2015/07/09 のログ
■ヨキ > (風が吹き抜ける。降り立った竜を、金色の瞳が見つめ返す。
大きな翼の下で、反射的に身を震わせて雨粒を払った)
「…………」
(刃に返す牙はあっても、理知に返す言葉がなかった。
クオンに倣って人語を発しようとして、無様に喉が鳴る。
この姿で自分を示すことの出来るものは、ただひとつ)
(四本の足元から、むくりと鉄の若葉が芽吹く)
(若葉が伸び、枝葉を伸ばし、黒色の花を咲かせる。
茨が緩やかな曲線を描き、ヨキの足元に延びる。
金属を操る異能は学園の他の者にもあるが、その造型はヨキだけが持ち得るものだった。
名乗る代わり、ふしゅる、と息を吐く)
■クオン > 「なるほど」
威圧的で、しかし、穏やかであろうと努める声。
ヨキの作り出す鉄の花。それは実に見覚えのある形だった。
「無理に人の言葉を話そうとせずとも構わないよ。
私の魔術の基本は、世界とともに謳うこと。
君の声なき声の、その意を汲み取るぐらいはできるかもしれない」
言いながら、ゆっくりと身体を丸める。
そのスケールはあまりにも違いすぎた。
しかし、それでも竜は、彼に合わせるように視線を低く保つ。
彼の姿を見つめれば、腹部からは血が流れている。
この形態を取っているのは、その傷のせいだろうか?
■ヨキ > (クオンの巨大な頭に向かい合い、その瞳を見据える。
相手に得心がいったと見るや、鉄の花はすぐにしな垂れてその形を歪める。
ある株はするすると傷の中へ吸い込まれ、別の株は地面にひしゃげ、溶け落ち、赤黒い血だまりに変じるといった具合に。
生き物の血液にしては随分と粘り気を帯びて、雨水に重たく溶ける)
「(――いかにも。
君の知るところのヨキだ
心遣いに感謝する、クオン)」
(獣の息遣いと低い鳴き声の奥で、人語に表された思念が表出する)
「(ヨキは……異邦で魔物と呼ばれていた
この傷は人間に討たれたときに付けられたものだ
毒に満ちた金気がヨキを蝕み――異能を得た
……そうしてヨキは、人の世に縛られることとなった)」
■クオン > 意志が、伝わった。
「……なるほど」
彼の説明に、こちらも喉をうならせる。
かつて、彼もまた暴虐の竜であった。
ただ、一度の後悔。それだけが大きく彼を変貌させたのだ。
だからこそ、と、もう一度彼の傷を見た。
「それが君の物語か」
口の端から炎を漏らす。
しかし、それにしては彼の気配は痛苦にあえいでいるような気さえする。
「人に縛られ、それを善しとしたわけか。
……大丈夫かね?」
■ヨキ > (クオンの声に頷き、自らの傷口を覗き込む)
「(……この傷は、人々の怨嗟の成したものよ。
人に化けて交じることは――ヨキが『生き延びる』という本能に従ったとき、取ることのできる方法がこれしかなかった。
身を縛り、傷を塞ぎ、人の定めに身を任せる。
そうすればヨキが償いに殉じていると見えて、傷も鳴りを潜める。
……ヨキとて、ここの暮らしは心地が好い。
だが時折こうして一たび、獣に戻る。
戻らずにはおれんよ、何と律しようと、これがヨキなのだから。
……かく言う君は、なぜ人に教えることを選んだ?)」
■クオン > 「…………」
彼のたどってきた道は、己とは異なるものであった。
怨嗟。呪い。その道を選ぶことのできなかった狼。
しかし、ここの暮らしは好むという。
なるほど。そういう意味では、共通点を見出すことができる。
「私は、最古の竜の一人であった」
語り口。それはまるで詩のような響きだ。
「我々は、物語を"食む"。竜とは絶対者だ。
それが、意のままに力を振るうからこそ、
人は竜に畏れを抱き、挑み、散っていく」
詩を吟じるように高らかに。降りしきる雨の音がリズムを刻む。
「だが。――私はそれが無性に虚しくなった」
"竜殺し"に挑む英雄の物語は甘美なる食事となる。
己を殺すために挑む英雄。その戦いにその生涯すべてをかけた竜も居る。
赤竜もその例外ではなかった。英雄の憎しみを煽り、甘美な物語を作り上げた。
英雄と竜は殺しあう。その果てにどちらが倒れようと、甘美なものとなるはずだった。
しかし。
――究極至高とも言える物語を食らったあと、虚無感しか残らなかったのだと。
「私はあの時から――人に焦がれ始めたのだ」
■ヨキ > 「(――ふ。
物語に勝ったが、人には負けたか、竜よ)」
(目を伏せる。耳に、腹の底に響く竜の声に身を委ね、地面に伏せて落ち着く)
「(ヨキは、君のように悪を煽ることも、装うこともしなかった。
ただ大きな緑のもとに生きていたに過ぎない。
変わったのは人の営みだけだった。
ヨキはいつの間にか崇められ、いつの間にか恨まれた……
……だから、流されるままのヨキには、君の心のような根がない。
『人として』『教師として』、声に舌触りのよい言葉を乗せているだけだ。
君の過ごした時間は、君をよい教師に仕立てたようだな、クオン)」
■クオン > 「ありがとう」
相手の賞賛には眼を細めながら炎を漏らす。
「確かに私は、そういう意味で人に負けたのだろうよ」
今のこの務めはいわば贖罪に近い。
あの日、あの時奪ってしまった彼らの物語。
あの罪は贖えるものではない。
だが、だからこそ今もこうして物語を紡いでいる。
「そして、君もまた、流されるままに生きたとして、
それでも君の物語があるだろうさ」
だから、いずれ大きな物語となるだろう、と。
彼の選択が、どのような道をたどるのかは分からないが。
■ヨキ > 「(……ヨキは、これから先も人とけだもののあわいをゆくだろう。
垣根の上の一踊りは、竜が食むに値するかね?
価値などない、……だが甲斐はある。人の子らが、このヨキを呼ぶ限り。
ヨキを見ているがよい。
君がヨキを吟ずるならば、ヨキは君にうまい物語を食わせてやれる)」
(語調は穏やかながら、どことなく不遜に満ちた。
地に臥したまま首を上げ、クオンを見上げる)
「(クオン。君の目指す先はどこだ?)」
■クオン > 「明日と昨日の間に今日があるように。その物語は今を描くに足るものだろう。
君が君であり、そして今日を肯定する限り。
その物語は恐らく良きものさ。
――嗚呼、いい響きだ。忘れていたかもしれないな。
ここに君のような幻想を背負うものは少なかったから」
空だけが、ここと向こうで変わらぬものだと思っていた。
しかし、目の前の古き獣はどうだ。
かつてのあの場所の、古き友をも思わせる。
「誓おう。君の物語は私が見届けることを。
古く永きを生きる老いた竜だが、
君の詩を吟ずることはできるだろう。
対価は君の物語。――私の目指す場所は、きっとそこにある」
竜が、契約の詩を天に捧げた。それは古き力ある竜の詩。
かつての世界で忘れ去られた古の魔術。
彼はこのまま朽ちていくつもりであった。
死に場所を探していた、といってもいい。
人を教え導き、ただ物語を語り。衰退の一途を辿る竜。
だが、誰かの詩を吟ずることを心に秘める。
■ヨキ > 「(君は……いい声をしているな。竜が竜たる所以を教わった。
竜よ。くれぐれも無為に朽ちて、岩山のひとつと成り果てるなよ。
君を慕う生徒は多い。君への敬いは、君にしか背負えぬものだ。
声の響くには空洞が要るが、心まで虚ろにするなど詮無きこと。
この約定が、君の力となればいい。
錆びた添え花のひとつでも、あって損はないだろう)」
(ゆるりと地を踏み、立ち上がる)
「(クオン。ヨキはそろそろ街へ戻る。
君のおかげで、今宵の眠りは穏やかなものとなろう)」
(礼を告げるように鼻を鳴らす。ひとたび顔を伏せてクオンの頬へ額を寄せ、離れる)
■クオン > 「それは君にも言えることだろう。
君の物語は君が繰り紡ぐもの。
その花は添えるものではなく、君の物語に咲くものだ」
頬を寄せられて、こちらも心地よさそうに喉を鳴らす。
「ああ。行くといい。私もそろそろ、塒に帰るとするさ」
両の翼を広げ、巨大な威容が屹立する。
ゆるり、ゆるりと翼の力を込めて、飛翔する。
「では、また学園で。ヨキ先生」
空に、幻想の炎を吹き散らして空を行く。
竜の瞳が、眼下の教師を見やるだろう。
■ヨキ > 「(……言葉を操るに、竜には敵わんな。
よくぞ心得ているものだ)」
(卑屈とも見えた獣の顔が、ふっと緩む。
地をしかと踏み締め、クオンが飛び立つ様を見上げる)
「(――ではな、クオン。
君の声を、このヨキにまた聴かせてくれ)」
(遠く吼えて別れを告げる。
視界に焼き付いた炎の残滓が消えるまで。
そうして残された獣の一匹が、荒野に佇む。
何事か浸るように目を閉じたのち、くるりと踵を返して歩き去る)
ご案内:「転移荒野」からヨキさんが去りました。
■クオン > 悠然と、竜は空をゆく。
己の居るべき場所に帰るように。
ご案内:「転移荒野」からクオンさんが去りました。
ご案内:「転移荒野」にグスタフさんが現れました。
■グスタフ > (視界に広がる荒野は灰色に染まり、雨が大きな音を立てる。
木々が遠いこの辺りには小さな川のような物が出来ていた。
その小さな川を二つに分かつ岩影に右半身を寄せてうずくまる白い獣がいる。)
「…………。」
(特に鳴くでもなく濡れた地面へと視線を配り、雨音の向こうまで耳を傾ける。
雫は白い毛の間をかいくぐり、体温を奪う。
狼のようなそれはよくよく見ると小さく身震いをしていた。)
■グスタフ > (ふいに顔をあげると、心配そうに視線を潜めながら激しく流れ行く雲を睨み付ける。
睨み付けたからと言って雲は雨を止ませる事もなく、まるで気にも留めぬかのように過ぎ去る。
ため息のように息をつけば、その獣の口からは水蒸気のような白い煙りが出るが
周りは雨、すぐに掻き消えてしまった。)
「………くぅ」
(やっと一鳴きするとうずくまったまま前足を組み、そこに頭を乗せる。
それでも視線は目の前の地面を見やり、外敵となる者がいないか確認している。)
■グスタフ > (地面を滑る小さな川に浸かった毛が、気がつけば徐々に泥を被り茶色になって行く。
それも構わずそこから動く事はなく。目の前を水滴が落ちれば瞬きをする程度のような物)
「………っぷし」
(ただ、鼻に水滴が入るのは別なようで大きなくしゃみを一つ放った。
そうすると雨をかぶった頭を振る。それと同時に毛から飛び散った泥や水滴が辺りに飛びちった)
■グスタフ > 「………。」
(再び組まれた前足に頭を乗せ、視界を監視し続ける。
ザァザァと降る雨の中に身を隠すように、微動だにせず、呼吸も小さく構えるが
この灰色の世界で白くやや大きなその姿は悪目立ちしていた。
しかし外敵のような生き物が襲って来る様子はない。
どのくらいの時間、ここに構えたか分からないがじっと前を見つめていたその目蓋がゆっくりと落ちる。
開く…そしてまたゆっくりと落ちていくを繰り返す)
■グスタフ > 「………。」
(身を寄せる岩は別にぬくもりがある訳ではない。ただ今この身に持つ熱を逃がさないよう離れない。
それでも力が抜けるように少しずつ少しずつ体は冷えて行った。
ここがどこか分からない、ここに何があるのか分からない、何がいるのか分からない。
とりあえずは何も襲って来る事はない…しかし目をつむるには余りにその場所に無知過ぎた。
雨による冷えと、何も知らないと言う恐怖で身震いしていたが、今度は極度の緊張が続いたため眠気がわいて来る)
■グスタフ > 「………ン、クゥ~ッ!!クゥ~!!、ウ、ウゥ~ゥ、ウ~!!」
(もうほぼ体は眠りに入っているが、懸命に寝るまいと鳴き声を上げる。
大きな雨の音にその鳴き声は霞むが、それでも己自身を奮い立たせるためにウンウンと唸り続けた。
するとその獣から白い煙が立ち込める。先ほどため息をついた時と同じような水蒸気の煙りだ)
「ウ~…ウ~………」
(目蓋はさらに力を失う。
その視線は落ち、小さな川を最後に見たかと思うと力尽きたように閉じられ
それと同時にその大きく白い体は霧のように散り、その場から姿は消えうせた)
ご案内:「転移荒野」からグスタフさんが去りました。