2016/11/07 のログ
ご案内:「訓練施設」にセシルさんが現れました。
セシル > 訓練スペース内で、セシルがレイピアを構えている。

「………。」

目を閉じ、意識を研ぎすませている。
気配に敏感な者には、張りつめた空気感が窓越しにでも伝わるかもしれない。

「…!」

セシルがカッと目を見開くのと、前上方に跳躍をかけるのと…風の魔力を足元に強く反発させるのは、ほぼ同時だった。

セシル > セシルの跳躍は、そこまで思い切ったようには見えなかった。
それでも、セシルは悠々と訓練スペースの前方5m、上空5mほどに跳躍して、突きを放つ。
そして…まるで身体が重力から自由になっているかのように、ゆっくりと…ゆっくりと床に再度降り立った。

「………思った通り、こちらの方が融通が利きそうだ」

魔術や魔力を見ることの出来る者には、セシルが跳躍を風の魔力で補助し、そして風の魔力の助けを借りて安全に着地してみせたのが分かったかもしれない。

ご案内:「訓練施設」にシング・ダングルベールさんが現れました。
シング・ダングルベール > 「はー、なんとも器用な。」

感嘆の声に続いて乾いた拍手が響く。
同学年だけあって剣を振るう姿は見慣れたものではあったが、これはまた普段とは趣の違う技法である。
同じ魔術を使うものとしても、感心しきりといったところだ。

「そのうち空だって飛べるかもしれないな。
 もしくはもう飛べたりするのかい?」

セシル > 結局、しばらく練習を重ねてはみたものの、「浮遊」の魔術だけで精密な移動をすることは困難を極めたのだ。
セシルは、剣に魔力や術式を付与する練習はしてきていたが、それ以外の魔力操作はからきしだったのである。
おまけに、魔力容量も、風の魔力を使って人間の身体を浮かせて移動させる、というそれなりの規模の術式行使に足りてはいたものの心もとなかった。

…というわけで、
「魔術での細かい浮遊は諦めて跳躍の補助への利用に限る。
その代わり、詠唱を可能な限り短縮する」
という方針に切り替えたのだ。
その試みは、今のところは成功のようだった。

(武器の外側での精密な魔力制御と…可能なら魔力容量の訓練は別途行うとして、これなら実戦でもある程度使い出がありそうだ)

術式発動は瞬発的なので干渉の余地は小さいし、何より近接戦闘において速さは死活問題だ。
この世界で魔力容量の訓練がどの程度可能なのかは分からないが…色んな世界からの知識が集約されているのだから、何とかなるだろうという楽観をセシルは抱いている。

…と、そんな練習を繰り返して、手を止めたところで聞こえる拍手の音。
そちらに目を向けると…そこには、先日の大規模作戦で助力を得た人物。

「………おや、貴殿は先日の。
助力、感謝する」

作った声で、きっちりと頭を下げる男装の麗人。
しかし、顔を上げたそこには、投げかけられた質問の答を半分示すかのような、苦笑い。

「…いや、残念ながら本格的な飛行への道は遠いな。
精密な空中移動を魔術のみで実現するのに、魔力容量が少々心もとない上…何より、魔力制御の腕がまだまだ足りん」

「少し前まで、ほとんどこちらばっかりだったからな」と、レイピアを軽く振ってみせる。
先日の戦闘の際に見せた、魔術を剣に付与する術式のことを示唆しているのだろうか。

シング・ダングルベール > 「そうかしこまらなくても……って、そういえばまともに話すのってのは初めてだった。
 俺はシング。魔法使いだ。君のことは授業でよく見かけるし、人づてに聞くことがあるからよく知っている。
 まあー……黄色いファンボイスがほとんどだったけどね。
 この間なんて、うちの部に『セシルさんと結ばれたいです!!!』なんて依頼が舞い込んで……いや勿論丁重にね、お断りはした。」

くすりと笑みで返し、言葉を続ける。

「剣術と魔術とでは、イメージの練り方というか、意識の集中する先がが違うのが難しいよね。
 俺もやるからよくわかるよ。こっちは魔術専攻だから逆だけど。
 ゆくゆくはどこまで仕上げる予定なんだい?
 さすがに鳥だ蝶だみたいに空を飛ぶまではいかないだろうにしても。」

セシル > 「いや…「あの手合い」に対処出来る人員は委員会(我々)の中にもさほど多くないからな。私もあの場で救われたし、礼くらいは言わせてくれ」

朗らかに笑いながらも、そう強調した。

「シング、だな。…私の名は既に知られているようだが、落ち着いて挨拶をするのは初めてだから改めて名乗らせてもらおう。
セシル・ラフフェザーだ。
………しかし、まだそんな話があるのか。一頃に比べれば、女子寮に舞い込んでくる恋文は大分減ったんだがなぁ」

シングが受けたという依頼の話には、こちらも「ははは」という人の良さそうな笑い声…ただし、そこには腹筋を意図して使っているような作為も感じられるだろう…を、少し困ったように笑みながら発した。
なお、自分に直接来る分は、丁重なお返事を書いてお断りしているらしい。
…が、魔術と剣術の併用の話になれば、表情を一旦少し締めて。

「そういえば、「あの場」でも貴殿は「魔法使い」と名乗っていたな。

…一応、専攻している分野というか、剣に魔術を付与して維持する分には慣れているから、全くの素人ではないつもりなんだがな。
付与以外の形で行使する魔術の制御に、こうも難渋するとは思わなかった。
…まあ、専門ではないし、さほど欲張るつもりはない。空中で10秒くらい立ち回れれば十二分だと思っているよ。

………それでも、感触としては結構遠いがな」

それでも、自らの目標の「自分にとっての」遠大さを語れば、苦笑が零れた。

シング・ダングルベール > 「10秒。10秒も自在に動けるなら、それこそ妖精みたいだなあ。
 俺も目指してみるかな。妖精みたいな剣。」

と、頭に浮かぶのは2m近くの大男がふわふわと空を飛ぶ図。
思わず「うわっ きっつ。」と漏れる。

「その点セシル、君はいいなあ。華やかで、色があって鮮やかだ。
 追いかけまわす子たちの気持ちもわかる。」

セシル > 「魔術の熟練者には、10秒などめではないくらい自由に宙を舞える者も珍しくないし、元々そういう種族であれば言わずもがなだ。

………良いと思うぞ、意表を突けそうで」

自らが「妖精のように」宙で剣を振るう姿を想像したのか、「きっつ」という声を漏らすシングの様子を見て、思わずぷっと吹き出しながらも、そんなフォローになっているのかいないのかな応援をする。
実際、大柄であれば身軽な印象は薄いわけで、手札として持っていて損はなさそうにセシルは思ったのだが。

「普通の風紀委員の制服だし…そこまで華やか、と自分では思っていないんだがな。
…自分で言うのもなんだが、「洗練」の方がまだ近いんじゃないか?」

笑いながらそんな事を言う。自覚はあるらしかった。
すらりと細身の身体に、日本人男性だったらうっかり負けるくらいの背丈。
彫刻めいて彫りが深く、中性的に整った顔立ち。
月のように輝くホワイトブロンドに、海のような深い青の瞳。

年頃の夢見がちな少女達に、セシルがどう映るか…依頼などもあって、シングには想像が及ぶところだろう。

シング・ダングルベール > 「本当に美しい花なら、花瓶の良し悪しはあまり関係ないことだしねえ。
 相乗効果ってのはあるけれど……や、なんでこんな話してるんだっけ。
 なんか質の悪いナンパ師みたいだな……! やめやめ、やめよう。」

こほんと咳払い。
備え付けの棚から木刀を引き抜くと、手首のスナップで振り回す。
諸手で掲げれば、打ち払いと基本的な型へと流れていく。

「セシルは元より剣術を磨いてきたんだろう?
 一朝一夕でできる腕じゃあないって、俺にはそう見える。
 最初に剣を取ったとき、どんな気持ちだった?」

セシル > 「…本当にな。
そのような麗句、捧げるべき相手は他にいるだろうに」

シングの口上が一瞬ナンパ師めきかけ、そこで本人の自制がかかれば、そう言って拳で口元を隠しながら苦笑いを漏らす。
…が、シングに「最初に剣を取ったとき」のことを尋ねられれば、真剣に考えるように眉を寄せ。

「………物心ついた時から剣を振っていたからな。あまり覚えておらん。
ただ、姉上のように大人しく座って勉強していられる性質でもなかったからな。「男の子のように」扱われて、おじい様にも可愛がられて。…楽しかったよ。
…剣を「どう振るうか」なんて、その頃は考えもしなかったからな」

結局、「自分の出自なりの」将来を色々考えて、士官学校に進学し…今に至ってしまっているわけだが。

シング・ダングルベール > 「はは、意外とヤンチャな子供時代を過ごしてきたわけだ?
 俺は書を読む方が好きだったなあ。古い書になると書式も言語も無茶苦茶だから、それを読むためにまず時代背景から学んだりね。
 思えば陰気な子供だなあ……よく泣いていたし、男らしさの欠片もない。」

木刀を杖にして、過去への情景に思いを耽る。
まだ平穏だった時代の一端に。もう戻れないと知りながら。
伏せる瞼の下には、今尚褪せぬものがある。


「……話は戻るけど、今はどう思ってるんだ?」

セシル > 「意外か?私のような武官向きの人間にはよく合った過去だと思うが。
…貴殿こそ、「魔法使い」に相応しい少年時代を過ごしてきたようだな。私には、そちらはそちらで一種の美質と思えるぞ」

そう言ってに、と口の端を横に引く笑みを作ってはみせるが、笑い声はあげない。
シングの伏せた瞼に、どこか沈んだ者思いの気配を感じ取ったためだ。

「今か?
命のやりとりの術ということに多少の「業」は感じるが…この腕で守れるものがあること、守ることに自分の身を捧げられることは、ささやかな誇りにもなっている。

…だから、この道を進んできたことに、後悔などないな」

そう言いながら、自ら手にしたレイピアの切っ先を見つめる瞳は、それこそ手にした得物のようにまっすぐだった。

シング・ダングルベール > 「その言葉が澱みなく紡げるということは、人としての在り方が清澄なんだな。
 もし後ろ暗い気持ちが少しでもあれば、君と正面から話をするのはきっと心苦しい。
 眩い光源を直視するような、そういったものだ。
 それが悪いことじゃあないし、大変素晴らしいことだと思う。
 けど、なんだろうな。言葉が纏まらないが……。
 俺には、魅力的にも思えるし羨ましい。しかし同時に恐ろしくも映るよ。



 ……って、本当は部の勧誘に来たはずだったんだ!
 現役の風紀委員は多忙だろうから、簡単な挨拶だけでもってさ。
 横道に逸れ過ぎて、船旅だったら遭難だ。しまった。
 それとごめん。いきなりで訳のわからないことを口走った。
 そのうち補填させてくれると嬉しい。」

セシル > 「なに、自分のことを難しく考える性分でないだけだ。
他の者の事情は汲み取るべきと思ってはいるが…そういった繊細な事柄に、私はあまり向いていないらしい。
委員会の方でも、武力をあてにされるのが主で助かっていると思っているくらいだ」

「萎縮させてしまったなら申しわけない」と、軽く頭を下げて詫びる。

実際のところ、セシルの育ちは多少なりともその出自に歪められ、縛られたものである。
その点で思い悩もうと思えばいくらでも悩めるのかもしれないが…セシルは、そういった思考をほとんど放棄してしまっているのだった。

「………部の勧誘?剣術部か何か…という口ぶりではなさそうだが」

不思議そうに首をひねる。中性的な顔の中の、長くまっすぐなまつ毛に縁取られた目が大きく瞬いた。

「…まあ、「訳の分からないこと」とやらについては私は気にしていないから、気にするな。
貴殿が忘れてしまえば、すっかり「なかったこと」だ」

しかし、シングの申し出た「補填」については、快活に笑って、いかにも大したことじゃないという風に手をひらひらと振ってみせた。

シング・ダングルベール > 「"特別対策部"っていう、まあ、お悩み相談所みたいなところで働いているんだ。
 例えば農業プラントに迷い込んだ怪異生物の除去とか。
 委員会とかでも、優先度の低そうな仕事専門でさ。色々ね。
 ……思い返すと要人の護衛とかもしたし、探偵業みたいだなあ。
 ま、そんな部でね。よかったらって思ったんだけどさ。
 でもよく考えれば現役の風紀委員って多忙だな。はは。」

腕前、人格、風評、どれを取っても問題なし。
ここまでの対話でもそれは明らかだった。
しかし時間の都合ばかりは致し方ないし、何より芽は無さそうだなとフードを被り直す。

「そうだ、今度この島で祭りが開かれるらしい。知ってる?
 少し楽しみでさ。俺がここに来てからは初めてなんだ。
 時間が合えば一緒にどうかな。補填なんかじゃなくて、単純に同級生を誘ってると思ってほしい。

 ……いや、なんかまたナンパみたいになってるな……!
 違う、そうじゃないんだ。わかるだろう……!?」

セシル > 「”特別対策部”…ああ、名前は聞いた事があるな。
先ほどちらりと出た話からするに…生活委員会と風紀委員会と探偵業を合わせたようなものか」

ふむ、と顎に手をかけて考える仕草。

「そうだな…委員会と学業の両立、おまけに個人鍛錬もとなると、なかなか時間は難しいかもしれん。
まあ、私に出来る範囲であれば、助力は惜しまんが。
………「幽霊部員」のような扱いになってしまうか?」

くすり、と聞こえるような、ささやかな笑い声を漏らす。意外と芽はあったかもしれない。
…と、イベントの話が聞こえれば、目を一度、大きく瞬かせた後。

「ああ…委員会で話には聞いている。学生が主になって盛り上げるイベントの集合体のようなものだろう?
委員会(我々)も警邏などに当たることになっていてな、通常講義が消えてもさほど忙しさは変わらんが…まあ、当然非番はあるし、都合が合わせられれば一緒に歩くくらいは何でもないぞ。
………無論、「友人として」な」

最後の付け足しは、少し意地の悪い楽しげな笑みとともになされた。

シング・ダングルベール > 「OKわかった(よくわかってない)。とりあえず少し落ち着く。
 3秒、いや10秒あれば。きっと。きっとね。」

腕を組みながらぐるりぐらりと思考を巡らす。
時折首をかしげては不可解な様子。

「……えぇ、あれ。二つの案件がどちらも想像とは別だったな……?
 勿論『幽霊部員』でも人手が増えるのは大歓迎だし、祭りの件も素直に嬉しい。

 実のところ、誰を誘っていいかまるでわからず困ってたんだ!
 別に誰でもいいという失礼な話ではないんだ。ないんだけど……いや、やめよう……!
 今は何を喋っても、自ら埋まるための穴を掘り進めているかのような。
 なんだろうな。とりあえず先に帰るよ。
 ありがとう。この気持ちは今、ここにある確かなものだ。」

ご案内:「訓練施設」からシング・ダングルベールさんが去りました。
セシル > 自分と違って(いや、セシルの慣れた理由も大概普通ではないのだが)、「こういう話」に不慣れらしい。おかしげな笑いを必死にかみ殺しながらシングの返事を待つ。

「「幽霊部員」でも構わんなら、風紀委員の職務割当の話などもある程度そちらにした方がいいのだろうな。
…まあ、「個人的に」人を誘うのは勇気が要るだろう。私をきっかけに、ハードルが下がれば良いと思っているよ。

………。」

部に参加する話は前向きに進めていく。
…その一方、感情の話をすればするほど自分の墓穴を掘り進めるシングの動揺に対しては、露骨に笑ってしまわないように必死に堪えた。

「ああ、日程の相談は女子寮の私宛に連絡をくれると助かる。…携帯端末もあるが、恐らくそちらの方が早いからな。
気をつけて帰ってくれ」

そう言って、シングを見送った。

セシル > (…しかし、微笑ましいことだ。私に対して、変に気を回す必要などないのに)

シングの動揺を思い出して、忍び笑いを零す。
「男」として人を愛することも出来ず、「女」としての幸せなど端から諦めてしまった自分に対して、随分な動揺の仕方だったな、などと。

(…と、変なことを考えるのはやめだ)

そうして、剣術の基礎鍛錬をみっちりこなしてから、セシルは帰途に着いたのだった。

ご案内:「訓練施設」からセシルさんが去りました。