2016/09/07 のログ
龍宮 鋼 >  
(ふと、周囲の様子が変わった。
 見たわけではない。
 が、視覚以外の感覚が普段とは比べ物にならないほどに高くなっている。
 一番近い感覚は、圧迫感。
 狭い部屋の中に居るような、もしくは部屋の壁が少しだけ中心に移動したような。)

あ?

(そこで致命的なミスを犯した。
 眼を開けた。
 普段とは比べ物にならないほど色々なものが「視える」眼を。
 思わず力を手放してしまう。
 結果、)

っ、しまっ――が、ああああああああああ!!

(当然のように、暴発する。
 自身の周囲に漂っていた魔力が爆発的に広がる。
 加えて自身の身体を巡る魔力も、全身の至るところで暴れまわる。
 身体が崩れるが、制御など出来ようも無い。
 暴れまわる魔力が右半身を中心に、体内で爆発を起こしたように弾け飛んだ。
 メキメキと右腕と右脚から骨と肉が軋む音がする。
 それは離れたところに居る彼にも聞こえるだろう。)

寄月 秋輝 >  
魔力防壁である程度防ぎきれた、のだろうか。
しかし中央の女性はずたずたになっていく。

(……面倒な……)

聞き慣れた骨と肉の潰れる音。
あれは絶望的に痛いんだよな、とひとりごちて。

(止めてみるか……上手くいくといいけど)

荒れ狂う魔力の嵐の中に踏み込み、刀を居合の形に構える。
先日失敗してしまったが、今回は上手くいくだろうか。
いや、上手くいくと信じて。

「八雲流抜刀術、月光剣……上弦!」

真っすぐに飛翔して接近、バレルロールと共に刀を振り抜く。
月光の刃は力を奪う刃、上弦の月を描く様な刀身の軌跡。
鋼の体を切り裂くことはなく、ただ内部の荒れ狂う魔力だけを切り裂く剣の魔力波を飛ばした。
自分の防御など後回しにして。

龍宮 鋼 >  
(荒れ狂う龍の意思。
 力だけを引き出そうなど甘かった。
 暴発が無くとも、あのまま続けていたらどちらにせよ結果は変わらなかったのかもしれない。
 しかし今そんな事に思考を裂いている余裕は無く、残った理性で必死に衝動を押さえつけ、)

――!

(剣閃が視えた。
 普段と見える速度が全く違うが、それだけではない。
 彼の刃が何を切り裂くのか、どういう意図で放ったものかまでが、はっきりと視えた。
 それでも尚、龍の意思がそれを避けることを選択した。
 のみならず、カウンターのように右手を振り上げるが、それだけは渾身の力で抑え込む。
 無理矢理に捻じ曲げた右腕がベキリと嫌な音を立て、折れた。
 そのまま着地し、両足で地面を抉りながら横滑りをして。)

――グオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!

(咆哮。
 龍の存在感と魔力を叩き付けるような、常人であればそれだけで意識を失いかねない威力を持った龍の咆哮を彼へと飛ばす。
 同時に右腕と右脚が二回りほど膨れ上がる。
 破れた衣服の下に鋼色の甲殻が見えるだろう。)

寄月 秋輝 >  
(……なんだと?)

まさかの回避。
人の目では認識することも不可能な速度の剣閃。
よしんば反応出来たとしても、魔力の剣閃を回避するのは難易度が高いはずだが。

(……まぁ、龍なら仕方ないか)

回避されたといえど、その反応はあっさりしたものだ。
バレルロールの回転を緩めながら空中へと浮き上がり。
凶悪な咆哮を、全身で受け止める。
『慣れていなければ吹っ飛んでいた』かもしれないが。

(……慣れてるんだよな……)

加えて魔装による防御力の向上もある、少し耳に響く程度だ。
空から女性をまっすぐ見下ろし、さてどうすればいいかと考える。
撃破は論外、無力化が候補、最高なのは彼女の本質を安全に取り戻すことだが。

龍宮 鋼 >  
(平時であれば反応は出来ても避ける事など出来ない剣閃を避けた。
 その事実は、自身の考えを裏付けるものではあったのだが、今はそんなことはどうでも良い。
 自身の身体で大暴れしている力の奔流をどう押さえ込むか、と言う事の方が大事だ。
 大人しく斬られれば戻るだろうが、力がそれを許さないらしい。
 となると。)

け、がァ……させ、たら――わる、い――ァァアアアアアア!!

(自身の身体が動けなくなるまで暴れるぐらいしか思いつかない。
 とりあえず、どうにもならなくなる前に先に謝罪の言葉を口にした――と同時に。
 背中が膨れ上がる。
 直後に、服を突き破って鋼色の翼が生えてきた。
 それを一度バサリと大きく羽ばたかせ、地を蹴る。
 地面が大きくへこみ、クモの巣のような亀裂が入る。
 彼のやや前方へと跳び上がり翼を振るえば、空中でその軌道を変えて彼へと身体ごと右腕を叩き付ける。)

寄月 秋輝 >  
冷静に、冷静に見つめる。
彼女は自身の力に追いつけていないのだろう。
だが理性はある、元に戻る可能性はある。

「……構いませんよ。
 必ずあなたを元に戻しますから」

謝罪の言葉には、微笑んで答えた。
優しい少女だ。
何としても救ってみせる。

≪真宵、魔力フルドライブ≫

『了解、第一リミッターを解除します』

思念での会話を刀と交わす。
全力で、彼女を止めるのだ。

限界ギリギリの魔力を解放、身体・知覚速度・魔装防御・刀の威力全てを極限まで引き上げる。

翼を広げた竜の右腕。

「月光剣、三日月!」

右手の刀を振るい、その右腕に叩きつける。
先ほどと同じく魔力を刈る力。
斬断することで少しずつでも力を削いでいく。
ただし、彼女の体には傷をつけないように、斬ることはないように設定してある。

龍宮 鋼 >  
(叩き付ける右腕に刃を合わせられる。
 先ほどとは違い、今度はこちらがカウンターをされた側だ。
 避けられず、右腕の魔力を刈り取られた。)

ゴォォォォォァァアアアアアアアアアア!!

(が、龍の意思はタダで斬られることを選んだわけではなかったようだ。
 奪う事に特化した魔力が彼の剣閃と魔力の一部を奪い取り、延ばした右腕に纏って叩き付ける。
 同時に背中の片方だけの翼でもう一度空気を叩き、更に加速。
 凶悪な咆哮と共に、更に突撃。)

寄月 秋輝 >  
「む……っ!」

『既に納まっている』刀を構え直し、再び居合で弾く。
が、自分の一撃を纏ったような、龍の一打。
直撃こそ避けたが、右腕の響きと痛みが走る。

ぐるぐると高速で回転しながら距離を取るが、次の突撃が来る。

「ぜぇいぁ!!!」

痛みの引かぬ腕で、その突撃に再び月光の刃を叩きつける。
守勢に回ってはいけない、それだけ自身のダメージが増え、彼女の限界が遠のく。
ダメージ覚悟で、力を削いでいかねばならないのだ。

龍宮 鋼 >  
(普段なら残像すらも捉えられないであろう彼の動きがはっきりと視える。
 それどころか、むしろスローモーションにすら視えるような感覚すらあった。
 視界だけではなく、その他の感覚も総動員して目標を捉えているらしい。
 龍の意思を必死で押さえ込みながらも、その力に笑いすらこみ上げてくる。)

――アアアアアアア!!

(しかしその表情は伺えないだろう。
 顔の右半分は鱗と甲殻に覆われ、口も右が大きく裂けている。
 額には角も見えていて、龍と人の不出来なキメラのような姿だ。
 刀の一撃にあわせぐるりと身体を回転させれば、腰の下辺りから太い尻尾が生えている。
 それを刀の横っ腹へ叩き付けるべくブン回す。)

寄月 秋輝 >  
(……速すぎる)

速度もさることながら、反応が異常に早い。
秋輝は基本的に、相手に反応出来ない速度で戦ってきている。
ここまで対応が完璧となると、どこまでやれるかわからなくなってくる。

「は……っ!?」

恐ろしげにすら見えるその顔を見ながら、尾の一撃を刀に受ける。
普通ならば折れるはずの一撃……しかし、刀が折れることはない。
オリハルコン製の刃が砕けることは無い、のだが。
それを握る、絶対に離れない腕はそうもいかない。
みしりと音を立て、骨に軋みが入り、耐えきれずに吹き飛ばされる。
凄まじい勢いで防壁に向かって吹き飛び、背中から思い切りぶつかる。
一瞬呼吸が止まり、右腕が震えて止まらない。

(……とんでも、ないな……)

彼女を無傷のまま止めることなど、出来ないのだろうか。
呼吸出来ないまま、冷静に考えるが。

(……止めるさ)

一瞬目を奪われた、龍と人のような顔から感じる『美しさ』。
あれを傷付けることは、秋輝には出来ないと感じた。
壁際で、震える手で刀をまっすぐに向けた。

龍宮 鋼 >  
(尻尾の一撃で弾き飛ばし彼を、その勢いのまま身体を回して正面に捉える。
 先の一閃でいくらか魔力を削られたとは言え、龍の魔力だ。
 削られた分などほんの一部だ。
 バサリと一度羽ばたき、顔を仰け反らせて息を吸い込むような動き。
 同時に周囲のありとあらゆる魔力を取り込み、体内で増幅させる。
 とんでもない量の魔力が喉へと集まり、それを吐き出すように顔を前に突き出して、)

――ッ!!!

(同時に左腕で自身の顎を下から殴り付けた。
 残った理性を全て左腕につぎ込んでの妨害である。
 ドラゴンブレスとして彼へ放たれる筈だった魔力は行き場を失い暴発。
 自身の身体はそのまま地面へ落下。
 それでも尚四肢を地面へ突き立てて身体を支えるも、明らかに動きが鈍い。)

寄月 秋輝 >  
ブレスが来る。
それを察した瞬間、自身の左手で鳩尾を下から打ち上げる。

「っげほぉ!」

横隔膜を無理矢理刺激し、酸素を取り入れる。
クリアになった視界で刀を構え直すが。

(……!?)

自分の手で、彼女はブレスを止めた。
まだ理性がある、彼女は狂いきってない。

地面に落ちていく姿を、全力で追う。
最大速度は音速を軽く超え、神速。
さらにバレルロールで空気を切り裂いて。

「八雲流抜刀術!奥義!」

抜身の刀、片手の居合ではなく、両手でしっかり柄を握りしめ、全速で迫る。

「月光剣、望月!!!」

バレルロールの回転に合わせ、剣を振るい抜く。
それはちょうど、鋼から見れば満月のように剣閃の膜が出来ていただろう。

何の遠慮も無い、魔力を、悪しき力を斬り『消す』、秋輝に使える最強の月光の刃。
これが通らなければ、手だてがない。最後の一手だ。

龍宮 鋼 >  
(刀が迫る。
 アレに斬られれば、暴走は止まる。
 が、同時に理解した。
 まともに斬られれば、自身は龍の力を失う事になる。
 半龍である自身ならば、むしろそのまま絶命する事もありえるかもしれない。)

――ッガァア!

(だから身を捩った。
 彼の剣閃をかわすのではなく、斬られる箇所をずらすために。
 弱った龍の力を、自分自身の渾身の力で抑え付け、はっきりと視えている刀の軌跡に自身の角を合わせた。
 声は出せない。
 だから視線を飛ばした。
 このまま此処を斬れ、と。)

寄月 秋輝 >  
(まだ反応出来るのか……!?)

技が止められない、これを避けられたら。

けれど、角が剣の通り道に見える。

「……そこ、か!!!」

望み通り、と言わんばかりに。
その角を、力を断つ刃で斬り飛ばす。
力は十分に制御出来ており、角を斬り飛ばしても鋼の力全てを奪ったりはしない。
全力で斬り飛ばし、自分もまたそのまま斬り抜けて飛翔していく。

ぐるりと体を回転させ、速度を殺し、鋼から大きく離れた場所に地面を削りながら着地した。

「どうだ……っ!」

ずきずき痛む右腕をよそに、彼女の姿を視界に納める。

龍宮 鋼 >  
(意思が通じた。
 角が切断される確かな感触。
 痛みは無いが、暴力的な意思が自分の中に沈んでいく感覚が確かにあった。
 しばらく身体を捩った体勢で止まっていたが、やがてピシリと角の付け根に皹が入って。
 その皹に左手の指を突っ込み、)

――オ、オオオオおおらああああああ!!

(叫びと共に引っぺがす。
 朽ちた木が倒れるような音と共に顔の鱗が引き剥がされ、尻尾や翼が崩れていく。
 右腕を動かせば右腕の鎧のような甲殻も剥がれ落ち、人間の腕が現れて。
 最後に脚の甲殻が地面へと落ちて、ガランガランと重い音が演習場に響いた。)

寄月 秋輝 >  
鋼が人の姿、になった。
恐らく成功したのだろう。

「……ふぅぅぅ……」

『フルドライブモード解除、リミッターセット』

刀からの言葉が飛ぶ。
割とギリギリの状態だった。
あと二回刀を振るう必要があれば、最終手段も使わねばならなかった。
使わずに済んでよかった、と大きく息を吐き、痛みの走る右手を動かして刀を納める。

「……大丈夫、ですか?」

痛む右腕を左の手で押さえながら近付く。

龍宮 鋼 >  
(見慣れたカタチに戻った右腕を、握ったり開いたりする。
 特に違和感は無い。
 しかし先までの過剰な情報を高速で処理していた感覚はもう無い。
 物足りないと言うか、明らかにスペックが不足している感覚だ。)

――あぁ。
悪ィな、巻き込んで。

(声を掛けられて、彼の方へ視線だけをチラリと向け、改めて謝罪を。
 上着は右側が殆どなくなっている状態で、右の脇腹に傷痕が見え、見るものが見れば刀傷だとわかるだろう。
 上着どころかTシャツと下着も役割を果たせない程に損壊しているので、上着を脱いで胸に巻きつけておいた。)

寄月 秋輝 >  
「よかった……」

最初と同じように微笑みを返し、大きな息をもう一度吐き出した。
骨には異常が無いと感覚でわかる。
筋肉はそこそこ切れたかもしれないが。

「あ、それ……僕のせいでしょうか……
 すみません」

無傷で止めるつもりだったし、回避されていたのだが。
もしかして自分のやってしまったことだろうか。
小さく頭を下げて謝罪しておいた。

龍宮 鋼 >  
――あぁ、オマエどっかで見たと思ったら。

(ふと、彼の顔を思い出した。
 いつだったか、墓地で見た顔だ。
 自身が話したのは一緒に居た女性の風紀委員の方だったから、印象が比較的薄かった。)

ん……古傷だよ。
オマエこそ、――手とか、大丈夫なのか。

(さりげなく右手を添えて隠すように。
 結構ざっくり行っているそれは、右手だけで隠せるようなものでもないのだけれど。
 そうして言いづらそうに彼の右腕を気遣うような言葉。
 自身を止めるために負った怪我だ、いくらなんでも気にならない訳は無い。)

寄月 秋輝 >  
「ええ、先日はどうも」

忘れていたわけではないのだが、いわばすれ違っただけだ。
既知の仲のように接するのはためらわれた。

「古傷でしたか、失礼しました。
 僕は大丈夫ですよ、この程度なら。
 ですから気にしないでいいですよ」

傷とはいえ、むき出しの女性の肌を見るものではないと、秋輝も目を伏せた。
右手は痛み、痺れているが、一日もすれば治る程度の物だ。
ぐぐっと右手を握りこんで、手を下ろした。

「今のは意図した暴走ですか?
 突発的に、意図せずに暴走していたのなら、さすがに対策を考えないといけないですけれど」

さておき、と未来の話を始める。
まっすぐに、鋼の目を見て。

龍宮 鋼 >  
(そういえば見られていたのだ。
 バツの悪そうな顔を背ける。)

そうかよ。
――待ってろ。

(それだけ残してすたすたと歩き出す。
 医務室に入り、救急箱を持って出てくる。
 室内には誰も居なかった。
 居たらもっと大事になっていただろうが。)

意図したっちゃあしてたし、してねェっていやぁしてねェ。
思ってたよりヤバイもん飼ってたみてェでな。
――手。

(彼の問いに答え、彼の横に腰を下ろす。
 胡坐をかいたまま救急箱をあけ、手で座れと示した後、短い言葉と共に左手を差し出す。)

寄月 秋輝 >  
「あ、はい……」

怒らせたかな、と思ってしまった。
だが待っていろと言われれば、大人しい。
戻ってきた姿には少し安心したものだ。

「……難しいところですね。
 ひとまず、揺り起こそうとしなければ大丈夫、といったところでしょうか?」

そう尋ねながら、座れと示されれば同じく腰を下ろす。
正座のまま、右腕を差し出した。
左手で袖をめくると、無理な負荷がかかったせいか、ところどころ内出血していた。
さらに痛みが走るからか、びくびくと時々震える。

龍宮 鋼 >  
(いつもにまして難しい顔をしているのは確かだ。
 しかし怒っているわけではなく、むしろこちらが怒られるようなことをしでかしたと思っている。
 つまるところ、気まずいのだ。
 普段は誰かに怪我をさせても放置するのに、わざわざ治療をしようと言うところがその証拠である。
 初対面に近い彼はそこまで読み取る事が出来るかどうかはわからないが。)

掘り起こそうとしなけりゃ、な。
そう言う訳にもいかねェけど。

(腕の内出血を見ても顔色は変えない。
 この程度は見慣れている。
 救急箱から医療用の冷却符を取り出し、その箇所に当ててテープで固定。
 必要は無いだろうが、一応その上から包帯を巻きつけておく。
 この辺の処置も手馴れたものだ。)

寄月 秋輝 >  
「……あなたも、強くなりたいんですね。
 龍の力を制御できるようになって」

その気持ちはよくわかる。
同じ気持ちを持っていたが故に、秋輝自身今の力を得たのだ。
死ぬ寸前まで自身を苛め抜き、人を越える力を宿したのだ。
目的はわからないが、強くなりたいという意志はよくわかるのだ。

「……すみません、わざわざ手当まで……」

小さく微笑みながら謝罪する。
今も厳しい表情をしているが、やはり優しい人なのだろう。
そう感じて、少しだけ心が温かくなった。

龍宮 鋼 >  
ケンカ出来りゃ良いと思ってたんだけど、最近会った奴らに影響されたかね。
――思い出したことも、あったしな。

(そもそも強さには興味が無い。
 どこぞの少年漫画の主人公のように、修行してまで強くなろうとも思わない。
 好きに暴れて、好きにケンカを出来ればそれで良いと思っていた。
 難しい顔のまま。)

俺のせいで怪我させて、もしそれが原因で誰かに負けて怨まれても困るからな。
借りっ放しは性に合わねェ。
――一日経ったら温シップでも貼っとけ。

(彼の笑顔が何だか面白くなくて、照れ隠しのようにぺしりと彼の腕を叩いた。
 そうして破れ放題の上着やらTシャツやら下着やらを剥ぎ取り、医務室から救急箱と一緒にかっぱらってきた新品のTシャツを着る。)

寄月 秋輝 >  
「……何か別の要因があるんですか」

力を求める理由は様々だ。
勝利が目的だったり、守ることが目的だったり。
そこまで踏み込んでも悪いと思い、ひとまずそれ以上聞くことはしないように。

「傷を負った状態で戦うのなんていつものことですよ。
 傷込みで負けたとしても、それは僕自身の弱さ……
 ったい!!!」

さすがに軽くでも、はたかれる刺激は内出血したばかりの腕には驚くほど響いた。
腕を抑えて悶絶しながら、勘弁してください、みたいな視線を向けた。
結果として素肌をちょこっと見てしまうことになるが、役得と思って黙っておく。

龍宮 鋼 >  
――別に。
ガキの頃のオモイデだよ。

(どうにも喋り過ぎた。
 怪我の治療で借りを全て返したとは思っていない。
 その負い目からだろうか。
 適当に誤魔化す事にした。)

オマエの都合なんかしらねェよ。
俺が困るっつってんだ。
――調子狂うぜ全く。

(悶絶する彼を無視し、溜息を吐いて立ち上がる。
 救急箱の蓋をして、ゴミになった服と一緒に持ち上げて。)

帰るわ。
――礼は言っとく。
助かった。

(ぶっきらぼうに告げて、歩き出す。
 救急箱を医務室に戻しておいて、手をひらりと振りながらその場を後に。
 問題はまだまだあるが、糸口は確かに掴んだ。
 あとはいつも通り、血反吐を吐くだけだ。)

ご案内:「演習施設」から龍宮 鋼さんが去りました。
寄月 秋輝 >  
「……十分に気を付けてくださいね」

去ろうとする背中に囁く。
聞いたかどうかはわからない。
ただ、放っておくと同じ事が起きそうな気がした。

思わぬ全力の運動が出来てしまった。
それはそれでいいのだが、右腕が今日一日は使えまい。

「……まあ、すぐ治るかな」

右手を一度握りこみ、一つ頷いた。
出口付近に置いてきた鞄を回収し、外へ出ていく。
再び、日常へ戻るため。

ご案内:「演習施設」から寄月 秋輝さんが去りました。