だが、そう離れていない場所に立つ獅南も、熱さを感じることはなかった。
全ての熱エネルギーは魔力へと変換され、魔法陣を輝かせながら“まがいもの”の賢者の石へと流れ込む。
獅南は仰け反ることも、身を守ることもせず、僅かに目を細めるのみ。
というのも、放出される光エネルギーは魔力に変換されなかったからだ。
■獅南蒼二 > 熱エネルギーから魔力への変換自体は成功だった。
だが、問題はこの膨大なエネルギーを“制御”し“保存”できるかどうかである。
変換術式そのものは魔力を蓄積せず即座に放出するため、オーバーロードすることはない。
よって、危険が生ずるとすれば“まがいもの”の賢者の石が魔力を蓄積し切れずに炸裂した場合である。
「燃焼開始から12秒…あと半分か。」
まるでマグマが噴き出すような光景を冷静に見つめ、小さく呟く獅南。
これだけ激しい反応が起きているにも関わらず全ての熱は変換され、室温は一切変化していない。
周囲から見れば、異様な状態であることに間違いは無いだろう。
■獅南蒼二 > 「…………っ…。」
……元より、上手くいくとは思っていなかった。
唐突に5つ並べられた“まがいもの”のうち1つが爆ぜ、魔力が溢れ出す。
指向性を失った魔力は周囲の魔力の流れに乗って残りの“まがいもの”へと流れ込む。
そうなれば、連鎖反応的に魔力爆発が発生するのは当然の成り行きであった。
「やはり“まがいもの”は“まがいもの”か………。」
3つめの“まがいもの”が炸裂した瞬間に、獅南は外側へと向けていた結界も全て反転させ、内側へと魔力を封じ込める防壁を形成した。
■獅南蒼二 > 残された2つの“まがいもの”もそう長くは持たなかった。
1つが目をくらませるような光を放って崩壊し、吹き出した魔力は最後に残った“まがいもの”に濁流のように流れ込む。
その量は膨大であり、また、与えられた指向性によって収束している。
この程度の結界では、放出を防ぐことはできないだろう。
「……………。」
結界内に封じ込められた魔力を使い、獅南は結界内部に術式を構成していく。
特に慌てた様子もなく、ただ、どこか落胆した面持ちで。
■獅南蒼二 > 事実、獅南は落胆していた。自分の得意とする術式の構成は一定の成果を挙げている。
だが、そうやって生み出した魔力を制御、保存できないのであれば何の意味も無い。
その実現に高価な材料と高度な技術をもってしか生成できない“賢者の石”を必要とするのであれば、魔力をいくら生成することができようともそれは無意味なことだ。
「……………ッ!」
最期の1つが爆ぜるその瞬間に、獅南は伸ばした手を握りしめた。
すると底面の魔法陣はかき消され、代わりに発動した術式が放出される魔力の全てを瞬時に事象へと変換していく。
密閉された結界内部の空間を歪めてしまうほどの圧力と、炎。
今度は確かに、獅南にも感じることのできる、熱。
■獅南蒼二 > やがて炎と圧力が弱まり、熱と光を失って空間に溶けてきえていけば…獅南は右腕を軽く振り、結界を全て掻き消した。
結界内部の高熱を伴った空気が演習場内に溢れ出し、その温度が急激に上がる。
スプリンクラーが発動して水が噴き出したが、獅南は即座に魔力で弁を遠隔操作し、水を止めた。
「……最後まで持ちこたえたのは、やはり古典的な手法で作った石か。」
実験全体が失敗に終わった事よりも、経験則による古典的な手法が最も有効だった事が彼の“落胆”を深めていた。
魔術学の中でもやや古典的な分野である錬金術は、一方で非常に閉鎖的で保守的な側面をもっている。
それはその技術が“素質のある”魔術師によって独占されていることを意味しており、獅南にとって不得手な分野であることを示していた。
獅南には、魔術の素質が無いのだから。
ご案内:「演習施設」から獅南蒼二さんが去りました。