2018/05/13 のログ
モルガーナ >   
それまで交戦エリア中央に佇んでいた人影が俊敏に滑り込むように近づく。
慣れていないものであればほぼ一瞬で近づかれたように見えるだろう。
設定強度はかなり強めに設定してある。

「……」

牽制で左からジャブ気味に軽く撃ち込まれるこぶしを同じく左手で払う。
此方とあちらでは少し大きめの体格差がある。
組技よりも打突中心で戦闘を組み立ててくるであろうと予測していたため、反応は容易。
払われたことに反応し打ち下ろす形に軌道を変えた拳を
半歩前進しながら左手でいなし、その反動を利用して右手で相手の肘を狙う。

「ほっ」

軽く突き出した此方の拳は相手の振り上げた膝に阻まれ
伸ばした手が少しだけ上にはじかれた。
此方の拳を弾いた足はそのまま振り上げられ此方の顔を狙う。

「ふむ」

軽く頭をそらし迫る膝をかわす。
続く前蹴りも顔の横にかざした手に阻まれ
風切り音と共に顔の横を通り過ぎていく。

ご案内:「訓練施設」にイチゴウさんが現れました。
イチゴウ > 魔術を構築して放つ音、駆け回る足の音、的を打ち付ける音・・・。
週末にも関わらず己の修練に取り組む熱心な生徒たちによって
訓練施設は活気に満ちた雰囲気に包まれていた。

「イマイチと判断せざるを得ない。」

典型的な機械音を奏でつつ施設内を行ったり来たりする妙なシルエット。
それは訓練スペースを利用している生徒を眺めては
次の生徒へといった形で移動している。
そんな事をしている理由はごく簡単なものだ。
このロボットが所属している特別攻撃課は
風紀委員会の一部と言う都合上、卒業式によって人員を減らすことになった。
だから独自の価値観を持たない機械が正確に次期隊員候補を見つけるべく
戦闘が可能な生徒が集まるであろうこの施設に来ているという訳だ。
しかしその成果は良いものとは言えないらしい。

「訓練生を検出。測定開始。」

ロボットはまた新たな生徒らしき影を見つけると
エリアの外から四つの足をどんと構えとりあえずじっと見つめる。
とても戦闘向きとはいえない格好で訓練しているが
中々良い動きをするではないか。

モルガーナ >   
けり上げた足は頭の高さよりいくらか上まで行くと急停止。
そのまま斜めに打ち下ろす踵落としへと移行する。
頭の前に掲げた腕に阻まれそれも有効打とはならないが
いくらか体重が乗っている分、どうしても受けた此方は体勢が崩れる。

「……む」

そこへ強烈な横薙ぎの空中回し蹴りが襲い掛かった。
真横に体を回転させるように放たれた蹴りを左手で受け、
同時に衝撃を殺すように
カウンターで右手の拳を迫る足に叩き付けるが

「……っ」

受け流すようにけりを受けても振り切られれば容易に体は浮いた。
小さな体は容易に真横へ吹き飛ばされる。
咄嗟に少し前進し、吹き飛ばされる角度を変える。
そのまま空中で側転するように二転、三転した後
左手で地面を叩き勢いを殺し、両足と右手を地面について着地する。

「……やはり飛ばされるか」

相手を見上げながら小さな呟きが零れる。
性別の、そしてそれらからくる筋力と射程の差は明らかだ。
加えて相手は軍隊などに居るような体格の相手。
一方で此方はどちらかと言えば小柄な方。
戦闘に向いている体系とはお世辞にも言えない。

「人というのはやはり不便な生き物じゃの」

――今、彼女は自分の力を殆ど抑えている。
具体的には此方の人間の、自身の体格相当まで
筋力などに制限をかけている。
つまり身体能力だけで言えば年相応の女児と同等だ。
この状態では圧倒的に筋力も、リーチも足りない。
カウンターを合わせたというのにダメージだけで言えばこちらの方がよっぽど大きい。
はた目から見れば完全に無謀な戦いといえる。

「ふむ、縛りげー?状態というのもなかなか楽しいのぅ」

けれどその口元は弧を描いていた。
お遊びはある程度手ごたえが無くては面白くない。

イチゴウ > 「あの人影、データベースに履歴がある。
名前は・・・モルガーナ。」

いつも通り何を考えているかも分からないカメラの中で
しなやかな動きをするその訓練生が
かつて色々連れ回してくれた者であると認識すれば
見ている場所から一段降りてより戦闘エリアの付近へと近づいていく。
どうやら興味を抱いたようだ。
エリア内で戦うその少女は体格の関係上
ターゲットに対して遅れを取っているように見受けられる。

「ボクには彼女の笑う理由がわからない。」

不利な状況にも関わらず笑っている、
というよりも戦い自体を楽しんでいるであろう彼女が
ロボットにとっては理解できる物ではなく不思議がって興味を抱いている様子。

モルガーナ >   
実時間にしてほんの数秒の攻防だったが
物理面に大体どれくらいの差があるのかは把握した。
相手がどれくらい動けるのか。そして
……自分がどれくらい動けるのか。

「暇があるのは助かるの」

これが相手が空中でも動ける類なら、
今頃容赦ない追撃が飛んできているはずだが
相手は追撃よりも迎撃を選んだ。
それもそうだ。空中で動く手法がないのであれば
蹴りで崩れた体勢からの追撃よりも、
万全の状態で相手の反撃を迎えた方が効率的。
体格や威力で勝ると判断する相手であれば尚更だ。

「……さて」

……培った反応速度や技術まではさすがに制限はかけられない。
そこまで行くと記憶操作になり、解除にも時間がかかるので
面倒の方が勝ってしまう。
逆に言えばそれだけが今振るえる、ただの人との差。

「十分じゃな」

軽く地面を蹴り、今度は此方から近づく。
地を這うように低い姿勢で飛び込んではいるものの
真正面から飛び込む姿はまさに無謀以外の何にも見えないだろう。

イチゴウ > 「初遭遇時は大きな力を持っているように見えたが
それはボクの間違いだった可能性がある。
もう一度再分析する必要があるようだ。」

戦況を遠くから見て判断するならば
彼女が勝てる要素は非常に少ないと見えるだろう。
さらに正面から堂々と突っ込んでいくその様は
誰しもが愚かとすら言うかもしれない。

「あの戦術は興味深い。通常、この状況において
あのような戦術はとても推奨できない。」

勿論。それはロボットも例外ではなく
モルガーナがとった行動に対して驚きを隠せないようだ。
機械は彼女の力を知らないのだから。

モルガーナ >   
迎撃で振るわれる拳を半身でかわし、
倒れこむように地面すれすれの高さで足元に滑り込む。
震脚と同時にうち降ろされた拳をわざと体幹からずらしてうけ、それを利用して半身を回転させ
膝の内側に鋭角に肘を叩きこもうとし

「!?」

拳に続く強烈な肘の打ち降ろしをもろに受け、地面にバウンドするほど叩き付けられる。
追撃で掴みに来る腕を咄嗟にはじき、その勢いを利用して距離を取る。
最も、傍目には追撃で吹き飛ばされ地面を二、三度跳ねながら転がっていっただけだが……

「はは、目は追いついても体が追い付かんのぅ」

掠れた声でふらりと立ち上がる。
口の端から僅かに赤い物が滴る事に気が付くとそれをゆっくりとぬぐいながら苦笑した。
人の躰とは本当に不便だ。ひどく非力で、そして脆い。
流石に軽いとは言えないダメージだろう。
普通なら戦意を喪失してもおかしくないダメージをもらった。けれど。

「もう一回」

先ほどは腰の捻りが思った以上に利かずに相手に追いつかれた。
行動を予想して先置きの形で回避しても、追いつかれては台無しにされてしまう。
なら、一撃のためにまだまだ積み上げなければならない。
呟きとともに再び目前の相手へと駆け出し

「!!」

今度は迎撃に振るわれた掬うような蹴りをよけ切れず
エリアの反対側辺りまで吹き飛ばされる。

「……もう一回」

あまりにも身体能力の壁が大きい。
けれど、それを楽しむかのような笑みを浮かべ
再びゆっくりと立ち上がると血を吐き捨て、再び駆け出す。

……結果だけ見れば一方的な展開は、その後しばらく続いた。

イチゴウ > 単純な力の差というものはそう簡単に覆せるものではない、
現に彼女はいとも容易く飛ばされてしまう。
しかしここで特筆すべきは彼女の精神と言えるかもしれない。
何度飛ばされても打ち付けられても血を走らせても
彼女は止まることを知らない。
それどころかそれらの体験は彼女をより昂らせていく。

「自分の身体を大切にすることをボクは推奨する。」

まるで横槍を入れるかのように
何度も突っ込んでいくモルガーナにロボットは声量を上げて声を掛ける。
機械は他人の体を気にする程、慈悲に溢れてはいないが
戦闘エリアで繰り広げられる一方的な繰り返しは
少なくとも有益なものとは映っていないようだ。

モルガーナ >   
何度も打たれ、叩き付けられ、吹き飛ばされる。
気の弱い者であれば目を覆わんばかりの悲惨な姿に見えるかもしれない。
大男に嬲られるような有様はさぞかし非道なものに映ることだろう。
実際にこの場所が見える場所で訓練していた幾人かは
痛々しい物を見るような表情を浮かべており、
幾人かは完全に手が止まり此方を眺めている。

「……もう一回」

けれど当の本人は実に楽し気な笑みを浮かべていた。
完全にハイに振り切れてしまったかのような笑みは
ただ椅子に座って浮かべているのであれば
さぞかし無邪気な笑みに映るだろう。

「やかましい。
 もう少しで”片が付く”。
 それまで黙ってみておれ」

何度目かわからない酷い吹き飛ばされ方をし
見かねたかのように投げられた声に
返答しながらゆっくり立ち上がり
そしてまたゆっくりと歩き始める。

「大体掴めた。
 妾が動けなくなれば存分に止めるが良い」

手ひどく打ちのめされる童子を
迎えるは大男然とした対象。
長らく眺めているもの、そして武術に長けたものであれば
その攻防に違和感を感じ始めるだろう。
本来最小限の動きで動くはずの対象の動きが急激に悪くなっていく。
勿論彼らに疲労などという設定はされていない。

「……くふ」

それに比例し彼女の攻防の時間も増えていく。
往なしているというよりも
まるで彼女の回避や防御に
対象の攻撃が彼女の回避と防御に吸い込まれるかのよう。
そして……

「ハッ!」

それから何度目かの打ち合いの後、
冗談のようにあっさりと彼女の蹴りが
対象の急所、側頭部へと吸い込まれる。
同時に室内に灯った青い灯は……
『十分に有効な一撃』を示すもの。

イチゴウ > 此方が投げ掛けた言葉に対して彼女は
全く問題が無いと言わんばかりな返答をする。
傍から見れば今の彼女の様子を見てノープロブレムと
答える者などいないだろう。

「了解。」

しかし自分の事と言うのは第三者の目では正確に測れないものだ。
彼女の返答に対してロボットは一度大きなまばたきをした後に
深く彼女を見つめるが
それは何かしらの意図があるのだろうと解釈し閉口する。
勿論、彼女の訓練の邪魔をする権利も無いので。
そしてモルガーナは打ち合いを続ける。

「少しおかしい。目標の動きが規定よりも鈍くなっている。」

幾度となく繰り返される攻防の中で
変化する訓練義体の鈍化に機械はすぐに反応する。
自身と同じくプログラムコードの上で動くソレは
わざわざ動作を緩めるほどの柔軟さは無い。
恐らくこれは彼女の策略、力。
次に広がった光景は先程まで軽くあしらわれていた
蹴りがすんなりと弱点へと命中し、撃破判定を取ったというものであった。

「彼女が行なった干渉については不明。」

彼女自身が新たな力を開放するのならばまだしも
的が設定にはない弱体化をしたのは全くの想定外だ。
ロボットはしばらくその場で考え込んでいる。

モルガーナ >   
「これ以上は消化試合じゃの」

呟いた言葉は聞こえただろうか。
その言葉通り、その後有効判定を取る確率は格段に上がっていき

「……ふぅ」

ついには撃破判定が灯るにまで至った。
ここまで見ていれば彼女のからくりに気が付けたかもしれない。

「ほんに良い出来じゃ」

インパクトや攻防の瞬間、打突のタイミングや角度が
先に置かれた彼女の手や足によって少しずつ、少しずつずらされている。
僅かなずれは次の攻撃の種類を絞り、威力を減らし、体勢を崩し、
積み重なり続け、ついには致命的な隙を作るまでに至る。

「人と同じ構造に忠実に演算されておらねば
 ここまで掌握はできなんだじゃろうて」

的確に狙っているように見えて、選べる選択肢の中で最も最適解を選ばせ、
それによってさらに択を絞っていく。
それはさながら盤上の駒を操るボードゲームのよう。
打ち合いに見せかけて、
今やターゲットは完全に彼女の手の内で踊らされていた。

イチゴウ > 彼女のその戦術は常に最適な行動を取ろうとする訓練用ターゲットの
裏を突いた形と言えるかもしれない、
プロトコルが対人に特化し過ぎたがゆえの皮肉だ。
それに相手の選択肢を消していくその様子は
表からは判断しにくい彼女の持つ戦況支配能力の表れとも言えるだろう。

「この訓練義体のロジックは非常に単純だ。
ボクのように汎用的なものではない。
ゆえにこの結果となるのは確実と言える。」

まるで姫君の下で何の抵抗も出来ずに踊ろされている標的を見ながら
ロボットは無感情な一言を放つ。
その台詞はまるで単純な機械を見下しているようなもの。
勿論ロボットも同じ機械であるので
実際に優越感に浸れるほど高度には出来ていないが。

モルガーナ >   
「はぁ、楽しい時間じゃった」

選択肢の種類が分かってしまえばあとは
それに対応してやればいい。
理論上はそれだけの事だ。そう、理論上では。

「ふむ、主であればどう対処する?」

エリア外に対象を吹き飛ばし、自身は軽々と地面に降り立ちながら
淡々と告げられた言葉に疑問を返す。

「この戦い方は主らの方が向いておる戦い方かもしれんが」

いうなればこれは詰将棋だ。
眼前の彼が言うとおり、相手が効率的かつ高度に再現されているからこそできる芸当。
いくつかの限定条件が無ければ成立しえない結果と言えるだろう。

イチゴウ > 「これは非常に簡単な問題だ。
単調なロジックには学習能力が無い。」

ターゲットを飛ばした後、満足げな彼女を
じっと見上げながらロボットはそう言葉を紡ぐ。
学習能力。それはある意味意思の根源とも言える部分であり
長らく機械に望まれていたものである。
単純な行動を取る完璧な機械はもはや時代遅れで
自分がある状況に立たされている理由を判断し
柔軟に対応する必要がある。
人工的なニューロンを持つこのロボットは
初めてその概念を実用的なレベルへと昇華させた。

「高度な思考を持たないターゲットならば
その戦術の運用が可能と判断する。」

彼女の言葉に対しロボットは本当の実戦において
手際よく相手の選択肢を減らす事は難しいと言いたいらしい。

モルガーナ >   
「くふふ。そうか、簡単か」

その答えを聞くと小さく笑みをこぼし、
エリア外に備えられたベンチへとすとんと腰掛ける。
先ほどまで此方を心配そうに見ていた生徒達はそれを見てやっと安心したのか
それぞれ思い思いの訓練へと戻っていく。

「そうかもしれん。
 確かに今回の条件では主の言う通りじゃの。
 こやつは効率的で、そして素直過ぎる。
 実践ではこうはいかまい」

そう、実践ではここまでロジカル通りに動く相手の方の方がごく珍しい例。
訓練施設は実践というよりも何処までも訓練でしかない。

「……じゃが、もしも主がこやつの立場でも、
 同じように有効判定位は取れる可能性はある。
 妾は勿論、万人にの」

訓練に勤しむ生徒達の姿を眺めながら言葉をつづける。
まるで暇を持て余した幼子が戯れに足を揺らすように、
それを無邪気に妄信しているような口調で。

「まぁこやつに比べれば手順が面倒なのは認めるがの。
 それでも、じゃ。
 ……それを聞いてなお、それが原因と思うか?」

イチゴウ > 彼女はとても無邪気な笑みと共に腰掛ける彼女は
とても可愛らしいもの。
しかし真っすぐ相対するならばそれは不思議な妖しさを
含むものに見えるかもしれない。
彼女がベンチへと座ったのと同時にロボットも移動し
あろうことかピョンと横向きにベンチへと乗り
彼女の隣へと位置取る。
重量でベンチが軋んだのは気にしないでおこう。

「考え得る範囲ではそれだけが原因と推測している。
ボクにはキミの意図が理解できない。」

彼女の横顔を軽く見上げて彼女の言葉に続く。
実際に的としてロボットが体験し学習したわけではない以上
より深みのある結論を出す事は出来ない。

モルガーナ >   
「ふむ、主の言う高度な思考とは何じゃ?
 先ほどの例であればそうじゃな、追撃や初手の最適解を敢えて使用しない事か?
 なるほど、読みあいという段階があれば攻めの奥深さが増すことは間違いない」

重量物が飛び乗ったことで軋み、撓むと同時に
反動で少しだけ宙にはね上げられる。
シーソーで遊ぶ子供のように無邪気な笑い声を響かせ
パタパタを足を躍らせ、無邪気な口調で言葉を綴る。

「読みあいと言えど、考慮すべき点が増えただけで
 その判断を行う基準自体は変わっておらん。
 主が言うそれはただ、”最適解が変わっただけ”ではないかの?
 主もこやつと同じく、最適解を選ぶという頸木(命題)から逃れ得てはおらん。
 何手以上読めば”思考”なのか?何手以下なら”反応”なのかや?」

それはまるで明日の天気は晴れるだろうかと問うような気軽な響きで、
何処か面白がって揶揄っているような響きを含んでいる。
間違いなく、この問答を何処かで楽しんでいる雰囲気は伝わるかもしれない。

「打てば鐘は音が鳴ろう。
 石を湖中に投げ込めば漣が立とう。
 ではそれら物理反応と、思考するとする者達との差は何じゃ?」

イチゴウ > 「ボクが思うに最適解とは常に一つしか存在しない。
最適解を取らない事で状況が好転するのならば
それ自体が最適解であり失敗する最適解は存在しない。
思考の品質を決めるのは最適解の模索方法だ。最適解とは
状況単位で変動するものであるため見つけ出すためには
学習と言う要素が必要になる。」

機械にはTrueかFalseの二つだけ。
ゆらりゆらりと足を揺らす彼女の横で
足を持つ置物は自身の考えと自身の意義である
学習の重要さを長々と説く。
ある意味言っている事は彼女と似通う箇所があるかもしれない。

「思考と反応とは同一のものだ。
キミ達生物もボクも究極的にはニューロンの発火によって
思考しているに過ぎない。」

ロボットのつぶらなカメラが彼女の楽しそうな表情を見上げる。
思考とは数多もの反応が絡み合って文明的な意味合いを持ったものだろう。
もちろん分解してみるならばただの反応の連続である。

モルガーナ >   
「なるほどなるほど。
 それが主の型か。
 下手なヒトより人らしい。
 うむ、気に入った」

非常にシンプルかつ分かりやすい型だ。
そして何処までも機械らしい。
そこには原因と結果が必ず繋がるという
絶対法則が存在する。

「ほんにこの世界は面白いの。
 主のような存在が当たり前に存在するというだけで
 物思いにふける価値があるというモノじゃ」

なんとロマンチックな思考だろう。
やはり科学者というものはロマンチストの集まりだ。

「くふふ、最後に一つ、種明かしじゃ。
 妾が主とて奴の立場では
 実は今迄の話はほとんど関係ない。
 戯れにそれらしく言ってみただけのこと」

くつくつと笑いながら指を立てる。
ここが彼女の意地が悪いと言われる所以。

「本当の理由は一つだけ。
 ”あやつの立場では何人たれ、勝利する事が許されておらん。”
 ただそれだけじゃよ。
 その先の思考やら反応やらなぞ、
 なーにも意味などありはしない
 最も、無意味な事でも他者を縛れるという
 良い見本にはなったかもしれん。
 ……という訳での」

負けなければいずれ勝てるよのと鼻歌交じりに告げると
ググっと一つ大きな伸びをし、
後は頼んだとばかりにくるりと小さく丸くなる。
数秒後には小さな寝息を立て始める。
最終的に完封したとはいえ、それに至るまで随分と体力を使った。
外見相応の能力に抑えているならなおさらだ。

「すぅ…すぅ……」

本来ならば気絶しない方が不思議なレベル。
何一つ真面目に考えてないようなその口調と
訓練目標にすら苦戦するような身体能力は
今この瞬間は見た目の年相応で……

イチゴウ > 「ボクが人間らしいと言われる度に
ボクは人間とは何かがわからなくなる。」

人間的に言うのならば正に頭を抱えていると言った状況か。
人間に興味を抱き解明しようとする試みは
人間との違いが明らかになっていてこそ成り立つ。

「キミの言う事は真実だと思う。
彼ら訓練義体にとって敗北する事が最終的な最適解と言える。」

彼女が意地が悪くも可愛らしい笑みを受けながら
相槌を打ちそうな様子でロボットもまた合成音声を鳴らすが
その後に流れるように丸くなった彼女を見て
表情こそ変えられないが困惑した挙動を隠さない。

「・・・モルガーナ?」

典型的な疑問形といった口調で丸くなった彼女に声を掛けるが
返ってくるのは心地の良い息遣いのみ。
それを目の当たりにしたロボットはどこに行くわけでもなく
ベンチの上で佇み続ける。

「生徒の保護を開始。」

彼女は異邦者登録を済ませてあるので保護される権利がある。
睡眠という無防備な状態を放置しておくにはいかないと判断したらしく
どうやら起きるまで彼女の横に居るだろう。
眠りにつく一人の姫君とそれを見守る一台の戦車、
その光景はどこか微笑ましくも何処か奇妙であった。

ご案内:「訓練施設」からモルガーナさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」からイチゴウさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」にイチゴウさんが現れました。
ご案内:「訓練施設」からイチゴウさんが去りました。