2016/10/22 のログ
ご案内:「常世大ホール」に八雲咲雪さんが現れました。
ご案内:「常世大ホール」に寄月 秋輝さんが現れました。
■八雲咲雪 > 大ホールの観客席に一人、制服姿で椅子に座って中央を眺めている。
舞台では他の生徒達が部活動を行なっている。
ここしばらく、イベントがないためかああやって他の生徒達が部活動に使用している。
咲雪は、そんな部活動風景をしばらく、エアースイムの全国大会が終わった日から、ぼぉっと眺めている。
■寄月 秋輝 >
「こんなところに居たんですか」
ざりざり、草履の音。
観客席の通路を歩き、近寄ってくる指導者の姿。
「……どうしたんですか、咲雪?」
今までと変わらない声で語り掛けた。
■八雲咲雪 > いつも通りの無表情で、声の主へ振り返る。
それほど経ってはいないが、なんとなく久しぶりに会った気がする、専属のコーチ。
「……別に。何も無いです」
この反応もいつも通り。
そっけなく見える、淡白な反応。
そんな風に返事をして、また中央の部活動に目を向ける。
ぼぉっと、興味なさそうな視線を、送りつつ。
■寄月 秋輝 >
「そうですか」
隣の椅子に腰を下ろし、そう呟く。
そんなわけがないだろうとは理解しつつも、咲雪の言葉を否定はしない。
「飛ぶのがイヤになりましたか?」
同じように、他の部活を行う面々に目を向ける。
彼らは彼らで、また素晴らしいトレーニングをしている。
異能を用いた競技、魔力を用いた競技、そのどちらも使われない競技。
あらゆる競技が、ここにはある。
■八雲咲雪 > 「…………」
質問に対して、即答はせず。
たっぷりと猶予を置いてから
「イヤじゃないです。
負けるのは、慣れてますから」
そう答え、更に逆に問う。
「……コーチは。
怒らないんですか。あんな負け方した教え子を」
■八雲咲雪 > エアースイムの全国大会。
その決勝戦。
決められたコースを誰が早く三周するか、というものだった。
咲雪には自信があったし、シミュレーションも、体調も、S-Wingの調整も良好だった。
最大の壁といえば、前年度優勝者のスカイスイマー。
しかし前年度優勝者は決して速いわけではなく、好戦的という印象も、経歴もなかった。
そして周回制ルールは、咲雪が最も得意とする種目だったから。
優勝できると思っていた。
しかし、結果は3位だった。
敗因は一つ。
前年度優勝者が、咲雪を執拗に攻撃してきたから。
二週目、咲雪が二位まで登り詰め前年度優勝者の”彼”に必死に喰らいついていた時。
突然、”彼”は咲雪にアタックを仕掛け始めた。
自分が一位から落ちるのも厭わず、徹底的に咲雪の速度を殺し、集団から距離を離した後、すぐに”彼”はレースに戻り、一位へと戻った。
勿論、咲雪もすぐに集団へと追いつこうとしたが、狙っていたのか。カーブの多い場所で速度を殺されたためにすぐには追いつけず。
結果、三位まで戻るのがやっとだった。
惨敗だった。
■寄月 秋輝 >
「それこそ愚問ですね」
くすっと小さく笑った。
片手をすいっと上げて、咲雪の頭に優しく置いた。
「十分に頑張った咲雪を、怒るわけがないでしょう。
本当は褒めてあげたかったんですけどね」
あれから咲雪が姿を現さないから、と笑いながら告げた。
試合の全ては見ていた。
彼女がどんな風に負けたかを見ていた。
何より、次に勝たせるために、その記録映像は何度も見て確認した。
だが、そんなことはどうでもいいことだ。
「咲雪。全国大会三位入賞、おめでとうございます。
……こう言ってあげるまで、随分時間がかかってしまいました」
■八雲咲雪 > ぽむ、と置かれた手。
祝いの言葉も、今の咲雪には辛いものだった。
「――たかが、三位です。
三位なんて、誰でも取れるんです。
一位じゃなきゃ、意味がないんです。
今年はコーチが出来て、基礎を見直せて、技術まで教えてもらって。
一位になれる要素は十分あったのに。
前日のシミュレーションも、体調も、S-Wingの調整も良かったのに!」
声を挙げる。
普段静かなだけに、それほど声量は多くなく、部活の賑わいにかき消される。
けれども、その気迫は真剣なもので。
「一周目で二位まで登り詰めたのに!
教えてもらった技も全然使えなくて!効かなくて!
必死に逃げても、相手のほうが速くて、私、全然逃げ切れなくて。
沢山追い抜かれて。三位に戻るのが、やっとだったのに。
”彼”は、今年も、優勝、で……」
荒げていた声が小さくなってきたかと思えば、俯き、肩を震わす。
■寄月 秋輝 >
小さく頷きながら、咲雪の言葉をじっと聞く。
真剣に勝ちたくて、でも勝てなかった少女の慟哭。
「誰でもは取れないですよ。
去年の咲雪と、今年の咲雪は全然違ったでしょう?」
さらさらと髪を撫でながら、優しく囁く。
「彼に何故狙われたか、理解できませんか?
咲雪が十分に警戒されていたからです。
二位の人よりも、三位になった咲雪のほうが危険だと判断されたからです。
……今まで、彼に一度でも目を向けられたことはありますか?」
この子は成長したのだ。
だからこそ、彼は目の色を変えて攻撃してきた。
それを秋輝の軍人の目は捉えていた。
「咲雪はよく頑張りましたから、ちゃんと誇っていいんですよ」
ね、と目を細めて笑ってみせた。
咲雪の心はつらいのだろうが、それでもコーチたる自分が変わらず接してあげるべきだと思った。
■八雲咲雪 > 今まであっただろうか。
全国大会に出るようになって数年目。
”彼”に迫ることは何度かあった。
しかし、その時に、今回のように攻撃を受けたことがあっただろうか。
いや、そんなことは一度も無かった。
そして、だれもそんなことは無かった。
その攻撃性を露わにしたのは、今回が初めて、かも知れない。
「……わたし、あんなにひどい負け方をしたのに。
誇って、いいんですか。
コーチの技術をしっかり使えなくて、三位に落ちたのに。
喜んで、いいんですか」
ゆっくりと、涙で濡れた顔をあげ尋ねる。
■寄月 秋輝 >
「当然でしょう。
それに、咲雪は自分を何度も責めてしまっているんです。
もうそろそろ、自分を褒めてあげてもいいんじゃないですか?」
さらりと髪を撫でた手を下ろし、自分の着物の袖を指で挟む。
そのまま、袖の部分でぽんぽんと咲雪の涙をぬぐう。
「……それに、これからが本番ですよ。
咲雪の体は十分に作り上げました。
来年勝つための練習は、今までよりずっと辛く苦しい。
それを乗り越えるために、今少しでも喜んでおきましょう」
今までと変わらない、頑張った咲雪にはよく見せる優しい笑顔。
この大会も頑張ったのだと、咲雪に理解させるために。
■八雲咲雪 > 涙を拭われ、真っ赤な目のまま、にへり、とわらう。
「……ん、ありがとう。コーチ。
来年は。
来年こそは絶対勝つから。
絶対に一位をとって、コーチの飛び方、見せ付けてみせるから」
”彼”は咲雪を徹底的に打ちのめした。
それはまるで、その飛び方を否定するためのように。
初めて、脅威ととられたかのように。
「だから、コーチ。
もう一年だけ、指導お願いします。
次は、一位をとるから」
ならば、咲雪がやることは、やって見せることは一つ。
その脅威を、現実にしてみせること。
■寄月 秋輝 >
小さく、満足そうに頷いた。
この少女の年相応の表情は、なんとも輝かしいものだ。
「任せてください。
次の全国大会では、立場が完璧に逆転しますよ」
もっとも、厳しい訓練について来られれば、だが。
それでも完成したら、優勝出来るであろう未来は見えていた。
「……と、練習の話の前に」
ごそごそ袖の中を漁る。
可愛らしくラッピングされた、小さめの紙袋が出てきた。
「咲雪、改めて三位入賞、おめでとうございます。
記念のプレゼントですよ」
中身は大きめのビーズがあしらわれた、髪留めのゴム。
咲雪が普段使っているものより、ちょっとだけ可愛くて、光を反射する。
■八雲咲雪 > プレゼント、といわれ素直に受け取り。
包装を破らずにゆっくりととっていってあければ、綺麗な髪留め用のゴムが入っていた。
一切の迷いも無く、今つけている髪留めをとって、付け替える。
大きめのビーズが目立つが、しかし逆にアクセントとなっている。
「……似合う?」
端的に、軽く見上げながら尋ねる。
■寄月 秋輝 >
「……ええ、とても」
目を細めて、そう答えた。
ちゃんと選んだかいがあったというものだ。
「それでは、また美味しいものでも食べに行きましょうか?
少し遅かった三位祝い、ということで。
練習は明日から頑張りましょう」
立ち上がり、そう促す。
まずはこの少女を満たしてあげるのだ。
それからでも遅くはない。
時間は十分にあるのだから。
■八雲咲雪 > おいしいもの、と聞き目が輝く。
誰だって美味しいものは好きだ。
ぎゅっと寄月の袖を掴み
「――高いもの、期待してる」
最高の笑みでもう一つのプレゼントを要求するのだった。
ご案内:「常世大ホール」から寄月 秋輝さんが去りました。
ご案内:「常世大ホール」から八雲咲雪さんが去りました。