2016/05/06 のログ
東雲七生 > 「はー……静か。」

遠くの方で機械の動く音がする事から、施設内に七生一人では無い事は解るのだが。
それでも普段より人の気配が少ない訓練施設内は珍しく感じた。

「……みんな、何して過ごしてんだろ。」

娯楽らしい娯楽を趣味として持たない七生の休日の過ごし方は、もっぱら体を動かすことに限られていた。
それならスポーツでもすれば良いのだろうが、なまじ運動神経が頭抜けているだけに慣れないうちは一周回って素人以下のパフォーマンスになってしまう。
サッカーボールを蹴り割ったり。

ご案内:「訓練施設」に来島さいこさんが現れました。
来島さいこ > 「えっと……」

 何かの用事の帰りだろう。
 とことこと歩いている最中、ベンチに身体を預ける少年を見つけた。

 今日はあまり利用者がいないけれど、それでもそのような日に励んでいるのは頑張り屋さんなのかなと思えば、近づいて。

「こんにちは。訓練、してたのかな?」

東雲七生 > 「んくっ……はぁ。」

ストレッチを終え、横に置いていたジュースを一気に飲み干して息を吐く。
このまま油を売っていても仕方ない、もう一運動してこようかなどとぼんやり考えていたところで声を掛けられる。

「ひゃ、……あ、いや、はいっ!
 そ、そんなとこっす……はい!」

驚きの余り二度も無意味に返事をしつつ、慌てて此方へと近付いてくる人物へと向き直る。
その姿はどこかで見覚えがあったが、はて何処だったろうかと内心で首を傾げて。

来島さいこ >  
「ふふ、お疲れさまだよ。
 キミは真面目なんだね。」

 柔らかく笑ってみせて、微笑んでみせる。
 ……大きな胸に教員証がくっついているので、教師である事は把握できるだろう。

「……あっ。いきなり声を掛けちゃったけど、大丈夫だったかな?
 ごめんね、頑張ってるのかなって思って、つい声を掛けちゃった。」

東雲七生 > 「真面目っつーか、何つーか……」

殆ど習慣になってしまっていて、褒められる様な事じゃない。
そう思いつつ、小さく頬を掻きながら返す言葉に迷っていたら教員証が目に留まる。
見覚えがあったのは、ガイダンス紹介の時にでも顔を見たからだろうと思い至って。

「あ、あはは。
 別に、全然大丈夫っすよ。もう一通りやりたい事やったんで、おまけで何かしよっかなーくらいに考えてたとこなんで。」

来島さいこ >  
「うぅん、謙遜しなくても良いと思うんだけど……。」

 困った風に笑ってみせる。
 とは言えそれ以上には言及せず、話が切り替わる。

「そっか。それならあと一息だね。ファイトだよっ。ええと……
 ……好かったら名前、聞いても良い? 私はここにも書いてあるけど、
 来島さいこだよ。まだまだ新米で補助が中心、受け持てた講義は少しだし、
 その講義も監修してもらいながらなんだけどね。私も頑張らなきゃ。」

 名前を知らなかったから聞いてみよう。
 その為に自分で名乗った時に出した弱さは、誤魔化す風に笑ってみせる。

東雲七生 > 「いや、謙遜とかじゃなくって……」

食事をするのに頑張る必要はないだろう、と。
そういうことを言いたかったのだが、困った様な笑顔に何だかバツが悪く感じてしまう。

「あ、七生──東雲七生っス。
 一応こないだ二年に進級したんスけど、ええと──来島先生の講義は多分、取ってないと思うんスよね。」

示された教員証を一瞥し、少し焦った様な素振で視線を明後日の方へと泳がせる。
確かに目立つ、人目を引く場所に身分を示すものを付けておくのは理に適っているとは七生自身思うのだが。
……何だか目を向け続けるのはどうも気が引ける。気にし過ぎなのだろうけれど。

「んまあ──頑張るのは良いと思うんスけど。
 先生ならあんまり無理はしない方が良いと思うっすよ?」

ほどほどに肩の力を抜くこともまた、生徒を導くための姿勢として重要だと思う。
──というのも、他の教員相手に散々言ったりしているのだが。

来島さいこ > 「?」
 
 よくわかっていない顔だった。

「七生くんだね。うん、覚えたよ。確かに覚えがないかも。
 それでも教師だからね。ちょっと気にかかっちゃった。  
 ……?」

 (視線を反らしたことに対し)再びよくわかってない顔だった。
 ……さいこ自身も彼が講義に居れば覚えているだろうとの認識から、覚えがないことを認めている。
 その上でも、気にかかると言ってのけて。

「あはは、よく言われちゃうかも。
 でも……私は今の生活が楽しいから、ついつい張り切っちゃうんだ。えへへ。」

 ちろっと舌を出して、楽しそうに笑ってみせる。
 少しばかり眩しい笑顔だ。

「でも、倒れない様に気を付けなきゃね。
 先生なんだし、生徒の前でも節度は保たないと……うん。言ってくれてありがとね、七生くん。」

 さらりと言ってのけて頭を下げてから、はた、と、気付き。
 ばつが悪そうに頭を下げた。

「ぁ、もう一つおまけの練習するんだったんだよね。
 長話になっちゃったかな。ごめんね。それじゃあ、私はそろそろ行くよ。またね、七生くん。」

 最後にもう一度笑みを浮かべてから、
 ヒールの靴音を響かせてその場を立ち去った。

ご案内:「訓練施設」から来島さいこさんが去りました。
東雲七生 > 「張り切るのは全然良いんすけどね。
 やっぱり手を抜くとこは手を抜いてくんないと、俺ら生徒も引くに引けなくなっちゃうっすから。」

眩い笑顔に釣られる様にニッと笑みを返す。
見た目自分と変わらない歳だろうに、それでも教員としてこの学園に居ることに素直に尊敬した。

「ああ、えっと。はい。
 んじゃ、来島先生、お疲れ様ーっす!」

去って行くその背を見送って、自分で言った事とは言え“おまけ”の内容を何も考えていない事を思い出した。
肉体面での鍛錬は十二分……というか、ここから家まで帰る為の体力は残しておきたいところ。

「……異能の方で良いかなぁ。」

昨日付けた傷がうっすら残る掌を見て、ぼんやり独りごちる。

東雲七生 > ぽん、と軽く跳ぶようにしてベンチから腰を上げて廊下に立つと、手の中の空き缶を捨てるべくゴミ箱を探す。
視界の端に後ろ姿が見え、そういえば担当の講義の種類とか聞いてなかったな、と思い至る。

「帰ったらちらっと確認しとこ。」

もしかしたら幾つかは教員証に書いてあったかもしれない。
だが、そんなのを確認するほどの余裕はさっきまで七生には無かったのだ。

「それにしても……」

大きかったな。
時間にしてわずか数秒、不可抗力で視界に入れてしまっただけではあったが、印象として刻まれるには充分だった。

「……ここの女の先生って、もしかして大抵“ああ”なのか。」

そんな馬鹿げたことを脳裏から振り払いつつ、無事ゴミ箱を見つけた七生は缶を捨て、空いてる訓練室を探しに歩き出した。

ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。