2017/05/28 のログ
デーダイン > 「魔力と言うのも、物理的に言えば、エネルギーだ、良いかッ?!!
電池に導線をグルッと回すのも、熱エネルギーが溜まり過ぎて辺りが融けてしまう事で良くない事になる。
つまるところ、今からするのはそう言う事だッッ!!!」

要は、藤巳陽菜が持つその水晶玉へ過剰な魔力を蓄えさせて。
そう、言葉通り魔力を破裂させるとどうなるか、その実験と言うわけだ。
もう生贄そのままなのかもしれない。

「ハーッハッハッ!!!そうだ!爆発するのだッ!
諦めろ藤巳陽菜よ!!貴様は魔力の限界の爆心地となるのだッッッ!!!
ウム!大丈夫だ、爆発ギリギリになったらちゃんと投げろと合図をするぞ!
そうそう、出来るならなるべく上の方に投げてくれたまえ!

もしも、投げ遅れたら……フフフッ!!!ハッハッハ!!!どうなるだろうなッッ!?」

それにしてもこの教師、ノリノリである。
楽しそうにキャッキャとはしゃぐ不審者、一名。
残念なことに、元々挙手に非積極的なクラス、少女一名の生贄を助けようと勇気ある物はおらず、
藤巳陽菜は暗黒神の犠牲となるのだ…。

「では、ゆくぞ…ッッ!なぁに、それは、爆発してからのお楽しみだッッ!!

―――!!!」

ごつくて白い手袋を水晶玉にかざすと、何かの魔力が水晶に流れていく……。
緊張のひと時である。
生徒たちは黙って水晶玉を注視して、デーダインもまた黙って無言の魔力の行使を行う。
目に見えないけれど、確かに魔力が流れている事が感じられるかもしれない。
腐っても教師するくらいだから、その魔力は大きく。

「……ウム。まだまだいけそうだな。」

さて、2分少しくらいたった辺りで、水晶玉の色合いは半透明から水色に変わって行く。
魔力の流れに従う様に、水晶が手の上でふるふると震え始め、
その水晶自体も、既に、大分と大きな魔力の気配を周囲に放ち始めて、演習施設は何だか異様に暗く湿った雰囲気へ変わる。
嵐の前の静けさかもしれない。

藤巳 陽菜 > 「危ないってわかってるんだったら私を巻き込んでやらなくてもいいじゃないですか!」

巻き込まれ事故。
それもこれもこの身体が目立つせいだ。
こんなに長いから巻き込まれやすいんだ。

「…何で言ってくれないんですか!?
 絶対楽しくないですよ!!私は全然!教えてください!」

ちゃんとどうすればいいのかは教えてくれるも悪戯に不安を煽ってくる。
一応教師だし多分安全には配慮していると思うけど。
そんな思考は陽菜からは抜け落ちて思考の大部分は恐怖と不安に支配されていた!!

「無理!無理!無理!なんか動いてる!動いてる!!
 イヤ!もうイヤ!!」

きっと、途中で落として割れたりしたらもっと酷い事になるそんな想像が水晶玉を握る力を強くさせる。
そして涙目になりながらも叫ぶ。凄く叫ぶ。

デーダイン > 「そうだ!ぶっちゃけこの実験は私がこのボールを持てば貴様を巻き込む必要など全くない!!
そこに気付いた貴様は偉いぞッッ!!!フハハハハ!!!」

大笑いしながら藤巳陽菜の言葉に頷くデーダイン。

「……だが、な?藤巳陽菜よ。貴様は怖いだろう?!恐怖に、暗黒に支配されているだろう?
その気持ちが大切なのだ。魔法とはとても便利なものだ。
だが、その使い方を少しでも誤れば身を亡ぼす引き金になりかねない。
これは、乾電池もそうだし、車もそうだ、包丁も、インターネットも、異能だってそうだ。

怖いと感じる事は、良い事だ。その気持ちを忘れるから、事故や犯罪が起こる。」

何だか良い事を言っているのかもしれないが、爆発だの魔力の暴発だのの生贄にしてる時点でお察しであろう。
だが、これがデーダインの考えでもあるのだ。

「ハッハッハ!!分かったか!藤巳陽菜ッッ!!!
もっと怖がれ!!恐怖しろッッ!!!我が偉大なる暗黒の前に、恐れ戦けッッ!!!
それでこそ安全に魔法が使えるのだ!!

…良いぞ!無理だ何だ言いながらしっかり持ってるじゃないか!貴様に頼んで良かったよ!」

強く握れば握る程、そして、時間が経過するほどに手の中にある水晶は震えて、まるで沸騰したモノの様に水晶の中が泡立つ。

「―――もう良いな。よしッ!!投げて…それから走る準備をしておけ!
3,2,1、で思いっきり天井へ投げろッッ!!!そして、出入り口へ駆け込めッッ!!

さぁ、貴様等は先にあっちへ行っておきたまえ。」

先に生徒たちを誘導しながら、次の行動を述べて。
いよいよ水晶玉も限界が近いのか、発する魔力が色濃くなり、その暗く湿った気配は魔力がなくとも感じられるくらいに広がる。

「さぁ、藤巳陽菜よ、身構えたか?!行くぞッ!3,2,1―――ッッッ!!!!」

藤巳 陽菜 > 「…暗黒には支配されてないです。」

確かに便利な力はそれだけ簡単に多くの物を傷つける事が出来る。
その怖さを自覚すればに力に溺れてそれをむやみに振るう事はないだろう。
でも別に暗黒には支配されてない。大分泣きそうになっているがそれはしっかり伝えておく。

「3、2、1、ですね!」

ガタガタと震える水晶玉。
今にも爆発しそうな感じだ。
手の中のその感触に緊張を強めながら確認を取る。

「3、2、1、っ!」

思いっ切り天井に向かって放り投げそれと同時に走り始める。
しかし、陽菜は未だにこの蛇の身体を完全にコントロールできているとは言い難い。
振り向いて走り始めたと同時に勢い良く転倒する。

「誰か!誰か助けて!」

地面に這いつくばった状態で手を伸ばす。
自分の視界出口のあたりに見える他の生徒達に向かって叫ぶ。
動こうとしている者もいるが恐らく間に合わないだろう。
…身体が上手く動かない。
…こんな事ならもっと上手くこの身体を動かせるようになっていれば良かった。

デーダイン > 投げ出された水晶玉。
溢れる魔力は光となり、ピシピシと割れ掛けた水晶玉は、宙へ放り上げられれば、
それは魔力の爆発を起こした。飛び散るのは、細長い魔力の無数の光弾。

今まで溜めに溜められてきた、魔力。
それは、万が一の安全を考慮したが故に選ばれた水の属性だった。

そして、最後の最後で万が一が起こった。
―――起こってしまった。
実習で、こうした危険はつきものだ。

空中で破裂したテニスボール大の水晶玉は粉々に砕け散って。
スコールかと見紛う程の流水の破裂が破裂点から降り注ぐ。
屋根のある演習施設での、ややせっかちなゲリラ豪雨が起こった。

「ふ、藤巳陽菜―――ッッ!!!」

転倒して、蛇の身体を伸ばしてしまった藤巳陽菜。
それをデーダインは見たのだろうか、彼女の目の前で熱のない黒い炎が燃えると、その中から不審な仮面の人型が現れる。
走っても間に合わない事をすぐに踏んだのか、一瞬でその場へと移る、転移魔法だった。

「ぐおぅふッッ?!」

そして、爆心地の直下、大雨にデーダインの背が、マントが叩き殴られる様に晒されて…。
けれど、それが傘になるだろうから、藤巳陽菜へと流れる水しぶきは、多少はマシになるだろう。

「いや、すまなかったな。」

指をやけに小気味良い音でパチンと鳴らせば、頭上に黒い靄が集まって、真っ黒一色の大きな傘みたいなモノが作られる。
少し遅い。
けれど、未だに降りしきる強い雨を、一滴も通さずに、頭上にしっかり構えていて。

「その足で走れ、と言うのは無理があった。本当にすまない。

立てるか?
おおっと?!いつもの言動があれだからって、こんな事でセクハラ教師呼ばわりだけはごめんだぞ!事実だがな。
見ての通り…このままここに居れば水浸しだ、さぁ、貴様も出入り口に避難だ。
授業の時間も、丁度良い頃合いだし、な。」

伸ばされていた手をやけにごつい手袋で掴もうとしては、彼女の身体で「立つ」、と言える所まで手を貸して。
足早に雨の中を、作った傘を頼りに出入り口へ向かって行く。
出入り口まで来れば、もう安心。魔法や異能への隔壁が、魔法で作られた水から守ってくれるから。
生徒達の緊張の中へ向けて、

「さて、貴様等は魔力を溜めすぎたらどうなるか、その目で見れたと思う。
結果は、見ての通り…破裂して、ためこんでいた魔力は形として出て行ってしまう。
今回は、物体で、そして水の魔法であるから、こうして藤巳陽菜も無事に済んだが…
例えば、これが人体であったなら?これが、炎熱の魔法であったなら?

考えるべきことは数多ある!あれだけの水を見れば、結果は分かるだろう。
故に、制御できないほどに過剰な魔力を得る事は危険だ。

では、今日はこれまで、次回はこの事についてのレポートを―――」

そうして、授業を締め括った。
それと同時に授業の終わるチャイムが鳴った。

「すまないな、藤巳陽菜…私があまり考えないばかり、本当に恐ろしい目に遭わせてしまった…。
今日の事は、いずれ詫びさせてくれ…。」

一言、申し訳なさそうに、落ち込んだ声でそう告げれば、デーダインの仮面が頭を下げる動作をして、
それから、デーダインもまた、授業終わりで散らばる生徒たちに続いて、演習施設を後にするだろう。

ご案内:「演習施設」からデーダインさんが去りました。
藤巳 陽菜 > 水が濁流が水晶球からあふれ出てくる。
魔力を介してどれほどの量の水があのテニスボールほどの球体の中に入っていたのだろう?
プールの水なんかも一瞬で溜まってしまうんだろうな。
上に視線を向けてそんな場違いな事を考える。それほどまでに現実感がない光景だった。
その光景に割り込んできた黒い影。

「デーダイン先生!!」

その教師に防ぎきれなかった水が陽菜の身体を濡らす。
制服も髪もその蛇体も顔も全身が濡れてしまっている。
しかし、黒い傘に遮られてこれ以上濡れる事はない。

「…いえ、いえ先生が謝る事じゃないんです。」

ちゃんと走れていれば。もっと、目立たない姿なら。
きっと、こんな事にはなっていない。

…全て、全てこの異能のせいだ。この蛇の身体のせいだ。
全部、ここに来てからの悪い事は全部この身体のせいだ。
デーダイン先生のせいではない、そして私のせいでもない。

「…。」

例えばもし陽菜が魔術を使えるようになっていたら?
それが攻撃的な魔術だったら?生きていたかどうかも分からない。

「いいえ…私がもう少し動けていれば…。
 助けてくれてありがとうございました。」

魔術への恐怖。

魔術を使う者として大事なその気持ちは過剰なまでに陽菜の心に刻まれたのだった。

ご案内:「演習施設」から藤巳 陽菜さんが去りました。