2016/02/03 のログ
■セシル > とりあえず、反射神経の項目を選ぶセシル。
…すると、「セット数」なるものを選ぶよう表示された。
(…セット数?)
よく分からないまま、セシルは最小単位である「5」を選ぶ。
すると、セシルから正面の方向、5メートルほど先に、小さな輪が5つほど浮かび上がった。
輪の大きさは…外側が直径5cm、内側が直径3cmほどだろうか。
『一分後に訓練を開始します、準備をして下さい』
無機質な声でアナウンスがなされた。
「…な、何…!?」
訳が分からぬまま、セシルは慌ただしく準備を始める。
腰のレイピアを抜き、5つの輪が浮かび上がった方向に向けて構えをとった。
■セシル > セシルの感覚的には、小さな輪の手前。
何もないはずのそこに数字が現れ、開始までの秒数をカウントダウンする。
恐らくこの世界の技術なのだろうが…セシルからすれば、高度な魔術よりよほど意味不明である。
そのカウントが終わり、ポーン、という高らかな音とともに、小さな5つの輪の中に、それぞれ1から5までの数字が割り振られる。
(…とりあえず、順番に突いてみる…か?)
まず「1」が割り振られた輪の中を突くと、輪の中の数字が消える。
その調子で、順番に輪の中を突いていき…最後までいくと、ぽーん、という高らかな音がまた鳴った。
そして、10からのカウントダウンが始まる。
「…せわしないな…!」
セシルは、姿勢を整え直した。
■セシル > カウントダウンが終わると…今度は、また違う位置に数字が割り振られている。
「反射神経の訓練」というからには、恐らく、数字の割り振りを素早く確認し、そしてその順番に的確に突いていくことが求められるのだろう。
理解して少々気持ちが逸ってしまったセシルの手元が狂い、最初に突き入れるべき1の割り振られた輪の、外側を掠める形になってしまった。
「…!?」
しかし、そこでセシルは再び驚愕に目を見開くことになる。
輪を掠めたはずなのに、その感触がないのだ。
「…っ、幻術の類か!」
恐らく原理は違うのだろうが、今考えるべきはそこではない。
気持ちを切り替えて、剣に力を乗せて突きの連打をこなす。
ご案内:「訓練施設」に黒兎さんが現れました。
■黒兎 > 私は、小さくパンパンと手を鳴らす。
無論、賞賛の拍手である。
私はこういった訓練はした事は無いが、
こういった訓練をしている人間を見るのは好きだ。
「―――ふむ、見事なものだな。」
私はにっこりと口元を笑みで彩り、その男性に声をかけた。
■セシル > そうして、5セットが終わって、端末のところに行く。
…と、1セットごとの、かかった時間が表示されていた。
「…なるほど…これは客観的で良い指標だな」
きちんと腰を入れた突きの動作を素早く、正確にこなす。
これほど客観的で、頼もしい指標はない。
この世界に飛ばされてきたのは、剣の修行としては悪くないかもしれない…と思った頃に、拍手の音が聞こえてきた。
「…ん?」
顔を上げて音のした方を見ると、そこにいるのは、黒髪の女子生徒。
そして、彼女から聞かされた賞賛の言葉。
「…いや、不慣れな訓練だから大分不格好になってしまった…
慣れれば、もっと素早く、力も乗せられるようになるだろうが」
「この世界の技術はよく分からん」と言って、少し照れたように笑った。
■黒兎 > 「成程、そう思うなら励むといい。
自分が成したいと思う事を成すのが一番であるからな。
身の程を知らなければ何処までも精進できよう。
ああ、いや、この言い方だと勘違いされやすいが、褒め言葉だ。
―――勘違いしてくれるなよ?」
私は日傘を閉じると、近くにたてかけ、
手にした一般的なスポーツドリンクを1本彼に放り投げた。
「良いものを見せて貰った選別だ。飲むがいい。
美男子が剣を振っている図、というのは実に絵になるからな。
この世界、という事は異世界人か、最近妙に多いな。
………まだ来て短いのか?」
■セシル > 「ああ…今の私には、これしかないからな」
そう言って、先ほどまで振るっていたレイピアを軽く持ち上げた後、手慣れた所作で腰に下げる。
話の間も握ったままでは無礼に当たると判断したらしい。
「ああ…助かる。
何だかんだで全身を使うのでな。…端末とやらの操作にも手間取ってしまったし」
投げられたスポーツドリンクを上手くキャッチすると、上手くキャップを空けてぐびぐびと数口。
「美男子」のところは、まだ深刻な齟齬がないのであえてツッコミを入れない。
物理的にも魔術的にも肉体は完全に女性のものであるので、探査が出来れば分かるのだろうが。
「最近なのか?ここはよく"門"というものが開き、私のような者が現れる場所なのだと聞いたが。
…ああ、こちらにきて…一週間ほどか?まだ不慣れなことも多くて苦労している」
来て短いのかと聞かれれば、頷いて苦笑を零す。
先ほども「端末の操作に手間取った」と言ったあたり、機械文明は発達していない世界から飛ばされてきてしまったのだろう。
■黒兎 > 「異世界人にペットボトルやらスポーツドリンクなんかを渡すと、
もう少し物珍しいものを見たり、口にしたような反応をするものだが
………元の世界にも似たようなものが在ったのか?
はたまた、私よりも先に誰かに教わったのか?」
私はそう聞きつつ、自分用に買ってあった缶に入った紅茶を口に含む。
安っぽい味ではあるが、これはこれで嫌いではない。
「いや、些末な疑問であったな。
どの世界であれ、飲み物の機能、形状、味は似たようなものであろう。」
私は彼の事をしげしげと観察する。
中性的な容姿の美男子、といった所だろうか。
声も同様に、強めの低音、こちらも中性的と許容するべきであろう。
世間一般で言う美男子、というものである。
「そう頻繁に開いて異世界人ばかりが流入してきては、
この常世学園はあっという間に異邦人の為の場所に成ろう。
確かにそれほど珍しい事では無いが、多い、という程ではない。」
「然し、レイピア、細剣か、いや、そちらの世界でどう言うのかは知らないがな。
此れしかない、ということは、美男子が異世界から持ち込んだものか?」
■セシル > 「ああ…最初にこちらに来たばかりの頃に、生活委員に教わった。
…大分慣れたな」
ペットボトルの扱いを尋ねられれば、頷いて、柔らかく笑みを零す。
目の細め方が男性的だ。
「いや…この「ペットボトル」のように使い捨てに出来る容器を作る技術が私の故郷にはなかった。
このような味の飲み物も…あまり覚えがないな。果物の甘みに近い気はするが…」
そう言って、顎に手を当て腕を組み、考える仕草。
やっぱり、腕の組み方がやや開き気味で、男性的である。
「…なるほど、人口の多数派を占める、というほどでは無いのだな。
先日、私とは違う世界から来たのだろう女子生徒とも話をしたのでな。
かなりの割合でいて…皆、この世界の文明に順応しているのだろうと思っていた」
真顔で他の異邦人のハードルを上げた。
そして、レイピアに触れられれば
「いや、レイピアで構わん。私の故郷でもそう呼んでいた。
私は元の世界で士官学校の剣術科に所属していてな…レイピアとサーベル、二つを扱えるようにしている。
…私がこっちに持ってきたものは、今着ている士官学校の制服と、剣二振りくらいだ」
そう言って、皮肉げな表情と寂しさが混じり合ったような笑みを浮かべた。
■黒兎 > 「ふむ、では私もレイピアと呼ぶことにしよう。
何、呼び方など些細なものだが。」
私は満足気に頷くと、視線をレイピアから彼の顔に戻す。
話す時は人の目を見て話せ、である。
理由は知らないが、きっと顏が良いならその顔の良さを生かしたほうがいい、という事だろう。
何しろ私は美少女女子高生吸血鬼なのである。
「変わった飲み物であるし、あまり美味しいものではないと思うが、
身体には良いと聞く、特に運動後には最適な飲み物だ、覚えておくといいぞ。
この世界の事は確かにちゃんと教えてはいるのだが、
如何せん、異世界転移直後の混乱の最中であるし、
常識一切が違う世界でもある。
説明されても理解できぬ者も多いと聞く。
その上で理解し、順応しているのなら、美少年は直ぐにこの世界に慣れよう。」
ハードルを上げるような事を言う彼の言葉に、
私は思わず小さく笑い声を上げる。
「―――そうであるなら良いが、
実際には殆ど、そうだな、少なくとも半数以上はこの世界の者だ。
異邦人は皆、美少年のように戸惑っているさ。多分だがな。
残念ながら、私は異邦人ではない。そう思っているというだけだ。
然し、異邦人街という場所に拠り所を求めるくらいだ。
そう思って間違いはないだろうさ。」
私は立っているのに疲れて、
その場に座り込んで手にした紅茶を揺らす。
「そうであるなら、金銭を得る手段に苦心しているのではないか?
腕に自信があるなら、給料も出る事だ、
公安委員会なり、風紀委員会なりに所属すると良いと思うが。
こちらも、この世界に来た時に説明を受けているかな?
………いや、この世界で生きて行くよりも、
やはり元の世界に戻りたい、その手段を探したい、と思うのか?」
■セシル > 「いや、これはこれで美味い。
身体を動かした後に良いものなのであれば、覚えておこう」
そう言って、ペットボトルのラベルを目線の高さに持ってきて商品名をチェックする。
食文化はこちらの世界ほど発展していなかったのかもしれない。
商品名を軽くチェックした後、黒兎の方にまた向き直った。
こちらは、目を見て話す意味をちゃんと本来の意味で理解している。
「…そうか…いや、そもそも文明水準の差が如何ともし難い場合もあるか。
「学校」というシステムの有無は勿論だが…私が先日あった女子生徒など、こちらで初めて文字を見たと言っていた。
彼女のような者達は、私より苦労するだろうな。
…私ばかり、戸惑って置いていかれているような気分になっていた。慣れない環境では気弱になっていかんな」
ハードルの高さを訂正するようなことを黒兎に言われれば納得した風に頷き。
それから、力と心配の抜けた、軽い笑いを口元から零した。
「異邦人街か…自活が出来れば、そちらで住居を探すことも考えたのだが。
…実家ではメイド達が色々してくれるし、寮でも世話係がいるからな。
どうにもならんので、寮の世話になることにしたんだ。
…まあ、学園に慣れたら、異邦人街も見に行こうとは思っている」
「しばらくは忙しくてそれどころではないだろうがな」と、穏やかながらも気持ちよく笑った。
…が、「この世界に根付くか、それとも帰りたいのか」を問うような話になると、表情が深刻な陰を帯びる。
「委員会は…この世界の仕組みを理解し、順応したらということで話はしている。
だが…帰りたい気持ちがないと言ったら、嘘になるな。
…おじい様にも…母上にも、父上にも。何も恩を返せていない。
学生の身のうちに、こちらに来てしまったからな」
その表情のまま俯き…そっと、腰に差した剣に触れた。
■黒兎 > 「いや、そう深刻に考えるな。
我ながら無遠慮な質問だった、すまない。」
レイピアに手を添える彼の手に目をやりつつ、
私はゆっくりと立ち上がる。
少し座ると足の疲れも大分と取れる。
「手が早いな、説明をしっかりと聞く、
真面目な人間であることの証明だ、美少年のような人間ならば、
委員会も歓迎してくれるだろう。
然し、家族を残しているという事であれば、
随分と気がかりも多かろう。質問一つで、そのような顔をするくらいには、な。
……残念ながら、頭の悪い私には
理由は想像もつかないが、何かと気を張る癖がついているように思う。
もう少し、多方に甘えても良いのではないか?」
私は飲み終わった紅茶の缶と日傘を持つ。
帰ろうと考えたのだが、どうにも気がかりだ。
紅茶の缶を捨て、日傘をまた地面に置くと、私は髪の毛を払う。
「―――身体を動かすのは良い気分転換になると聞くな。
未だ疲れが無いのなら、模擬戦の相手をしてやろう。
何、無遠慮な質問の詫びだ。」
■セシル > 「…いや…構わん。
「帰れる望みは薄い」と聞いた時、私も委員会の場で随分荒れた」
謝られれば、そう言って柔らかい苦笑いを浮かべ、黒兎の方に顔を向けた。
「というか…剣を常時携帯したいと申し出た時に、風紀委員会や公安委員会に所属すると何かと都合が良いという話は聞いたんだ。
ただ、その前に荒れた件もあってな…すぐには、少し気が引けてしまった。
…この世界で、この剣を使ってどこまでのことをしていいのか…分からぬうちに権力を持つ気にもなれんかったしな。武官の分は弁えているつもりだ」
委員会のことを知っていることを褒められれば、大したことはないという風に、ゆるく首を横に振りながら。
「………本当に心配なのは、母上くらいだよ。
彼女だけ、まともな後ろ盾がない」
下働きのメイドが、まかり間違って、次期当主の手つきになり…その結果生まれた、さほど望まれなかった娘。
それが、セシルだった。
どうやらその出自は、自身の自覚以上に思考に陰を落としていたのかもしれない。
黒兎との会話の中で、そんなことを思った。
「…まあ、元々は自分の身1つだけ考えれば良かった身でもないのでな。
気を張る癖があるとすれば、そのせいかもしれん。
甘え…な。現状、この世界ではこの学園にこれ以上ないほど助けられていると思っているがな」
そう言って、はは、と軽い笑いを吐き出した。
…が、「模擬戦」と聞いて目を丸くする。
「…模擬戦か…こちらに来てから、純粋に機会を得ていなくて飢えている部分はあるが…
貴殿は丸腰に見えるが、大丈夫か?」
セシルは、剣の技量以外の部分で相手の力を測る能力に乏しい。
幻術の効果もあってか、セシルは、黒兎を「印象的な容姿を持つ普通の女子生徒」として捉えていた。
■黒兎 > 「―――ほう、母親、な。何か複雑な事情があると見える。
が、いくら異世界の場といえど、そのような事を軽々と口にするものではないぞ。
敵を知らば百戦危うからず、逆に言えば、敵に知られれば百の戦を落とす事となる。」
「風紀委員会、ないし、公安委員会に属すと言うのなら、
美男子、お前は悪人と戦う事となる。
その時にそう易々と自分の情報を明け渡せば、
相手に弱みを握られ、付け込まれ、下手をすれば命を落とす事と成ろう。」
私がぐっと手を握ると、ぬるり、とした感触が指先に宿る。
爪が、柔らかい私の美肌を貫いたのだ。
そのまま手を開き、そこから滑り出るように出た紅い剣を静かに握りしめた。
「日が浅いならば仕方なかろうが、
この世界には異能と呼ばれる力や、魔術と呼ばれる力が存在する。
丸腰だからといって、一般人と侮っていると暗殺されるぞ?
………尤も、後ろ盾なんて言葉を使うような身分であったのなら、
暗殺の恐怖は身に染みていようがな。」
ひゅんと音を立てて剣を振るうと、
真正面に、静かに片手で構える。
「飢えているのなら猶更だ、
さぁ来い、相手に成ってやろう。」
■セシル > 母親のことを話すことをいさめる黒兎の真剣な口調に、目を瞬かせる。
…が、やがて口の端を強気に釣り上げて。
「もしこの世界から、私の母上に任意で手を出せるような悪党がいるのならば…追い詰めて、私を元の世界に送り返してもらいたいくらいだな。
まあ、忠告は有難く聞かせてもらおう」
そして…黒兎の手から滑り出てくる紅い剣を見て、興味深そうに目を丸くした後。
ふ、と楽しそうな笑みを零し。
「…いや、失礼。貴殿が剣を扱うようには見えなかったのでな。
………ところで、私は剣術のみで相手をした方が良いのか?」
何やら、こちらにも異能か、魔術か、そちらの類の手札があるような物言いである。
■黒兎 > 「それ以外の手は、使っても使わなくても構わぬ。
―――本当にそのようなものが在るのならな。
然し、剣を構えたからといって、私が剣術の使い手と誰が決めた?
これは杖かもしれぬし、はたまたただの飾りかもしれぬ。
紅い剣を構える美少女は絵として実に映えよう?」
私は髪の毛を払うと、剣先を招くように揺する。
「さぁ、来るがいい。
どのような手を使っても構わぬ。
だが殺すなよ、この場所では禁止行為であるからな。」
■セシル > 「………言ったな?」
「あるなら使って良い」という黒兎の言葉に心底楽しそうな笑みを浮かべる、見た目王子様。
これでもし手がないのなら相当な役者である。
「「模擬戦」と言うからには当然だな。
…と、あったあった」
軍服のようなジャケットの胸ポケットから何やら留め具のようなものを取り出すと、再度抜き放ったレイピアの切っ先にはめる。
突きが刺さらないようにするための工夫だろう。
「ふふ…得物が映えるのはお互い様だな。
…では、参ろうか」
如何にもといった感じで見栄を切る黒兎に不敵に笑み返し、フェンシングのような構えをとった。
■黒兎 > 「そのような安全策があるのなら尚の事良いだろうが―――。
然し、私はそのようなものは持ち合わせていない。
―――当たり所が悪ければ死ぬぞ、覚悟するがいい。」
私は剣を持ってない側の手を前に出し、突きの構えを取って―――。
………手にしたその剣を、投げた。
剣は真っ直ぐに飛翔し、フェンシングの構えを取る彼に向かう。
■セシル > 突きの構えをとったかに見えた黒兎だが、彼女はそのままの動作で剣を投げつけてきた。
動作からすると意外なほどの速度で飛んで来る剣、当然、レイピアだけならたたき落とせないが…
「付与・魔力《エンチャント・オーラ》!」
セシルのそのかけ声とともに、レイピアが光を帯びる。
…セシルは、フェンシングの試合で相手の剣を払うのと同様の仕草で投げられた剣を払い落とす。
その光が消えると、セシルはそのまま、素早い足さばきで、まっすぐ黒兎と距離を詰めにかかった。
あわよくば、黒兎の首に寸止めの切っ先を突きつけようと。
■黒兎 > 血の短剣は、レイピアに叩き落されると同時に砕け散る。
元々、あまり打ち合いに適したものでは無い。
「ふむ、見事なモノだな。」
それに合わせるようにしてカウンター気味に踏み込んで来た彼に、首にレイピアを突き付けられる。
ミントの香りが鼻を擽った。どうやら、そういったものに気を使う人間らしい。
「模擬戦は美男子、お主の勝ちだ。
私の技量不足で一瞬の勝負で実に申し訳ないものではあったが、
また良いモノを見させて貰ったぞ。
願わくば、元の世界に戻れる事を祈っているぞ。
そう望んでいるように見える。少なくとも、私にはな。」
私はふぅ、と息をつくと、彼の身体を軽く押した。
こと、妙な感触が手につく。男の身体というものは、こう柔らかいものであっただろうか。
「………勝負はついた、退け、帰れぬ。」
無遠慮に押しのけるわけにもいかず、私はそう呟いた。
■セシル > 首筋に、寸止めで突きつけられた切っ先。
「札があるなら使っても構わんと言ったのは貴殿だからな」
楽しげに言う見た目王子様。意外と大人げない。
「こちらこそ…面白いものを見せてもらった。魔術の類ではなさそうだな」
砕け散った血の短剣の破片を横目に見ながら。
そして、元の世界に戻ることを祈ってもらえると破顔して
「有り難う。私としても、出来るだけ情報は集めていくつもりだ」
と言う。…が、黒兎に身体を軽く押されると
「ああ、すまん」
軽く引く。黒兎が感じた違和感に、まるで気付いた風もなく。
そして、レイピアの切っ先につけた留め具を外して、一旦剣を腰に戻した。
■黒兎 > 「ああ、私の異能だ。
血で剣を作る事が出来る。
然し、私は剣術家ではないのでな。
振り回す事、刺す事くらいは出来ようが、
美男子のような真っ当な剣術家と斬り合う事など出来はしまい。」
私は改めてゆっくりと日傘のほうに歩み寄ると、手に取った。
「然し、祈る事しか出来ぬ。
そのような情報、私は集めてはおらぬのでな。
故に、礼はいらんよ。
今日ここで話しかけたのも、ただの暇つぶしなのでな。
………気晴らしくらいには成ったろう。
少なくとも、何かと悩むよりは、身体を動かすほうが好きな人種と見える。」
私は髪の毛を払うと、日傘をさして訓練施設を後にした。
ご案内:「訓練施設」から黒兎さんが去りました。
■セシル > 「ああ、それが貴殿の異能か。
…しかしもったいないな、武術の心得があればより面白いことが出来そうなのだが」
黒兎の異能の扱い方については、そんな感想を。
異能の存在自体には、常世島に来ていることを踏まえてなお、随分自然に受け入れているように見えた。
「久々に人と対峙して剣を振れて楽しかったぞ。
また、機会があれば会おう」
そう言って、黒兎を見送った後。
「………そういえば、「美男子」の訂正を忘れていたな」
割と致命的なことを思い出すが、
「…まあ、そのうち訂正の機会もあるだろう。同じ学園に通う生徒なのだからな」
と、楽天的に考えて。
復習のために剣術の基礎訓練を積んでから、寮に帰ったのだった。
ご案内:「訓練施設」からセシルさんが去りました。