2016/03/12 のログ
ご案内:「訓練施設」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > 七生は缶ココアを手にベンチに腰を下ろした。
野外、主に転移荒野で行っている、特訓と呼ぶには些か野蛮すぎる荒行をたまには忘れようとやって来た訓練施設であったが、

「なんてゆーか……ちょっと物足りないなあ……。」

片手に暖かな缶ココアを持ち、空いてる方の手を握り、開く。
その手には小さな傷が無数に付いている───筈だったが、持ち前の自然治癒力と偶然見つけた薬湯の効果とで小さな荒れ一つない綺麗な手だった。

「思ったほど筋肉ついてるって感じもしないし……俺、本当に強くなってんのかなあ。」

溜息混じりに呟いて、それなりに格好つけるように廊下の天井を見上げてみたりする。

東雲七生 > まだ半分ほど残っているココアの缶を両手で包む様に持ち直す。
既に二月も抜けて、数日前は暖かな春の陽気を感じられたのから一転、ここ二、三日はまた真冬の様な寒さが戻ってきていた。
屋内であるこの廊下は暖房によって外の寒さは感じられないが、これからまた、異邦人街の外れまで買えると思うと少しだけ気が滅入る。

「足は元から早かったし、腕力は……そりゃ少しは重い物も持てるようになったけど。
 そもそも自分の強さってどうしたら分かるもんなんだ?やっぱ何か闘技大会みたいなの出なきゃ駄目か?」

流石にむやみやたらと喧嘩をする趣味は無い。
趣味は無いが、決して不可能では無い環境に居る事は確かだった。実際のところ、魔物とは授業課題の名目でしょっちゅう拳突き合せてる訳で。
それでも、七生の目指す強さにどれだけ近づいているのかは分からない。

「というか……何か、もうちょっと見た目が男らしくなりたい。」

ぼんやりと考えながら廊下を見渡せば、正面が鏡になっている事に気が付いた。
そこに映っているのは、どう控えめに見ても中学生の、逞しいとは真逆な、幼さが7割くらい残る赤髪の少年の姿。

東雲七生 > 鏡に映る自分の姿を少し成長させてみようと試みる。
垂れがちな目じりを少しだけ釣り上げて、同時に眉尻も上げる。眉間に皺だって寄せてみる。

凄くトイレ我慢してる顔に成った。

「……うう、後は何だろ。もっと眉を濃く、そう!要所要所の毛が薄いのも子供っぽさに拍車が掛かってる気がする!」

腕とか腋とか、髭とか。
同年代の同性と比べ、七生はその辺りの性徴がどうにも乏しい。その事をクラスメイトに相談した時は、髭を剃る必要性の無さを嫌になるほど羨ましがられたのだった。

「そうだなあ、髭とか生えたら伸ばしてみようかな。」

鏡に映る自分の口周りに髭を生やしてみる。
だが、髪と同色である事を思い出すと、少しだけ表情が渋くなった。だって赤いんだもん。

東雲七生 > 「……はぁ~」

溜息が零れ、七生はそれ以上自分の将来像を考えるのを止めた。
どうしてもまともに想像できない。どこか歪になってしまう。

「やっぱ、このまま鍛錬を重ねてくしかないのかな……」

ココアの残りを一気に飲み干し、まだ温さの残る空き缶をゴミ箱へ放る。
寸分の狂いなくゴミ箱へ空き缶が吸いこまれるのを見届けた後、七生は飛び跳ねる様にベンチから腰を上げた

東雲七生 > あまり考え込んでも仕方ない。
自分の頭の悪さを自覚している七生は静かに首を振って気持ちを切り替えた。
これから異邦人街まで走って、そしたら熱めのシャワーを浴びよう。

「今日は深雪、夕飯なに作ってくれてっかな。」

遠い心配事よりも目先の楽しい事を今は考えつつ、
七生は外へ向けて施設の廊下を歩き出した。

ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。