2017/04/19 のログ
東雲七生 > プールサイドから身を乗り出す様にして水が堪るのを待つ。
その姿はこれからとっておきの遊びを前にした仔犬の様である。
実際、心境は大差無いのだが、読心術でも使えない限り知り様も無い。七生自身も気づいていないほどなのだから。

「まだかなまだかなっ……」

去年と同じ水着を身に着けた身体は、去年よりも全体的に筋肉質に見える。
元より脂肪のつきにくい身体ではあったが、無茶苦茶な運動量によって傍目には完全に燃やし尽くされたようだ。

「まだかなっ……!」

きらきらと証明を反射してきらめく水面を、同じように目を輝かせながら眺めている面持ちはとても高校三年生には見えない。

ご案内:「訓練施設」に藤巳 陽菜さんが現れました。
藤巳 陽菜 > 『元の体に戻れるように調べることも大事だが今の体に慣れる訓練も必要だ。』

杖をつきふらつきながら進む様子を見てそんな事を言ってくれた先生がいた。
…あまり、気乗りはしなかった。
この体に不便さを感じなくなってしまったら私はきっと焦らなくなってしまうだろうから…。
それでも、せっかく言ってくれたのだからとプールまで来てみたがどうやら水はまだ張っていないようだった。

見ると中学生くらいの男の子が水が溜まるのを待ちわびている様子。
その手には何か赤い棒のようなものが握られておりそれが触手のように蠢いていた。

「何あれ…?」

掃除用具に繋がっているのを見るとおそらくあれで掃除していたのだろうと思う…。
…あの赤いうねうねプールに浮いてたりしない?入ってもいける?
蛇体を引き摺り杖をつき近づいてプールの中を覗き込む。

…プールサイドは普通の道より滑りにくくて酷く進みずらい。

東雲七生 > 「まだかな……もう少しだな……!」

尻尾でも振らんばかりのいきおいでプールを覗き込んでいたのだが、
たどたどしい松葉杖が床を打つ音と、戸惑いの色が濃い呟きが聞こえて振り返る。
きょとん、とした顔でその場に現れた姿を見つめること数秒。
はっ、と我に返った様子でプールと少女とを交互に見てから、

「プールならもうちょいだから!」

にぱー、とあどけない笑みを浮かべて告げた。
その間に掃除用具はプールサイドにそっと置かれ、それらを繰っていた触手はしゅるしゅると縮んで七生の手の中に納まる。

藤巳 陽菜 > 「えっ!ええ。…ありがとう。」

急に声をかけられたせいで声が上擦る。
…あんな明らかに年下の男の子相手にこんなになるなんて情けない。
…もう、今日は帰ろうかな。誰かと二人で泳ぐとか気まずいし…うん、水もまだ張ってないし帰ろう。
そんな気弱な事を考えかけた時、異様な光景を目にする。

男の子の手に握られていた、赤い触手が彼の体に潜っていった。

「えっ?」

何、何あの赤いの。なんであの子の体の中に?
その、あどけない笑みとのギャップが余計に頭を混乱させる。
何なの?分からない。怖い。
思わず、少し後ずさってしまう。

東雲七生 > 「どういたしまして!
 ……ん、どうしたの……ってあ、ああ。これ?」

驚きを露わに後退する少女の姿に首を傾げたのち、はたと原因に思い至り手を開く。
そこにはビー玉ほどの赤い球体が握られていた。体内に潜った様に見えて、その実小さく小さく圧縮されただけのようだ。

「えーと、何て言えば良いかな。これが、俺の異能なんだ。
 ……君は、ええと……異邦人、ってわけじゃないみたいだね?」

特徴的な蛇体の下半身を一瞥してから、首を傾げる。
怖がらなくて良いよー、とビー玉以外何も無い事を証明する様に両手を広げて挙げ軽く振ったりして見る。

「見ない顔だけど、新入生?
 異邦人じゃないとすると、その蛇の部分が君の異能って事なのかな。」

藤巳 陽菜 > 「…異能。ああ、異能なのね。
 何か分からなかったから驚いてしまって。」

…正体が分かればそこまで怖くない。
あの、赤い球の形を変えたりする異能なのだろう。

「…何で異邦人じゃないと思ったの?」

多くの人はこの蛇の下半身から一目で異邦人と判断する。
当然だ。この島ではこの姿の種族は普通にいる、異能で蛇の下半身になっているなんてレアケースも良いところだ。
それなのに目の前の男の子はなぜ異邦人じゃないと分かったのだろう?

「新入生。一年生の藤巳陽菜。
 …ええ、今年の四月に発現したばっかりの私の異能よ。」

忌々し気に自らの尾を触りながら言う。
こんなもの無かったら良かったのに…。

東雲七生 > 「そっか、驚かせちゃってごめんね。

 何で異邦人じゃないと分かったか、かー。
 ええと、そんな難しい事じゃないよ。」

紅いビー玉を水着のポケットに突っ込みながら、にこにこと笑みを浮かべて応える。
まずひとつめ、と呟きながら彼女の使う松葉杖を指して

「どこも怪我してる様子が無いのに松葉杖つかってるでしょ?
 あとウネウネ状態のアレを見ても、異邦人だったらあんなに驚かないし。」

きっと同じ様なものやよく似たものを頻繁に目にするのだろう。
現に異邦人街に行けば触手を持った住人は頻繁にとはいかないにせよ、全く見掛けない訳でも無い。

「怪我してるわけでもないのに松葉杖なのは多分歩き方に慣れてないからで、
 さっきのリアクションも、あんまり見慣れてないんだろうなって感じだったから、
 元々蛇にも触手にも縁の無い……要するに、普通の人なのかなーって思ってさ。」

合ってて良かったよ、と笑顔で頷く。
これで間違っていたら赤っ恥だ。もっとも東雲七生にとって相手が異邦人か否かは然程問題ではないのだが。

「藤巳、ね。
 俺は東雲七生。三年生。よろしく。     スガタ
 ……あんまり気に入ってないみたいだね、その異能。」

藤巳 陽菜 > 「凄い…ちょっと、怖いぐらい…。
 …もしかして探偵だったりする?」

…凄い観察眼だ。
こんな風に一発であてられたのは初めてだった。
実は少年探偵とかやっているのではないのだろうか?

「…三年生。ああ、この島では特に歳は関係ないものね。
 じゃあ、先輩になるのね。よろしくね東雲君。」

きっと、今より小さいころからこの島で学生をしていたのだろう。 
あの赤いうねうねの異能で悩んだりしたのかもしれない…。

「……ええ、普通は嫌でしょ。
 朝、起きたら足が蛇になってましたとか…。
 動きにくいし、生活しにくいし、落ち着かないし。」

口出しては言わないが見た目についてもあまり気に入っていない。
…あまり、爬虫類は好きではない。

東雲七生 > 「まさか、そんなに頭良くないよ俺。
 たまたま今異邦人街に住んでるから、細かな違いとか気付き易いってだけ。」

大した事じゃないよ、と微笑みながら手を振る。
しかし、上機嫌なのもそこまでだった。

「……あ、えっと、まあ、それはそうなんだけど。
 一応俺、今年18歳だから名実ともに高3っつーかその……」

実際に異能で悩んだりはしたけれど、この学校に入学したのは15の春だ。
ほぼ恒例行事となり慣れてきたと思えていた年齢間違いだが、やはり面と向かって年下だと思われていると凹む。割と凹む。

「……まあ、確かに。生まれつきでないなら尚更だよね。
 ふむ、それで治し方を探しにこの学校に来た、ってわけか。」

なるほどなるほど、と呟く声はどことなく直前までの元気を失っていた。
年下に見られていたことを引き摺っているのだろう。

藤巳 陽菜 > 「異邦人街に?何でわざわざそんなところに…。
 東雲君は異邦人…じゃないわよね?」

身体を見る。その小さな体の割にはかなり筋肉が付いているように感じる…。
全体的に脂肪は付いていないし腹筋も割れている。綺麗な筋肉だ。
…異邦人かどうか見た目で判断するのは無理だ。
つい先日、それを思い知ったばかりである。

「18歳?えっ?私よりも3っつ上?
 …ごめんなさい!てっきり、中学生くらいかと…。
 いや、でも、その…。ごめんなさい…。」

明らかに落ち込んでいる。恐らく気にしていることなのだろう。
…下手な慰めも逆効果になりかねない…謝る事しかできない。

「ええ、少しでも早くまともな体に戻って元の生活に戻りたい。
 し、東雲先輩も異能で困ったことがあったからここに入学したの?
 異能の制御とかが出来なかったから?」

流石に年上に対して君呼びで通すことは憚られる。

東雲七生 > 「えーと、色々と事情があって、としか……。」

困った様に笑いつつ、小さく頭を掻く。
初対面の後輩にどこまで自分の話をすべきか。
どちらかと言えば話を聞いてやるべきではないのか。
二年生になった去年から、ずーっとぶつかり続けている壁だ。

「いやいや、ええと……あはは。
 もう慣れっこだから、大丈夫。気にしないで!」

そういってにっこりと笑みを向ける。
その笑顔が誤解を生む原因の一つであるという自覚は今のところ、ない。

「なるほどなー……。
 うん、俺もそんな感じ。今じゃすっかり制御も出来てる……と思うけど。
 それで、藤巳はどうしてプールに?暑かったから?」

藤巳 陽菜 > 「…事情ね。」

事情があったのだと言われてしまえばそれ以上聞くことは出来ない。
きっと、彼にも色々あったのだと思う。
いや、この島にいる以上皆それぞれの事情があるのだろう。

「そう?でも、ごめんなさい…。」

…こうしてみると本当に年上には見えない。
子犬のような可愛さすら感じるがああ、年上年上なのだ。
もし、そんな事を言ってしまったら酷く傷つくだろう…。

「流石にこんな春先から暑いからってプールに来る人はいないと思うけど…。
 私はリハビリっていうのかしら?体の動かし方を練習するのに水の中だと良いって聞いて…。」

七生の冗談に対して笑みを浮かべながら言う。
水中ならば転倒の危険がなく安心して歩く練習が出来る。
杖があれば問題なく生活できているがそれでも尾の動かし方が分からないと何かと不便ではあるのだった。

東雲七生 > 「うん、事情……。」

もうちょっとマシな言葉は無かったのか、と反省する。
ともあれ、まあそれで相手も納得してくれたようなので良しとしよう、と気を取り直す七生だった。

「……そう何度も謝られる方が俺も居た堪れなくなるからさっ!」

思ってしまったものは仕方ない、と笑って流す様にしてきた。
ただし初対面に限るし、何より身長に触れなければの話だけれど。

「うっ……そ、そうだよね。
 ええと、そっか。まずは治すにしてもその姿での生活に成れなきゃだもんね。
 確かに水の中だと体も軽くなるし、丁度良いかも。」

ふんふん、と頷いて視線をプールへと向ける。
既に水はなみなみと溜まっており、むしろ溢れそうな程で──

「って、そうだ水停めてこなきゃ!
 ちょっと俺行って来るから、藤巳に一番乗り譲るよ!」

と慌てた様子で一度その場を後にするのだった。
向かうは隣の制御室。ついでに掃除用具も片してしまう。

藤巳 陽菜 > 歳についてはもう、触れないでおこう。
あまり話しても良い事はない。触らないで欲しいところには触らない方が良い。

「あ、ありがとう、一番乗りか…。
 でも、その前に水着着てこなくちゃ…。」

…持ってきた水着を確認する。

「…これ普通の。」

…水着人間用の。競泳タイプの水着。
これをこの体で着ればどうなるだろうか?
想像はあまりにも簡単に出来てしまって…

「…し、東雲先輩!私、ちょ、ちょっと用事を思いだしから帰るわ!」

顔を真っ赤にしながら制御室まで行って声を掛ける。
この水着では無理。無理だ。
プールを使えるようになるのはラミア用の水着を手に入れてからになるだろう。

東雲七生 > 「えー、何でさー。
 丹精込めてぴっかぴかにしたし、水も綺麗だし最高だよ?
 今年初……かどうかは分かんないけど、それにしても気持ち良いと思うよ?」

制御室で水を停め、どうにか溢れさせることは阻止出来た。
ほっと一息ついてる所に声を掛けられて、怪訝そうな顔で制御室から顔を出す。
既に自分が泳ぎたくて頭がいっぱいだからか、相手が水着で無い事にすら気づいていないらしい。

「せっかくここまで来たんだし、ひと泳ぎして行けばいいじゃん。
 気持ち良いよ、水、そんなに冷たくも無いと思うし。」

水温調節もばっちりだから、と妙なこだわりを以て水泳を推す。

藤巳 陽菜 > 「確かに気持ちよさそうですけど…。」

泳ぐのは嫌いじゃなかった。
今は分からないけど前はかなり上手く泳げていたし…。
この体になってから汗はあまりかかなくなったが今日が暑いのも確かだった。

「でも、その水着がこれしかなくて…。
 こんな水着じゃ恥ずかしくて…。」

そう言いながら手に持った水着を見せる。
普通の競泳水着。
それがどういうことか七生に伝わるだろうか?

東雲七生 > 「ここまで頑張って不慣れな歩き方で来たんでしょ?
 やっぱりその分目標は達成した方が……」

ほぼ善意で語っていたが、ふと水着を出されて目を瞠る。
至って普通の、よく見掛けるタイプの水着だ。一見しておかしいようなところはない。
露出過多だったり柄が変だったり、そういったところは無いが……

「んー?
 あー……そのまま着たら何かこう、斜めっちゃう……?」

仮に足を出す方の片側から蛇の身体を出すにして、
たすき掛けのような着方になってしまうのだろう、と七生は考えたようだ。

藤巳 陽菜 > 「確かに大変だったけど…。
 …まあ、それもある意味リハビリになったから!
 当初の目的の一部は果たせたから!」

まあ、体を動かすという面ではある意味達成しているにはしている事を力強く伝える。
…少し無理があるかもしれない。

「そう、斜めっちゃうのよ。
 …だから今日はもう帰ります。」

流石にこれで理解できただろう。
…説明するのも凄く恥ずかしい。

東雲七生 > 「あー、……じゃあ、しょうがないっか……。
 藤巳がちゃんとやれたって思ってるなら、それに越したことはないし。」

少しだけ名残を惜しむ様に微笑んでから、頷いた。
この時期プールに遊泳目的でやってくる生徒は少ない。
同じ楽しみを分かち合える相手が出来そうだったのに、と少しだけ残念に思っているのだ。

「制服のまま泳ぐのは危ないもんね。あれは危ないもん。
 ……じゃあ、気を付けて帰りなよ。俺は泳いでくから!」

着衣水泳なら一度溺れかけた経験があるし、その時の克服をしようと挑戦したこともある。
結論から言って、生半可な覚悟でやる様な物じゃないという事だけ分かったのだった。

それはそれとして、帰るという藤巳に頷いて、ついでだから、とプールの出入り口まで随伴しようと申し出る。

藤巳 陽菜 > 「…ごめんなさい。」

…その、残念そうな様子に謝ってしまう。
このプールは一人で使うには広すぎる。

「ええ、流石に制服のままで泳ぐわけには…。
 また、ちゃんとした水着を手に入れたらその時は…。」

危ないし、濡れた制服では帰りようがない。
プールに入るのはまた、ちゃんとした水着を手に入れてからだ。

「今日はありがとう、東雲先輩。
 えっと…さよなら。また今度。こ、今度は一緒に泳げるように水着用意しておくから。」

わざわざ見送ってもらい、少し申し訳ない気持ちになりながらそんな事を言い残し杖をついて進んで行く。。
…また、今度会う時は一緒に泳げるように水着を用意しないと…。

ご案内:「訓練施設」から藤巳 陽菜さんが去りました。
東雲七生 > 「ははっ、しょうがないしょうがない。
 俺としても流石に後輩に恥ずかしい思いをさせてまでつき合せたくないしさっ!」

どうやら気を使わせてしまったらしい。
仕方無いさ、と自分にも言い聞かせるように告げた後、不器用に去っていく後ろ姿を見送った。

「さーて、それじゃあ泳ぎますかー!」

今日はその為に来たのだから。
新たに知り合った後輩とは、いずれ、夏までに一度泳げたら良いな、とそう思いつつ。
七生は少しばかり気の早いプール開きを始めたのだった。

ご案内:「訓練施設」から東雲七生さんが去りました。