2016/10/20 のログ
ルベール > 「あんだよ、女だと舐めたおめーが悪い。」

相手の足がふらついていることに気が付き、言葉を吐き出す。
それでもまだ、拳は生きている。容赦なく顔を狙って突き刺してくる拳を首を振って避けつつ、次第に二人の距離は近づいて。

「来いよ。」

ぐ、っと足を広げて正対するように構え、重心を少し低く。
所謂アストライドポジションに構え合う。
フットワークが相手が使えなくなったと見るや、自分のフットワークも封印しての、真正面からのど付き合い。

「いっ……」

ばぐ、っと思い切り顔面に左拳を食らって仰け反りながら、自分の左拳も相手の脇腹にねじ込む。
そのまま右の拳で相手の顔を狙って肩に拳を叩きつければ、相手の右拳が今度はこっちのボディを抉る。

楽しい。楽しい。
足を止めての殴り合いをしながら、女の顔は愉悦に歪んで。
素人の殴り合いがボクシングへと昇華され、それをあえて殴り合いに引き戻し。

「んだ、らっ!!」

殴り合いで負ける道理は無い。
左の拳で相手の叩きつけてくる右拳を払いのけ。
がら空きになったボディ、顔面に二連発を叩き込む。

相手が倒れ伏す中、女はそのまま迷うことなくマウントを取りはじめ。
審判に引き剝がされる。

試合そのものは勝利するも、狂犬のような女はものっそいどや顔でブーイングを浴びるだろう。

大河 > 「おー、勝ちやがるか、あそこから」

流石に相手の経験分、向こうに分があるかと思ったが、予想外の勝利に驚きを見せる。
相手側のスタミナ切れ空の、自身の得意とするであろうドツキ合いへ持ち込み
そうして最後は真正面からの勝負で制しての完全勝利。
ああまでされたらしばらくは立ち直れないだろう。
運が悪かったな、と内心相手に同情しながら、ぼこぼこで勝利のどや顔を見せる女に少し吹き出す。

なお、ルベールが予想していたよりも罵声の言葉は少ない…どころか、意外にも賛辞の声すらちらほら送られてきた。


さもありなん、あの胸についた豊かなものが弾む様を見て、目の保養にならない男などそうはいないであろう、自分も含めて。

龍宮 鋼 >  
(ブーイングや賞賛の声を浴びせられる彼女。
 彼女を見ていたら身体を動かしたく――正確には、暴れたくなってきた。
 彼女へ好戦的な視線を飛ばしながらリングへと乱入するつもりで近付いていけば、しかしギャラリーの中にどこかで見たような顔が居た。
 面識はない。
 しかし同じ落第街を縄張りとするものだ。
 どこかで見た顔と言うのは、意外と少なくない。
 そう、彼は確か――)

――よう便利屋。
仕事か。

(そう、確か何でも屋だったはずだ。
 彼の横を通る際に足を止めて声を掛けた。)

ルベール > 「いってぇいってぇ。あんにゃろ、しこたま殴りやがって。」

 ぷひー、と吐息をつきながらヘッドギアを外す。
 ファンタジックパワーとファンタジックタフネスを兼ね備え、
 空っぽの知能まで合わさっている。
 観客の賞賛の声や視線に気が付かずにどや顔をしつつも、シャツが汗で濡れていることに気が付けばちょっと気恥ずかしそうにタオルを首にかけて隠した。
 普段は気にしないけど。

 いくつかの鋭い視線にも気が付いていて、この島は退屈しねーな、と思う。
 おそらくこれは撒き餌になり、もっと強いやつがひっかかるのだろう。

 それも良い。
 とりあえず今はどや顔を1カメ、2カメ、3カメの順に向けつつ満喫しておこう。
 カメラ無いけど。

 というわけでリングを降りようとしつつ、集団の中にいる二人にも気が付いて。
 まだ、特別な感情は無い。

大河 > 「ん?あー、お前は…」

名前を覚えるのがやや苦手なのか、はて誰であったかと記憶を探る。
まず浮かんだステンレスという単語を口にしそうになるが
それが禁句だったのをセットで思い出して

「誰だっけかお前…。」

結局、思い出せないので素直に聞く事にする。
先程のこともあり胸に視線が行くが
とても悲しい格差に一瞬哀れみの視線を向けた後、すぐ顔に戻した。
と、丁度その時、降りてくるルベールが視線に留まる。

「よ、お疲れさん。面白いもん見せてもらったぜ。」

自身が探している相手だとは毛ほども気づかず、気軽に賛辞の声をかける。
何よりも相手を完全に真正面から叩きのめすそのスタイルは、見ていて気持ちがよく
男としても好感の持てる試合であった。

「あんた格闘技か何かやってたのか?後半すげえいい動きしてたけどよ。」

疑問に思った事を素直に口にする。

龍宮 鋼 >  
ッハ、だろうな。

(顔は知られている方だと思うが、名前まではそうでもないだろう。
 彼が知らなくても無理はない。
 こちらだって彼の顔と職業しか知らないのだから。
 気にしていないと言う様に笑う。
 彼の視線にこちらも視線を下げるが、いつもどおりの胸が見える。
 彼女と比べてしまえば見劣りはするが、無いと言うほどでもない。
 そんなもの、気にしたことも無かったのだけれど。)

おう、まだ動けるだろ。
俺ともやろうぜ。

(リングから降りた彼女へ、彼の言葉に被せるようにそう言葉を投げかけて。
 他にやりたいやつもいるだろうが、こんなものは早い者勝ちだ。)

ルベール > 「面白かったろ。褒めてくれてもいーぜ。」

 にひひ、と明るく笑ってどやーっと胸を張り、全身から褒めてオーラを出していく。
 闘争中とは打って変わって、駄犬のよう。

「ん、……あーいや、他の世界からぷわーっとなんかここに来ただけ。
 前んとこでは戦争とかそういう。」

 剣とか斧とか。両方の指を打ち合わせて、闘争を表現する。
 さも当たり前、といった表情でそれを伝える辺り、戦いが日常だったのだろう。

 ……と、そこにかけられた声に、瞬きを2回。

「いいのかい。」

 本当に。 ……そう、逆に問う。挑発というより、本心だろう。
 ルールすら問わぬまま、グローブをぎゅ、っと固めて。

「嬉しいねぇ。
 前の世界じゃ、紅のルベールって言やあ、人がいなくなっちまう。」

大河 > 「ああ、いろんな意味でいいもん持ってるから俺「等」もいい目の保養になったぜ。なあ?」
そういって意地の悪い笑顔を、周囲の男性達に向ける。
男の言葉に含まれた意味を分かっていたのか、周囲の何人かの者達の視線が余所余所しくなり。

「あー、切った張ったの世界の奴か…そりゃセンスもいいわけだ、じゃなきゃ今頃天国だしな。」

ルベール程ではないが、男もまた生きるか死ぬかの世界を潜り抜け続けてきた人物であるが故か
出身地に関する会話に、そこまで驚いた様子は見せない…と
会話に割って入るように、もう一人の女…龍宮の威勢のいい試合の申し込み。

「お前その怪我でやんのか…ま、あんたがやるってならいいけどよ。
女同士のキャットファイトの方が、俺とやるよりギャラリーも沸くだろうしよ。」

そういって、引き下がる。が、ルベールの名乗りにその無気力な様子に一瞬、張り詰めた空気が漂う。

「おい…いや、何でもねえ。」

何かを言おうとするも、そのまま引き下がる。
スポーツとはいえ女に手を上げる趣味はないというのもあるが、それ以上にあんなに闘争そのものを楽しむルベールが
意味もなく、闘いにすらならないであろう者に手を上げるものかという、疑念が沸き始めていたからだ。

龍宮 鋼 >  
(戦争とかそう言う世界から来た。
 なるほど、動きがいいわけだ。
 楽しめそうだ、と笑いながらリングに上がる。)

そっちこそ、この龍宮鋼を舐めてんじゃねェぞ。

(ギャラリーから投げられたグローブを手に嵌め、構える。
 右手を前に、胴の前へ下げてゆらゆら揺らす、変則のサウスポースタイル。
 同時に軽くステップを踏む。
 リングの周りのギャラリーの一部がざわついている辺り、落第街の住人も一部混じっているのだろう。
 なにやら彼女の事を知っているらしい男のことは気になるが、リングに上がったのは自分だ。
 これは、自身のケンカだ。)

こんなもん怪我のうちに入るか。
――それに、キャットファイトにはなりそうにねェ。

(どちらかといえば、猛獣同士の噛み合いと言った方が正しい気がする。
 彼女がリングに戻れば、彼女を中心に左回り。)

ルベール > 「……?」

 ひょこん、と首を傾げて、……まあ、センス的なそういうものなのだろう、と自己完結をして、どや顔に戻る。ぺかー。

「そそ、そういうこと。
 まあ……何、ここでやるのは戦争じゃない。その違いくらい判ってるつもりよ。」
 にひ、と笑いながら手を軽く振って。
 即座にマウントを取った女の言い分とは思えない言葉を吐きながら、相手の問いかけに少しだけ首を傾げて、またリングに上がる。

「………嫌だねぇ、どんな怪我でも、怪我は怪我だっての。」

 言いながらも、そこに本気の声は無い。
 ゆるぅりと構えながら、左回りで回る相手を身体を回転させ、正対するように追いかける。

 おそらく、この手の相手はスタイルを上手く変える程度では対応できまい。
 両手を広げて、相手を威圧するように制空権を広げ、じり、と摺り足で相手に寄る。
 相手は動いているのだから追い詰めることはできずとも、じり、じりと圧迫感を与えるような動き。

 拳はきりきりと握りしめられ、まだ一度も振られない。

大河 > 「…」

依頼の事は気になるが、それ以上に二人の放つ尋常でない闘気…否、今にも飛び掛らんばかりのそれは、既に殺気と呼ぶに相応しいか。

ああは言ったものの試合を終えて消耗したルベールは、長期戦は辛いものがあるだろう。
対する龍宮(名乗りを聞いてようやく思い出した)も、あの傷で長く戦うのは幾らタフだとしても
流石にしんどい筈。それが噓ならばまた別だが、少なくとも彼女の噂を聞く限りではそういった人物ではない。

そうなれば、互いに狙うのは恐らく…
先程までとは違い、真剣な様子で試合の流れを見守る。

龍宮 鋼 >  
(相対してみれば、改めて先ほどボクシングを始めたばかりの素人とは思えない威圧感だ。
 その構えはおそらく我流だろう。
 手を出しやすい位置においている、防御よりも攻撃を重視した構えに見える。
 自身と同じだ。
 ニヤリと笑う。)

――ッシ!

(ならば、と挨拶代わりに右拳を走らせる。
 下から浮き上がるように伸びてくる、独特の軌道のジャブ。
 慣れていなければそうやすやすとは捌けないモノだが、果たしてどうか。)

ルベール > 彼女は学んだ。
この競技の一番速い打撃は、かわせない。ガードを固めるしかない。
それを理解した上で……攻撃に反応する。

「っぐ、っ……!」

ジャブをそのままボディで受け止める。
みしり、っと拳をねじ込まれながら、歯をぎりりと噛み締め。

左の拳をその右の腕にたたきつけるように振り下ろす。
パンチとも言えぬ、槌のような振り下ろし。
避けなければへし折らんばかりに、殴りつけるのだろう。

己より線が細く見える相手だからこそ、抜き身の刃での削り合いに活路を見出す。

龍宮 鋼 >  
(放った拳は防がれなかった。
 ほう、と感心したような顔。
 彼女の学ぶスピードは流石に驚異的だが、それでも攻撃を呼んで避けると言う行為は一朝一夕に身につくものではない。
 ならばあえて受けると言うのは間違った判断ではない。
 伸ばした腕に振り下ろされる拳。
 だが、ジャブと言うのは放つときにだけ早いというものではない。
 戻す速度もまた高速だ。
 彼女の拳が振り下ろされる頃には、既にそこにこちらの拳は無い。
 鞭のように引き戻され、その反動で腕を引き絞り、再度放つ。)

――オラどうした、紅のルベール!
大層なのは二つ名だけか!

(速射砲のように二発三発と拳を繰り出していく。
 顔へ、腹へ、真っ直ぐだったりフック気味だったり、たまに途中で引き戻したり。
 放つ位置もその都度微妙にずらし、名の通り鋼のような拳で続けざまに殴りつけていく。)

ルベール > 「っつっ、…んぐっ…!」

 お互いに削り合う、というわけにもいかずに拳が食い込む。
 両腕を上げてそれを受け止めながら、その重さにやべーな、と舌打ち。
 石を城の上から投げ下ろされた時の衝撃に近い。

 打たれて慣れるにゃあ、ちょいと危険に過ぎる。
 それでも打開策を見つけられぬなら、それこそしばらくはサンドバッグのように殴られるしかない。

「ほう。」

 気持ちが昂る。炎が生まれそうになるのを抑え、歯を噛み締めながら。
 ならば。

「ふん、っ!」

 拳に拳を叩きつける。
 相手の軌道を見切る、というほどでもない。
 けれどもどこを狙っているかは、打たれているうちにわかってくる。
 そこに合わせる。
 避ける相手にあてられぬと割り切った攻撃は、勝ち負けすら度外視したかのよう。

龍宮 鋼 >  
(何度も殴っているうちに、拳を殴られた。
 横合いに弾かれる右拳が、ビリビリとしびれる。)

ッちィ――!

(舌打ちをしながらも、その顔には笑みが浮かぶ。
 こいつは、遊べる。
 その喜びを前面に押し出したような笑顔。
 しかし、戦況はそれほど有利でもない。
 左――放っているのは右拳だが――の差し合いならばこちらが有利だろう。
 しかし、こちらは主砲が使えない。
 左手がろくに握れないのだ。
 彼女がパンチを掻き分けて潜り込んでくれば、それはひっくり返る。)

――ッだまだァ!

(だから、脚を使う。
 距離を取りつつ拳を繰り出し、ガードの隙間に潜り込ませるように。
 弾かれても尚、弾幕のような拳を射出する。)

ルベール >  フットワークを覚えたばかりの彼女は、自分の能力を理解している。
 どれくらいの速度で相手へ詰めて、どの程度小回りが利いて。
 その上で、単純に追いかけるだけでは無理だという判断が下される。

 あえて鈍い速度で追いかけながら、両の腕をぎゅう、っと握りしめて。

「まだまだは、……こっちの……ぉっ!!」

 脚をいくら使われても、こちらに殴りかかってくるその瞬間だけは、拳は自分めがけてとんでくるのだ。
 その数が多くなればなるほど、それに合わせるように繰り出される拳がかすめ合うことは増える。

 狙うは、正面衝突。
 お互いの拳がぶつかりあって、どっちの骨がくたばるか。
 相手の顔や身体に届かぬ拳はむやみやたらに振り回しているようで、半ば狂気のような狙いをもって、ひたすら攻撃に合わせる。

 いいのをがつん、と貰って意識が遠のくも、舌を少し嚙んで、踏みとどまり。


 もう一つの狙いは、己の足。
 まだ動く状態のまま、あえて鈍く、鈍く。
 先の戦いでも全力でのフットワークは見せていない。
 一瞬だけなら、相手の予想より速く、詰められるかもしれない。

大河 > 言うまでもないが、男は拳闘に関してはど素人である。
だが場数を踏み、異能を用いてまで戦いに明け暮れた結果、相手が何をしたいのか、何を狙っているのか等は
獣じみた戦いへの嗅覚と直感で、本能で感じ取れる。

龍宮が狙っているのはルベールと最もシンプルで最も埋めがたい、種族というフィジカル面での差と、拳闘の技術差を押し付け
そのまま押し潰さんとしているのだろう。

対してルベールは…肉を切らせて骨を絶つ、といったところか。
アレほど頑丈な人物と拳と拳の相打ちとなれば、想像を絶する苦痛だろうが
それは相手側とて同じ事。
加えて左は傷のせいか、明らかにそちらの動きは精彩を欠いている。
狙うならば、恐らくそこしかないだろう…何か別の狙いがない限りは。

男は勿論、その壮絶な試合内容に先程まで騒いでいたギャラリーも、しんと静まり返り、決着の時を待っている。

龍宮 鋼 >  
(彼女の拳がこちらの拳を捉えることが多くなってきた。
 読みづらいパンチとは言え、流石に見せすぎたか。
 それとも、彼女の学習能力の高さを褒めるべきか。
 どちらにしても、彼女の狙いはわかっている。
 ならば、それに対してどう動くか。)

――ッハ。

(笑う。
 そんなもの、考えるまでもない。
 拳を放つ。
 今までとは違い、引き手の速さよりも放つ速度を重視したパンチ。
 その拳でこちらから彼女の拳を狙う。
 狙っているのなら、乗ってやろう。
 拳が砕けようが知った事ではない。
 元よりそう言うケンカを好んでいるのだから。)

ルベール > 「………やるぅ…」

 ぐしゃりと音がした。グローブから血が流れ落ちて、唇が持ち上がって笑い。
 自分の左と相手の右が交錯し、こっちの拳はくたばった。
 口笛でも吹きたいくらいにいい気分。

 ラストミッション。

 お互いの拳をぶつけあったその直後、下腿の筋肉がギリギリと唸りを上げ。
 だんっ、とリングを蹴って相手に突進する。
 今回の勝負で見せた速度の数倍。先ほどの試合の1.5倍ほど。
 そのまま肩をぶつけるようなタックルと共に、右の拳を全力で振り下ろさんとする。

 存分に力の入ったテレフォンパンチは、避ければそのままリングに突き刺さるほどの打ち下ろし。

龍宮 鋼 >  
(こちらは流石に彼女ほどではない。
 が、それでもこの試合中は使い物にならないだろう。
 これで両拳が使えない。
 加えて迫る彼女の身体。
 両手が使えなくば、それを止める術は無い。)

ッだらぁ!

(だから、左の拳に力を入れた。
 それだけで砕けそうな激痛を無視し、振りかぶる。
 避ける選択肢はない。
 叫び、彼女の体当たりを肩で受けて。
 そのまま彼女の右腕の更に外側から振り回すように被せる。
 彼女の拳が自身の頬にぶち当たり、視界がぶれた。
 それにかまわず、左拳を正確に、彼女の顔へと叩き込もうとブン回す。)

ルベール >  右をぶち込んだ瞬間に、こちらの視界も一瞬ぶれて。
 そのままぐらりと倒れる。

 こんなにどつきあったのはいつ以来だろうか。
 そう、元の世界の王と殴り合った時、こんな感じだった気がする。
 ほぼほぼ殺し合いだったけれど。

 いろいろとふわふわ思い出しながらいい気分でその場に倒れ伏して。
 無理無理、と首を振ってぽんぽんとリングを叩く。ぎぶぎぶ。

 意識が飛んでいないことが異常なのだが、それに気が付くのが何人いるか。

龍宮 鋼 >  
(視界が揺れる。
 視界が傾く。
 それでも、膝はつけない。
 主砲のカウンターだ、自身の耐久力でも倒れてもおかしくないほどの威力のパンチだった。
 それでもなお、震える脚で立っている。
 彼女と同じく、こちらもまた異常。)

あー、――やっべェ。

(左のグローブからは血が流れていて、感覚がない。
 殴られた彼女ならば、その感覚から左腕がグチャグチャな状態だとわかるだろう。
 ずるりとグローブを外せば、本来曲がらない角度まで曲がってしまっている指。それを見ながら、おかしそうに笑う。)

まぁ、楽しかったし、いいや。
――おい、大丈夫か。

(倒れる彼女へ右手を差し出した。)

ルベール > 「……無茶言うなっての。
 大丈夫じゃない、大丈夫じゃない。」

 言いながら右手で軽く手を握り、立ち上がる。
 頭が多少ぐらつくも、舌をぺろ、と出して。

「………おー、こんだけやられたのは久々だわ。
 唇も噛んじまうし、この島は面白いもんだな。」

 くっく、と笑って視線を落とす。
 左の拳はいろいろ壊れているだろうけれど、気にする素振りは無い。
 ただまあ、流石にしばらくは暴れる仕事は控えるのだろうけど。

大河 > 倒れこむルベール、それが試合終了の合図。
先程まで静まり返っていたギャラリーは一転、皆が一斉に歓声を上げる。

「うおおおおお!!ふたりともすげえええ!!!」
「最後のカウンターやばかったな!あんな傷で撃ってくるなんておもわねえよ」
「倒れた方は連戦じゃなかったらわかんなかったかもなあ」
等、各々が試合内容を振り返る。

「…」
そんな中、ただ一人あの男だけは、何も口にせず一人その場を後にする。

「話、聞きなおす必要があるかもな…」


後日、どこぞの弱い者から巻き上げるのが趣味のごろつき共が
悲惨な状態で道端に転がされる事になるのは
また別の話。

ご案内:「訓練施設」から大河さんが去りました。
龍宮 鋼 >  
そんな口叩けりゃ上等だろ。

(そう告げて彼女を引き上げる。
 お互い拳が片方ダメになったが、久しぶりに楽しかったから、それでいい。)

こっちのセリフだ、思いっきりブン殴ってきやがって。
殺す気か。

(ド、と彼女の腹を、右の拳で軽く小突く。
 そうして黙って去っていく男を見つけた。
 何の仕事だったのかはわからないが、その用事は済んだのだろう。
 それを見送って、さっさとリングを降りてしまう。)

楽しかったわ、オマエとのケンカ。
またやろうぜ。

(出来れば今度はお互い万全な時に。
 そうして左手を無理矢理整復し、再び包帯とテーピングでガチガチに固定する。
 その間、彼女と色々話したり、了承されれば連絡先の交換なども行っただろう――)

ご案内:「訓練施設」から龍宮 鋼さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からルベールさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に加賀智 成臣さんが現れました。
加賀智 成臣 > 「………。」

例の事件から少し経って。
異常な状況での事件は事故として処理され、加賀智は釈放された。
しかし、加賀智にはもう一つやるべきことがあった。

それは、「異能の検査」。
今までほぼ行っておらず、異能の変質の可能性もある。
そして何より、加賀智は数十年前、常世学園入学当初からずっと異能検査情報の更新をしていなかった。
今回の事件での調査でそれが浮き上がり、検査をするように言われたのだった。

加賀智 成臣 > 滞りなく検査の申込みをして。
滞りなく検査を終わらせて。
滞りなく結果を待った。
そこまでは良かった。

しかし今現在、加賀智は



『おい!対怪異現象防壁の準備はまだか!?』

『早くしろ!』

『嫌だ、まだ死にたくない!!』

『馬鹿、叫ぶな!被験体を刺激するぞ!!』


「……?」

重装備の機動隊員に取り囲まれていた。

加賀智 成臣 > 「あの」

『!!!』

びくっ、と。怪物すら撃ち殺しかねない程の殺意を持った機動部隊が、自分の一挙手で身を震わせたのがはっきり見えた。
一体これは、どういうことなのだろう。

「…………。」

しばらく、そうしていた。
緊張が解けるなどということもなく、加賀智はベンチに座り、機動隊員はそれに銃を向けていた。

『……加賀智、成臣くん、だね?』

「……あ、どうも、先生…。」

そこに歩いてきたのは、担当医。
この異能検査を担当している人物だ。……恐ろしく神妙な面持ちをしている。

「あの、これは」

『………。』

担当医は、一枚の書類を加賀智に渡し、逃げるようにその場を去った。
その目には、恐怖の色がありありと浮かんでいた。

加賀智 成臣 > 「…………。」

そこに書いてあったのは、『加賀智 成臣』。
つまり、自分の異能診断書であった。

「……………………。」

その書類に、目を通す。

【登録年齢:19
 身長:189cm
 体重:65kg BMI:18.2 非常に痩せ型】

肉をもう少し付けたほうがいいかな、と思った。

【喘息持ち】

たしかに、喘息を持っている。
しかし、不死なのに何故喘息だけが治らないのか、それは不思議だった。

【異能:】



「………え?」

加賀智は、目を疑った。
そこに書いてあったのは、『不死』の文字ではなく。






【異能:クラスEX 《周囲への甚大かつ不可逆な破壊を発生させる可能性のある異能》】


【能力:《原理不明の能力による、局所的な現実現象の改変・変質》】

【備考:本人はこの能力の発生原理について完全に無知であり、無意識のうちにこれを使用している可能性がある。
    今後、操作方法を仮に覚えたとしても非常に危険であることを進言しておく。
    彼の不死については副次的なものであり、これは彼が



        死にたくないと思っていることによる現実改変の産物であると考えられる】



という文面であった。

加賀智 成臣 > 「……………?」

書いてある意味が、分からない。
自分の能力は、不死のはずだ。そんな大それた能力ではない。
違う。そんなものではないはずだ。

そう思い、周囲を見渡す。
そうだ、僕の能力は、不死の能力で



ぱん、と乾いた音が響いた。
加賀智の眉間から、鮮血が吹き出す。

『馬鹿、発砲許可は……!』

『ち、違います、トリガーに触れてないのに、弾丸が勝手に……!!』



「……は、はは。」

『!!』

もしも、僕が心底では死にたくないと思っているのなら。
それこそ、僕は



「ほら、僕は……『死なない』……。」


涙を流しながら、脳症を流しながら、血を流しながら……
加賀智は、微笑んでみせた。

ご案内:「訓練施設」に烏丸秀さんが現れました。
加賀智 成臣 > 頭のなかで、ロジックが組み上がる。
それは、加賀智の思考とは裏腹に、勝手に。

『なぜ、いじめが『加賀智を殺す』ほどに必ずエスカレートするのか?』

『なぜ、加賀智の持病である喘息や体の弱さだけが不死の肉体で治らないのか?』

『なぜ、『詰み』を防止するなどという異様なほど都合のいい不死が存在するのか?』

『なぜ、加賀智がいる場所に高確率で『加賀智が死に至る』ほどのトラブルが発生するのか?』


『それは』




「…………。」

『っ!!』

ゆらりと立ち上がる。
それと同じように、銃口も加賀智の頭を捉えるようにその角度を変えた。
しかし加賀智は、それに目もくれずにゆらゆらと揺れながらその場を後にする。

全ては……



『加賀智 成臣の』 『自己満足のため』 『自己顕示のため』

『傷付けられることで、充足を感じていたから』

『周囲の人間に死んでほしくないなどと調子のいいことを言っていたのは』

『自分が死んでいて相手が生きている、『自分のほうが苦労している』という無意識の自己顕示を満たそうとしていたから』


「…僕は……僕は、死なない……
 死なない、死ねないんだ……

 は、はは、ははは……ははははははは…………!!」

烏丸秀 > 機動隊の奥から一人。
着物の学生が、無造作に歩いてくる。

彼の目には恐怖も怒りもない。
ただ、どうしようもない感情が渦巻いていた。
それは――好奇心

「はいはい、どいてどいて~、ほらほら」

怯え、遠巻きに囲むだけの機動隊をかき分けて進む。
烏丸を止めようとする者も居るが、すいすいと避けて進む。

やがて、加賀智の側へと至るだろう。

「や。キミが加賀智君?」

加賀智 成臣 > 「………は、はは。」

ぐるりと、その方向に首を向ける。
へし折れたかのように不自然に曲がる首の顔は、この世のものとは思えない、死人のような顔をしていた。

「はい、僕が加賀智です。何しに来たんですか?
 僕は死なないといけないんです。今すぐ。何処かで。」

加賀智の顔には、笑顔が貼り付いていた。
悲しげで醜い、悍ましい笑顔だった。

烏丸秀 > いやぁ、ひどい顔だ。
今すぐ死にたい。でも死ねない。死にたくない。
まぁ、そんな色々な感情がこびりついた顔とは露知らず。

「まぁまぁ。ちょっとキミとお話がしたいんだよね。
ボクは烏丸秀。キミが殺そうとした冥の……」

そこでふと言葉が止まる。

冥の、はて、なんだろう?

恋人ではないし、同居もしてないし、同棲もしていない。
かといって他人というわけでもただの友達でもないし……

「……愛人?」

セフレよりかはマシな表現だが、それでもひどい。

「で、死なないといけないそうだけど。
その様子じゃ難しそうだね?」

加賀智 成臣 > 「…………。」

ぎしぎしと音が聞こえる。

「ああ冥さんですか。僕が入院させたんでしょうね。申し訳ないことをしました。僕みたいなクズのために入院してしまうなんて。
 でも大丈夫です。『死んでお詫び』しますから。僕が死ねばみんなスッキリするでしょう。それで良いんです。」

饒舌に、普段からは考えられないほどの速度で言葉を紡ぐ。
ぎしぎしと音が聞こえる。




「僕は死ぬんですよ。」

ばきっ、と音がする。
見れば、上からこぶし大のコンクリートが落下してきていた。
天井が欠けたのだろうか、それは烏丸の頭上をめがけて落ちる。

烏丸秀 > 「いやぁ、無理じゃないかな」

烏丸の頭上にコンクリートが落ちる。
それは彼の頭を掠め、頬に血が流れる。
だが、烏丸は気にせず話を続ける。

「だってそうだろう。キミは……いや、『ボクら』は本質的に『生きて他人に迷惑をかけ続ける存在』だからね。ほら、言うじゃない、憎まれっこ世に憚る、って」

くっくっと笑う。
血が流れ、埃を少しかぶっているが。
それでもその顔は輝き、本当に嬉しそうだ。
目の前の少年、加賀智成臣とは正反対に。

「珍しいよね。ボク、自分とそっくりな人間って初めて見るよ。
もっとも……」

烏丸は指を折って数え始める。

「 キミは自分が大嫌いで
    ボクは自分が大好き 」

数え続ける

     「 キミは自分を壊し続け
         ボクは他人を壊し続ける 」

何が起ころうとも止まらずに

              「 キミは『万能』で
                  ボクは『無能』 」
 
そして肩をすくめて言う

「表に見えている部分は、正反対だけど」

加賀智 成臣 > 「……ちがう……」

どろりと、目から血の涙があふれる。
コンクリートは砕け、周囲に散らばった。

「僕は、あなたとは、ちがう。
 違う、違う…!同じじゃない、違う……」

天井から、バスケットゴールが降ってくる。
これも、「唐突に現れた」。現実を書き換える、その力で。
目の前の烏丸から流れる『現実』を、排除しようとして。

「僕は、死ななければ……
 しななければ、ならないんだ……!!」

死ななければならない。
そうしなければ、自らの全てのエゴを、真正面から受け止めることになるから。
そうしなければ、自らの全ての罪で、真正面から貫かれることになるから。

今まで、自らの自己顕示を満たすために他人になすりつけてきた罪悪を、受け止めることになるから。

烏丸秀 > 「無理って言っただろう?」

バスケットゴールが烏丸を直撃し、嫌な音がする。
左腕が折れたか。
だが、烏丸は一向に気にせず、加賀智に話し続ける。

「キミ、どんなに他人を殺せても、『自分』は殺せなかったじゃない。
だから、ボクも殺せないさ。いや、すごく痛いけど」

烏丸は彼に突きつける。
自分が見てきた『現実』を。

「ボクらには『物語』が無い。
自分が主人公の『物語』がね。
だってそうだろう」

そして烏丸は、『加賀智の下』へと辿り着いた。

「ボクは現実世界のありとあらゆる幸福を持って生まれた。
キミはありとあらゆる現実世界を思うがままにする異能を持って生まれた。
そういう人間はね、自分が主人公の『物語』をもてないんだよ」

烏丸が加賀智を見る目は、この上なく自愛に満ちている

「だってそうだろう。つまらないもんね、そんな主人公の『物語』は」

まるで、朝に鏡で自分の容姿がバッチリ決まっているのを見ている目のようで。

「だからキミは『弱者になる事で物語の主人公になろうとした』。
いやぁ、大概だね、キミ。誰よりも強いくせに、誰よりも弱いフリして主人公になろうだなんて」

加賀智 成臣 > 「ちがう ちがう ちがう ちがう ちがう!!
 ぼくは、だれもきずつけたく ちがう ぼくは、しにたくて
 ちがう ちがう!ぼくは だれも ころしてない!」

喉から血が湧き出る。叫びすぎて、喉が潰れそうだ。
それでも目の前の「自分」は、歩き続ける。

「ぼくは……ちがう、ぼくは」

自分の世界が崩れていく。
自分の過去が崩れていく。
自分の存在が崩れていく。


全ては、自らの思うがままに書き上げられたものだったのか。

今まで生きてきたことは、何もかもが自作自演の駄作だったのか。


今まで関わった幾人もの人々は、全て自分の操り人形だったのか。



「ぼくは」

烏丸秀 > 「おめでとう、キミはようやく『自分』を理解したね」

自分が壊れた所は見た事がなかったが。
いや、なかなか趣があるものだ。

誰かが壊れる事。
誰かの世界が壊れる事。
誰かの『物語』が壊れる事。

それこそが、彼の根源から求めるものだから。

「キミは誰も殺していない
   キミは誰も傷つけていない
     キミは誰にも迷惑をかけていない」

でも、その代わりに

               「キミは誰とも交われない
                  キミは誰とも繋がれない
                    キミは誰からも愛されない」

ふぅ、とため息を吐く。
言うべき事は大体言った。

「ま、それでもキミは歩くしかない。
でも、キミが歩くのは舞台の表ではなく、舞台の裏側、そう、言うなら『脚本家』の席だ」

彼の全てを見て、言う。

「さぁ、分かっただろう。世界は全てキミの思うままになる。次はどうするんだい『ボク』?」

加賀智 成臣 > 「じぶん」

そうか。目の前に居るのは、自分なのだ。
そして自分は、死にたいのだ。
ならば。

「………。」

目の前の『現実』を討ち滅ぼすべく、『不詩者』は目を見張った。
自らの詩を持たぬ、空っぽの存在を前に、その異能は無意識を燃料に牙を向いた。

何もかも、自分が悪いのだから。


べごん、と音がする。
その音は、形となった。

烏丸の足元、機動隊を巻き込むほどの大きさで、巨大な『穴』が開いた。
地面がベキベキと、薄い板を踏んだようにひび割れて穴に落ちていく。
その穴は、大昔からそこにあった。この建物が建てられる前に。……『そういうことにされた』のだ。

機動隊は命からがら逃げ切ったが…穴の中心にいる烏丸は、どうか。

烏丸秀 > 「ははっ、そうか、キミは変わらないかい、『ボク』」

烏丸は最後にそう言って穴に落ちる。
穴、穴か。
なるほど、彼が『自分を殺そうとする』のにふさわしい。


烏丸秀は後日、意識不明の重態で発見された。
常人どころか異能を持つ者ですらほぼ生存は絶望的と言われていたが、なぜか彼の心臓は決して止まらなかったという。

ご案内:「訓練施設」から烏丸秀さんが去りました。
加賀智 成臣 > 「…………あ、ああ。」

ふらりと、その惨状を見て体制を崩す。
そしてそのまま、その場から逃げ出した。
どこへ行く宛もない。寮などに帰れるはずもない。存在しているだけで、迷惑だ。

「僕は……僕は、      ……」



加賀智成臣は、その日以来、学校に来なくなった。

ご案内:「訓練施設」から加賀智 成臣さんが去りました。