2015/07/08 のログ
ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > (しとしとと降り注ぐ雨の中にあって、牙の覗く口の端から発する吐息は炎を孕んでいた。
岩山の上から動くもののない荒野を見下ろして、ただ佇んでいるだけ。
時折咳き込むように唸るたび、腹の傷から粘り気を帯びた血液が垂れ落ちる)
「(………………)」
(闇に覆われた空を見上げる。この身から絶えず溢れる瘴気を漱ぎ落とせるとも思えない、手緩い雨だ)
■ヨキ > 「(寒い)」
(巨大な足が地を踏む)
「(……傷が痛む)」
(首を振る。頭が落ちるのではないかと錯覚するほどの痛み)
「(おのれ ヨキは既に人間ぞ……
……この姿 けして見られてなるものか……)」
(埃と乱れた毛並みと傷口とが、いやに臭う)
「(……だが)」
(それを認めてはならないと痛感しながらも、)
「(――この ヨキを捕えるこの心地よ……)」
■ヨキ > (頭を垂れ、巨体をのそのそと揺らして歩く姿はいかにも惨めだ)
「(……律さねばならぬ
この身を、心を
ヨキは人間でなければならぬのだ)」
(人間でなければ、この島には居られないのだというそれは、半ば恐怖ですらあった)
「(柔らかな肉の誘惑から
血の気配から
ヨキは己を律さねばならぬ
よもや討伐などと目論まれては堪らんのだ……)」
(一歩ごと余韻のように垂れ流す邪気と裏腹に、その姿は憔悴して弱々しかった)
■ヨキ > (岩の陰に身を寄せる。
脳裏に浮かぶものたちを、ぶるぶると振り払う)
「(…………ならぬ
それはならぬ
彼は・彼女らは ヨキの生徒ぞ……)」
(島の住人たちと同じものを飲み、食う。
人の姿であれば自覚的に従うことのできた習慣だった。
それが実際のところどれだけ禁欲的であったか、懊悩が鎌首をもたげる)
「(あとどれほど
どれほどの邪を漱げば、ヨキの身と心は払われるのだ……)」
■ヨキ > (身を捩る。
首輪がなければ心もとない首を伸ばし、吼える)
(咆哮)
(怒声とも悲鳴ともつかない獣の遠吠え。
この広大な荒野にあって、どれだけ響くかは判らない。
拘束への依存が時どき窮屈さを滲ませるとき、そうして叫ぶ。
人気のない場所で)
ご案内:「転移荒野」にクオンさんが現れました。
■クオン > 『オオォォ――――ン』
まるでその咆哮に答えるかのように、大気が鳴動した。
それはさながら世界を震わせるが如き、神秘を伴う聲。
空だ。雨雲の向こう。まるでその雨雲を押しやるかのような力ある響き。
それを伴いながら、雨雲の切れ目に赤い翼が踊る。
■ヨキ > (――炎のようだ、と思った。
かつてこの身を灼いた熱を思い出す)
「(……違う、あれは)」
(泥濘に沈み掛けていた意識を引き摺り戻す。
夜空に閃く赤い翼を見た)
「(クオンだ)」
(その持ち主が、人より巨大なこの身をはるかに凌駕する、かの赤竜と気付く。
言葉を交わしたことがなくとも、その名と姿はよく知っていた。
人間相手ならばまだしも、上空を舞う彼のもとでは身を隠そうとも思わない。
観念して、がふん、と咳き込み、もう一度吼えた)
■クオン > 咆哮。それに導かれるようにして巨体が舞い降りる。
雨を意にも介さず、ヨキの近くへと降り立つだろう。
地面に溜まった水溜まりがざばりと跳ねる。
それが足元の彼にかからぬよう気を払い。
まるで天蓋のように、ヨキを風雨を遮った。
「…………君は」
古き、赤竜は声を漏らす。
大気を震わせるような、重く、大きな響き。
喉奥からは、ヨキと同じく赤き燐光が舞っていた。
その声はまるでこちらの言葉でもありながら、
ヨキの故郷の言葉でもあるような、不思議な響きを伴っている。