2018/04/15 のログ
イチゴウ > 「演習モード起動、記憶を中枢システムへ送信。」

中央のフィールドにポツンと一機の四足ロボット。
その背中には大きなガトリング砲のターレットが備わっており
真正面を向いて束ねられた砲身がゆっくりと回転している。
そして照準の先で幾多もの人型の実態が次々と出現すると
間髪を入れずに動き始める。その動きは複雑な軌道で
かつ一般的な動体視力ならば捉えるのもやっとなほど。
その実態が人間型であることがこの速度の奇怪さを増長させているだろう。

「照準固定。砲撃開始。」

ウォーミングアップの如くゆっくりと回転していた
ロボットのガトリング砲台が射撃体勢に入る。
6本の砲身がまるで一本のように振る舞うような回転から
遠吠えのようなものを発しながら大量の大口径弾を吐き出す。
砲弾の軌跡は曳光弾によって真っ赤なレーザーのように彩られ
その光線は残像が見えてしまいそうなほど速く動くその実態を
自分に対して極近距離に入る前に一体ずつ確実に捉えて消滅させる。
また普段は排出口から薬莢が溢れるように出てくるが今回はそれがない。
今、ロボットが使用しているのは訓練施設から直々に支給された特殊弾、
この弾は魔法工作で作られたもので使用感と挙動は
徹甲弾に限りなく近いが殺傷能力は無い訓練用の弾だ。
以前、必殺技の発射で高次魔術壁に損傷を与えたこともあるし
特にわざわざ実戦用の弾を使わないで良いというのは有難い話であった。

イチゴウ > 「全ての目標を撃破。」

そうして訓練プログラムを終えた後は上部に備わる大きな液晶画面に
自身のスコアがでかでかと表示される。
加えてこのプログラムのベースが生徒教師の標準射撃訓練なので
挑戦者たちの平均スコアも書かれている。

「人間達も頑張ってほしいものだ。」

画面をしばらく見つめた後、吐き出すように合成音声の一言。
当然と言えば当然だがロボットのスコアは平均スコアを大きく離している。
オート射撃が手動に負けているようでは話にならないだろう。

「PAC射撃による命中率も高水準を示してきている。
悪くない傾向だ。」

ともあれ自身のスコアの下に書かれている訓練結果の詳細に
満足している様子。
ロボットが砲撃練習をするというのも奇妙な話だが
そもそもイチゴウは汎用人工知能であり学習によってその能力を向上させる。
学習を積まなければ色々な事もあまり上手くできない。
島に来たばかりの頃は学習経験がリセットされた状態であったために
機関砲の照準はおろか反動抑制さえも出来ず
応急処置的に単銃身のHMGを装備していたのは今となっては懐かしい話だ。

イチゴウ > 「しかし、より勉強になる訓練は無いものだろうか。」

しばらく何かを考え込んでいた様子の中でその一言。
先程、ロボットが学習のために出現させ砲撃していたターゲットも
ロボットが今まで出会った中で最も速い敵対対象のデータを抽出したものだ。
しかしいくら強力な存在でも学習してしまえば脅威ではなくなる、
学習という面において常日頃から新しい刺激は不可欠だ。
もっとも風紀委員会の主力を担っている戦闘マシンに対して
戦闘能力で良い刺激となる対象などたくさん居るものではないが。

イチゴウ > 「訓練はここまでとしよう。演習モードを終了。」

自身の最適化によって相対的に訓練効率が落ちてきているものの
それは今考えるべき深刻な問題でもない。
訓練の終了プロセスを踏み背部の機関砲を歪むような
眩い発光と共に消失させると
ただの四つの足を持ったロボットへと変貌を遂げる。
新しい学びが無い今日の訓練は
電子回路の中において時間の浪費と判断されたことだろう。

ご案内:「訓練施設」からイチゴウさんが去りました。