2016/06/23 のログ
四季夢子 > 訓練施設。凡そ私には縁遠い雰囲気を持つ場所だけれど、その実時折訪れていたりする。
主に異能の検査というか、定期健診的な意味合いが強いのだけれど。

「うーん……変わりなし。喜ぶべきか悲しむべきかは……視得ないわね。」

何処までが透明で何処までが透明でないのか、異能的な意味でも精神的な意味でも未だ曖昧で明確ではなくて、
私はブツクサと言葉を零しながら廊下へと出る扉を開けた。
紫外線や赤外線をも透すのならば放射線も大丈夫では?とか言われても生憎と試す気にはなれず何処か欝然と俯いていたの。

廊下で半裸の東雲君に出会うまでは。

「………あの、人目のあるところでそーゆー格好は私、どうかなあって思うのだけど?」

東雲君はどちらかと云えば中性的な印象が強い。いえ、強かったとしなければならないかも。
だって半裸の彼ったらずいぶんと男らしくあったものだから。

東雲七生 > 「あ。」

鞄を物色しながら歩いていたら、少し前まで危惧していた友人とばったりパターンに遭遇した。
良かったハーパン穿いてて、と後に彼が語ったか否か定かではないが、
今現在の自分の格好を非難されれば、少しだけ怪訝そうに首を傾げて

「何で?
 ……割と梅雨入ってから外での授業終わりとか大抵こんな感じだけど、俺。」

体を動かして動かして動かしまくる授業を大量に受講しているうえに、
最近はやたらと蒸し暑い。正直、半裸で登校して良ければ毎日でもしたい気分、とは本人談。

周りからの印象とか、そういうのはあまり意識していない。
いやまあ、全裸だったら流石に全面同意で今すぐ謝るかもしれないが。

四季夢子 > 「え。」

あれ、私何か不味いことでも口走ったかしら?
思わずしてそう思わせるくらいの説得力のある渋面を東雲君から向けられ、
私は少しばかり怯んだように首を竦ませる。

「な、なんでって……そりゃあって大体そんな感じなの!?
……東雲君、もうちょっとデリカシーとか持ちなさいよ……。」

ただ、私は亀じゃあないから直ぐに伸ばして倣うように渋い顔をしてみせて、
次には携えた鞄から未使用の薄紅色のタオルを取り出して彼に差し出した。

「そんなんじゃ女の子にモテないんだから。はい、タオル。
そのタオルもうびしょびしょでしょ。貸したげるから。」

東雲七生 > 「デリカシー……?
 うーん、俺が女子だったらまあ、ごもっともだと思うけど、
 別に男が上脱いでても特に問題無くね?」

ちゃんと風呂だって入ってるし、と見当違いも甚だしい返答。
そもそもデリカシーという言葉自体知らなかった。どういう意味だろう、と小首を傾げて。
それから差し出されたタオルを、怪訝そうな顔のまま受け取った。

「お、おう。サンキュー。
 後でシャワー行ったついでにランドリー行くからさ、選択終わったら返すわ。」

確かにタオルもだいぶびしょびしょであった。
首から下げていたそれをシャツと同じ袋へ放りこんで、新しいタオルを肩に下げる。

「でも俺がモテないのとは関係ないよな?
 これでも……いや、ううん、別にモテなくとも良いかなーとは思ってるけどさ、
 それでも告白の一度や二度、されたことあるし。」

四季夢子 > 「その発想こそが……いやあのお風呂に入らないのはそれ以前の問題だから!」

しぶったい顔のまま首まで傾げられてしまうと此方も首が傾いでしまいそうになるのを堪え、
代わりに頭を振るように頭を数度振った。
タオルについてはその内でいいわって、苦笑の一つも返しておくけれど。

「いやあ普通関係あると思うんだけど……やっぱりこう、いつだって隙の無い格好を……
いえ、まあある意味で隙は無いのかもしれないけど――ってはいぃ!?」

だらしがない格好とか、隙のある格好なんてものは色恋に関しては御法度といえるもので、
それならば……割合良い身体をしていると言っても良い面前の彼が該当するのかどうか?と
思考を抱えかかるのも束の間、突拍子も無い言葉に私の言葉が突拍子も無く頓狂に廊下を跳ね、
通りがかった見知らぬ人に睨まれてしまう始末。

「へ、へえー……そうなんだ……ああ、それでこの間あんな変な事を聞いたの?」


声のトーンを落とし、先日の奇妙な質問と結びつけて訊ねてみましょっと。

東雲七生 > 「隙の無い格好も何も、取り敢えず身一つあれば何とかなるじゃん?
 って、じゃん?って言っても分かんないか。一応、身一つあれば何とか出来ると思ってるし。」

七生本人は不満を抱えているが、その実、肉体の方はかなり鍛えられていた。
誇示するための筋肉では無く、実用性を追求して尖りに尖った筋肉の付き方。
例えるなら短刀か小刀のような。

「何だよ、急に大声出して。
 ……あー、あの事な。まあ、そんなとこ。

 俺、今まで恋愛って言う意味で人を好きになった覚えがなくてさ」

そう、頷きながら答えて。バツの悪そうに鼻の頭を掻いたりしている。

四季夢子 > 廊下に設えられた黒い合成革を張った長椅子に座り込み、鞄からウーロン茶を取り出しながら彼の言葉を聞く。

「なんとかって言ったって山で熊とかに出会ったり、転移荒野で異世界の動物に出会ったり、
落第街で怖い人にあったらどうにもならないでしょうに……まあ、思ってたよりは逞しいっぽいけどさ。」

小柄なのに腹筋が割れているくらいに逞しい姿を見上げると、何となく鉈とか、手斧の類を想起させられる。
ただ所在がなさそうに鼻を掻くその顔は刃物とは程遠い、もっと和やかなものを思いもしちゃう。

「ふぅーん……その様子だと告白された。でも断った……って所ね。
この間も言ったけど私も覚えはないのよねえ。でも貴方は誰かに愛されているんでしょう?
それなら大丈夫だとも思うんだけど……ね、貴方に告白をした子って、貴方の好きなタイプだった?
それとも違った? 違ったとしたら……もし貴方の好みも好み、理想の具現化!ってくらいの子に
好き好き愛してるーって言われたとしたら同じように悩む?悩まない?」

膝上に頬杖を付くようにして彼を見上げるなら、丁度よく俯きかかっているのだから目が遇うかも。
それなら青い瞳でじいっと見詰めてあげて私は口端を緩やかに曲げて幾つか続けて訊ねることにする。

東雲七生 > 「大丈夫大丈夫、何とかなるなる。」

実際に何とかしてるのが幾つかあるのが信じがたい所ではある。
あんまりにも緊張感の欠片もなく言ってのけ、此方を見上げる四季を見下ろした。

「断ったというか、何て返せばいいか分からない、って。
 一人目はええと、それでも俺の事を何とか振り向かせてみせるんだって意気込んでたから、俺もそれで良いかって思ったけど。
 今度は二人目にもちゃんと話さなきゃなーって思っててさ。
 ……その時単純に、人を好きになるのってどんな感じなのかなーってさ。」

クラスの男子に訊いても、何と言うか、あまりにも動物的な答えが返って来たので、参考にするのは諦めたのだ。
まあ、それも最近良い答えを貰ったのであったのだが。

「うん?そもそも好きなタイプっていうのが分かんねえけど。
 えっと、……好み、か。好み……?」

どういうのが自分の好みなのか、そこからまず分からない。
どう感じるのが好みであるのか、それが分かればもっと話は単純なはずだったのだ。

四季夢子 > 「よしんばそっちは大丈夫で良いとしても"こっち"は大分あやふやねー。」

こっち、とは勿論愛の行方。
まあ座んなさいよと長椅子の隣をぽんぽんと叩きながら笑ってあげましょっと。

「人を好きになること、愛は双方の見目に応じて増減するのかしないのか。異能を含め個性に応じて増減するのかしないのか。
恰も無色透明の幽霊のようなのに、でも確かに存在する。確かに存在するのに、厳然として作法たりえるものが確立されていない。
昔の人から今の人に至るまでみーんな、本当は愛の行方を捜しているのかもしれないわ。夢でも観るみたいに。
……で、そも好きなタイプが分からないってなるとそんなお題目も吹っ飛んでしまいかねないんだけど例えば……そうねえ……
私の好きなタイプは、背が高くって、優しくって、お金もそこそこあって……私の事をきちんと視てくれる人。」

笑いながら、苦笑をしながら夢の一から了までのような愛の行方を述べて、それから頤に指を添えて言葉を切る。

「東雲君はそういうの、何一つも無いの?何でもいいわ、ほら、美人がいいとか、髪の毛が絹みたいに艶やかな人がいいとか。」

東雲七生 > 「いや、良い。
 パンツまで濡れてるから今座ると気持ち悪いから。」

隣に座るよう促されれば、静かに首を振って辞退する。
さっきまで鉄球でリフティングしていたくらいなのだから、当然足腰の疲労は並では無い筈なのだが。

「……えぅぅ。
 何だか、こう、もうちょっと分かりやすく言ってくんねえ?
 どうにも言い回しが堅ッ苦しくて、全然頭に入って来ねえや。」

まるで哲学書でも読まされてる気分になって来た、と根っからの肉体派少年は眉間に皺を寄せる。
しかし、具体的な例を挙げられたうえで、改めて自分の好みを問われれば。
うーむ、と今までの交流の中から特別に親しかったり、尊敬する異性をピックアップして。
その特徴の類似点を探し、

「えーと……年上で、しっかりと自己を持った人で、
 ……ああ、あと胸が大きい!

 って、違くてそうじゃなくて、いや、そうなんだけどそういう意味じゃなくて!」

あくまで共通、あるいは類似点を挙げてっただけなので、
自分が何を口走ったか気付けば、耳まで赤くなって取り乱し始めた。

四季夢子 > 「どんだけ運動してるのよ……ん?でも此処って異能のアレコレの場所よね。
東雲君の血を云々って御腹が割れるよーな代物だったりするのかしら。」

私の言葉が頭に入らないと言うのなら身体に叩き込んであげましょう。
……とでも言わんばかりに着席を固辞する彼の御腹に手を伸ばしてぺちんと一撃。
序に愛の行方とは別腹に気になった事を問いもするのだけど、これは一つの閑話休題的な代物で。

「言い方が堅苦しいのは御免なさい。私だって説明慣れしている訳じゃあないんだもの。
ただ、恋とか愛を記した古本とか読むのが好きなものだから――」

簡潔に物事を言えないのは未熟の証左だ。迂遠に過ぎるのは理路整然と迷った結果のようなもので、
私は当惑したように眉を寄せるのだけど、次には彼の御腹にもう一撃くれてやることになった。

「最後に全部集約してそうなんだけどっ!……まあいいわ。それでさ、その年長のお姉さんタイプ?胸が大きい人が貴方の事を好きで、
愛してると、その……まあ、夜も一緒にいたい。とかそーゆー事を言ってきたらどうする?
初対面なら即相思相愛とはならないものでしょうけど、それでも貴方の感情は動いたり、しない?」

東雲七生 > 「ん? んーん、異能は使ってないよ。
 単純に偶には走り込み以外で脚力鍛えようと思っただけ。」

リフティングしてた、とあっけらかんと答えて。
ただしそのリフティングに使ったボールは10kgある代物だなんて説明はしない。
鍛錬なんだから誰でもそれくらいするよね、といった風だ。
ぺしり、と叩かれたお腹はまるで限界手前まで砂を詰めた袋に人の皮を被せたようで。

「まあ、うん。そうだよな、受け売りになるとどうしても説明にゃ向かないよなー……」

そう考えると先日、後輩の家で聞いたのは実はすごい事だったのかもしれない。
否、あの後輩、実はすごいのかもしれない、などと考えて。
再びお腹に一撃見舞われたところで我に返る。なおノーダメージ。

「えっ?夜も?
 んー……夕飯は、俺料理出来ないからご馳走は出来ないけど……
 ああ、そうだ。添い寝くらいなら出来るよ、それは得意。」

割と普段してる、と笑みを浮かべる。
誰かに一緒に居て貰いたいと思って貰えるのは嬉しいもんな、とやはりどこかズレた反応を返すだろう。

四季夢子 > 「へ、へえ……」

脚力を鍛えたら何故に鞣革を張り詰めたような御腹になるのかしら。
言葉を濁す私が至った結論としては、彼は常にそのようなトレーニングをしているのだろうと云う事であり、
普通そうに視えても、本当はもっと怖い何かなのでは?と疑念を……抱きそうになって放り捨てる。
友達をそういう風に視るのは、きっと良く無い事だもの。

「そーそ、受け売りだとどうしても……でも貴方、恋愛小説でも読んでみたら?
案外勉強にな――いや、あの、東雲君。そうじゃなくて……。」

その友達の事を、遠くを視るように視てしまうのは多分きっと已む得ない事。
言葉が澱みに澱んでしまうのもきっときっと同上で。

「誰かが一緒……なのはそうだけど、ほら……好きあった男女が夜に一緒っていうと、
こう睦み合うというか……えっちなこと、したりするじゃない?」

言うか言わないか、正しいのか正しくないのか、判らず解らないけれど、
とりあえず私が見知った知識の中ではそういうことが多いからおずおずと訊ねてみるの。
きっと、真っ赤な顔で。

「あ、あるいはっ、夜とかじゃあなくても相手からお部屋に誘われたりとかさっ。
そういうことされたら、心と云うか感情がうごいたり、しない?」

きっときっと。

東雲七生 > 「ん?」

何か引っかかる。
睦みあうとか、えっちな事をするって言う以前に、前提として何かが七生の中で引っかかる。
少し怪訝そうな顔で虚空を見つめ、黙考する事しばし。

「いや、特になにも……まあ、嬉しいけど。
 今迄も何度か部屋に上げて貰ったりとかもしてるしさ。
 でも、だからって特に何も感じなかったけどな……流石に女子の部屋に行ったら緊張はしたけど。」

それから、不意に目を瞠って。

「ああ、そっか!好き合ってるってのがよく分かんねえんだ。
 別に胸が大きいからって、何かえっちな事したいとか思うか?」

四季は背が高いからってだけで好きになるか?と逆に聞き返しながら首を傾げてみたり。
要するに、どこまでもそういう経験が無いのだろう。今までに、一度も。

「そもそも、恋愛でって言う意味での好きになるってのがよく分かんねえんだよなぁ。
 好きか嫌いかで言ったら、ほら、四季だって好きだし俺。」

四季夢子 > 「思う訳あるかッ!!」

不躾に過ぎデリカシーに欠ける所か形無しの問いを投げ返す彼に思わず叫ぶ私の顔は真っ赤もいい所で。
頻繁に部屋に招かれているとか、なんだか実は凄い事をさらりと吐露された事もまた形無しに消え、一先ずの棚上げを超えて大空に消えるよう。

「そもそも愛されてないんだから私だって判んないし!その……好きなタイプの理想なんて結局はお芝居の役者みたいなもので……
観客はそれらに憧れるものでしょう?突然舞台に誘われても……応じれるものでもないし!だから……本の一般論的な、
見解の最大公約数を拾うというか――」

濁る意識の中を言葉が懸命に泳ぐのに、その最中に濁流に爆弾を放り込むような事を言われ、私の口は水面に顔を出す鯉のように閉じたり、開いたり。

「――え、ええい混ぜるな混ぜるなっ。私も貴方の事は好きだけど、そーゆーのじゃないし!」

多分
多分きっとそう。
いやしかしそれならなんで私はムキになってるのだろうと、俯瞰した思考がふんわり浮いて漂った。

「そ、それならlikeとloveの差を探せばいいのよ。私には私の、東雲君には東雲君の、各々個人で何処かに分け隔てるものがきっとあると思うの。
私で言うなら……例えばA君の事を好きだけど、別にA君から好かれたいとは思わないのがlikeで、A君からも好かれたいのがlove……かな。
でも相手から絶対に好かれないって判っているなら、そうは思っていてもその人の事は出来るだけ想わないようにしないといけないわ。」

上を見ないようにして早口にざらりと言葉を吐いて握り締めていたウーロン茶のペットボトルを一気に呷った。

東雲七生 > 「………。」

突然叫ばれたり、かと思えば抽象的なのか具体的なのか、判断に困る様な言葉を投げられたり。
そもそも七生はあまりお芝居の類には明るくない。何せ一か所でじっとしてろと言われたらそわそわしてしまう性質なのだ。
授業ならまだ、最近は諦めがつくようになったのだけど。
だから例え話を用いられても、どうしても理解が追い付かず目が白黒してしまう。

「えーと?
 でも、普通は自分が好きな相手からは好かれたいと思わねえ?
 それにほらそれだと、俺は四季のこと好きだし、四季も俺の事好きなんだから、そしたら結果的にLoveになっちゃわねえか?」

馬鹿だけど馬鹿なりに言われた事を踏まえて考えてみる。
その結果、やっぱりというか何と言うか、馬鹿は馬鹿以外の何者にもなれないという事を立証する様な発言が、出るわ出るわ。

「でも別に四季とえっちなことしたいかってーと、そんなことねーしな、ははっ。」

丸っきり笑い事では無い。

四季夢子 > 呷ったお茶が勢い良く口から吹き出た。
吹き出てそりゃあもう綺麗な虹がきらきらと……なるわけが無い。
私は何も言わず茶色に染まった自分のTシャツを見下ろして溜息を吐き、それからすっくと立ち上がった。

「ええぃ私もなんだか良く判らなくなって来たわ……でもね――」

そうして腕を振り上げて

「少なくとも、そんなことを笑いながら言われて、loveになる訳があるかーーーーっ!!!」

全力で彼の頬の狙ってビンタの一つもくれてやろうと腕を振う。
振った。
特に理由のある暴力が東雲君を襲う!

東雲七生 > 「あっ、おいおい。大丈夫か、どうした?
 やっぱり難しい事訊いてたかな。悪いな四季──へ?」

七生としては至極当然のことを言ってただけのつもりだったのだが。
完全に(本人としては)予期せぬ行動に反応が遅れて、綺麗に頬に手形が残るんじゃないかってくらいにビンタが入った。
お腹に比べだいぶ柔らかな頬は防御力も低いらしく、
小さな悲鳴が七生から上がる。

「ってぇー……なに、何でビンタされたの俺。」

思い当たる節が無いのが、一番の問題だろう。

四季夢子 > 「東雲君のばーか!人が精一杯考えたのに!どーせ私なんか二次性徴前のような胸だと思ってんでしょう!
御生憎様ね、貴方がえっちな事したくなる程ではないけど、小さくったってちゃんとあるっての!」

頬に紅葉を咲かせて尚、呆気に捕われたような顔をする東雲君に私は多分泣きそうな顔をしていたんじゃないかと思う。
そんな顔で彼の手を取って自分の胸に押し当てて、感触を伝えて怒鳴って――

「………あ。」

――わたしはいったい、なにをしているのかしら。

「…………」

冷静になった。
冷静になって東雲君の手を離し、自分の鞄を慌てて抱えたら息を止め、その姿が水に希釈される色水のように世界に溶けて消えてしまって。
慌てて走り去る足音だけが廊下に強く響いて行くのでした。

東雲七生 > 「いや、四季が精一杯考えてくれたってのはよく分かったし!
 別に、胸がどうとか、そんなの関係無く四季はダチだから──」

泣きそうな顔で捲し立てる四季に、戸惑うように弁解をしていこうとするが。
一度火が点いてしまうとちょっとやそっとじゃ納まらないのがこの年頃の少女という生き物だろう。

「………えと、あの、わ、わかったから。」

自分の手を四季の胸に押し当てられて。
ひくひくと頬を痙攣させながら、自分の手と、その手に伝わる感触と、四季の顔と、見て。
──確かに、ある。と一つ、頷く。

「………。」

そして手を離され、
そのまま消えていく後ろ姿に、声を掛ける事も出来ず。
足音がだいぶ離れたところで我に返り、少しだけ声を張り上げ

「あ、ひ、四季!ごめん!それと、ありがとッ!!」

もっと他に言うこと無かったんだろうかと、思われても已む無し──

ご案内:「訓練施設」から四季夢子さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に不凋花ひぐれさんが現れました。
不凋花ひぐれ > エレメンタルを発生させる装置がここにはある。
本来は魔術の訓練あるいは射撃用のための装置であり、撃ち穿つか何かをすれば容易く飛散してしまう。
しかしガラスのように割れども周辺に危害を及ぼすこともなく、後始末や掃除も気にしなくても良い優れもの。
だったはずだ。

「……はて」

どうしてこうなったのだろうと首をかしげて見せる。あぁ確か、この装置を起動した直後、魔術が形成され始めようとしたところで"バグ"が発生した。
発現した直後、周辺に等間隔で並んでいる装置諸共、合計3台が似た動きになっている。
異能、魔術、特殊能力の発動を封じる自身の異能によってが傍にいるだけで等しく無効化してしまう。起動直後の精密機械すら言うに及ばず、いとも簡単に壊れてしまった。

「わぁ……」

だなんて、感情の篭っていない声を流した。目を閉じている現状でも分かる。目を覆いたくなる現状があってもである。

不凋花ひぐれ > 人がいないせいなのか、あるいは冷房が効きすぎているのか、夏も間近な季節なのになぜ薄ら寒いものが駆け巡る。
冷静に分析をしてみながら――色々思うところはあるが――それよりも壊したことが恐ろしい。弁償額は幾らなのだろう。

はて、さて。最近は修練を個人のみで行っていた弊害がここにきてやってきた。
自分の異能の存在を忘れていた? 否、真逆(まさか)この島の機械を以ってしても魔術を無効化する異能を無効化できないとは思いも寄らなかった。
時間が経てば修復はされようが。はたしてされると、良いのだが。

「何も見無かった事にしましょう」

機械を触ろうとしたら壊れていた。だから問題はあるまい。次の進級が掛かっているのである、罰を与えられると困る。
涼やかにそう言葉を締めくくり、自分は臨終となった機械3台に目配せする。

不凋花ひぐれ > 「……」

『故障中』の張り紙をはりつけ、さも一仕事しましたといわんばかりに盛大な溜息をついた。
そうして機械からようやっと離れる。3歩ほど歩いたところ、何かぼん!!と致命的な爆発音が3つも盛大に響いた気がする。
しかし振り返らなければその存在を知らずにいられる。故に手前は悪くない。
炎の魔術を形成しようとしていた装置はほのかに火が燻る匂いがしていた。

不凋花ひぐれ > 「……よし」

そうし、やがて一定距離を離れる。フィールドの中心まできたところで、手にかけていた刀を抜く。
本当ならあのエレメンタルを発生させる装置より現れる物体をかち割る訓練をしようとしたが、故障中なら仕方あるまい。
居合いの構えは一瞬、目にも止まらぬ速度で納刀していた牙を剥いた。
翡翠色に発光する妖かしの剣は脈を打つように鼓動している。
素振りを数度、規則的且つ模範的な足捌きと共に。
先のことなど意識を与えず今は無心になろうと刀を振るう。瞼の裏に焼け付くような燐光が照らし輝いている。

ご案内:「訓練施設」に真乃 真さんが現れました。
真乃 真 > 「爆発だ!」

爆発音に引き寄せられてきたのか走って来た首にやけに長いタオルを巻いた男が叫ぶ。二度叫ぶ。
異能や魔術を実践するために作られたこの部屋は火事の心配は無いようには思う。
しかし、機械から煙が上がるこの状況は放っておくにおけない。

「そこの君大丈夫かい…?」

そう声をかけてしまってから少し考える。
特に気にした様子もなく訓練をしている少女の様子を見ればもしかしてあれで平常運転なのでは?
とそんな考えも頭によぎる。
腕章から風紀委員だという事も分かるしきっとあれで平常運転なのだろう。

それにしても綺麗な色の刀である。