2016/12/28 のログ
ご案内:「演習施設」に尋輪海月さんが現れました。
尋輪海月 > ――時刻は、夜の九時を回った時間。利用時間ギリギリに、頼み込んで場所を貸してもらった。

思えば、もう此処に入学して半年以上が経つのに、自分は、只々、怠惰に、緩慢とした、高校生の頃の延長のような生活に入り浸っていた。
此処では、自分は特別などではないから。だからと、気が緩んでいた。
……此処に、自分が来た目的は、ふと年の瀬の朝、鏡にうつる、緩みきった自分の顔を見て、思い出したから。

「…………誰もいない、か。でも、居ない方がいいよね。大火傷、するのなんて、私だけでいいんだから」

――丸くなった。棘の抜けた。自分は今、緩みきっているのだと、叱咤した。
腰にぶら下げた、沢山の廃品で作った、鉄の輪。それらを鳴らしながら、施設の訓練場へと足を踏み入れ、抱えていた耐火素材の鞄を、壁際へと放り出した。

尋輪海月 > 「……」
ぶら下げた輪を複数、わしづかみにして構えると、ゆっくりと深呼吸をし、
「……火炎輪っ!!」
輪を、頭上へと放つ。同時に放った手を差し向け、
「――ッ!!」
意識を、全集中する。

……自分の異能は、至極簡素で、シンプルで、忌々しい。
それは一定以上の輪としての性質を持った無機物に干渉を起す。
それは干渉することでその物質を、材料を問わずに燃焼させ、高速回転させる。
それは、破壊の異能。それは、焼き尽くす異能。それ以外に取り柄を何も持たない。
平穏無事に過ごしたい自分と何もかもにおいて相反する異能。

尋輪海月 > ――頭上に浮いた輪は、放り投げられた後に、ゆっくりと落下運動をしかけて、留まる。

黒煙が一瞬吹き出し、次には、揺らめきながら、急激に赤熱し始めると共に、高速で回り始める。
発される熱量は瞬く間に室内に陽炎を発生させ、室内の温度は上がっていく。
季節の冷たさは刹那に消えてなくなり、熱波が渦巻いていく。

「っ……おち、つけ」
――制御をする、眼下の少女にさえ容赦なく熱波は吹き付ける。突き出した両手の手袋が薄っすらと焦げていく。

「っ落ち着け……落ち着け……落ち着け……!!」

尋輪海月 > 呼びかけに、それは嘲笑うように一層の熱波を放ち、
そして、
――浮いていた輪全てが、一瞬まばゆい光を放つと共に、弾ける。
「っ……くぁッ……!!」
爆発で起きた熱波を受け、壁際にまで身体が吹き飛ばされ、叩きつけられる。
能力は同時に解除され、室内の温度は上昇をやめ、元の冷たさが、少しずつ下げていく。

……崩れ落ちたまま、荒い呼吸を繰り返しながら、ゴーグルを鬱陶しげに外す。
「……っ……また、駄目……」

尋輪海月 > ――崩れ落ちたまま、どれだけ、意識を混濁させていたか判らない。
気がつけば、少しだけ肌寒くなっているようだった、という感覚だけが鮮明になる。
朧に開いていた眼を擦り、深呼吸をする。からからに乾ききった喉に、冷たく乾燥した風が入り込み、何度か咳き込む。

……壁際をのたくって、鞄の元までたどり着くと、中からボトルを一本取り出して、中身を飲み干す。

「……っ、はぁ……」

――また、失敗したという事実が積み重なった。また、繰り返した。あれから、全く成長していないという焦燥が、また鮮明になる。

尋輪海月 > ……なんだか、とても疲れてしまった。

「…………また、私は」

繰り返すのなら、また、何度だってこれをする。そしてまた、失敗する。
失敗する。何度も。そうして自分に御せない事実が、いずれこの身さえ焼き焦――。

尋輪海月 > 「――っ」

――耐えきれなくなって、鞄を乱暴にひったくる。立ち上がったときに、壁にふらついて手を着いた。壁を殴った。痛む掌を、それでも握り締めて、演習場を飛び出していった。

ご案内:「演習施設」から尋輪海月さんが去りました。